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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
第3章.12歳
81/463

81.羽飾り

 パドマの手のケガが治った頃、羽根細工工房に発注していた羽根飾りが仕上がった、と連絡があった。そのため、ダンジョン行きをキャンセルして、師匠とともに受け取りに行った。

 羽根細工工房は、東の城門近く裏手の職人通りにある。長屋のように1つの建物にいくつかの工房が入っている。それがいくつかズラズラと並んでいるのだが、その真ん中辺にある羽根のマークの看板が羽根細工工房だ。

 この建物は、中も外も大して変わらない黄色いレンガで出来ていた。入るとすぐにカウンターがあり、そこで注文ができる。カウンターの真後ろに木のソファセットがあって、注文の時はそちらに通されたが、今日は商品を受け取るだけなので、案内はされたが、断った。ソファセットの奥に仕切りがあって見えないが、その裏が作業場になっている。


 カウンターの上に、出来上がった商品を並べてもらって、出来上がりを確認したら、受け取るのだが、パドマは、注文していない品を見つけた。新星様は、知らずにいろんなサービスを追加されてしまうことがあるので、気をつけなくてはならない。

「あれ? こんな色の羽根あったっけ? これ、ズアオチメドリじゃないの? 作った人、死んでない? 大丈夫???」

 パドマは、工房に羽根を持ち込んで制作依頼したのだ。知らない羽根があるのは、おかしい。工房に持っていった鳥の羽根は、主にタカの茶色とヒクイドリの黒だった。中には、スズメの黄色や赤もあったが、青い羽根はなかった。それなのに、出来上がった作品には、青い羽根があった。染めたのでなければ、青い鳥の羽根だろう。青い鳥と言われると、パドマがまず思い浮かぶのは、ズアオチメドリだった。

 ダンジョンのスズメたちの中に、ズアオチメドリという、青いとてもキレイな鳥が混ざっている。青い鳥は、他の鳥と離れて、ぼっちでいることが多いので、目につきやすいのだ。ズアオチメドリは、見た目はとても愛らしいのだが、近寄ってはいけない危険な鳥だ。ヤドクガエルと同様に、触るだけで毒をくらうのである。好戦的な鳥ではないので、放置していても問題はなく、今のところパドマは倒したことはないのだが。

「違います。それは、ライラックニシブッポウソウの羽根です。危険な鳥の羽根など、混ぜてはおりません」

 パドマは、疑問を口にしただけで怒っている訳ではないのに、工房の納品係の人は、涙目になっていた。

 噂の新星様は、どうにもならない屈強なチンピラの集団を、ネックレス1本で、次々と余裕でぶちのめすのである。真実を言えば、その新星様はパドマではないし、ネックレスは特殊な暗殺武器だったのだが、そんな人間にイチャモンをつけられたら、一般人としてはさぞかし怖いだろうな、というのは、パドマにも理解できた。

「いや、工房の人を心配してるだけで、怒ってはいないから。落ち着いて。お願いだから」

 更なる真実を言えば、納品係は、噂に怯えているのではなく、噂の新星様の可愛らしさに舞い上がって、機嫌を損ねることを恐れているだけだった。昨日の夢では、デートの約束ができたのだ。話ができることに浮かれていたのに、毒鳥の羽根を混ぜて、暗殺の嫌疑をかけられるなど、最悪の事態になり、慌てていた。内心がパドマに知れれば機嫌は急降下するので、すれ違っている方が身のためなのだが。

「でも、ブッポウソウは渡してないよね。前金だけで足りてる? 追加料金は、いくらあれば足りる?」

「いえ、こちらは師匠さんから料金をいただいておりますから。追加は必要ありません」

「師匠さんも、作ったの?」

 パドマが振り返れば、師匠は、ふわふわとした微笑みで、そこにいる。いつもの愛らしい美貌を拝めば、文句を言う気は起こらない。言っても無駄なことは、身に染みている。

「師匠さんの品に不満がなければ、まとめてもらって帰るけどいい?」

 師匠の首が縦に振られたので、箱のフタを閉じて、まとめて持ち帰った。



 明日から、またダンジョンに行く予定だ。パドマは嬉しくなって、登録証を出して眺めた。最近、ようやく芋虫退治よりもポイント総量が稼げるようになったのである。トリバガやペンギンやタカのような血祭り系が、やはり一番貯まる。イモリ×水流剣もなかなかだったが、あれはやりたくないので考えない。ああ、明日は何を倒してやろうかな、と計画を練りたかったのだが、また登録証は壊れていた。

