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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
第3章.12歳

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91.寝たきり生活は、つまらない

 パドマは、ダンジョンから戻り次第、唄う黄熊亭のベッドに放り込まれた。帰り道で、右腕が段々と熱を持ち、腫れ出したからだ。

 師匠は、その場でパドマの服の袖を引きちぎり、腕をむき出しにすると、固い布で前後を挟み、包帯を巻いて固定した。更に、大きな風呂敷を出して、腕を包んで首の後ろで縛る。そこまでした後で、右腕と胴体をまとめて、ぐるぐる巻きにして縛られた。

「ちょっと動けないじゃん!」

 と苦情を言っても、誰も解いてくれなかった。

「その治療なら、骨が折れてるんじゃない? 師匠は医者じゃないから見立てはできないけど、折った感触はあったのかもしれないよね」

 と、イレが言ったからだと思われる。

 パドマは、すぐに骨折の応急処置セットが出てきたところに不信感を抱いたが、誰も何も思っていないようだった。たまたま持っていたと言うには、少しおかしな物が含まれていたのに。いつか、もしかしたらやっちゃうかもなー、という懸念を持ちつつ、パドマを蹴飛ばし続けていたに違いない。

 最悪なことは、20日はこのままの格好で布団から出るな、と言われたことだ。その上、新年を迎えるまでは、ダンジョンは禁止だと言われた。痛くなくなっても、骨はまだ本調子とは言えないそうだ。折れやすいと言われてしまえば、甘いヴァーノンでも落とすことはできない。

 責任を取って、看護は師匠がするし、生活費の補填もすると言われても、まったく嬉しくなかった。だが、腕をさするイレに

「黙って寝ててくれないと、古傷が痛む」

と言われると、文句も言えなくなった。謝れば、怒ってないと言うのに、ベッドから起きたらダメだと言う。許してもらえた気がしない。看護という名の監視をつけられては、逃げ出すことも許されない。師匠はトイレにも行かないし、食事はママさんが持って来てくれる。微塵も逃げ出す隙が見当たらなかった。


 ここ最近のパドマは、何かというとケガばかりしているような気がするが、まったく暇つぶしの方法は、確立されていなかった。今回は、片手が使えて、前回は、両手が使えず、前々回は、両手が使えたからだ。

 自由過ぎて意味のわからない師匠は、久しぶりに接待モードを発動したらしい。ごはんは、マスターかママさんが用意してくれるし、パドマは1人で食べれる。師匠の出る幕は特にない。毎日、腕の状態を確認してくれるし、頭も洗ってくれる。だが、そんな作業は、すぐに終わる。だからか、暇つぶしに付き合ってくれるらしい。

 パドマに付き合ってくれる師匠も、暇を持て余しているのかもしれない。毎日、何か暇つぶしグッズを持って来てくれた。考えてくれたところで申し訳ないが、パドマの気にいる物ばかりではなかったが。

 初日のニードルフェルトは、午前中だけでも耐えられなかった。片手でできるというので選んでくれたのはわかるのだが、毛玉を針で刺して刺して刺しても、まったく完成に近付いている実感を得られず、パドマは即飽きた。師匠に続きを譲って、リアルなモモンガができた時には、もう1つ作って欲しいとは思ったが、自分でやりたいとは思わなかった。

 逆に気に入ったのは、お花作りだ。片手で全工程を担うのは無理があるのだが、できないところは、師匠がやってくれる。森の花々を思い出し、布に絵を描いた。すると、師匠が布を裁って、それらしい形にまとめて縫い留めてくれる。思った形に仕上がらないと、もう一度考えて、改良する。それで思った形が仕上がると、嬉しくなった。できあがると、師匠がパドマの頭の上に乗せるのが気に入らないが、師匠と兄にしか晒されないのであれば、まぁいいか、と放置するようになった。意識は、次の花に行っていた。

 そんな生活をして、20日が過ぎた。



「やった。今日から、自由だね」

 朝、ベッドから跳ね起きたら、パドマは、また懐かしのふらつきで倒れそうになった。師匠とヴァーノンは、真っ青になって、フォローに入る。

「なんで大人しくしてられないんだ。転んで腕を打ちつけてみろ。また寝たきりに逆戻りだぞ!」

 たった20日寝てただけのことなのに、また歩くのを難儀するところから、スタートしなくてはならないらしい。前々回、ケガをした時の復調までにかかったあれこれを思うと、パドマはとても嫌な気分になった。

