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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
第4章.13歳
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99.眠くなってしまう理由

 今日も酒場の手伝いをし、夜も更けようとする時間にパドマはダンジョンにやってきた。だが、ダンジョンセンター前には、真珠部隊の男たちーーハワード、ヘクター、ギデオン、ルイ、他1名が立っていた。

「姐さん、やっほー。復帰したなら、たまには一緒に行こうぜ。俺たちゃ、何階層でも構わねぇしー」

 ハワードが、にこやかに手を振ってきたが、パドマは、気乗りがしない。単純に、連れの相手をするのが、面倒臭い。

「構えよ。仕事だろ」

「冬場の食料難の時期なら、何の肉でも売れっから、問題ないない」

 拾ってくるのが真珠だけだと、仕事が少なすぎるので、パドマがケガで休養に入った時点で、唄う黄熊亭に各種肉を卸す仕事を譲った。その後、兄の弁当屋の仕入れも任せて、兄の仕事を減らした。商家のイモリの仕入れもやっているらしい。因みに、ジュールを切った後の弁当販売係も、綺羅星ペンギンに委託をしている。あんまり厳つい男は使うな、という指示付きで。

 ハワードには、以前、真珠拾いを誘われたが、門限の関係で断ったことがあった。肉拾いなら、パドマも物によっては付き合える。ボスに従えられて歩くのが、綺羅星ペンギン従業員の他へのマウントの取り方らしいので、真面目に働いているのであれば、パドマもたまには応えるべきだろう。パドマが、お荷物にならないのであれば。

「元々あんまり強くなかったところを、今はリハビリ中だから、足手まといにしかならないけど、いいの? ぶっちゃけ、あんまり金になる相手を斬ってないんだけど」

 パドマは、皆のスネをかじらせてもらえれば、稼ぎがなくても不満なく暮らせる。しばらくは、稼ぎに行くというよりは、以前の勘を取り戻すのに注力しようと思っていた。以前も、いろいろとギリギリだったのだ。鍛え直ししなければ、使い物になる気がしない。

「姐さんが弱いとか言われちゃ、俺たちの立場がないな! 例えば、何を狩りたいのさ」

「昨日は、トリバガと大トカゲを斬り捨ててきて、収入ゼロ」

「俺たちが、素材を取ります」

 ヘタレヘクターが、手を挙げてくれた。解体ができない子だと思われていそうで、パドマは嫌な気持ちになった。だが、何故解体をしなかったかと言えば、そろそろ帰るか、と思う前に寝落ちしたからだろう。それは、公開しなくていい情報だ。

「そうだねー。取って売れば、お金になったよねー」

 我ながら阿呆すぎる回答だと思い、パドマはふふふと笑った。

「姐さん、相変わらず、大味に生きてんな」

「だって、稼がなくても、ごはんを食べさせてくれる人が、いっぱいいるんだよ。お前らを食わせたりしなくて良けりゃ、お金なんてお菓子買うくらいしか、使い道ないし。

 まぁいいや。戦力になるかは置いといて、ついていくよ。ただの見学になるかもしれないけど、怒らないでね」

 ごはんを食べるよりも、お菓子を食べる方が、一般的に金がかかるのだが、パドマはまったくわかっていない。ボスの世間知らずに気付いてしまい、部下たちは、口ごもった。部下全員分の飯代よりは、ボス1人分の菓子代の方が安いという話なのかもしれないし、ボスはまだ子どもなのだから、知らなくて当然なのかもしれない。震えて泣いているよりは、ご機嫌で笑っている方が可愛いから、放っておこう、と全員が考えた。



 いつかのサシバをソロで倒そうチャレンジの時のように、男たちの暑苦しい活躍を眺めつつ、パドマはVIP待遇で後ろを歩くだけで進んで行った。

 まずは、おやつタイムだ。フタアシトカゲを持って来てもらったので、20階層で解体し、火蜥蜴で炙って調理する。パドマは、解体だってできますよ、とやって見せたのだが、男たちが食いついたのは、師匠が出した液体調味料だった。ボスと一緒にお出かけしたいなどとおねだりしてみたところで、気になるのは、美少女のお料理教室の方なのだろう。嬉しそうに食べていたので、実は中身はおっさんだ、というのは、内緒にしておいてあげた。


 36階層のサシバ階に着いた時は、パドマも剣を抜き、露払い係に乱入しようと試みたのだが、師匠に止められた。師匠が笑みを消して、手を広げて通せんぼをしている。パドマは、横をすり抜けようと頑張ったが、無理だった。

「1羽だけ! お願い!」

 おねだりしたら、師匠の顔が、氷点下に冷えた。内心は泣いて逃げ出したいところだが、パドマは、ボスだから頑張っていた。男たちは、少女2人が何をしているのか、まったくわからないので、温かく見守っていただけだったが。

