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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
第2章.11歳
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67.耳飾りとペンギン

 食後、パドマ達が片付けをしていると、師匠は、真珠の選別をしていた。取れた真珠は、色も形も大きさもマチマチだったのだが、それを分けているらしい。丸以外をはじいた上で、色別大きさ別に分けているのだが、表情が、あまりよろしくない。師匠の好きな色だか形だかがなかったかもしれないし、品質が悪くて、売り物にならないのかもしれない。

「あんまり良くなかった?」

 パドマが近付いて話しかけたら、師匠は睨んできた。そして、涙を流した。

「そんなにダメだった? じゃあ、明日、もう1回拾いに行こうよ。そうしたら、お気に入りが出てくるかもしれないよね」

 パドマがそう言うと、師匠の表情が元通りに戻った。そして、むいた貝殻全部とボコボコした面白い形の真珠を全部、パドマに渡した。

「マジか。そっち全部、師匠さんの取り分か。師匠さんが、真珠が好きとは思わなかった。いや、似合うな。仕方がないか」

 パドマは、ヴァーノンとグラントに振り返った。

「分け前どうする? 現物が欲しい? 換金後のお金がいい?」

「必要ない。好きに使え。それより、用がなければ、もう帰るぞ」

 ヴァーノンは、何も受け取らずに帰ってしまった。

「わたしは、給与を頂いております」

 グラントも、ヴァーノンが引っ張って連れて行ってしまった。パドマは、どうせ明日も行くダンジョンセンターに、これから換金だけに行くのも面倒なので、もらった取り分を抱えて唄う黄熊亭に帰った。



 それからしばらく、貝拾いと殻むきをする生活を送らされていたパドマだが、急にそれを終了する日がやってきた。師匠が、パドマに真珠の耳飾りをくれたのだ。これを作るのに、思い通りのテリと色と大きさの真珠を探していたらしい。

 真珠の耳飾りは、師匠とイレとパドマの3人でお揃いだった。師匠とイレのお揃いに混ぜてくれなくていいし、耳飾りは邪魔だとパドマは思っているのだが、くれた瞬間から装着されて、どんなものだか見るために取ろうとしただけで嫌がられている状態だ。不意の事故で壊しでもしないことには、外すことは許されないだろうし、壊したらまた貝拾いをやらせられるだけだろう。拾うだけなら構わないが、殻むきと貝を食べるのに飽きたので、やらなくて良いのであれば、しばらくはやりたくない。

「お兄さんも、イヤーカフが良かったなぁ。なんで、お兄さんだけピアスなの?」

 師匠とパドマの耳飾りはイヤーカフで、イレの耳飾りだけピアスだった。真珠の色も違う。イレは白で、パドマが金で、師匠はピンクだった。

「ウチは、耳に穴がないから、ピアスはつけられないよ。イレさんだけ、耳に穴が開いてたからじゃないの?」

「お兄さんも、穴なんてなかったよ。夜寝てたら、師匠に穴を開けられたんだよ。何事かと思ったよ。開けたいなら、昼間に言って欲しかった」

 それを聞いて、何故お揃いの耳飾りを付けることになったかを、パドマは理解した。本当は、師匠が自分にピアス穴を開ける予定で、試しにイレで実験したに違いない。どんな方法で開けたかは知らないが、思ったよりイレが痛がっていたから、本人は穴を開けるのをやめたのだ。そして、とってつけたようにお揃いのピアスを作ったんだ、と見せたのだろう。パドマの分は、正当性の担保に違いない。

「ありがとう。イレさん」

 イレは、尊い犠牲だ。イレがいなければ、パドマがやられていた可能性もある。みなまで言わずとも、イレも分かっているらしい。

「パドマがやられるよりは、良かったと思ってるよ」

「たまには、怒ってもいいと思うよ」

 パドマも一緒になってやっているので偉そうなことは言えないが、散財させられるのも怒るべきだし、ケガをさせられて怒らないなんて、おかしいことだ。

「怒っても、疲れるだけで、師匠は変わらないんだ」

「そっかー」

 イレは、ヴァーノン並みにお人好しで優しい男なのだと思い込んでいたが、違うのかもしれないな、とパドマは思った。



 しばらく放置していたペンギン施設に行ったら、やたらと男性客が増えていた。パドマは、頬を引き攣らせながら、師匠をペンギンプールの隣の部屋に放り込んで、グラントの報告を聞くことにした。