「うー。もう寝たきりは嫌だ。ダンジョンに行きたいから、大人しく歩く。だから、今日は、外でごはんを食べてきてもいい?」

 正確には、寝たきり生活をしている間も、トイレに行くくらいは歩いていた。だから、歩くこと自体も久しぶりではなかった。ちょっと浮かれすぎたのを反省した。

「そうだなー」

 兄を落とすのは簡単だと、パドマは思っていたが、ヴァーノンは、師匠を見ている。判断は、師匠がするらしい。看護(見張り)担当だからだろう。パドマが師匠を見ると、師匠は嫌そうな顔をしたので、ダメかと思ったのだが、いつもの微笑みに戻ると、うなずいた。

「やったー! ありがとう。師匠さん!」

 大人しくすると約束したそばから、パドマは、師匠の胸ぐらをつかんで、ぴょんぴょん飛び上がっている。師匠とヴァーノンが、不安を抱えた顔をしているのに、まったく気付く気配もなかった。

「外に出るなら、身なりを整えてからにしておけよ」

 ヴァーノンは、それだけ言うと、仕事に出かけた。

 今のパドマは、寝起きで髪がボサボサなだけではなく、未だに片袖がない。季節柄、着替えはそこそこ頻繁にしているが、師匠が用意してくれた服は、毎回片袖だった。傷を見るのに、都合がいいからだろう。いろんな物でぐるぐる巻きにされているうちはわかりにくいが、片袖がないのは変だし、パドマは、できることなら腕も肩も隠していたい。

「袖がある服を着てもいい?」

 パドマの願いに、師匠は、首を横に振った。


 パドマは、師匠にタライ風呂を用意してもらい、出来る範囲で入浴を済ませた後、着替えて、ギプスを取り替えてもらって、髪を結い上げてもらい、上半身が隠れるように布で包まれた後、外に出た。季節的に暑苦しい格好なのだが、それは諦めた。ついでに、いろいろ余計な飾りを付けられたのもウザいのだが、毎日やられてどうでもよくなってきているので、無視した。

 店の前に出ると、イレが立って、震えていた。

「イレさん、おはよー。久しぶり。元気だった? 何してるの?」

「おはよう、パドマ。師匠に朝ごはんに誘われて、待ってたんだけど。腕の調子は、どうかな? 、、、怒ってない?」

 どうせ、外に朝ごはんを食べに行くんだろ? と、師匠に、行動パターンを読まれていたらしい。パドマは、悔しくなったが、今は許す。梨のサラダと桃のピザとスムージーが、パドマをてぐすね引いて待っていやがるので、それどころではないからだ。そんな物は、食べたいと言えば、店より美味しい物を師匠が作ってくれそうだが、欲しているのは、それではなかった。パドマは、自由が欲しかった。てっきり今日、ギプスが取れるのだと信じていたのに、またぐるぐる巻きにされて、悲しい気持ちでいっぱいなのだ。

「怒ってはいないけどさ。切ない気持ちで、いっぱいだよ。イレさん、見学だけでいいから、トンボの次に連れてってくれないかな? 見てみたいんだ」

 重くて邪魔な荷物にはなるだろうが、イレの出勤に合わせて連れて行ってもらって43階層に置き去りにしてもらい、イレの退勤に合わせて連れ帰ってもらったら、毎日のようにしていたことだし、付き合ってくれないかなぁ、というおねだりだ。ヴァーノンと師匠は、この件に関して、口説き落とせる気がしない。可能性があるのは、イレだけだ。少し前は、トンボのことしか考えていなかったが、今はトンボの次のことばかり考えている。

「そっか。あれが見たくて、頑張ってたのか。気持ちはわからなくもないけど、抱っこが嫌なら連れて行ってあげられないかな」

「歩いてついて行くんじゃ、ダメ?」

 ミイラの次に包帯が巻かれているような状態なのに、抱っこされれば連れて行ってくれるという。イレの言葉に、パドマは光明を見た。抱っこは死ぬほど嫌だが、我慢を検討するくらいに行きたい気持ちは大きい。あとひと押しだ。必死に、お願いお願いと念を送った。

