表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
第2章.11歳
56/463

56.師匠と弟子の化かしあい

 結局、パドマは師匠を抱えたイレと帰ってきた。その間、師匠は、イレが仕留めたキタイワトビペンギンをずっと抱えていたのだが、ダンジョンセンターに戻り次第、イレがポイント景品のペンギンぬいぐるみと取り替えていた。師匠は、イワトビペンギンが好きらしい。そこで、ペンギンの売値を見て驚いたが、パドマはペンギンを狩るつもりはない。

 そのまま3人で、唄う黄熊亭に行った。


「イレさん、ごめんね。こんなのじゃ、補填にならないだろうけど、お詫びの品。もらって」

 パドマは、先日作ったヘビ革と牛革の財布をイレに渡した。黄茶色のヘビ革を筒状にし、丸い底をつけた巾着型の財布である。裏地には買ってきた牛革を使った。先日、財布の作り方を教えられたので、そのままヘビ皮を売るよりいい物ができないかと、わざわざなめして作ってみたのだ。ヘビが大きすぎて、乾燥台の確保が大変だった。

 チンピラに絡まれた日に、助けに来てくれたおっちゃんたちにも配ったのだが、まだ余っている。ヘビの革が、1枚だけでも大きいのに、何枚もあったから。

「後で、ダンジョンには戻るし、補填なんていらないけど、珍しい柄の財布だね。これ、どうしたの?」

「何でか知らないけど、財布工房に放り込まれたからさ。その経験を活かして、作ってみた」

「手作り? そんなの初めてもらったよ。すごいね。家宝にするよ。ありがとう」

「何故、家宝だ。使用に耐えないからか。わざわざ言わなくてもいいのに、流石はイレさんだ」

 パドマは腹を立てて、仕事に戻った。

「え? なんで怒ってるのかな」

 何よりも褒めたつもりでいたイレは、訳がわからず、何もできなかった。



 次の日、パドマは31階層のペンギンフロアにいた。

 3階層で、縁結びりぼんを食べたところまでは、良かった。そこまでは予定通りだ。最近は、ヘビ皮を売りすぎて値下がってきたので、今日は、20階層か30階層の火蜥蜴狩りをするつもりでいた。売値は30階層の火蜥蜴の方が断然高いが、20階層なら時間的に2往復はいける。だから、どちらにしようかな、と悩んでいたのだが、師匠に31階層に強制連行された。

 ペンギン好きらしい師匠は、わざわざ荷物になるペンギンぬいぐるみを、朝からずっと抱いている。恐らく、昨日から、片時も離さない勢いで抱いている。ペンギンを見たいのか、仕方がないな、とパドマは思ったのだが、階段を通り越して、フロアにぺいっと投げられて、階段は師匠に封鎖されて、戻れなくなった。

 20階層で、少しだけ火蜥蜴狩りをした時に、イレは先に行ってしまった。きっと、それを含めて、師匠の計画的犯行だったのだ。


「ペンギンは、狩らないって、決めたの!」

 上からジャイアントペンギンは降ってくるし、足元にはイワトビペンギンが集まってくる。フロア内を走り回りながら、隙をみて師匠に斬りかかるが、そんな片手間で、師匠を倒せる訳もなかった。何回か挑戦してみたが、軽くあしらわれている。パドマは剣を抜いているのに、師匠はペンギンぬいぐるみを抱っこしたままだ。足1本あれば、足りるらしい。惜しくもなんともない。突破できる気もしない。

 パドマは諦めて、下階層への階段を探して走り出した。ひとまず安全地帯に逃げ込んで、そこで師匠と対峙するなり、イレの帰りを待つなりした方が建設的だ。どう考えても、師匠が許してくれるまで、走ってペンギンから逃げ切るのは無理だ。師匠が許してくれる日は来ないだろうし、パドマの体力がすぐ尽きる。

 だが、みんなが通る道の正解がわからない。階段がある部屋の位置は、聞いた覚えがあるのだが、ダンジョンは、碁盤のような作りになっている。そこに辿り着く道は、何通りもあった。

 パドマは、多分、道を間違えた。積極的には敵にならないハズの種類のペンギンまで敵に回り、敵がどんどん増えてきた。歩くペンギンは大したことはないが、泳ぐペンギンは振り切ることができない。ペンギンは小さいので、通路も楽々通過して追いかけてくる。沢山のペンギンが空から降ってくるのに耐えられず、フライパンの防御だけでは足りず、キンメペンギンを斬ってしまった。ペンギンは、簡単にスッと斬れた。流石、師匠の剣だと思った。腹立たしいので、投げ捨てて走った。


 無事、下階層に降りる階段に辿り着いたパドマは、階段を半分だけ降り、踊り場で座ってうずくまった。上から人が歩いてきたのは、見なくともわかる。足音を消したくらいでは、誤魔化されてあげられない。だが、必死に無視をした。

