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19.運命の相手

 その後は遺跡を調べつつ元の道を戻っていったが、神官の手がかりはそれ以上見つからなかった。


「結局、あの神官が何をしたかったのか、よくわからなかったな」


 マテウスが呟くと、ロイドも同意するように頷く。


「そうですね。その馬が何か関連しているのかどうなのか……」


「まあ、とりあえず保留だな。シルヴィア、そいつの名前でも付けてやったらどうだ?」


「名前ですか……そうですわね……」


 マテウスに言われると、シルヴィアは子馬を抱きかかえながら考え込んだ。


「……マテウスとシルヴィアでマティア……いえ、ちょっと紛らわしいかしら……では、『ティア』というのはどうでしょう?」


 シルヴィアが提案すると、子馬が返事をするように嘶く。どうやら気に入ったようだ。


「まあ、いいんじゃねえか? じゃあ、お前は今日から『ティア』だ」


 マテウスがそう言うと、子馬は嬉しそうに再び嘶いた。


 こうして一行は遺跡を後にし、屋敷へと戻った。

 ロイドは一晩休んでから、王都に向かうという。スカイラーの神官を嫌っている彼だが、神殿には伝手があるらしく、そこで情報を得るつもりなのだそうだ。

 従者たちは、しばらくマテウスの屋敷で働くことになった。


 シルヴィアは子馬ことティアを自分の部屋に連れていく。

 そしてティアをそっと床に下ろした。


「ふふ、今日からここがあなたのお部屋ですよ」


 シルヴィアはティアの頭を優しく撫でてやった。すると、ティアは嬉しそうにすり寄ってくる。


「可愛いですわね……あなたは……」


 シルヴィアはティアの体を抱きしめた。ふわふわした毛並みが心地良い。

 そんなシルヴィアの様子を見て、マテウスが苦笑する。


「……おい、あんまり甘やかすなよ」


「いいではありませんか。マテウスさまも一緒に寝ます?」


 シルヴィアが悪戯っぽく言うと、マテウスは呆れたようにため息をついた。

 だが、すぐに何を思いついたようで、意地の悪そうな笑みを浮かべる。


「ああ、それも悪くねえかもな」


 そう言ってマテウスはシルヴィアに歩み寄ると、ベッドに押し倒した。


「きゃっ!? ……マ、マテウスさま……?」


 突然のことにシルヴィアが戸惑っていると、マテウスはシルヴィアの顔の横に手を突いて覆い被さる体勢になる。そして耳元で囁いた。


「なんだよ、期待したか?」


 マテウスの顔が間近に迫る。

 シルヴィアは頰が熱くなっていくのを感じた。


「そ、そのようなことは……でも……」


 シルヴィアが口ごもると、マテウスはニヤリと笑う。


「あんた、結構大胆なこと言ってくるくせに、いざ俺のほうから迫ると初心だよな」


 マテウスはシルヴィアの頬を撫でると、その額に軽く口づけをした。

 さらに顔が熱くなっていくのを感じながら、シルヴィアは視線を逸らす。


「でも、今はここまでだな」


 マテウスはそう言ってシルヴィアから離れると、立ち上がって伸びをした。


「さて、俺は自分の部屋で寝るとするか」


 マテウスは欠伸をしながら部屋を出ていこうとする。

 しかし途中で立ち止まって振り返った。


「……シルヴィア、あんまりティアを甘やかすなよ? ちゃんと躾けてやらねえと、そいつのためにならねえからな」


 そう言い残してマテウスは部屋を出ていく。

 一人残されたシルヴィアはしばらく呆然としていたが、やがて我に返ってティアを見る。

 ティアは不思議そうに首を傾げていた。

 シルヴィアはため息をつく。


「本当に、マテウスさまは意地悪ですわね」


 シルヴィアはティアの頭を撫でながら、マテウスが去っていった扉を見つめた。




 それから数日の間、シルヴィアは穏やかな時間を過ごしていた。

 朝になるとティアと共に起きて、身支度を整えて朝食を食べる。

 その後は、マテウスに時間があれば一緒に散歩をしたり、ティアと遊んだりする。


 意外なことに、マテウスはティアの世話に積極的だった。

 今日もマテウスは、庭でティアのブラッシングをしている。

 マテウスがブラシで撫でるたびに、ティアの白い毛がふわふわと舞う。

 その様子を見て、シルヴィアは思わず笑みをこぼした。


「マテウスさまは、お馬さんのお世話がお上手ですのね」


 シルヴィアが感心したように言うと、マテウスは少し照れくさそうに顔を背ける。


「……まあ、そりゃあ馬の世話は慣れているからな」


 マテウスはぶっきらぼうに答えたが、その表情は穏やかだった。


「それにしてもこいつ、人懐っこいな。シルヴィアに対してはわかるけど、俺にこんなに懐くのは意味がわからねえな……屋敷の連中にはそうでもないのによ」


 マテウスがティアの顎の下を撫でながら呟くと、シルヴィアは微笑む。


「この子が生まれたとき、マテウスさまとわたくしが側にいたからではないでしょうか? お父さまとお母さまだと思っているのかもしれませんわ」


 シルヴィアがそう言うと、マテウスは苦笑する。


「俺が親父かよ……勘弁してくれ」


「あら、いいではありませんか。わたくしにとって、マテウスさまは大切な方ですもの」


 シルヴィアは笑顔で言うと、ティアの首筋を優しく撫でてやる。すると、ティアも気持ち良さそうに目を細めた。


「まあ、いいけどよ……なんか、こいつを見てると、あんたと初めて会ったときのこと思い出すな」


 マテウスが懐かしそうに言うと、シルヴィアは首を傾げる。


「初めてお会いしたとき……ですか?」


「ああ。なんでこいつは俺にぐいぐい来るんだろうと、ずっと不思議だったぜ。まあ、今となっちゃあ慣れたけどよ」


 マテウスは苦笑しながら言った。

 シルヴィアもつられて笑う。


「だって、マテウスさまはとても素敵な方ですもの。わたくしの運命の方ですから」


 シルヴィアがそう言うと、マテウスは頭を搔きながら照れ臭そうに顔を背けた。


「あー、はいはい……もう聞き飽きたぜ」


 そんなマテウスを見て、シルヴィアはまた笑う。

 しかし、その一方で何かがシルヴィアの中に引っかかっていた。


 自分は、マテウスのことを慕っている。それが恋愛感情であることも、間違いない。

 それは彼の側にいて、彼のことを知れば知るほど、強くなっていったものだ。

 だが、マテウスを初めて見たときから、シルヴィアは彼を運命の相手だと信じていた。

 それは、何故だろうか。


 遺跡で呪石の想いが伝わってきたとき、マテウスの顔を見て湧き上がってきた感情を思い出す。

 そして、よくわからないことを口走っていなかっただろうか。

 自分は解放されたが、この方はまだだ、と……。


「シルヴィア、どうした?」


 マテウスに声をかけられて、シルヴィアは我に返った。

 慌てて、ごまかすように微笑む。


「あ……ごめんなさい、少し考え事をしていました」


「そうか……まあ、いいけどよ」


 マテウスはそれ以上追求せず、ティアの背中を撫でた。

 ティアが気持ち良さそうに目を細め、マテウスにすり寄る。

 その仕草を見て、シルヴィアはまた胸の奥がざわつくのを感じた。

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