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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
第2章.11歳
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61.首刈りと血祭りのプレゼント

 豪勢な朝ごはんを平らげた後、兄たちと別れ、パドマはダンジョンに向かった。兄とは別れなくても良かったのだが、お花畑のピンクの人とお別れするには、それが都合が良かったのだ。


 パドマは、3階層に行き、人を探した。

「トマス。あんた、ウチの言うことを聞くって、言ってたよね。今、ここで何人集められる?」

 目当ての人物とは違ったが、顔見知りを見つけたので声をかけた。

「少々お待ちを」

 トマスは近くにいた仲間に声をかけ、即座に仕事にうつった。

 集まった人間は、総勢60人程度。3階層にいた人間と通り過ぎようとしていた人間が、全員集まってしまった。

「そう言う意味じゃないよ。この阿呆!」

 そんなに人数は必要ないし、友達呼んでこいくらいの気分でいたパドマは、慌てて解散してもらった。残したのは、カタギに見えない男だけである。ジュールが最後まで食い下がっていたが、今日は、戦えないおしゃべり男は必要ない。

 残した男から、更に護衛とそれ以外で編成分けをして、先に進む。護衛に指名したのは、いつぞやカエルフロアまで付いてきた男たちだ。それらに戦わせれば、ジュール並に使えない男が混ざっていても、目的地までは行けるだろう。

 着いたのは、31階層のペンギンフロアだった。そこで、戦えない人間は、ひとまず置き去りにし、32階層に進む。


 パドマは、脇道に外れ、ダチョウを狩ることにした。2部屋目に、ダチョウが5羽いるのを見つけた。パドマが剣を抜いて歩くと、男たちもついてきた。1人当たり1羽以下だ。そばまで寄っても何も起きなかったので、せーので首を落として、制圧完了した。数の暴力の強さをパドマは初めて実感した。

 その場で皮をはぎ、皮はパドマのリュックに、首はヤマイタチのリュックに詰めて、次の部屋に進んだ。ヤマイタチとパドマのリュックがほぼ一杯になったところで、丸のままのダチョウを3羽持ってもらって、ペンギンフロアに撤退した。


 置き去りにした男たちは、戦闘力が低そうだと見積もって置き去りにしたのだが、腐っても元チンピラである。多少の腕は、持ち合わせていたのだろう。ペンギンの可愛らしさをものともせず、階段すぐの部屋にいたペンギンを必要のない分まで皆殺しにして制圧完了していたので、そこで、みんなでおやつを食べることにした。

 おやつは、運んできてもらったダチョウである。解体して、刺身にして食べてもらった。パドマは、朝食の残りを弁当にして持ってきているので、食べない。しかし、男たちの分まではないので、強制的にダチョウの刺身を押し付けた。新星様に笑顔で食べろと命令されて、断れるチンピラは、この街には既にいない。どうしても無理ならば、1階上って、火蜥蜴に炙って貰えばいい。


「みんな準備はいいかな? 楽しいお祭りの時間だよ。今日のお祭りは、ペンギン血祭り。どれだけ殺ってくれても構わないけど、卵を持って帰りたいから、卵は割らずに回収すること。卵の保管は、とりあえずトマスとカールに任せる。時間が経ったら、誰かと交代してもいい。それじゃあ、祭りを始めようか。みんな解散」

 トマスとカールを階段の部屋に残し、それぞれ数人ずつのチームを組ませて散らせた。パドマのチームに入れたのは、誰だか知らないガタイのいい男と、使えなさそうな男だ。パドマは力仕事に弱いので、そのカバーと、他の戦力を落とさないのを選んだ。

「グラントです。よろしくお願いします」

「ジ、ジムです」

「よろしくー」

 祭り会場に着くと、最初に落とすべきは、ジャイアントペンギンとイワトビペンギンである。グラントがジャイアントペンギンを狙い出したので、パドマは、イワトビペンギンを片付けるように指示した。

 イワトビペンギンが怖いからでも、可愛くて殺せないからでもない。1人でいれば、ジャイアントペンギンは、パドマのところに集まってくるからだ。グラントは、イレ並に大きいから、ジャイアントペンギンは、近寄って来てくれないだろう。下にいるのだけならともかく、上にいるものを倒すのは、難しいと思った。もしもまたしくじって下敷きになってしまったら助けて欲しいし、そのためにデカイのを選んで連れてきたのではあるが、効率でいったら、パドマが大きいペンギンと対峙した方が早く終わる。追いかけなくとも、向こうからやられに来てくれるのだ。移動なしで屠ることが可能だ。

