18・女子が集まればそこが井戸端なのだ
演劇部の部室はかなり広く、教室の倍はゆうにあった。
メイクが出来るコーナーがあり、まるでデパートのコスメ売り場みたいにテーブルと豪華な椅子がおいてある。
長い鏡の前では他の先輩達がメイク直しをしていた。
「美少女、案外爪短いんだね。伸ばしたらいいのに」
芙綺の爪にネイルをしながら寿が言う。
「サッカーしてたから」
「なんで?関係あるの?」
「相手のユニ引っ張る時傷つけちゃうし」
「あはは。引っ張るの前提なんだ」
「そりゃね、勝負だし」
「厳しいなー」
言いながら寿は丁寧にネイルを塗っていく。
得意と言うだけあって、ムラもなく奇麗に仕上がっている。
「本当に上手だね」
「得意って言ったじゃん?器用なんだ」
「うん。本当に」
芙綺の爪を切って整え、やすりで磨いてから薄いラベンダーのネイルを塗ると一気に可愛くなった。
「ホラ、シンプルなのがいいって言ってたけどこんくらいならいいでしょ」
左手の人差し指の先に小さな花が乗っかっている。
「一応藤の花をイメージした!まだ咲かないけどね」
「ウィステリアの女子ならまあ藤だよね」
「可愛い!わたしもそれがいいなー」
じっと芙綺は自分の指先を見つめた。
「本当に可愛い。ありがとう」
「いいって事よ」
得意げにふふんと胸を張る寿に、蘭子が尋ねた。
「やっぱりなんか意味あったりすんの?」
「意味?」
芙綺が尋ねると蘭子が「そう」と頷く。
「この子、そういうの詳しいからさ。意味あるかと思って」
すると寿は「とーぜん!」とふんぞり返る。
「指輪だけどね、どの指にはめるかって全部意味が変わってくるんだよ!わたしもネイルするときは、それイメージしてるの」
「意味って、結婚指輪は薬指とか?」
「そう」
「じゃあ、あたしのはどういう意味?」
芙綺が尋ねた。
「人差し指は願いをかなえる指で、左は積極的に自分からチャレンジするって意味があるらしーよ」
「そうなんだ」
なんだか自分に似合っている気がする、と爪先を見ると寿がにこっと笑った。
「美少女にぴったりやん?」
「確かに」
「やっぱり!そんなイメージあったから。全部できたよ!」
そうして全ての手を広げると、薄い藤色がぼんやりとついていた。
「これって怒られないかな?」
自分が元居た中学の頃を思い出すと、皆「大丈夫だよ?」と頷いた。
本当かなあ、と思う芙綺に先輩達が答えてくれた。
「ウィステリアって、よっぽど派手過ぎじゃない限りは普通にメイクもネイルもOKなんだよ」
「学校内ならね」
「校外は駄目なんですか?」
すると先輩達は顔を見合わせて「うーん」と苦笑した。
「そのあたりのさじ加減は難しいんだけどさ」
「校外に制服で出る時は、ちゃんとしたメイクしろって指導がある」
「ちゃんとしたメイク……って?」
首を傾げる芙綺に、先輩達は「だよねー、わかんないよね」と苦笑した。
「つまりね、うちって制服が売りでしょ?」
「はい」
「制服のイメージ壊すとアウトなんだわ」
「アウト」
「実はうちって、入試で儲けてるんだよね」
「入試で儲け」
いきなりきな臭い話になったぞ、と芙綺は目を丸くした。
「だってさ、制服可愛いじゃん」
確かに可愛い。
好みはあるとはいえ、制服目当てで入学したのが殆どじゃないだろうか、と言うくらいには。
「校則も基本ゆるいし、ウィステリア出身の人って、娘が生まれたらウィステリアに入れたがるんだって」
「ウチもそうでござる」
「うちもだよー。ママが絶対、ウィステリアって生まれた時から言ってたってくらい」
「うちも。パパの引っ越しに付き合ったら私がウィステリアに行けなくなるからってパパ単身赴任」
「まじで」
はあ、と芙綺は驚いた。
ウィステリアに入った人は、そんなにもこの学校に入れ込むのか。
「でも制服可愛いし、校則ゆるいのはいいよね」
ねー、と皆が頷く。
「あとさ、学食行った?」
先輩の問いに、芙綺と雅は首を横に振った。
学校案内などのレクリエーションは今週分けて行われるので、校内全部を把握していないのだ。
「うちの学食ね、OGは利用OKなの。だからいろんな先輩が、いろんな情報とか持ってきてくれるよ」
「そう。うちにあるコスメも、実はOGのおさがりだったり、コスメの仕事の先輩がわけてくれたやつもあるの」
それでこんなにコスメが充実してるのか、と芙綺は納得した。
「勉強してちゃんとそこそこルールとマナーとモラルを守っとけばうちの学校は楽しいよ。希望も割と通るし」
「その勉強がネックだよねー」
あはは、と笑う先輩や同級生らに、芙綺はなんかこの雰囲気いいな、と思ったのだった。
寿のネイルは好評で、先輩達が次々に「私も!」「私も!」とぞろぞろやって来た。
自分たちの爪は奇麗にしてもらって、することもない芙綺と雅は窓際のテーブルで、先輩にお茶を貰っていた。
藤の模様が描かれた、奇麗なティーカップのセットに琥珀色のお茶が注がれていた。
「なんかすみません。お邪魔しているだけなのに」
先輩はにこやかに笑った。
「いーっていーって。折角の一年生じゃないの!しかもこんな美少女がうちに入部してくれたら」
「しません」
「即答かよ」
「すみません」
「まーそうだろうね。そこまで美少女で演劇に興味あったら、とっくに芸能界行ってるよね」
芙綺のきっぱりとした断りにも気を悪くする様子を見せない。
さっぱりした人が多いんだな、と思った。
その時だった。
「ごっぶぅううう、ねえ、妹がこっち来てるって聞いたんだけどぉ」
17・ご無礼します(ウィステリア編)
の評価ありがとうございます❤