 少し休んでいる間に、100万ポイントも増えていた。絶対に記憶違いではない。

 増えることは、困ることではない。だが、おかしい。休むと勝手に増える様だが、そんな機能は聞いたことがない。ズルをしているようで、パドマは嫌な気持ちになった。



 次の朝、早速、パドマは新調した羽根飾りを頭にいっぱい付けて出かけた。羽根で作ったカツラのようなアクセサリーだ。頭の上の方は地毛だが、その下に続く髪の毛の代わりに羽根がぶら下げられている。上の方は、スズメの小さな羽根で、下に向かって段々と大きくなり、最後にヒクイドリの黒い羽根で終わる。遠くから見れば、ヒジの少し上まで髪が伸びているように見えるだろう。一房だけ赤と黄色の羽根で作られた飾りが混ざっていた。

 皆に、髪を伸ばせと突き回されることに嫌気が差して、考えだした作品だ。意地でも地毛は伸ばしたくないし、師匠のカツラもかぶりたくなかったのである。これだけおかしなことを始めれば、皆も諦めてくれないかな、と期待している。

「パドマが、またワイルド方向に進化してる」

 イレは、片手で顔を覆ったが、師匠は、更に追加の青い羽根飾りを付けて、満足そうな顔をした。師匠の頭にも、イレの頭にも、既に青い飾りは付いていた。

「ふふふ。長い髪の女は、可愛いでしょ?」

 イレの反応に満足して、パドマは笑った。

「そう思うなら、髪を伸ばせばいいのに。でも、パドマは短いままでも、羽根頭でも、花咲かせても可愛いから、なんでも好きにしたらいいんじゃない?」

「うわーい、やったー。今晩、ざっくり髪切ろーっと」

 パドマの顔は一瞬で仏頂面に変わり、イレを放置して歩き出した。

「ちょっと何でそうなるの?」

 イレは後ろをついてきたが、パドマはそちらを見ない。

「髪が短くても、剣で切っても可愛いから、好きにするー。1番うるさいおっさんの許可はもらったから、もう自由ー」

 イレも、そろそろ自分の言葉ではパドマが動かないのは、悟っていた。しかし、少し前に、弱点を見つけていたのだ。鬼の首を取った気分で、ニヤニヤしながら言葉を紡ぐ。

「パドマ、それが本当にお兄ちゃんの幸せなのかな?」

「お兄ちゃん?」

 イレの狙い通り、パドマの歩みが止まった。ギギギとでも音がしそうな不自然な動きで、パドマは、イレの方を向く。

「妹が変な頭で歩いてたら、お兄ちゃんが周りの人に、嫌なことを言われちゃうかもしれないよね」

「うっ」

「髪を伸ばした一般的女の子スタイルの妹と、剣でざっくり髪を切り落とす妹。パドマ兄が喜ぶのは、どっちかな〜」

 イレは、勝利を確信した。パドマは、顔を真っ赤に染めて、ぷるぷると震えている。涙目になっているような気もした。少し髪を伸ばすくらい、皆していることなのに何を大袈裟なと、イレは、それを見ていた。

「そ、それは、ウチに猫耳ツインテールになれってこと? ハードルが高すぎるよ!」

 パドマは、泣きながら走り去って行った。イレは、師匠に蹴られて、吹き飛んだ。

「え? 猫耳? パドマ兄は、猫耳が好きなの? そんなの知らないし。お兄さんの所為じゃないよね」



「これがブッポウソウか。これを手に入れてから、羽飾りを作ればよかったかな」

 タカは、全部師匠が倒してくれるようになったので、37階層に進んだ。

 パドマも剣を抜いてみたのだが、全力でイレと師匠に止められたのである。師匠が本気を出せば、師匠の後ろに敵は来ないし、イレに羽交締めにされれば、パドマは動けない。師弟の見事な連携プレイによって、パドマの活躍は阻止された。

 何度もケガを負わされた相手であるにも関わらず、1羽くらい回してくれてもいいのに、とボヤくパドマに、問答無用で敵の中に人を放り込む、師匠すら呆れ顔を浮かべた。


 37階層には、オオオオハシと、いろんな種類のブッポウソウがいた。

 オオオオハシは、その名の通り、大きいオオハシである。身体の半分近い大きな黄色いクチバシがあるのが特徴的で、黒い背中と白い腹、目の周りが橙色で、愛嬌のある顔立ちをしていた。