 正直に言えば、上から巨体が降ってくるのは、怖い。オサガメのように、避けたら終わりではなく、右から左から、次々と襲い掛かられるのだ。丸飲みにされるのは、ツノガエルで慣れたものだが、ペンギンの口の中はギザギザしていて、とても痛そうだった。代われるものなら代わって欲しいし、グラントの後ろに隠れて過ごしたいのは山々だが、パドマは探索者であり、この祭りの開催者である。ジャイアントペンギンを倒さずにして、何をすると言うのか。

 上に浮いているペンギンを倒すのは現実的ではないので、襲ってくるペンギンを斬る。上から来るものは、下敷き回避のため、斬らない。斬るのは、基本的に正面からくるものと、左からくるものだけである。おあつらえ向きのが来た時のみ、右に回転するように避け、上段から剣を叩き付ける。


 パドマがジャイアントペンギンの制圧を終える前に、既に卵狩りが始まっていた。ペンギンの種類を無視して、端から卵を回収し、怒り狂うペンギンは始末する。ある程度集まったところで、ジムにトマスのところに運ばせている。パドマもグラントの反対端から卵狩りを始めた。


 パドマが、2部屋制圧を完了させて戻ると、トマスのところには、まあまあの数の卵が並んでいた。

「とりあえず実験だし、こんな物でいいかなぁ?」

 パドマは、帰ることに決めた。

「今回収してる卵で打ち止めでいいや。各自、卵は何個持てるかな? ギリギリ持てる量じゃないよ。割らずに走ったり、戦ったりすることを考えてね」

 それぞれに1〜5個ほど卵を持ってもらい、余裕がありそうな男には、ペンギンを数羽担がせて、ダンジョンセンターに戻った。


 買取り窓口で、ダチョウの皮とペンギンを売りに出し、男たちそれぞれに中銀貨を5枚ずつ握らせると、解散させた。

 男たちは解散させたが、トマスとカールは、まだ締め上げている。箱に詰めた卵を運ばせた。

 すると、解散させたハズのグラントもついてきた。

「中銀貨5枚は、貰い過ぎではありませんか。新星様が赤字になっていますよね?」

「別に、赤字のつもりはないよ。これは投資だし。まだ仕事は終わってないんだよ。急ぐから、邪魔しないでね。話があるなら、次にして」

「話は移動しながらで構いません。わたしを右腕にしては頂けませんか? 右腕までは無理でも、トマスの傘下にされるのは、納得がいきません」

「わかる。納得しかない。いいよ。ついてきて」

 パドマは、トマスの寝ぐらに入り込んで、卵を透かして選り分けた。そのまま半分強の卵をトマスに預けると、残りの卵をグラントに持たせて、唄う黄熊亭に帰った。



 帰ると、店の前に、目つきの悪い可愛い女の子と、ヒゲ面オヤジが立っていた。無視して建物に入ると、2人も付いてきた。

 パドマは、ため息をつき、持っていたヤマイタチぬいぐるみをテーブルに置いた。

「2人にね。サプライズプレゼントを用意したかったんだよ。いつでもどこでもついて来られると、困っちゃうんだよ」

 パドマは、グラントに持たせていた卵を受け取って、右から左と師匠に渡した。

「製菓用に向いてると噂の高級卵。ケーキを焼いてくれると、嬉しい」

 師匠は、顔を綻ばせて受け取った。恐らく、何の卵か、言われずともわかったのだろう。

 次に、パドマは、イレに向き直った。

「あのね。お父さんにもね。プレゼントを用意したの。1人でもできるって思って欲しくて、頑張ったの。褒めてくれると嬉しいな」

 パドマは、背負っていたリュックを丸ごとイレに押し付けた。

「パドマ、、、」

 イレは、震える手で、リュックの口を開くと、白茶色のふさふさしたものが、リュック一杯に詰まっていた。1つ出してみると、ダチョウの首だった。それが、30本ほど入っている。

「パ、パドマちゃん?」

「ダチョウの首刈りをしてきたの」

 パドマは、ふふふと、恥ずかしそうに微笑んだ。全力でイレの気に入りそうな女の子像を踏襲している。つもりでいる。

「すると、あの卵は?」

「勿論、ペンギン血祭りの景品だよ。ちゃんとお父さんに、行き先を伝えてから出かけたよね? 良い子でしょ」

「そうだね。ごめんなさい」

 イレは、嘘がバレたことを悟った。思い付きで言っただけだったので、パドマのようにはいかないだろうと思っていたが、よく考えたら、パドマの報復が怖くなった。

「ところで、その大きい子は、誰かな」

「ああ、この人?」

 パドマは、ずっと一歩下がった横に立っていたグラントを見上げた。

「今日、ダンジョンで通りすがりにナンパしてきた人。今のところ、くまちゃんの次にいい男に育つ予感がしてる」

 実際のところは、可愛いペンギンを顔色1つ変えずに斬殺していたし、元チンピラで、どんな前科があるか知れたものではない。だが、チンピラ界限定であれば、好漢である。今日初めて会ったというところが、好印象の理由なので、明日には暴落しているかもしれないが。