「パドマ兄の気持ちが、わ、か、る! そんな留守番させられる子犬みたいな顔をしても、ダメ。まっすぐ歩けない子を連れては行けないよ。正直、ごはんに行くのも、抱えて運びたいくらいじゃない」

「そっか。そうだよね。うん。とりあえず、不自由なく歩けるようになるよ。で、自力で全部倒して行けるようになる。うん。腕が1本くらいなくても、平気」

 今のパドマは、久しぶりの無腰の外出だというのに、右にふらふら左にふらふらと歩く有様だ。一昔前なら、あっという間にカモにされていたに違いない。イレの言い分は、理解できる。やはり自力で行くべきだと諦めた。

「いやいや、タカはやめときなよ?」

「あいつらも全部ぶちのめす」

 タカには、並々ならぬ恨みがある。逆恨みなんて言葉は、どうでもいい。あれらを倒すための努力なら、いくらでも頑張れる気がしていた。

 パドマは瞳の奥を燃やして、拳を握り、忍び笑っている。イレは、師匠の後ろに隠れた。隠れ切れてはいないし、師匠に蔑みの視線を浴びせられても、怯まずに後ろから出なかった。

「見た目を可愛くしても怒らなくなったのに、中身が全然変わってない!」

「文句を言うのが面倒になっただけで、気に入っている訳じゃないよ。お兄ちゃんウケを狙って、ワガママを通そうと、企んでるだけだから」

「受け入れることができるようになっただけで、良かったんじゃない? でも、なんていうか、他の子と同じ格好をさせても、それはそれで目立ちそうだね」

「だから、髪を切ったんじゃん。どうせ目立つなら、悪目立ちの方がマシだと思ったんだよ」

「師匠が守ってくれるよ。大丈夫だよ」

 イレは、パドマが人を嫌う理由を、外面だけ取り繕っている理由を、外見を整えない理由を聞いたことがある。パドマは今でも子どもだが、出会った当初から、こんな風だった。幼い子どもなりに、一生懸命にできることを模索した結果だからこそ、パドマ兄が放置していたのだろう。今ならわかる。もっと気楽に過ごさせてあげたいなぁ、と言ったのだが、パドマに睨まれて、師匠に蹴飛ばされて、失言を悟った。

「さて、問題です。パドマさんの右腕のケガ原因は何? 1、師匠さんの足癖の悪さ。2、師匠さんの性格の悪さ。3、師匠さんの」

「ごめんなさいー。でも、ちゃんと守ってくれると思うんだ。信じられないのも、わかるけど」

 ゆっくりのんびり歩いていたが、いつものお店に来ることができた。食後にダンジョンに行けたら、いつも通りなのだが。まだ武装の重さにも耐えられないから、止められずとも、行く気はない。だが、パドマは、1日がひどく味気なく感じられた。嫌で嫌で仕方がないアシナシイモリすら、恋しく思えるほどに、ダンジョンに行きたいという気持ちが湧いてくる。


 しばらく行かなかったからだろう。師匠を近くで眺め隊の皆様はおらず、ゆっくり食事をとることができた。パドマには、この後の予定はない。だから、のんびりしていてもいいのだが、食後すぐに店を出て、イレと別れた後、街中を散歩した。

 イギーの家の蓮の横を通り過ぎ、海を見た後は、港を経由して綺羅星ペンギンを遠くから眺めて、城壁に向かってみた後、ミラたちの家の方に向かいかけて、市場に行った。思い付きのまま歩いたので、最短経路で歩いていない。散歩初日なのに、頑張りすぎてしまったかもしれない。

 長く歩くことができなかったので、要所要所で休憩しながら歩いた。体力的にも問題があるのだが、日差しも強かった。師匠がさしている傘に入れてもらっても、服装の所為か、長くは持たなかった。

「暑いよー。ダンジョンに行っちゃダメ?」

 ダンジョンは、地下であるからか、魔法の所為か、いつでも体感温度はそう変わらなかった。ここ数年、夏の日中は、ずっとダンジョンで過ごしていた。夏は暑いのを忘れて過ごしていたようだ。思いもよらないところでまで、ダンジョンを求めていることに気付いた。

 師匠は、困った顔をして、首を横に振った。

次回、婚約話を断りたい

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