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2・サブカルモブ女子、美少女と出逢う

 え、と芙綺と女性が声のした方を見ると、こちらもまた制服姿の女の子が現れた。


「んちゃ!」


 そう言って右手をあげる。


 まっすぐボブカットの髪は真っ黒、黒縁の大きな眼鏡、制服を着ているがまさに『着ている』だけのこなれていない感がする。


 教師らしい女性が戸惑って尋ねた。


「あ、あの?どなた?」


 眼鏡の女の子はずいっと前に出て、自らを親指で指し言った。


「説明しよう!この私、見るからにキングオブモブ、モブの中のモブ、ジャンルはかろうじてサブカル女子たるこの私こそが!ウィステリア、ひいては長州市歴代最強美人と名高い、かつらすみれの従妹、木戸きどみやび本人だからであります!!!」


 どーんと胸を張ってそう言った眼鏡女子に、教師らしい女性はあっけにとられた。

 芙綺もだ。


 眼鏡女子はふん、と腕を組み言った。


「名は体を表さず、ご想像以上にモブで申し訳ありませんな」


 すると教師らしい女性は、はっと気づいたようで「あ、あ、そう、なの、あら、ごめんなさい、ね」おほほ、と言いながらその場を去った。


 取り残された芙綺は、眼鏡の女の子をじっと見て言った。


「えと、ありがとう?かな?」

「いいのいいの、気にしないで……って、うわすげえ美少女だなオイ」


 いま気づいたのか、まるでおっさんのように驚く眼鏡女子に、芙綺はあっけにとられたが、「どうも」と返した。

 自分で自覚がある程度に、小早川芙綺は美少女だ。


「黒髪ロングストレート、二重のおめめぱっちり、まつげばっさばさ、スタイル良し!肌白し!鼻筋通って唇もすっきり!いやー、確かにその美少女っぷりでは勘違いもされるわ。凄いね。職業はアイドル?」


 職業は今日から女子高生の芙綺は首を横に振った。


「いや、サッカー選手目指してた」

「まじでか。初期属性の選択間違ってんね」

「私もそう思う。顔とっかえたい」

「勿体ない。アイドル顔でサッカー選手でええやんけ」

「サッカー続けられたらね」

「続けたらええやん。でもうち、サッカー部あったっけ?」

「ないわよ」

「そっかー」


 さくさくと話が続き、芙綺はあれ、と思った。

 サッカー選手を諦めてしまった事を、こうもあっさり初対面の人に話すなんて考えられないのに。


(入学式だからって浮かれてんのかな)


 考える芙綺に、眼鏡女子が手を伸ばした。


「さっきはスマンかった。あれ、ほとんどうちらのせいや」


 頷き、手を取り、互いに握手した。


「ワイは木戸(きど)(みやび)いうもんや。家はこの近所や」

「あたしは芙綺(ふうき)小早川(こばやかわ)芙綺(ふうき)。家は……周防(すおう)()のほう」


周防(すおう)()?えらい遠い所から。ひょっとして寮生(りょうせい)?」

「うん勿論」

「まじで。うちの家から寮って目の前や」

「そうなの?新入生だよね」


 二人は顔を見合わせると頷いた。


「帰り一緒にかえろ!」

「いいね!」


 途端に意気投合するのだった。



 二人は入学式の会場である学校のホールへ向かいながら並んで歩いた。


「へー、じゃあ従妹がここのOGなんだ」

「そう。メチャ美人でさあ。そりゃもう、同世代で知らない人いないんじゃないってくらい」

「女優くらい?」

「写真見る?」

「見たい!」


 雅のスマホを覗き込むと、確かに物凄い美人が写っていた。


 白い肌に、大きな目立つ瞳、滑らかにうねる黒髪、良く似合っているお洒落なまるでモデルが着そうな派手な服。


「うん、美人だね。確かに女優だわ。お仕事はやっぱり芸能とか?」

「ううん、そういうの(すみれ)おねーちゃん大っ嫌いなんよ。ふつうに企業に勤めてる」

「モテてるでしょ」

「凄まじいらしいな。でも苦労も多いっぽい。美少女もそうなんだろ?大変そうだよな」

「……まあね」


 確かに、この顔で苦労する事は多かった。

 特にこの正月なんか、もう負けてしまいそうなくらいにぼろぼろで情けない目にあって。


(でも、(いく)先輩のおかげでここに来れた)


 思い出すだけで気持ちが強くなる。

 そして多分、もうすぐ会える。

 あの人のいるこの街にようやっと来れた。

 あとは絶対に驚かせてやるんだから。


「ま、心配しなくてもここは女子校だから、美少女も安心して過ごせるんじゃない?」

「それがちょっと、かなり嬉しい。制服可愛いし」

「美少女にはよく似合ってる。ワイには拷問(ごうもん)や」

「えー、そのうちこなれるよ」

「そうなりゃエエけどな。ま、諦めとるわ」


 ホールへ向かううち、ぞろぞろと新入生が集まり出す。


「そういや親は?」

「雅ちゃんとこは?」

「呼び捨てていいでござる。ちゃん付けは気恥ずかしいのでな」


 成程、と芙綺は頷いた。


「じゃあ、雅んとこは?」

「近すぎてギリギリに抜け道通ってくるでござる。うちは母上もこの学校なんで抜け道を熟知してるでござる」

「ひょっとして、さっき突然現れたのって」


 こんな学校の敷地内でも外れに近いのに、なぜいきなり現れたのかと思っていると雅が言った。


「抜け道があるのでござる。無論、地元民しか知らぬ」


 なるほど、それで雅がいきなり思いがけない場所から現れたのかと芙綺は納得した。


「ところで美少女の親は?」

「……あたしは親の反対押し切ってここに来ちゃったから。親は多分、まだ怒っていると思う」


 だから来ない、と芙綺は苦笑した。

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