 師匠は、背中を見せて、おぶされと主張し、パドマは、触るのが怖いから嫌だと言う攻防戦にうつった。したくないから嫌なんじゃなくて、怖いから無理なのだ。パドマは、受け入れることができないだけなのに、師匠はぶちキレて、自分の髪を豪快に切り捨てた。可愛い師匠のふわふわの髪が左三分の一くらいなくなってしまった。このままパドマが自己主張を続けたら、可愛い師匠が可愛くなくなってしまうかもしれない。パドマは、ショックを受けた。

「何やってんの、やめてよ!」

 パドマが止めようと、師匠の腕をつかんだら、師匠は、また一房切った。

「ごめんなさい。背中乗るから、もう辞めて!」

 近頃の師匠は、割と言うことを聞いてくれたから忘れていたが、元は、自分の意見を通すためなら、何でもする人だったと思い出した。パドマは、諸々諦めて、師匠の肩に手をかけておぶさった。そして、そのまま39階層まで連れて行かれた。

 


 本日最初の狩場は、39階層のムササビである。特に注文はないのにも関わらず、パドマの失言により、来るハメになった。師匠に、ムササビの肉はお店で買えるか、聞いたのだ。戦っていて、誰も聞いてないと思っていたのに、聞かれていたらしい。欲しいなら、狩りに行きましょう、と気軽に言われてしまったのだ。久しぶりにムササビシチューが食べたいな、と思っただけだった。1匹欲しいだけで39階層まで来るなんて、非効率なのに来てしまった。そして、1匹でいいのに、それぞれが1匹仕留めて献上してきたので、5匹になった。ダンジョンのムササビはバカでかいから、そんなにいらない。沢山あると、むしろ困る。いらない、という顔をしていたのだが、こんなに持てる訳ないじゃん、と困っているように見えたのだろう。持って帰ってから渡そう、と気を遣ってもらえたのは、有難いのか、紙一重だった。持ち帰れないから、1匹でいいという道を塞がれた。

「こんなに食べきれないから、食べるの手伝ってね。明日? 今日? 唄う黄熊亭に来て。友だち誘って大勢で来たら、怒るよ。あと、今ほぼ無職だから、奢ってもあげない」

 パドマは、肉の処分方法を考えるのが、精一杯だった。



「あれ?」

 理解不能な不思議現象が起きていた。パドマは自室のベッドで寝ていて、ヴァーノンに睨まれている。同じ1日をループしている?!

「お兄ちゃん、おはよ?」

「お前な、どうにもこうにも、約束を守れないらしいな。もう1人で家から出るな、と言ってもいいか?」

「やだ。それについては、もう謎は解けたから! 次は断るから!!」

 パドマは、泣きながら必死に、ヴァーノンにすがりついた。

「謎?」

「ちょっと強い敵がいる階層に行くとね、師匠さんが、戦うのを許してくれないの。沢山は無理でも、久しぶりだし、1匹くらい殺ってみたいじゃん? だから、隙を見て行こうとしたんだけど、ダメって怒るの。背中に乗れって、歩くのも許してくれないの。それでね、渋々乗ったら、あったかいし、暇だし、ゆらゆら揺れてるから、気がつくと、こうなるの」

「お前は、赤ちゃんか、、、」

 ヴァーノンの怒り顔は、途端に崩れて、呆れ顔に変わった。ベッドに腰掛けて、パドマの頭を撫でてくる。とてもバカにされているようだ。パドマは、腹を立てたが、バカなことを言った自覚もあるのが、厄介だった。

「違うよ。おやつを食べて満腹で、ダンジョンはあったかいし、師匠さんもあったかいし、、、お兄ちゃんも、一回やってもらえばいい。絶対、寝ちゃうから!」

「以前ならともかく、今は俺の方が少しだが大きい。無理だろう。のんきに寝てられる安心感など、得られると思うか?」

「安心感なんて、ないよ。睨まれて、泣く泣くおぶさったのに。でも、慣れちゃったのかな? 抱っこよりは、マシだし」

「怖くて、気絶してるんじゃないよな? 耐えられないなら、次は断れよ。余計な男たちが喜んでたからな。貢ぎ物は解体しておいたが、あれはどうするんだ?」

 すっかり寝ていたのに、ムササビは届けられたようだ。話通りなら、5匹だ。いつまでも置いておけるものじゃないし、早急に始末しないといけない。寝てたから、まったくプランも考えてないが。

「食べたい物ある?」

「鍋だな」

「鍋?」

「作るなら、薄切りとツミレは作ってやろう。〆の雑炊には、チーズを入れても美味しいな?」

 ヴァーノンが、パドマの大好きな顔になった。

「よし、今日は、鍋だ。鍋に決まりだ」

 パドマは、途端に上機嫌になって、ベッドから降りると、厨房へ向かった。



「よぉし、来たな。席は取って置いたぞ。向こうの端の席に座ればいい。酒を飲めないヤツは、いるか? いないな。よし、ハワードちゃんだけ、こっちに来い」

 パドマは、開店して一息ついた頃、真珠部隊が顔を出したのを見つけると、店員面を忘れて、指示を出した。相席で酒を飲んでいたおじさんたちが、剣呑な目を新参者に向けているのに、気付きもしないで。

