表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女は王子たちを完全スルーして、呪われ大公に強引求婚します!  作者: 葵 すみれ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/41

01.強引な求婚

「聖女シルヴィア。あいにくだが、僕がお前を愛することはない。だが、お前が僕を愛することは許そう。心して尽くすがいい」


 目の前で得意げに語る金髪碧眼の青年を、シルヴィアは無感動に見つめた。

 空色の瞳には何の感情もこもっていない。長い銀色の髪も、身に纏った白いドレスも、まるで人形のように微動だにしない。

 その手に握られた一輪の赤い薔薇だけが、唯一生気を感じさせるものだった。


「お話しは終わりましたか? でしたら、そこを通していただけますか? わたくし、この薔薇を捧げなければならない方がいるのです」


「な……っ!?」


 金髪の青年は驚愕に目を見開いた。

 まさか自分が無視されるとは夢にも思っていなかったのだろう。

 静まり返っていた王宮の大広間が、にわかにざわつき始める。


「そ、その薔薇は求婚の証だ! 意中の相手にこそ捧げるものだろう!?」


「ええ、そうです。ですから、その方に捧げるのです」


「な、何……だと……?」


「わたくし、その方のことが大好きなのです。愛しているのです。ですから、この薔薇を捧げて、わたくしの気持ちを伝えるのです。喜んでいただけるとよいのですが……」


 シルヴィアはそっと目を伏せた。

 その胸中をよぎるのは一抹の不安と期待、そして強い決意だ。


「ですので、どうかそこを通してくださいませんか? わたくしの、愛しいあの方のもとへ参りますので」


 シルヴィアは軽く膝を折って礼をすると、金髪の青年の横を通り抜けて歩き出す。

 金髪の青年は呆然として動けない。

 赤い薔薇を手にした銀色の髪の少女が、悠然と歩き去っていくのを、ただ見送るしかなかった。

 シルヴィアは大勢の貴族たちが居並ぶ大広間を、堂々とした足取りで歩いていく。


「聖女が第一王子殿下を袖にしたということは……」


「選ばれたのは第二王子殿下ということだろうな……」


「これで王位争いの勝者が決まったということか……」


 貴族たちは小声で囁き合う。

 誰もがシルヴィアの動向を、固唾をのんで見守っていた。

 しかし、シルヴィアは周囲のそんなざわめきなど一切気にすることなく、まっすぐ前だけを見つめて歩き続ける。

 すると、一人の青年が、シルヴィアの前に進み出て跪いた。

 灰色がかった金色の髪に、青色の瞳を持つ青年だ。


「聖女シルヴィアさま。あなたさまの求婚者として、この私にその薔薇の花を授けていただけるのであれば、これ以上の喜びはございません」


 灰色がかった金髪の青年は大仰にそう言って頭を垂れる。

 シルヴィアは一瞬だけ足を止めるが、すぐに歩き出す。

 そして、跪く灰色がかった金髪の青年を素通りして足を進めた。

 そんなシルヴィアの行動に、大広間は再びざわめき始める。


「お、おい! 第二王子殿下まで無視するとはどういうことだ!?」


「この場は、聖女がどちらの王子を選ぶかを、公に宣言するためのものではなかったのか!?」


「まさか、聖女はどちらの王子にも求婚しないつもりなのか!?」


 貴族たちは口々にそう叫び合う。

 しかし、シルヴィアはそんなざわめきなど一切気にせず、ただ一点を目指して歩き続けた。

 そして、ようやくその歩みを止める。

 大広間の奥まった場所で、壁を背にしてひっそりと佇む、黒い髪に赤い瞳を持つ青年の前で。


「……こちらには、あなたにふさわしい者はおりませんよ。どうぞ広間の中央にお戻りください」


 黒い髪の青年は静かに言った。

 その抑揚のない声は、無機質で、どこまでも冷たい。

 シルヴィアは気にすることなく、青年に微笑みかけた。これまで無表情だった彼女の顔に、初めて表情が生まれる。


「いいえ、こちらにいらっしゃいますわ」


「……は?」


 青年はその赤い瞳を見開いて、シルヴィアを見つめる。

 そんな青年に、シルヴィアは手にした赤い薔薇を差し出しながら、とびきりの笑顔を向けた。


「マテウスさま。わたくし、あなたさまをお慕い申し上げております。どうか、この薔薇を受け取ってくださいませんか?」


 シルヴィアの告白に、大広間は今日一番のざわめきに包まれた。


「お、おい……呪われ大公が、求婚されているぞ……」


「まさか、そんなバカな! あの呪われた男に聖女が求婚など、ありえない!」


「いや、しかし……聖女は第一王子殿下も第二王子殿下も袖にされたのだぞ? まさか、本当に……?」


 貴族たちは口々にそう囁き合う。

 そんなざわめきを気にも留めず、シルヴィアはただ目の前の青年だけを見つめ続ける。

 黒い髪に赤い瞳の青年は、差し出された薔薇とシルヴィアの顔を交互に見つめる。そして、小さくため息をついた。