「まさか、カエルの上をいったりしてないよね?」

「どっこいかな?」

「どうして?!」

「ちなみに、お父さんは、ミミズ風イモリ以下だから。当然だよね。何年放ったらかしにしてんだよ。仮令、故人で一緒に居られなかったとしたって、恨みに思うのは、ウチの自由なんだよ? それにね、小娘相手に、その手の嘘を吐く人も、それはそれで最悪だよね」

 可愛こぶっていたパドマは、一瞬でいなくなった。ある意味では見慣れてしまった、目付きの悪い不機嫌なパドマが現れた。

「ごめん。それは、どちらかというと、どっちの方がマシなのかな? お兄さんはね、羨ましかっただけなんだよ。パドマ兄がお兄ちゃんなら、お兄さんがお父さんでもいいんじゃないかな、って思っただけなんだよ。師匠は、パドマの師匠だし、お兄さんだけ何もないからさ」

「最底辺のお父さんになりたければ、勝手になればいいと思うけど。イレさんは、兄弟子なんじゃなかったの?」

「兄弟子は師匠ありきで、師匠が嫌われちゃったらおしまいだからさ」

 実際、師匠はちょくちょくよくわからないことをやらかして、パドマの逆鱗にふれていた。セットで裁かれるのは、腑に落ちない。

「兄弟子は、大事な兄弟子だよ。ごはんを奢ってくれるし、薪も胡椒も大盤振る舞いだし」

「それは、、、財布?」

「イレさんの唯一の長所なんでしょ? 変な人の防波堤も、最初だけだったしさ。正直、お父さんも、財布以外にどんな役割がある人なのか、知らないんだよね。お父さんになりたいなら、財布扱いして欲しいってことじゃないの?」

 パドマの家族は、ずっと兄だけだった。母も少し前までいるにはいたが、家族というより近所の人とか、友だちに近い存在だった。兄が親を兼任していたので、一般的な父や母がどういう生き物なのか、実感としては理解していない。

「お母さんの役割は?」

「たまに顔を見て、元気だった? って言う人」

「お兄ちゃんは?」

「朝ごはんを食べさせてくれた人。あと、お小言が面倒な人」

 パドマの家族に対するイメージは、イレの想像とはまったく違うものだった。おかしな家族の下に生まれて、苦労をした気分でいたが、パドマの話を聞く度に、恵まれていたのかもしれない、と思うことがある。

「じゃあ、兄弟子は、財布の人でいいや。財布って、貴重品だよね? 芋虫よりは、大事だよね?」

「ありがとう。じゃあ、早速、開店前にお風呂を借りてくるね。グラントさん、ついてきて!」

 流石、カエル以上の評価を持つ男である。自分たちに向けられる警戒心すら、超越しているのかもしれない。すっかり忘れていた面接官の仕事をしなければならない、とイレは思った。

「ナンパの人は、家にあげないで!」

「師匠さんは、これからケーキを作って欲しいし、イレさんはダンジョンに行くでしょ? 水汲みをやりたくないんだよ。自分でやったら、開店までに間に合わないじゃん。グラントさんの特技は、水汲みなんだよ!」

 パドマは、イレでも気付くような適当すぎる言い訳をほざいたが、グラントはまったく反論しなかった。イレは、2人の関係性が、理解できなかった。

「流石、パドマさんは、よくわかっていらっしゃる。水汲み歴は15年。何よりも得意です」

「おお、やっぱり? 大きいもんね」

「はい。ですが、苦手なことであっても、ご命令を頂けば、何でも実行致しますよ」

「もしかして、師匠さん退治も、イレさん退治も手伝ってくれるクチ?」

「ご随意に」

「やった。それなら、グラントさんが頭だ。おめでとう」

 パドマは、双手を挙げて、きゃっきゃと喜んでいる。会話は噛み合っているようだが、グラントとはかなりの温度差だった。

「幸甚の至りです」

 グラントは、パドマに跪いた。

 ただ声をかけて、店に連れてきた男のすることとしては、言っていることも態度もおかしい。またパドマがおかしなことを始めたのは、確定だ。イレは、収拾をつけられるか、不安を感じた。

「ちょっと、何の話をしてるのかな? 水汲みくらいダンジョンに行く前にやるから、ナンパの人はいらないからね?」

 師匠が、グラントを摘んで、どこかに捨てに行った。

次回、ちょっとした失言で、パドマがペンギン色に染められて。

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