「俺は、何すりゃいいの?」

「お前、ボスにジョッキを5つも持たせるつもりか? いいご身分だな。グラントさんは、自分で運んでくれるよ」

「ああ、なるほど」

 今日のボスは無駄に偉そうにしているが、重くて持てないのを誤魔化しているのか、とハワードは納得した。

 初対面の新星様は、闇夜の魔法か、恐ろしい魔人にしか見えなかったが、その次に見かけた新星様は、普通のとは言ってあげられない、可愛らしい少女だった。少女の枠に収めるにはどうかと思われるトリッキーな動きはしていたが、まぁ人間かな、とは思った。その後も、会う度に新星様のイメージをガラガラと壊すような言動を繰り返されて、初めて出会った時の神聖な崇拝に近い存在は、消えてなくなってしまった。昨夜の寝顔は、ダメ押しだった。年下の少女というより、無垢な幼女のような顔をしていた。そんな子どもに助けてもらうなんて、情けないにもほどがある。

 聞けば、パドマの家庭環境も大概だった。ハワードも似たような境遇を言い訳にして今に到るのだが、パドマの姿を見れば、反省しかなかった。

「よし、今日の泡も最高だな。持っていって良し。飲んだら、料理を運ぶのも手伝ってね」

「うぃーっす」

 ハワードは、ジョッキを5つ仲間のところへ運んで行って、一口で半分ほど飲み干すと、またパドマの元へ戻った。

「お前も、ゆっくり休め」

「代わろう」

「お前は、隊長だ。下っ端仕事は下に任せろ」

 油断をしなくても、ハワードの位置を狙っている輩は、ゴロゴロいる。取られてたまるか! という気持ちもなくはないが、パドマは、普通に接しようと頑張っているだけで、自分たちを恐れているのは、誰の目にも明らかだった。ヘクターくらいならまだしも、ここでギデオンを派遣したら、パドマにマジギレされる自信がある。

「うっせぇ。姐さんのご指名に不満のあるヤツぁ、姐さんに勝負を挑め。万一勝っても、絶対お前らの下には誰も行かねぇよ」

 そう言って、さっさと逃げた。


 パドマは、カウンター裏手の厨房で、鍋から料理をよそって皿に盛っていた。

「食い合わせがおかしい気がするんだけど、気にしないで、運んでくれる? いっぱいあるから」

 クリーム煮込みに、トマト煮込みにと、次々に皿が増えていく。

「まさか、姐さんの手作り?」

 街で暴れる姿や、ダンジョンで暴れる姿ばかり噂になっているが、パドマは、年齢と性別だけなら料理の方が似合う。イメージ違いも甚だしいが、刺繍が得意だったり、綺羅星ペンギンの土産屋を覗くだけで、パドマの多芸さは想像がついた。ペンギン食堂のメニューは、料理ができない人間でも作れる物を考えた、とは言っていたが、パドマが料理ができないとは聞いていない。むしろできなかったら、料理など考えないだろう。今更ながら、それに気付いた。小さな少女に、腕っぷし以外でも勝てるジャンルが思いつかず、ハワードはくらりとした。

「そのつもりでいたんだけど、寝坊したし、ほぼお兄ちゃんが作ってくれた。だから、美味しいという感想以外は、受け付けない」

「その年で、まだブラコンを拗らせてんのか。どんだけ隠し玉持ってんだよ。、、、あのさ、姐さん、孤児院やってくんねぇ? 名前貸しだけでもいいからさ」

「孤児院? 孤児院を作るほど、この街に孤児がいるの?」

 パドマは、急な話についていけず、きょとんとしている。本人が捨て子なだけに、嫌悪感はなさそうだが、実感もないようだ。

「そんなにいっぱいはいねぇよ。すぐに死んじまうからな。だけど、どこの街でも、多少はいるだろう?」

「そっか。そうだね。あればいいとは思うけど、ウチがやるのは、嫌だなぁ」

 先程までは、何も思っていなそうだったのに、途端に渋面になった。そもそも子どもに頼むことでもない。断られても仕方がない。ハワードも、喰らいついてまで押し通す情熱もなかった。

「そっか」

「新星様の孤児院に入れてやる! って、捨て子が増えたら、申し訳ないよね」

「おぅふ。それは、考えてなかった。すげぇ、ありそうで怖い」

 パドマが渋面になった理由が、ハワードの想像と違った。常々、変な噂と評価がついて回って、嫌そうにしている少女の、嫌がっている理由が少し垣間見れた気がした。なんでもできる英雄は、幻想だった。それなのに、パドマは自分たちを見捨てない。

「やりたいなら、付き合ってあげてもいい。だから、思い付きだけじゃなくて、そういうのも含めて、もう少し煮詰めてきてね。小娘には荷が重過ぎるから、商家の偉い人を焚きつけてきても、許そう」

「承知」

 何故だか知らないが、パドマはハワードを恐れない。ならば、壁役は任されようと思った。

次回、タランチュラ攻略。タランテラは活躍するか。

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