 近付いてきた人は、パドマを抱え上げ、階段を降りていく。またフロアに放り投げられて、腰を打ったが、パドマは無視して、動かなかった。32階層には、まあまあ殺傷力のある敵がいるのだが、見もしない。部屋に2羽いるなと思ったが、動かなかった。

「パドマ? 何してるんだ? 昼寝か?」

 パドマの周囲に、どんどん人が増えたが、パドマは無視し続けた。通りすがりのおじさんたちは、パドマのことを心配し、ケガの具合を聞いてくれたりするのだが、パドマは口を開くことができなかった。

 おじさんバリアができると、帰ることが可能になった。師匠は、ダンジョン攻略よりも、外面を優先するからだ。


 ダンジョンセンターから出て、道の分岐に差し掛かる度に、おじさんたちと別れた。半数以上のおじさんと別れたところで、パドマは仕掛けた。静かにナイフを投げて、剣鉈を持って師匠に接近し、足を狙って斬りつける。師匠は、パドマの攻撃など簡単に避けたが、パドマの気は晴れた。パドマの足の下には、ペンギンのぬいぐるみが落ちていた。

 師匠が斬れないのは、わかっていた。そんなものは、狙わない。あわよくば斬れないかと、わりと本気で仕掛けてはみたが、成果が上がらないことは、わかっていた。

 師匠は避けるし、反撃もしてくるが、パドマを殺すことはない。反撃の武器にぬいぐるみを選択したから、足蹴にしてやったのだ。師匠は、気に入っているものでも、自分の身の安全のためなら、簡単に危険に晒す素敵な性分である。暗器を出すより、既に手に持っているぬいぐるみで反撃してくるだろうと、パドマは踏んだだけだ。パドマは、わざわざ武器を出して応戦するほどの実力がないし、ぬいぐるみであれば、パドマを殺す危険性も低い。

 パドマは、ぐりぐりと思いっきりペンギンを踏みにじって、師匠を置いて帰った。

「可愛いペンギンちゃんを斬り慣れたから、踏みつけるくらい訳ないよね」



 夕方、師匠は、唄う黄熊亭に、皇帝ペンギンのヒナぬいぐるみを抱えて現れた。イレと並んで、とても幸せそうな顔をしている。ポイント交換所でデートが成立するのだから、とても似合いのカップルだ。貢いで貢がれているだけの間柄のようだが、イレがべた惚れで、師匠は他所に走る気配はないので、別にいいのだろう。


 パドマは、師匠の前に果実水と、ペンギンの丸焼きを置いた。羽根をむしってもいないし、解体してもいない文字通りの丸焼きである。嫌がらせのためだろう。きちんと形状が保たれたペンギンにしか見えないペンギンだった。丸焼きテクニックだけは、師匠の上をいくと、パドマは自負している。長年、兄の焚火クッキングを見学してきたのだ。トロ火でじっくり焼いたので、中までちゃんと火が通っていると思う。

「ペンギン好きの師匠さんのために、わざわざ買ってきて、ウチが手ずから調理した。丹精込めて、頑張って作ったの。森で培った技術と、師匠さんに教わった料理技術を総動員して、最高の品に仕上げたつもり。日頃の感謝のしるしだよ。是非、食べて感想を聞かせて欲しいな」

 パドマは、師匠の対面に座って、とてもいい笑顔を浮かべている。周囲のおじさんたちは、ペンギンは不味い物だと知った上で、ゲテモノ食いの師匠さんだからな、と納得して、微笑ましく見守ってくれている。日頃、察しの悪いイレは、珍しくパドマの内心に気付いたが、悪いのは師匠なんだろうな、と思ったので、目を逸らした。パドマの機嫌を損ねる勇気はない。師匠の機嫌を損ねる方が、断然マシだと思った。

 師匠は、周囲に味方がいないのを感じとって、泣く泣くナイフとフォークを手に取った。食べれそうな場所を探して、解体していく。

「師匠さんは、しゃべってくれないから、感想がちっともわからないね。泣くほど喜んでくれてると思っていいかな」

 楽しそうに尋ねるパドマに、師匠は、脂ののりすぎる肉を口に入れて、首を横に振った。

「あれ? 料理失敗しちゃったのかな? 何が悪かったんだろう。明日は、香草を詰めて焼いて、再チャレンジするね」

 ふふふと笑うパドマは、とても可愛かった。

 パドマの怒りを解いて欲しいと、イレに金をつかまされたヴァーノンは、パドマの前に、トマトとチーズのサラダと、ブロッコリーのチーズ焼きと、大根餅と、チーズシュークリームと、果実水を並べた。機嫌が悪いパドマは、ヴァーノンも怖い。全力でカロリー計算をした。

 パドマの興味は、ヴァーノンが持ってきた料理にうつったが、師匠はペンギン焼きを完食するまでは許されなかった。最終的には、どう考えても可食部ではないだろう、焦げた羽根や骨まで、口に詰められていた。

次回は、少し休憩。お友達と遊んで、また噂に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