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3 行き遅れの薬師と騎士団長

「デテールって、苦労したのね」


 薬師仲間との飲み会。


 それぞれが薬師になった動機を語る中、私の番が来て簡単に話そうと思った。

 のに、自国を離れて医療先進国と云われる国に留学した私のことは、いろいろと話題になっていたらしい。当時の私は学ぶことに必死で周りのことに目がいかなかった。それが鬼気迫る勢いで勉強に励む留学生がいると話題になっていたらしい。


 知らんがな。


 というか、とっくにその学校も卒業して働いているのよ。今更な話だと思ったのに、周りは好奇心を押さえられなかったようだ。


 っていうか、あれ~? なんかこの酒場内の雰囲気おかしくない? あっちこっちで涙ぐんでいる人がいるんだけど??


「苦労っていうけど、誰でも苦労の一つはしているでしょ」

「いやいやいやいや。デテールに比べたら苦労のうちに入らないから!」


 そう力説されてもねぇ。私が国を出てあの学校で学ぶことを選んだのも、そのあとここで薬師をしているのも、自分で考えて決めたことだもの。


「ところで、ねえ、デテール、その……婚約していた……彼と、その後は?」

「ん? オルトラム様のこと? んん~、どうしているんでしょうね~?」

「えっ? 知らないのー!」


 いや、どうしてそう考えられるかな? 国は別だし、あのあとうちの国自体どうなるかわからない状況になったでしょ。そんな状況で幼馴染みのことに気を配れるわけがないじゃない。


 噛みつく言い方になりそうなのを、何とかオブラートに包んで言えば「ご、ごめん」と謝られた。少し怯えているようだけど、なんで? 


「えーと、それじゃあ、その彼のことが忘れられないのではないのね。ねえ、それなら、なんで恋人を作ろうとしないの?」


 来るだろうと思っていた質問が来て、内心げんなりしたけど気合を入れて笑みを浮かべた。


「それなら聞くけど、どうやって恋人を作れと?」

「「「「「えっ?」」」」」


 問い返されると思っていなかったのか、同僚たちの目が点になる。


「近隣諸国に流行していた病のために、この数年我が薬師ギルドも大忙しでしたよね。私の国を襲ったあの病。何故か翌年にはせっかく出来ていた薬の効き目が悪くなりましたよね。どうやら年が変わると変異して薬の効きが悪くなるようだと、その事に気づけたのが五年前。それでも、最初の薬のおかげで亡くなる人は減りましたけど、病に苦しむ人は減ってませんよね。あの天才バップナー博士が対処できる薬を作り出しても、翌年には効き目が悪くなることに、匙を投げかけたくらいです。一薬師の私に出来ることは、その薬をレシピ通りに量産して近隣の国に届けるだけですよね。で、そんな私にいつ出会いが訪れると?」


 私の言葉に顔色が悪くなる同僚たち。


 そうなんだよね。

 バップナー博士のレシピは細かい注意点が多く、一つでも間違うと効能が半減してしまう。


 だから、バップナー博士のお眼鏡に叶って薬を作れるのは、薬師ギルドに登録している薬師の中でも片手の人数しかいなかった。その人数で近隣諸国に届ける薬を作るのだ。流行が始まる秋から、私たちの部署は戦場となる。それが春先まで続くんだよね。

 春から秋の間は薬草の栽培に忙しいし。


 これでどうやって出会いを探せと?


 ちなみに他の()たちは男性で既婚未婚を問わず、生殖機能が果たせない状態となっている。

 クッ。にっくき高熱の出る病どもめ!

 そんなに人族を滅亡させたいのか!


 あの病が流行り出してから近隣諸国の人口は激減した。我が国も薬が出来るまでに三割にあたる人が亡くなった。

 それでもまだ良い方だった。

 オルトラム様が行かれた隣国は二度目の流行が起こり、それにより前回と合わせて半分の人が亡くなったそうだ。


 他の国も半数近い人が亡くなっている国がほとんどだった。特に、王族や高位貴族が亡くなった国が多数あり、各国は話し合った結果国を統廃合していった。


 だから……私の祖国は無くなった。オルトラム様が行かれた隣国も無くなった。二国は合わさり、新しい国となった。


 そんなことを考えていたら、頭の上に手が乗りポンポンと拍子をつけるようにして叩いてきた。……叩いてといっているけど、力は加わっていないから叩いているうちには入らないか。


 ……というか。


「子供扱いはやめてくれませんか、アクタバ卿」

「別に子供扱いはしてないが」

「頭をポンポンするのは子供にすることでしょう」

「そうか?」


 立ちあがって睨みつければ、首を傾げている男性……アフターに相応しいラフな格好をしている男性がいた。鍛えられた筋肉の素晴らしさが隠せていないわ。


 ……じゃなくて。


「で、なんか用ですか」

「用というか……なんか、荒れてそうだと思ったから気持ちを落ち着かせようかと思って」


 飄々とした態度で言う男性を、ギッと睨みつけた。


「大きなお世話です」

「まあ、それは、確かに」


 軽い感じにうんうんと頷いたと思ったら、男性は目を眇めると真剣な声で聞いてきた。


「それで、デテール嬢は、今は、恋人は居ないと」

「聞き耳をたてていたんですか」

「いやいや、あれだけの話題を提供していただければ、みんな自分たちの話よりデテール嬢たちの話を聞きたいと思うでしょう」


 やはり錯覚ではなくて、この飲み屋に居る客全員が聞き耳たててたんかい!

 というか、あそこに居る人もそっちに居る人も見たことがあるんですけど?

 なんで上役や取引先の上のほうの人までいるわけ?


「で、恋人は居ないと?」

「なんで再度訊くんですか」

「知りたいから」


 シレっと言われて、私の感情のボルテージが上がっていく。


「答える必要はないと思いますけど、アクタバ騎士団長!」

「是非とも答えてほしい。それと、アクタバ卿とか騎士団長って言い方は、他人行儀だろ」

「他人行儀もなにも他人でしょ!」


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[一言]  ああ、この人が…
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