「これはまた、ずいぶんとお戯れが過ぎるお言葉ですね」


「戯れではありませんわ。わたくしは本気です」


「余計に質が悪いですね」


 黒い髪の青年、マテウスは無表情のまま答える。

 だが、シルヴィアは全く動じずにマテウスを見つめ続けた。


「あなたは呪われ大公などではありません。とても優しくて、素敵な方ですわ」


「……それはどうも」


 マテウスはそっけなく答える。

 そんな彼の態度にもめげずにシルヴィアは言った。


「ですからどうか……わたくしと結婚してくださいませ」


「……お断りします」


 マテウスはきっぱりと言った。

 しかし、シルヴィアは諦めない。

 マテウスに一歩近づいて、その赤い瞳をまっすぐに見つめる。


「そのような返事は、わたくしには聞こえませんわ。『はい』か『喜んで』か『謹んでお受けいたします』か、どれか一つでお答えください」


「どれもお断りです。そもそも、なぜ私なのですか? 私はかの悪逆公の生まれ変わりとすら噂される、呪われた男。そんな男を夫にするなど、正気の沙汰とは思えませんよ」


「あなたさまは呪われてなどいませんわ。わたくしは、あなたさまに救われたのです。暗闇に囚われていたわたくしを救い出してくださったのは、他ならぬあなたさまなのです」


「……記憶にありませんね。どなたかとお間違えではありませんか?」


 マテウスは冷たく言い放つ。


「いいえ。あなたさまは、確かにわたくしを救ってくださったのです」


 シルヴィアはきっぱりと言った。

 マテウスはため息をつく。


「……仮にそうだとしても、お断りします。私はあなたと結婚する気はありません」


 マテウスはそう言ってシルヴィアに背を向け、立ち去ろうとした。

 だが、シルヴィアはマテウスの行く手を遮るように、壁に手をついて彼の前に立ちふさがる。

 手が壁に少しめり込み、破片がぱらぱらと床に落ちた。


「え……ちょっ……!?」


 シルヴィアが見せた予想外の行動に、マテウスは動揺をあらわにする。

 華奢で、すぐに折れてしまいそうな、ほっそりした腕。

 その細腕で、壁がひび割れるほどの怪力を秘めているなど、誰が思うだろうか。

 マテウスは呆然としてシルヴィアの顔を見つめた。

 それを見つめ返しながら、シルヴィアはにっこりと微笑む。


「わたくし、あなたさまの愛を得られるよう、これから精一杯頑張りますわ。どうか、末永くよろしくお願いいたします」


「え? え? 何だよ、これ……何が起こって……」


「はい! これ、わたくしの気持ちですわ。受け取ってください!」


 シルヴィアは愕然としたマテウスの言葉を一切聞かずに、彼の手を強引に掴み、その手に一輪の赤い薔薇を握らせる。

 マテウスはシルヴィアの強引さに圧倒されたのか、ただ黙って薔薇を受け取った。

 そんな二人の様子を見ていた貴族たちはざわめく。


「なんということだ……聖女が呪われ大公に求婚するなど、前代未聞だぞ……!」


「いや、それよりも……あれは本当に聖女か? まるで人ならざるもののようだ……」


 貴族たちは口々にそう囁き合う。


「僕ではなく、呪われ大公に求婚するとは……。お前は一体何を考えているんだ!?」


「いくら何でも、あの呪われ大公だけはやめておいたほうが良いですよ! 呪い殺されてしまいます!」


 第一王子と第二王子がシルヴィアに詰め寄り、口々に言う。

 慌てる二人に、シルヴィアはにっこりと微笑みかけた。


「お二人とも、どうかご心配なく。わたくしは聖女ですのよ? 呪いなんてものは、この身に全く感じませんわ。それに……」


 シルヴィアはマテウスに向き直る。

 そして、彼の赤い瞳をまっすぐ見つめた。


「わたくし、絶対にあなたさまを幸せにしてみせますわ! 絶対に、絶対にです!」


 シルヴィアはマテウスに向かって、力強く言い切った。

 そんなシルヴィアに、マテウスはただ呆然とするしかなかった。

新作を始めました。

もしよろしければ、ブックマークや↓の「☆☆☆☆☆」で応援していただけると嬉しいです。


また、9/27(金)に『無能と蔑まれた令嬢は婚約破棄され、辺境の聖女と呼ばれる~傲慢な婚約者を捨て、護衛騎士と幸せになります~』コミックス1巻が発売となります。

こちらもよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆9/27発売◆
『無能と蔑まれた令嬢は婚約破棄され、辺境の聖女と呼ばれる~傲慢な婚約者を捨て、護衛騎士と幸せになります~』
無能令嬢は辺境の聖女と呼ばれる1
script?guid=on
― 新着の感想 ―
[良い点] 壁ドンを通り過ぎて壁バキィ、をする聖女様、パワフルですね、これも聖女の力でしょうか(笑) しかも戸惑ってるマテウスさんに強引にバラを握らせているのも面白かったです。 絶対に選ばれると想っ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