表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/20

7・誰のおかげで合格したと思っているんだ(暗黒微笑)

 出かけて良いと許可が出たので、芙綺(ふうき)はすぐ雅にメッセージを送った。


 分厚い生地のフードパーカーにゆったりとしたパンツ、クロックスをひっかけて出て来たけど問題ないだろう。

 両親は芙綺がラフな格好をするのを嫌がっていたが、せめて寮では自由に好きな服を着たい。

 制服も可愛いが、こうして自由に動き回れるのが一番だ。

 足取りも軽く、数歩歩くと、本当にすぐ傍の家の前から雅が手を振っていた。


「こっち、こっち!ここ、ウチだから!」

「うん!」


 勢い駆け出し、芙綺は雅の家へお邪魔する事になった。



 雅の自宅は古い作りだったが、改築がされているようで、和風モダンな雰囲気だった。


「お邪魔、します」

「はーい、どうぞお気楽にー」


 そういう雅の後をついていくと、ダイニングに通される。


「おかーさーん、美少女が来たよー」

「はーい、どうぞ美少女ちゃん」


 美少女って、と芙綺が苦笑すると、ダイニングに雅の母親が待っていた。


「はじめまして、雅の母です。今日は入学、おめでとう」

「あ、ありがとうございます……」


 入学おめでとう、と言われて芙綺は照れる。


「ウィステリアは私の母校なの~だから美少女ちゃんも、私の後輩ね」

「そう、みたいですね」

「そうなのよ。後輩が増えて嬉しいわ」


 にこにこと笑う雅の母は、雅によく似ている。

 優しそうな、でもしっかりしていそうな雰囲気の人だ。


「ねえねえ、折角だから座って!お話しましょ!雅の入学祝のケーキもあるのよ、一緒に食べましょ!」


 テーブルの上には確かに大きなケーキがどーんと用意されていて、しかも『雅ちゃん、ウィステリア合格おめでとう』とプレートが乗っかっている。


「だ、駄目です!ご家族で頂かないと、そんなの」


 慌てる芙綺に、雅がなぜか虚無(きょむ)の表情で首を横に振った。


「ええんよ。だってこれ、ワイの入学祝と言いながらもう三個目のケーキなんや」

「―――――え?」


「そうなのよ。もう、パパもお兄ちゃんも(すみれ)ちゃんも買ってくるものだからね、処理に困ってて」

「えぇええ……」


 なんだかとんでもないな、と思いながら芙綺は用意された椅子に腰を下ろした。



 つまり、雅の高校入学は、この家にとってとんでもない『良き事』だったらしい。


「だって、絶対にクラスは(つた)だと思ったのに、その上に入れたでしょ?もう家族みんなお祭りみたいなものよぉ」


 (つた)とはウィステリアのクラスの事で、最下層と言えば聞こえは悪いがつまり、成績の悪い生徒が所属するクラスである。

 誰でも入れると言われるだけあって、授業のカリキュラムもあまりレベルが高くない。


 所が、その代わりに実践で役立つことを代わりに教える。

 (つた)クラスに所属するのなら、殆ど大学進学は望めない。


「おかーさん!美少女の前で言わないでよ!」

「あらー、あなただってこの前まで、もう蔦でいいってぐずってたのに」

「そうなの?雅」


「……割とそう。冬休みまでそんな感じでサボってた」

「よく間に合ったね」

「……間に合わせたというか」


 スパルタ従兄(いとこ)雪充(ゆきみつ)のせいで、とんでもなく馬鹿にされまくって必死こいて勉強した。

 そのおかげで確かにレベルは願った所より上だった。

 それは良いのだが、これまでにぶつけられた数々のマウントがよみがえってムカつく。


『まあそのくらいはできなくちゃね。僕の出来も疑われるし』


『他に色気出さなかったのは偉いね。あ、それでもうオーバーするくらいだったのかな?簡単だと思ったけど』


『そもそもこの時期からどうにかしようっていうのも甘いよね』


 あーあーあーあーあーあー聞こえなーい、聞きたくなーい。

 くっそ、あいつめくっそ。


(推しはなんであんなんが良いんだ?絶対あいつ、推しの前で猫かぶってんだろ!!!!)


 芙綺さえいなければ机をどんと叩く所だ。


 しかし、結果は確かに良かったのでそこもまた余計に悔しい。


(でもどうせもう近くにいないもんねーだ)


 従兄(いとこ)雪充(ゆきみつ)はこの春から大学生で、京都へ行った。

 おかげでちょっと心穏やかだ。

 確かにあいつのおかげで成績は上がったけども!


「でね、あんまりみんな嬉しいからって、ケーキ買ってきちゃって」

「そーなの。おとーさんとおかーさんとおにーちゃん。んで、従姉の、さっき写真見せた菫おねーちゃんまで買ってくれた」

「すご。愛されてるね」

「みんなワイにかこつけてホールケーキ食いたいだけや」

「それはそうだけど、ちゃんとおめでとうって意思もあるわよ?」


 ということは、合計で4個のケーキがあって、そのうちの三個目がこれということなのか。


「だったら、遠慮なくいただきます」

「遠慮なく食べてね?何なら半分行く?」

「無理です」


 即答した芙綺に雅の母は、「おかわりしてね?」と微笑んだ。



 無理です(芙綺、心の声)

雪充ゆきみつは『城下町ボーイズライフ』に出てくる雪ちゃん先輩です

雅ちゃんとは親戚(いとこ同士)です

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