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9 彼女と別れて再会するまで その4 オルトラム視点

 クライブがこちらの返事も待たずに動き出したことに、またも心の中で首を捻りながら後をついて行く。

 移動しながら……視線を感じていた。イカリア侯爵夫妻だけでなく、サンクシェーンの高官、宰相、はては国王と王弟までが、俺の行動に神経をとがらせているようだ。

 警戒されるようなことはしていないと思ったが。……いや、こちらのシュタルゼン一行からも、気遣わし気な視線を向けられたので、違う理由だとわかった。


 公の場で話すには憚られる会話……まさか、デテールに何かあったのか?

 当たり前のようにデテールも居ると思っていたけど、実は……。


 今まで考えたこともなかったことに、目の前が暗くなった。


「……い、大丈夫か、オルトラム」


 気がつけば、どこかの部屋……控室のソファーに座って二人と向かい合っていた。目の前には水の入ったグラス。酒や紅茶ではないことに、俺の予想は当たったのだろうと思った。


「ああ、大丈夫だ。デテールのことを話してくれ」


 俺の言葉に二人はまたも顔を強張らせた。それからゆっくりとクライブが話し出した。


「デテールは元気だよ。……元気という言い方はあっていないか。でも、生きているよ。彼女は今、医療先進国と云われるトゥーン国にいる。……ご両親と同じ薬師になるために。

 あの……三年前、に……流行った流感……あれで……」

「クライブ様、よろしければ、私に話させていただけませんか」


 苦し気に言葉を紡ぐクライブに、声がかかった。その声がした方を見て、クライブの斜め後ろに立っている者がいたことに、驚いた。


「ステファン……すまない。頼む」

「畏まりました」


 クライブへと恭しく頭を下げた男は、向きを変えて俺へと礼をした。


「はじめてお目にかかります、アクタバ侯爵。私はクライブ様の近侍をしております、ステファン・バルメルと申します。出はバルメル男爵家ですが、三男でしたので成人したおりに籍を外れました。

 僭越ではございますが、ここからは私がお話させて頂きたいと思います」


 ステファン・バルメルは茶髪に茶色い目をしたどこにでもいそうな容姿の男だった。だが、目の輝きが違う。いい目をしている。クライブは良い奴を近侍に迎えられたようだ。


 ◇


 ステファンが話してくれた内容は、俺の想像をはるかに超えたものだった。三年前の流感、近隣諸国どころかこの大陸全土で流行ったものだったそうだ。


 そんな中でいち早く薬を作り上げたのがサンクシェーン国で。

 バップナー博士が薬を作り上げたと公表されているが……確かに薬を作り上げたのはバップナー博士だが、その完成直前まで作り上げたのはスタルプ伯爵夫妻だった。

 スタルプ伯爵夫妻とバップナー博士は共に学んだ薬師仲間で、薬草を融通してもらうためにバップナー博士がスタルプ領を訪ねてスタルプ領の惨状を知ったという。

 スタルプ伯の意思を継ぎ、薬を完成させて。まずはサンクシェーン国内。その後、各国へと薬を送ってくれたそうだ。


 大流行が収束するまでスタルプ領の惨状は秘されていた。それはスタルプ伯爵の遺言であったから。

 だから……デテールの家族、両親と弟が亡くなってしまったことも、領民の八割もの人が亡くなったことも、俺は知らなかった。


 デテールには家族が亡くなったことは伝えたが、領民が数多く亡くなったことは伝えていないという。

 いや、伝えられなかったというほうが正しかっただろう。


 そしてデテールは……彼女が学園を卒業する半年前に、爵位の返上と領地の買取をイカリア侯爵夫人に相談してきたという。


 そう……スタルプ領の薬草は生き残ったスタルプ領地民とイカリア侯爵領民、それからカトリンの子爵家であるシュチャニ子爵家の領民が育て守っていた。

 一度……デテールはスタルプ領地に行ったというから、その時に自分の領地の民でない者がいるのを見て、気がついたのかもしれない。


 いや、それはないと言われた。

 あの惨状……流感によりスタルプ伯爵領も、多くの人が亡くなったことはデテールに伝えたという。

 それと共に、スタルプ領の薬草がこの流感を押さえる鍵だとも、話したそうだ。

 だから、近隣の領地から農民……それも葉物野菜を栽培していた者や、花を栽培していた者たちを、薬草栽培をさせるために移動させたそうで。

 もちろんその者たちは、納得して移動したという……。


 デテールがどうして薬師になろうとしたのかは、誰にも明かされなかったそうだ。カトリンにも「侍女ができなくなるけど、ごめんなさい」としか言わなかったそうで……。


 サンクシェーン国も王家の方々が亡くなり、一時期ひどい混乱が起きたそうだ。

 今のサンクシェーン王も、王位継承権の高い父親が亡くなったため、それを伝えに王宮に参内して王家の様子を知ったという。

 その時はまだ王家の方々は寝こんでいたけど、そこまで悪くなかったらしい。


 ……いや、スタルプ領から熱さましの薬や咳の薬、痛みを緩和する薬が届けられていたおかげで、持ちこたえていたという。

 だが、王弟が亡くなったことを聞いた国王が亡くなり、それを知った王妃が亡くなり、王子王女方まで相次いで亡くなり……彼も罹ってしまい寝たきりになってしまったそうで。

 特効薬が届かなければ、命を落としていたかもしれなかったらしい。


 本当にギリギリだったそうだ。


 それはデテールもそうだった。

 デテール、クライブ、カトリンの中でデテールの状態が一番深刻な状況だったそうだ。

 爵位などこれからのことを考えるとクライブが優先されるべきだった。

 それをまだデテールより症状が軽かったクライブとカトリンは、デテールの治療を優先することを願ったという……。


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