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14.節度ある付き合いを

「というわけで、マテウスさま。ここはやはり、二人の愛を確かめ合うべきですわ」


 シルヴィアは真剣な眼差しで言う。

 それに対して、マテウスは少し呆れたような表情を浮かべた。


「あのな……ここ最近のしおらしさはどこにいったんだよ」


「あら、いけませんか?」


 シルヴィアが首を傾げると、マテウスは苦笑する。


「いや……こっちのほうが、あんたらしいけどさあ……」


「だって、切なくなるのも、苦しくなるのも、わたくしがマテウスさまを好きだからこそだとわかったのですもの。だからもう、迷うことなんてありませんわ」


 シルヴィアは胸を張って答える。


「それに、わたくしたちは正式な婚約者同士なのですわよ。ならば、何の問題があるでしょうか?」


「あるんだよ」


 マテウスは苦笑して、シルヴィアの額を指でつついた。


「はうっ……な、何ですの?」


 額を押さえながらシルヴィアが尋ねると、マテウスは肩をすくめた。


「婚約なんて、解消できるんだよ。特に、こんな王命であっさり決まった婚約、またあっさり解消されてもおかしくねえ」


 マテウスの言葉に、シルヴィアは愕然とする。

 だが、王女ベアトリクスがこの婚約を取り持ってくれたときのことを思い出す。

 王子たちの危機感を煽るため、マテウスとの婚約を進めたことになっていたはずだ。しかも、婚約ならば後で解消できるので、一時的なことだとごまかせると言っていた。

 つまり、この婚約はいずれ解消されることを前提で結ばれたものということになる。


「そんな……わたくし、国王陛下をこの手にかけなくてはなりませんの……?」


「いや、あんたの中で何が起こったんだよ!?」


 マテウスは慌てた様子でシルヴィアの肩を掴む。


「だって、陛下がこの婚約を解消させるというのなら、それしか方法がないではありませんか」


 シルヴィアは涙を浮かべて訴えるが、マテウスは大きくため息をつくだけだった。


「あのなあ……そんなことしなくても、ベアトリクス王女と手を組んだ上で担ぎ上げて女王にするとか、やりようはいくらでもあるぞ?」


「まあ、そういうものなのですか……?」


 シルヴィアが半信半疑の様子で言うと、マテウスは苦笑する。


「ああ。あの王女、かなりのやり手みたいだぞ。俺にも態度を変えず、にこやかに探りを入れてくるくらいだし。というか……王位狙ってるぞ、あれは」


 マテウスは確信を持った口調で言う。

 それを聞いて、シルヴィアは驚いたような表情を浮かべた。


「まあ……でも、次期国王は二人の王子殿下のどちらかではありませんの?」


「王位継承権は男子優先だからな。だが、女子にも継承権はある。それに、正妃の子はあの王女だけだ。ならば、彼女が王位を継ぐ可能性は十分にある」


「そうなのですね……」


 シルヴィアは、友達になろうと言ってきたときのベアトリクスを思い出す。

 打算が感じられたが、だからこそ互いに協力し合えると思ったものだ。


「俺としても、あの王女が王位に就いたほうが都合がいい。女王なら、聖女を娶るなんてできねえからな」


 マテウスはそう言って肩をすくめた。

 だが、すぐに真剣な眼差しでシルヴィアを見る。


「だから、余計な心配はするな。どうにかなる。ただ、正式に結婚するまで、互いに節度ある付き合いをしよう。な?」


 マテウスは優しく諭すように言うと、シルヴィアの頭を撫でた。

 その優しい手つきに安心感を覚えながらも、シルヴィアは少しだけ不満を感じていた。


「でも、節度ってどこまでですの?」


 シルヴィアが尋ねると、マテウスは困ったような表情を浮かべた。


「それは……まあ、キスまでとか……」


「……マテウスさまのような方を、ヘタレと言うのだと聞いたことがありますわ」


 シルヴィアが呆れたように言うと、マテウスはムッとした表情になる。だが、すぐに諦めたようなため息をついた。


「まあ……そうだな。俺はあんたを傷付けたくないんだ」


「もう、そんな心配いりませんのに」


 シルヴィアはそう言って微笑むと、マテウスに抱きついた。そして彼の胸に顔を埋める。


「でしたら、早く正式に結婚できるよう、わたくし頑張りますわ。だから、マテウスさまも早く覚悟を決めてくださいませね?」


 シルヴィアが上目遣いで言うと、マテウスは苦笑した。


「はいはい、わかったよ」


 そんなやりとりをしていると、部屋の扉を叩く音がした。


「失礼いたします」


 そう言って入ってきたのは、執事のダンだった。

 彼は抱き合う二人を見ると驚いたような表情を浮かべるが、すぐに平静を取り戻して言う。


「これは失礼いたしました。お楽しみのところ、お邪魔をいたしました」


「いや、待て! 違うぞ!」


 マテウスは慌てて否定するが、ダンは首を横に振った。


「いえ、ご安心ください。すぐに退出いたしますので、ご存分にお楽しみくださいませ」


「だから違うっつーの! おいシルヴィア、何とか言え!」


 マテウスが叫ぶと、シルヴィアはクスクスと笑った。そして、ダンに向き直る。


「わたくし、マテウスさまに拒まれたところですの。ダンからも、マテウスさまに言ってくださらない?」


「おいシルヴィア!?」


 困惑したような声を上げるマテウスを、ダンは眉を寄せながら見つめた。


「それはいけませんね。マテウスさま、男として情けないですよ」


「だから違うって!」


 マテウスは頭を抱えながら叫んだ。

 そんな彼を見て、シルヴィアはまた笑う。だが、そろそろ潮時だろう。


「冗談ですわ。それより、何か用があったのでしょう?」


 シルヴィアが尋ねると、ダンは小さく咳払いをしてから答えた。


「はい。実は、研究者のロイド殿がお見えになりました。なんでも、マテウスさまにご報告があるとか」


「ああ、わかった。すぐに行く」


 マテウスは即答すると、立ち上がった。そしてシルヴィアに向き直ると、少し考え込む。


「シルヴィア。あんたも同席してくれねえか? もしかしたら、あんたの力が必要になるかもしれない」


 マテウスの言葉に、シルヴィアは首を傾げた。だが、すぐに頷く。


「わかりましたわ」


 そして二人は連れ立って部屋を出たのだった。

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