「そこは、パドマさんの部屋だったのでは?」

「違うよ。師匠さんの展示部屋だよ。お揃いのお土産を売るための見せ物? ペンギンを見せて、お菓子でも置いといたら、しばらくいてくれるよ。後で、ペンギンぬいぐるみを山積みにしてね。師匠さんがいない間は、『お散歩中です』って、札でも立てとけばいいと思う」

「展示部屋。そうでしたか。それで。なるほど」


 話している間に、お土産売り場に着いた。ペンギンぬいぐるみや、ファブリック、先日拾ったバロックパールまで片っ端から並べる様、指示を出していたのだが、商品棚は、スカスカになっていた。

「あれ? まだ商品届いてないの?」

「今は、追加発注をしております。パールの追加は御座いますか?」

「多分、師匠さんが飽きちゃったから、パールの追加はない。そんなに売れるなら、後でまた図案増やすよ。ぼったくり価格で、簡単には売れない予定だったんだけど、なんでだろう」

「ここが新星様の関連店舗だと言うことが、ようやく知られたのだと思います。大変厚かましいのですが、しばらくは、ここの運営は、わたしの功績ということにさせて頂くことになりました。よろしいでしょうか」

「いいよ。でも、失敗したら、ごめんね」

「わたしとしては不本意なのですが、ヴァーノンさんに頼まれました。パドマさんに経営能力があると知れると、面倒なことになるそうですね」

「ウチには、そんな大層な物はないけども。なんでだろ? ああ、あれか。わかった。ウチは、お飾りでここにいるだけの、ただのペンギン好きにしといて。経営状態もペンギンの生態も、何も知らない。グラントさん、ペンギンを集めてくれて、ありがとう」

 パドマの脳裏に、どんどんピンク色に染まっていく生物と、諦めの悪いその両親の顔が浮かんだ。脳内にお花畑を拵えて、パドマを妻に迎えようと企む阿呆と、末息子のワガママをどこまでも叶えようとする親バカである。馬の骨娘を妻にすると将来的に破産するという理由で、平和的に諦めてもらったのだ。イギーができる男に変貌する心配はしていないが、パドマが才能アリと見込まれると、また面倒なことになるかもしれない。ヴァーノンは、それを危惧しているのだろう。

「そこからですか?」

「それほど長期戦にはならないと思う。今まで通りの仕事はするから、防波堤は、グラントさんかトマスに任せる」

 パドマは、イギーの嫁探しをしようと心に決めた。イギーはヴァーノンより年上で、家の事情で早急に結婚相手を見繕うに違いない。この街には、親の手伝い以外の仕事をしている娘はいないのだ。経営手腕を持つ年齢の釣り合いがとれる娘など数えるほどしかいないだろう。売り切れる前に確保しなければならないのだ。

「わたしが、やります」

 トマスを引き合いに出されたら、グラントは引けない。どちらでも構わないという評価に気を引き締めて、拳を握った。

「ふふふ。よろしくー」


 次にペンギン食堂を覗いた。やはり男性客ばかりいた。

 イスをクマにしたのがいけなかったのだろうか。パドマとしては、海かペンギンをテーマにした内装を想定していたのだが、そこら中に大木を模した柱が立てられていて、それに緑が茂り、森のような部屋になっていた。木製のテーブルとイスは、もしかしたらそちらの方が似合うのかもしれないし、イスもそちらに寄せてくれ、と言いたくなる程度におしゃれテーブルだったので、不満を言うつもりはないが、それに伴う結果は、理解不能だった。