 ブッポウソウは、それに比べて大分小さい鳥で、色とりどりだった。1番多そうなのは、頭が黒く羽が青い小鳥で、中には七色の鳥もいた。師匠が作った羽根飾りの材料である。

「ペンギンを殺すのは、あんなに嫌がってたのに、小鳥さんは殺しちゃうんだね」

 イレは、残念そうな顔で、パドマを見ている。

「そうだね。お金に困ったら、やるかも。可愛いスズメは、羽根欲しさだけで手にかけたし。でも、今日はやらないよ。観賞したら、先に進むんだ」

 スズメ同様、襲われることはないので、そのまま通り過ぎた。



 38階層には、ハシボソガラパゴスフィンチが沢山いた。全身黒で、クチバシだけ肉色の小鳥だ。小鳥だが、この鳥は人を襲う。ハズである。

「もしかして、この鳥も、みんなは無視して進むのかな?」

 数がやたらと多い。襲ってこない通り抜けが簡単なブッポウソウより多い。ブッポウソウを売るために狩る人間はいるが、ハシボソガラパゴスフィンチを狩る人間がいないからだ、とパドマは考えた。イモリのように、やたらとリポップが早いのでなければ、そうに違いない。

「そうだねぇ。面倒臭いからねぇ。パドマは、これも殺るの?」

「こんな売れない鳥を殺しても仕方がないし、できたら殺らずに済ませたいけど、通るためには殺らないと」

「もう売れない鳥とか言うの、やだ! 可愛くない!!」

「いつも言ってると思うけど、イレさんの好みとか、興味ないから」

「師匠の好みなら、興味ある?」

「まぁ、多少は」

 パドマは、イレから視線をはずし、虚空を見上げた。まさかの反応に、ついに自分の努力が実ったかと、イレは歓声をあげた。

「おぉっ」

「生死に関わるかもしれないからね」

「ちーがーうー」

 地団駄を踏んで文句を言うイレを無視して、パドマは前に出た。師匠にも止められなかったので、パドマにも倒せるのだと思われる。


 フロアに立った瞬間、鳥たちは一斉に飛び立った。

「ひっ!」

 パドマはタカを思い出し、反射でフライパンを前にかざしたが、攻撃は来なかった。

「ん?」

 鳥たちは、パドマの周りに集まってきたものの、何の変哲もない鳥だった。異常に速く飛ぶこともなく、突かれも蹴られもしなかった。ただパドマの近くをくるくると飛んでいるか、地上に降りて、ぴょんぴょんと跳ねるように近付いてくる。だが、いっぱいいすぎて、気持ち悪かった。

 地面をぴょんぴょん跳ねているものも、沢山いる。歩けば、間違いなく踏む。倒す気で来たのだから、迷わず踏んでみたが、踏み心地が最悪だった。ペキペキペキと、骨が潰されていく音がする。感触も好きになれないし、音も嫌いだ。ついでに、潰れた子の見た目も好きになれないし、その子を突く子も仲良くなれる気がしない。

 飛んでいる鳥は、隙あらば頭か肩に乗ろうとしているようだ。乗られれば、突かれる。中身が出てくるほどに、突かれる。そういう鳥なのだ。特に頭に乗られる訳にはいかない。久しぶりに、フライパンが大活躍だ。ぶんぶん振り回して叩き落としてみるが、まったく数が減った気がしない。一度、階段に撤退した。


「50羽くらい減らしたと思うんだけど、まったく減った気がしない場合、どうしたらいいと思う?」

 パドマは、答えがもらえるとは、思っていない。ここまで来るのに何度も壁にぶつかって来たが、ヒントをもらえた回数など、いくらもなかった。ただのボヤキだ。

 だが、珍しく師匠が回答を示した。懐中から、フライパンを出して、パドマの前に差し出した。今までパドマが使っていたフライパンは、26センチフライパンと呼ばれるものだったが、師匠が出したのは、40センチフライパンと言われるものだった。倍とは言わないが、大分大きい物だ。桃黄碧に塗られ、棒状の持ち手の反対側には、コの字型の取手が付いている。

「そんなのどうやってしまってたんだよ。袖も通らないよね。ホント、それ、どうやってんの?」

 回答よりも、出所が心配になるパドマだったが、持っていたフライパンは力づくで師匠に取り上げられ、新しいフライパンを押し付けられた。

「おお! 小さいのより、軽い!! こんなのがあるなら、もっと早く欲しかった」

 パドマは、喜んでフロアに戻って、新フライパンを振り回したが、いくらもしないで、また階段に戻ってきた。

「変わらないじゃん!」

 肩で息をするパドマに、イレは、残念なお知らせを伝えた。

「すごいね。多分、スタートの半分くらいは、減らしたよ。だけどさ、血の匂いに誘われたのか、三方から新しいのがどんどん入って来てるから。留まってたら、階層全滅させるまでは無理なんじゃないかな」

「もうやだ! 帰る!!」

 パドマは、癇癪をおこし、倒さないと言っていたオオオオハシとブッポウソウを投げナイフで大量に仕留めて、持って帰った。心は痛んだが、オオオオハシのクチバシと、ブッポウソウの羽根は、なかなかのお小遣いに変貌した。

次回、猫耳ツインテールについて。そんなの掘り下げなくてもいい気もする。

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