雪の結晶
「じいちゃん、今日も雪が良く降るね。」
「ん、降っとるのう。」
「又、どんどん積もっていって、大変だね。」
「仕方ないんじゃよ。ここは、冬になると雪がよく降る所じゃからのう。」
「じいちゃんは、ここで育ったんだよね?」
「そうじゃ、わしは、ここで生まれ育ったんじゃ。昔はもっと降っとったんじゃよ。そして、今よりもっと寒かったんじゃ。」
「あっ!見て見て、じいちゃん、あんな雪のかたまりが降って来るよ。」
「おおっ、素晴らしいのぅ。わしも、あんな雪のかたまりを見るのは初めてじゃ。」
「ああ、あっと言う間に向こうの方に落ちちゃった。」
「さっ、あまり長い事、窓のそばにいたら風邪をひいてしまうぞ。」
「そうだね。そろそろ、こたつの中に入ってあったまろ。じいちゃん、この間、学校でね・・。」
雪がたくさん、降っていました。
その日はいつもより、たくさん降っていました。
そして、とても寒い日でした。
おじいさんと2人暮らしの少年、賢一郎君は、窓の側でおじいさんと外の景色を眺めていたのでした。
そして外はもう、すっかり日が暮れて夜になっていました。
「じいちゃん、昔話を聞かせてよ。」
「う~ん、そうじゃなぁ、こんな夜には雪にまつわる話が良いじゃろう。」
「あっ!じいちゃん、忘れてたよ、犬!」
「おお、そうじゃった。」
「ミル、どこへ行ってるんだろう。もうこんなに暗いっていうのに。」
ミルは飼っている、黒くて大きな犬の事です。
「・・・そのうち、帰って来るじゃろう。」
少年は家のドアを少し開けました。
「うわぁ、凄い風。大丈夫かなぁ。ミル、早く帰って来いよ。」
その頃、ミルは・・
何やら、降り積もった雪の上で一生懸命に穴を掘っています。
ずーっと、ずーっと掘っていて、そして何かを見つけた様子です。
「ワン ワン ワン ワン ワン!」
「大丈夫じゃよ。犬は寒さに強い犬じゃ。もうすぐ帰って来るじゃろう。そうじゃ、わしが1つミルの為に暖かいミルクでも作っておいて、待っていようか。」
おじいさんは立ち上がって、ミルクを暖め始めました。
少年は心配そうな表情でこたつに入って、両肘を台に乗せて、両手に顎を乗せて、じーっとしていました。
すると、ドアをひっかく音が聞こえ、それと同時に犬の鳴き声が聞こえました。
「ミルだ。」
少年は素早く立ち上がり、ドアを開けました。
「ミル、こんな時間まで何をしていたんだぁ。こんなに背中に雪を積もらせて・・。」
ミルの背中に積もっていた雪を、優しく取ってあげていました。
「さぁミル、暖かいぞう、ミルクじゃ。飲みなさい。」
おじいさんは、ミルの顔の方にミルクを差し出しました。
「おや?何じゃこれは。」
「ん?何、じいちゃん。」
賢一郎少年は、犬の顔の所に目を向けました。
「ペンダントだよ。」
賢一郎君は、ミルがくわえていたのを取りました。
「うわぁ、素敵だね。雪の結晶の形をしたペンダントだよ。」
持っていたペンダントをおじいさんに渡しました。
おじいさんは、じーっと見ていました。
「わしは、このようなのは鈍感なのじゃが、非常に美しく、この世の物とは思えないほどに上手くできとる。しかし、見覚えのあるような、ずーっと前に見たような感じがする。」
「じいちゃん、本当に鈍感なの?」
「ま、どっちでも良いじゃろう。」
「あっ、じいちゃん、もしかして、このペンダント、空から降って来たんじゃ・・・。」
「ああ、あの雪のかたまりか?」
「うん。」
「それがもしそうだったとしたら、信じられん事じゃぞ。」
「リリリリリン リリリリリン」
「ワン ワン!」
「こんな時間に電話だなんて、何事じゃろう。」
「はい」
電話をとった、おじいさん。
「山崎正貴と言う者ですけれど、賢一郎君いますか?」
「はい、はい、ちょっと待ってて下さい・・・山崎君からじゃよ。」
「・・どうしたんだろう急に、は、はい、かわりました。」
「あっ、賢一郎、夜遅くにご、ごめんな。」
「あぁ、いいよ別に。」
「実はなぁ明日、学校行けそうにもないんだ。」
「なぁんだ、それだけの事だったら明日にでもかけてくれれば良かったのに。学校へ連絡すれば・・。」
