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7 彼女と別れて再会するまで その2 オルトラム視点

 早馬がイカリア侯爵家に来た、あの日のことは忘れられない。


 あの頃、我が伯爵家に何やらあったとかで、ひと月前から僕は侯爵家で暮らしていた。

 両親だけでなく兄までも邸に戻れないことになったので、勉強のために侯爵家に送り迎えしていたのができなくなったためだった。


 使者が告げたのは、僕の両親だけでなく兄が、崖崩れに巻き込まれて亡くなったというものだった。

 すぐに侯爵は人を手配してその場所に向かってくれた。僕には侯爵家で待っているようにと言われたけど、ついて行った。


 現場では、土砂を取り除く作業が行われていた。横倒しになりひしゃげた馬車から両親と兄の遺体が出てきた。御者の損なわれた状態からしたら、まだきれいなほうだろう。馬車は思ったより頑丈だったのか、それとも押し寄せた土砂が押しつぶすまでいかなかったのか、箱の形で残っていたから。でも扉に使われていたガラスが割れたことで、それが三人の致命傷になったようだ。


 三人を連れて邸に戻った。そこに今度は叔父一家が亡くなったという連絡がきた。

 その遺体を引き取る手配を侯爵がしてくれた。


 叔父の一家が搬送されてきてすぐ、家族の葬儀が行われた。


 それを半分他人事のように、ただ喪主として、務めた。


 諸々の手続きは侯爵とデテールのスタルプ伯爵がやってくれた。

 それで、今回、何があったのかがわかったのだ。


 叔父の借金により、金策に走り回って両親と兄は事故に遭ったこと。叔父も金策に動いていたけど、一家で病にかかってしまったこと。借金は領地、王都の邸、爵位を手放せば、ほぼ返せること。


 もともと次男の僕は成人すれば爵位は無くなることになっていたので、爵位を手放すことに異論はなかった。

 でも、クライブの側近としてこのまま侯爵家で雇ってくれることは、変わらないといわれた。逆に近侍として、クライブの身の回りの世話をする仕事を与えてもらったことは、良かったと思う。


 それと、何故かデテールとの婚約はそのままだった。デテールも僕と結婚すれば爵位が無くなることは納得済みだったし、カトリンの侍女……先を見れば二人の子供の乳母になることが決定しているのだから、そのままでいいだろうとのことだった。


 これが十二歳になる直前のことだった。


 僕はただ日々を過ごすだけだった。そんな僕にデテールは寄り添ってくれた。

 カトリンもあのクライブでさえ、僕のそばに居てくれた。

 ゆっくりと麻痺した僕の心は平常へと戻っていった。



 家族を亡くしてから半年後、僕の運命は大きく変わった。


 もう僕には家族は居ないと思っていたのに、西の国のシュタルゼンから祖父と伯母が訪ねてきたのだ。

 初めて会う二人だったけど、伯母は母にどことなく似ていた。


 二人の用件は僕を引き取りたいということだった。


 理由は後継者が居なくなったから。


 伯父と僕のいとこになる二人の子供を流行り病で亡くしたそうで、僕を後継者にという話は両親に通してあったという。

 ただ『検討する』という返事が来た後、連絡が取れなくなり、調べたら伯爵家に不幸が起こり、僕以外の家族が亡くなったと知ったそうだ。


 すぐさま僕を引き取るために来たそうで……。


 その話を聞いた僕の頭の中では、瞬時に様々な計算がなされた。その結果、祖父たちの申し出を受けることにした。


 手続きのために数日を要した。言い方を変えれば、数日で手続きが済んだといえる。

 祖父と伯母は持参した書類をこの国、サンクシェーンの王都まで出向いて提出した。不備はなかったようで、すんなり通ったそうだ。

 数日かかったのは、王都までの往復の日数だった。


 それと共に、僕とデテールの婚約も解消された。


 サンクシェーンを離れる前日、イカリア侯爵家では別れの宴を開いてくれた。デテールのスタルプ伯爵家も来てくれたけど、僕はデテールと話す時間は取れなかった。


 だから、出発する前に少しだけ時間をもらって、デテールと話をすることにした。


 庭園の東屋で向かい合って……何かを言おうとして、何を言っていいのかわからなくなった。


 僕はわかっていなかった。


 祖父たちと共に行くということは国が変わるということで、今までのように簡単に会いには来られないということを。

 共にクライブとカトリンを支えるはずだったのが、デテールだけにそれを押しつけることになるということを。


 大人になったら迎えに来るから僕を支えてほしいと伝えたい……。


 俯いて……顔を上げようとしないデテールを見て考えているうちに、そう思った。


 ちゃんと顔を見て言いたくて、気がつけばデテールの頭に手を乗せて、ポンポンとしていた。

 目を丸くして顔をあげたデテールの顔をみたら、言えなくなった。


 何とか絞り出した言葉は、ありきたり過ぎて情けないものだった。


「元気で…………君とこの先も一緒に過ごしたかった……ありがとう」


 未来の約束をしたかった。でもそれは出来ないと思ったから、それだけ言った僕は東屋からでて祖父たちの元に向かい、そのまま別れたのだった。



 隣国シュタルゼンに着いて早々に、王宮へと挨拶に向かった。国王夫妻と王子たちに会い、第一王子と第二王子の間の年齢だとわかった。


 そうして僕が侯爵家を継ぐための勉強の日々が始まった。


 侯爵家は代々騎士の家系だそうで、祖父は元騎士団長で伯母も王妃の近衛騎士をしているそうだ。イカリア侯爵家でも剣術の訓練はしていたけど、騎士になるための訓練は段違いだった。


 そうして六年が経ち、こちらの国の騎士学校を卒業した俺は、王太子付きの近衛になり忙しい日々を過ごしていた。

 時折、イカリア侯爵家での日々を懐かしく思い出したりしたが、それだけだった。


 そんな時に、うちの王太子と隣国……サンクシェーンの王家と婚姻の話が出た。どちらの国もこの三代ほどは他国と婚姻をしていなかった。それぞれ国内が安定したことで、隣国と縁を持つことを決めたようだ。


 婚約予定の王女と王太子との顔合わせが決まり、隣国の国王陛下の生誕祭に招かれることになった。それにもちろん俺もついて行くことになっていた。


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