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冒険姫リーベ 英雄の娘はみんなの希望になるため冒険者活動をがんばります!  作者: 森丘どんぐり
第2章 旅立ちの時

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107 冒険者になって見直したこと

 リーベは今日、新たなスタッフを買う予定であったが、朝も早いため、武器屋はしまっていた。だから武器屋は後に回して、一行は東門の外にある練習場へやって来た。


「んじゃ、俺とフロイデは隅の方でやってるから」

「わかりました。怪我には気をつけてくださいね?」

「ああ――行くぞチビ助」

「チビじゃない……!」


 身長差の甚だしい二人が去って行くと、フェアは弟子であるリーベへと振り返る。


「それでは、私たちも魔法の訓練を始めましょうか」

「あの、フェアさん」

「はい。なんでしょう?」

「わたしのスタッフ、壊れちゃったんですけど、ワンドでやるんですか?」

「いえ。私のロッドを使っていただきますので」


 そう言うと彼は右腰に帯びたロッドを差し出してくる。


「え、いいんですか?」

「ええ。前にも言いましたが、私のロッドはスタッフと同程度の精度がありますので、きっと遜色なく扱えると思いますよ」

「そ、そうですか……じゃあ――おっと!」


 ロッドを受け取るとずっしりとした重量感に驚かされる。


「ふう、ロッドってこんなに重いんですね」 

「ええ。これは一応、槍の機能も兼ねてますので」

「へえ……」


 解説を聞きながらも、リーベは手元にあるそれをジッと見つめた。


 一端には珠が収まる玉台があり、その反対側は鋭利に加工されており、槍の穂先となっていた。その威容にリーベはゴクリと唾を飲み込む。


 そのまま柄をギュッと握り込むと、なぜだか体の芯に熱いものが奔る。


(なに、この感覚……)


「――と言うわけでリーベさんにはこれを使っていただきますが、ご質問等ありますか?」

「あ、ありません」

「そうですか。じゃあ早速始めましょうか」

「はい」






 

 ロッドを使っての訓練は多少の困難を要した。それが精度の微細な差によるものであるのはリーベにもわかったが、それを形容することが難しい。だが額に大粒の汗が伝っている現状が、それが確かなものであると証明してくれることだろう。


「はあ……はあ…………」

「お疲れ様です。スタッフからロッドに乗り換えて同様に魔法を発現できるとは素晴らしいです」

「あ、ありがとうございます……ふう」


 額を拭っていると、フェアが微笑む。


「ですがロッドに慣れてしまうと今度はスタッフが扱い憎くなってしまいますので、慣熟のためにも、早期にスタッフを入手しなければなりませんね」


 愛用のスタッフ『(いぶ)し銀』を壊してしまったばかりだというのに、リーベは新たな相棒との出会いに胸をときめかせてしまった。


「新しいスタッフか……」

「ふふ。では今日は少し早めに切り上げるとしましょう。ですがその分、鍛錬の密度を上げていきますよ?」

「お願いします!」


 リーベは水を呷ると手の甲で口元を拭い、訓練に戻った。







 昼下がりを少し過ぎた頃。空は青々と澄んでいて、その中をちぎれ雲がまばらに漂っている。吹く風は温かく優しいもので、過酷な訓練を終えた冒険者たちを労ってくれているかのようだ。


「ん~……良い汗掻いた~」


 坂を上りながら大きく伸びをすると、先頭を行くヴァールが横目でリーベを見た。


「なんだ? まだまだ余裕そうじゃねえか」

「だっていつもより短いんだもん」

「そうか。物足りねえならまた持久走やらせてやってもいいんだぜ?」


 ニヤリと口角を吊り上げた意地の悪い笑みにリーベはぶるりと身震いをして、それを丁重に断った。するとフェアがくすりと笑んで言う。


「武器選びも重要な仕事ですから。心身ともに余裕を持って臨むべきでしょう」

「ぼくも、新しい剣、欲しい……!」


 フロイデがおねだりするも、「お前の剣はまだまだ使えるだろ?」とヴァールに一蹴されてしまう。しかし尚、彼は目を輝かせ、鼻息荒く言う。


「二刀流……!」

「馬鹿言え。魔物相手に二刀流なんて伊達にしかなんねえぞ」

「え? でもお父さんは二刀流だったよ?」


 リーベが口を挟むと、フェアが横合いから言い添える。


「エルガーさんは元々剣闘士だったそうなので、その方が具合が良かったのでしょう」

「ああ。だが魔物相手じゃ一刀にどれだけ力を込められるかが重要になってくる。だから力が二分される二刀流は有用じゃないんだ」


 師匠の言葉にリーベの疑問は一層深まった。


「え? じゃあいくら慣れてるからって、二刀流はやめた方が良かったんじゃないの?」


 するとヴァールはテルドルの英雄のいる方角を見つめ、呟くように言う。


「それを実現できるだけの才能があった。ただそれだけさ」

「そう、なんだ……」


 リーベは冒険者活動を通じてヴァールが如何に優れた剣士であるか、感じない日はなかった。そんな彼にここまで言わしめるなんてと、彼女は父の優秀さが誇らしく思えた。

 だが、それだけではない。

 魔法使いとはいえ、彼女も冒険者。そこに尊崇を抱かないではいられなかった。

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