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19話 思わぬ再会

 まだしっかりとした証拠が無いこと、そして抵抗をしなかったことが功を奏したのだろう。手荷物などは押さえられたが、拘束は解かれ、牢の中では自由を許されていた。


 立ったまま壁に背を預けるローランと、牢の中を物色するマーシー。

 一頻り終われば満足したのか、マーシーが口を開いた。


「それで、ボクたちはどうなるのかな」

「この扱いを見れば分かるが、多少疑われているというだけだ。別にどうもならないだろう」


 エルフたちにとって神聖な森が一部とはいえ焼かれた。

 それは大きな問題であったが、ローランたちは止めた側だ。共に戦ったエルフたちが目を覚ませば、程なくして解放されるだろう。


「でもこういうときって、部外者に責任を押し付けたりするものじゃない?」

「押し付けても問題が解決するわけではない。今は熱くなっているが、それが分からないほど彼らは愚かではないさ」


 ローランの説明に納得したらしく、マーシーはなるほどと頷く。

 しかし、疑問はまだいくらでも残っており、それについての話し合いが始まった。


「まずさ、どうして魔王がこんなところにいたの?」


 マーシーの疑問へ、先ほどから同じ疑問について考えていたローランが答える。


「領域の話は知っているな?」

「もちろん。聖なる者へ力を与え、魔なる者の力を削ぐ。逆に魔族の領域では、魔なる者へ力を与え、聖なる者の力を削ぐ。聖と魔の神が作りし巨大結界だね」


 どちらが聖でどちらが魔なのか。それは見る側で変わる問題だが、魔王に属する者を魔、魔王に敵対している者を聖として説明をしよう。

 現在、聖に属する者が生息している大陸は3つ。魔に属する者が生息している大陸は1つ。だが、魔族たちは全ての大陸にいくらかの土地と拠点を持っており、そこから侵攻を行っていた。


 聖なる者よりはるかに強い力を持つ、魔なる者たちがなぜいまだに勝利を手にできていないのか。その理由が、この領域と呼ばれる巨大結界にあった。


 魔なる者たちは、圧倒的な個の強さを活かし、聖なる者の土地を奇襲していけば簡単に戦いは終わる。だが、互いの領域ではその力を大幅に制限されてしまう。

 領域での制限は、おおよそ5割から9割にも及ぶ。

 相手の土地へ入り込み、一気に主要人物を片付けるといった奇襲作戦は、この領域によって行えないようになっていた。


 しかし、それを可能とする者がいる。領域の影響を受けない存在。()()()()()だ。


 勇者は仲間と共に、魔なる者の大陸へ入り込み、魔王を打倒することが可能である。もちろん逆も同じくであった。



 領域の話を踏まえ、ローランが言う。


「あれが魔王だったとすれば、目的は間違いなく俺だろう。しかし、俺は殺されていない。つまりあれは魔王ではない」


 どのような事情があったとしても関係はない。魔王を殺せば聖なる者たちが勝つ。勇者を殺せば魔なる者たちが勝つ。その千載一遇の機会を逃すはずはなかった。

 うーんと、マーシーは首をひねる。


「じゃあ、ここを狙った魔族の仕業ってこと?」

「領域内であれほどの力を出せる魔族がいないとは言わない。だが、あれで目的を達せることができたのか? それよりも、ここを知っていて、力に制限もかけられていない相手の方が怪しいな」


 ここまで聞いて気づいたのか、マーシーが「あっ」と小さな声を上げた。

 エルフの誰かが変装し、なにかしらの目的を持って攻撃をした、という考えだ。

 マーシーも言葉にこそ出さなかったが、その答えには一理あると思えたのだろう。腕を組みながらうんうんと頷いていた。


「しかし、目的が分からない。俺たちを呼び出したのは証人にするためか? どんな意味があるんだ? さっぱり想像がつかない」


 エルフたちの中で派閥争いがあるのだとすれば、守旧派と改革派によるもの。クルトとレンカを旗印にしての争いだろう。

 他の種族を巻き込みたいと考えているのだとすれば、行動を起こしたのはレンカたちの改革派になる。


 しかし、ローランたちはなにかが引っかかっていた。巻き込むにしても、他にもっと良いやり方はいくらでもある。なぜ、こんな方法だったのか。それが分からない。

 2人は思いつくことを口にし合ったが、やはり答えは出なかった。



 とりあえず、エルフの長であるクルトの前に連れて行かれる時を待とう。2人の話がそんな落としどころを見つけたときだった。

 殺気立っている数人のエルフが、両手と体を縛り上げた女性を連れて来て、2人の向かいにある牢へと押し込んだ。


「ここで大人しくしていろ!」

「お前たちの仲間だな! せいぜい仲良くやればいい!」

「我らの森を焼いたのだ! ただで済むと思うなよ!」


 2人を牢に入れたとき、エルフたちは戸惑っていた。なのに今は違う。目には憎悪の炎を浮かべ、すぐにでも殴り飛ばしたいのを我慢しているといった様子だった。


 唖然としていた2人は、向かいの牢へ入れられた半泣きの女性と目が合う。

 どうやら女性も、その存在に気づいたらしい。

 先ほどまで半泣きだった女性、アリーヌ・アルヌールは、元気そうなローラン・ル・クローゼーの姿を見て、安心した表情を浮かべていた。

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