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3・美少女は、チャンスのドアを蹴っ飛ばす

 本来なら、地元の周防市の進学校に合格できる実力はあった。

 誰もが芙綺はその学校に行くものだと思っていたし、実際、芙綺も逃れられないと思っていた。


 でも、その考えを吹き飛ばしたのが、憧れの先輩だ。

 芙綺に新しい道と場所、そして逃げ方を教えてくれた。

 心から心配して、必死に助けてくれた。


 あの人は芙綺の恩人だ。

 だから入学式に親が来ない位、なんでもない。


「でもいいの。ちょっとはそりゃ、一人は不安だけど。でも、やりたい事の為に、ここに来たんだから!」


 強がりでも芙綺がそう言うと、雅は拍手し、言った。


「チャンスのドアはノックするんじゃない。蹴っ飛ばして笑顔で自己紹介するのさ」


 突然そんな事を言う雅に芙綺は目を丸くした。


「美少女は蹴っ飛ばしたんだな。かっけーじゃん」


 そういってにっと笑う雅の表情に、目を奪われる。


(そっか。あたし)


 戦ったんだ、と改めて気づく。

 負けそうになりそうな中。

 冬の寒い毒の沼から、芙綺を引っ張り上げてくれた。

 その先輩が戦い方を教えてくれて、この学校を知って、いまこうしてウィステリアの生徒として、三年間、ここで過ごす事が出来る。


(そうよ。あたしは戦ったじゃないの)


 親とも地元とも戦って、決して快勝とは言えなかったけれど、三年間の自由を手に入れた。


(落ち込む必要なんかないんだ。全然なかった)


 周りが幸福そうに見えるから、一瞬気持ちを奪われそうになった。


「なんかありがとう。元気出た」

「さすがロック様の名言は効果絶大だ」

「えー……誰それ」

「ドウェイン・ジョンソン」

「知らんし」


 なんだよ、と思わず笑ってしまった。


(雅とは、仲良くなれそう)


 芙綺はそう思って、実際、その通りになるのだった。




 入学式が行われたのはウィステリア女学院の講堂だ。

 英国風のモチーフが使われているお洒落な建物で、そこに入るだけでわくわくする。

 皆、同じ気持ちらしく、制服を着た同級生らはそわそわしながらお洒落な講堂の中を見渡していた。

 二人は受付を済ませ、案内の通りに進むのだが、ずっと同じ方向だ。

 互いの席を見つけ、再び驚く。


「あれ、ひょっとしてクラス同じ?」

 驚く雅に芙綺も「そうみたい」と驚く。


 座ろうとした席が同じクラスの、しかも前後。

 並びは名字の五十音順なので『木戸』である雅の後ろが『小早川』芙綺だったのだ。


「すっげえ偶然」

「本当にね、なんか運命って感じ」


 芙綺が言うと、雅が「マジでそう」と言って、二人はふふっと笑った。


 入学式が厳かに始まり、学院長の挨拶で現れたのは、頭巾をかぶっている、年の頃は四十くらいに見える女性の僧侶だった。

 学院長と名乗った道重(みちしげ)舎利子(とりこ)は、低いが通る美しい声で生徒に語りかけた。


「わがウィステリアには、さんりつ、というテーマがあります。自分で立ち上がる『自立』、自らを律する『自律』、そして自ら率先する『自率』。皆さんはこの三つの『じりつ』を、この三年間で学び、実行できるようになってください」


 入学おめでとう、と学院長が微笑むと、鋭い目線が穏やかになり、生徒らはほっとした。


「いやあ、ウチの学院長、美人だけど怖そうだなあ」


 雅が言うと芙綺は「そうでもない」と返した。


「知ってるの?」

「知ってるも何も、寮って学院長の家だもん」

「そうなんだ!知らなかった。つかでけえ家だな」

「うん。家って言うか、学院長が寮に住んでて、部屋があるって感じみたい」


 雅の自宅の近くなので、ウィステリアの寮は昔から知っている。

 小さな海岸の近くにある神社の傍にそびえたつ立派な建物だ。


「確かに厳しい所もあるかもだけど、すごいいい人。あたしが親と揉めてた時も、ウィステリアに入って後悔はさせませんって頭を下げてくれたの」


 本来なら、ウィステリアではなく周防市の学校に入れたかった芙綺の両親は、芙綺の入試の結果に、言葉通り『切れた』。


 進学校に余裕で合格するはずの芙綺が、どの学校もことごとく入試に落ち、唯一合格したのがこの『ウィステリア女学院』だけ。

 わざと試験に落ちたことに気づいても、もう結果は出ている。

 高校浪人するか、それとも唯一合格したウィステリア女学院に通うのか。


 入学後、すぐ別の学校へ編入できるかどうかを探る芙綺の両親に、学院長はわざわざ出向いて芙綺の両親を説得した。

 結果、渋々ではあったけれど、学院長の自宅である寮で過ごすのなら、と入学を許可した。


「学院長のおかげであたしはこの学校に来れたんだもの。感謝してる」


 そう微笑む芙綺に雅はぽつりと「美少女の微笑」と言って一人でウケていた。

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