「違うんだ、実は俺の姉さんの体の具合が良くないんだ。」
「えっ!?」
「生まれつき体の弱い姉さんだろ、入退院を繰り返してきたんだ。医者からも、やるだけの事はやったと。今は家にいるんだ。」
「ワン ワン ワン ワン!」
大きな声で鳴き始めました。
「ミル、おとなしくしなさい。」
おじいさんが、小さな声で優しく言いました。
「あっ、ミルの声だろ?俺の姉さんがミルの事、可愛がっていたもんなぁ。名づけ親だし一応ね。」
「雪がよく降る所なのに、真っ黒な犬を飼って、黒色だから皆にじろじろ見られるもんだから、ミルって言う名前ってどうって言われてね。」
「ワン ワン!」
ミルは、こたつの上においてあったあのペンダントを口にくわえ、ドアを自力で開け、勢い良く飛び出して行きました。
「ミ、ミル!」
「じ、じいちゃん!」
賢一郎君は、おじいさんと目を合わせ、そして、ドアからミルがどっちの方へ走って行ったかを確認して、
「や、山崎、ミルが家から飛び出して、山崎のとこに向かったみたいだよ。僕らも一緒に向かうから、電話、きるよ。」
「えっ?!わ、わかったよ。」
「じゃあ」
受話器を下に置き、
「わ、わしも行くのか?」
「行きたくないの?」
「そう言われると、なぁ。」
「よし、大変だけど、外は風強いし、じいちゃん、厚着して。」
「わしもまだまだ若いんじゃからのぅ。」
準備が整い、
「さぁ、出発!」
吹雪の中、急いでいても早く進めない状態で、歩いて進んで行きました。
「じ、じいちゃん、大丈夫だよね?」
「だ、大丈夫じゃよ。」
「もう少しだからね。」
「わ、わかっとるよ。」
そう言いながら歩いているうちに、玄関の前に辿り着きました。
そして、家の中に入り、階段を上がって、山崎君のお姉さんの部屋まで行くと、やはり、ミルがお姉さんの近くで座っていました。
お姉さんはベッドの上で横になっています。
賢一郎君が言いました。
「かわいそうに。」
「わざわざ来てくれて、ありがとう。おじいさんも。」
「いやぁ。」
少し照れていました。
「でもこのペンダント、良く見つけたなぁ。」
山崎君が言うと、お姉さんは、ゆっくりと目を開けました。
「姉さん、大丈夫?」
「だ、大丈夫よ。そのペンダントを見せて。」
「うん、はい。」
ペンダントをお姉さんに渡しました。
「ああ、このペンダントよ。私が長い間、探していた・・」
そう言って、ペンダントに頬ずりしました。
お姉さんは上半身だけ、ゆっくりと起こしました。
「このペンダントはね、私が幼い時に母からもらったペンダントを出来るだけまねて、自分で作ったペンダントなの。母が亡くなった時、本物のペンダントは母に渡したのよ。だけど、本当によく見つけたわね、ミルが見つけたんでしょ?私の匂いが着いていて、それで見つけたのはわかるけど、無くしたのは、私が小さい時だから、随分前よ。でも、ミル、見つけてくれて本当にありがとう。」
「ワン ワン」
久しぶりにお姉さんに笑顔が戻り、ミルも機嫌良く、舌を出して吠えました。
そして、お姉さんはミルの頭を優しくなでました。
その様子を窓からうかがっていた影がありました。
実はその影は、亡くなったお母さんの姿だったのです。
娘の状態が心配になり、本物の母のペンダントの方を娘に送ったのです。
「さぁこれで、お姉さんの体の状態が良くなったらいいのにね、じいちゃん。」
「ん、きっと良くなるじゃろう。わしはそう思ってしかたがないんじゃ。」
「ワン ワン ワン ワン ワン」
「ミル、窓に向かって吠えたりして、やめなさい。」
「山崎、お姉さんが良くなるように祈ってるよ。」
「ありがとう。」
「さあっ、帰ろうっ。」
そう言って玄関から出ると、もう雪がやんでいて風も吹いていませんでした。
だけど、ミルだけがいつまでも空を眺めていたのです。
賢一郎君はミルを見て、
「まさか・・」と思ったのでした。
「ミル、帰るぞ。」
空を見上げると、素晴らしい星空と変わっていました。
そして、勿論、お姉さんの体は少しずつ快方へと向かって行ったのでした。
童話になると思いますが、年齢に関係なく読める作品だと思います。