「うーん。可愛い内装にしたのに、なんで客はそんなにムサいのか。治安が良くなっても、女の子はまだ出歩けないのか。男どもよ、彼女を連れてこいよ」

「ご不満なようですね」

「想定客層と違って、困惑中なんだよ。野郎相手に売る土産なんて用意してないのに」

 パドマの想定客層は、ミラたちのような可愛らしい女の子たちと、師匠たちのような金持ちカップルだった。来て欲しいなと思っているだけで、社会情勢や相手の都合などは、まったく考慮の埒外だったため、期待と結果は変わってしまったようだが。

「しかし、野郎客にも大変好評で、飛ぶように売れておりますよ」

「そうだった。なんでだよ。レースの蚊帳なんてあいつらには超似合わないよ。奥さんへの土産かな。土産を買うより、連れて来い」

「奥様ですか。いらっしゃるといいですね。少なくとも、黄色いイスに座ってる方は、独身だと思われますよ」

 パドマは、言われて初めて気付いたが、客は、ほぼ全員、黄色いイスに座っていた。イスは大体白で、5個に1つくらいの割合でしか、黄色いイスはないのに、不自然だった。イスはバラバラに置かれているので、等間隔に座るとたまたまそうなるとも言い難い。

「え? 黄色がいいなら、黄色を増やした方がいいかな」

「あれは、ただのイスです。何色でも変わりないでしょう」

「だよね」

 グラントは、理由を知っている。唄う黄熊亭にパドマが住んでいることを知っているから、皆、あえて黄色いクマイスに座っているのだ。黄色いイスに座っているのは、パドマのファンともいうべき客だった。そもそも、ペンギンなんて1回見れば、大体満足する。金を払わずとも、すぐそこのダンジョンにいっぱいいるのだ。あえて入場料を払ってまで通うようにペンギンを観に来るのは、パドマのファンだからという理由以外はない。中には、師匠のファンも混ざっているだろうが、黄色いイスに座る男はパドマ目当てに違いない。


 ペンギンを見ると、成鳥もヒナも更に増えていた。コガタペンギンしかいなかった成鳥は、数だけでなく、種類も増えていた。みんなで無作為に乱獲してきた上で、たくさん孵化を失敗させたので、何が孵るか未知数だったのだが、いろんな種類が増えたのは、良かった。あまり増えられても、餌代が大変なのだが、増えないことには、見応えもなくて困る。

 幸いなことに、今まで孵ったヒナは、すべて常温で育っている。ダンジョン内に発生するモンスターは、生物ではない。これからは、育てることよりも、外に逃がさないようにするのが大切だろうな、とパドマは思った。空を飛ぶ個体が出始めたら、営業終了かもしれない。

「おお、イワトビペンギンもマカロニペンギンも増えてる。いつの間に! 相変わらず、いい顔してんな。あれ? これは、何の部屋?」

「あー、えー、会議室です」

 師匠の展示室と色違いの部屋を見つけた。師匠の展示室は、白を基調に桃色と水色を配色していたが、こちらは差し色が黄色と黄緑だった。

「会議室? ファンシーすぎない? しかも、会議室にベッドはいらないよね。なんで会議室が一般公開範囲にあるの? まさか、ウチの展示室とか言わないよね?」

「違います。桃色の部屋がパドマさんの部屋だと思っていましたから」

 グラントの挙動は明らかにおかしかったが、パドマは見逃すことにした。

「ウチの展示は、許可しない」

「心得ました」


 館内をうろうろしていたら、段々と周囲に人が増えてきたので、そのまま会議室に入った。パドマの来館に気付いた客が集まってきたのだ。逃げたかったのだが、会議室の窓から、一般見学客がパドマたちを見ていた。

「なんで経営会議を公開しなきゃいけないんだよ」

「新星様が頑張っている姿を見せるのも、宣伝のうちかと思ったのですが、2人きりというのは、誤解を招きかねませんね。少々お待ち下さい。誰か連れてきます」

「いらない。ウチは、こんなところにいたくない」

 グラントは、部屋を出て、どこかへ行ってしまったので、パドマはイスに座り、テーブルに置いてあった蝋板の数だけ刺繍図案を書き散らして、席を立った。更に奥のドアに入ったら、バックヤードの通路に出た。

次回、パドマの妹分。

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