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手に持ったカップをコトリ!と置いた時に

作者: 黒楓

今日は金曜。


今回は黒楓の“金曜 女のドラマシリーズ”です。

 “二人っきりの一戸建て生活”なのだから……使わない部屋もある。


 例えば、子供部屋にする予定の“天窓のある部屋”もその一つ。


 ここのお掃除は金曜の午前中と決めている。


 掃除機を掛け終わってパタパタと階段を下りると、週末のFM放送がお昼の時報を鳴らす。


 これも予定通り。


 軽快な曲をBGMにパーソナリティが週末らしいイベント情報などを紹介する。


 結婚して3年目、夫との週末デートは決まって“妊活”の前菜となり、正直なところ、私はウンザリしているし、カレもきっとそうだ。


 なぜ、かくも冷めてしまったのか……

 それとも

 子供の無い夫婦は3年も経つと、何処も似たり寄ったりなのか……


 夫は自身も家もステイタスは高めだ。

 それがカレの魅力の一部でもある。

 そして物静かなカレの性格を『“品の良さ”と“大人”を醸し出している』と結婚前は好ましく思え、私はカレに甘えた。


「奈々は可愛いな」

 口癖の様に囁くカレにキスをせがむ幸せは結婚式当日が頂点だったのかもしれない。


 義父が結婚祝いにプレゼントしてくれたのがこの注文住宅で……お友達を呼ぶ度に羨望の目で見られた。


 この新居で、週末は勿論の事、週中でも小さなパーティを催すものだから、私はそれを理由の一つとして、予定を繰り上げて“寿退社”し、以来この“鳥籠”の中の生活となった。



 “愛の巣”とはよく言ったもので、義父がこの瀟洒な“巣箱”を用意したのは一刻も早く孫の顔を見たいからなのだろう。


 私の家は普通のサラリーマン家庭だ。

 ウチの父だって『孫の顔を見たい』と言う気持ちはあるのだろうが、思いの強さが全然違う!!


 その“上品の皮を被った” ()()が次第に私の上に重くのしかかり、私を支配し始めた。


 上手くいかない妊活に悩みに悩んた末、誰にも知らせないでレディースクリニックを受診し、辛い不妊検査も受けた。

 その結果は、「ご主人にも理解してもらって、検査も受けて戴いた方が良い」との医師からの言葉……

 そんな事は主人に言える訳も無く……私も気が抜けてしまって……それでも妊活を止める事はできず、ただ“行為”を繰り返している。



 パーソナリティが語る、『今日のおすすめのデートスポット』はかつて自分が会社帰りによく行っていた“キリコテラス”だった。

 もちろん夫とも行ったけれど、同僚や前カレとも……


 一瞬、頭の中を……それらの断片がコラージュとなって埋め尽くす。


 いけない!

 憧憬を感じては!!


 私はため息をついて……手に持ったカップをコトリ!と置いた。


 それは湯気立つカプチーノだった筈なのに……

 グラスの中の氷がカラン!と鳴く様に、私の心を揺り動かした。


 ああ、きっとその時に

 私は蛹の口を割り、“外の世界”へ触角を伸ばしたのだろう

 こうなってしまっては!

 縮こまっているこの羽を

 美しく広げてみたい!!


 あの金曜日の空間に

 今一度

 身を置きたい!!


 喧騒の中で

 誰かの温かい手と

 触れ合いたい!


 そう!

 指と一緒に

 情も絡めて

 触れ合いたい!!


 手のひら

 指

 くちびる


 ……


 そして……


 そして……



 私はいくつかの記憶を辿って……


 ()()()マッチングアプリをインストールした。


 目に留まった幾多のプロフィールの中から

 夫と同じ血液型の()達を選んだ時から


 私の新しい“妊活”は始まったのだった。



                     おしまい





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