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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
第2章.11歳
50/463

50.ジュールと一緒

 パドマが、朝、家を出ても、パドマを待っている人は誰もいなかった。そのまま1人でダンジョンセンター前まで行き、ジュールから弁当を受け取って、その場で食べた。

「今日は、パン?」

「トカゲドッグだそうですよ」

「そうなんだ。ああ、中に肉がいたよ」

 弁当の包みを開けたら、ただのフィセルが出てきた。おいおい、とうとうパンだけかよ、と思ったのだが、かじってみたら、中におかずが仕込まれていた。買ってきたパンに肉を挟むところから、パンを自分で焼くところまで、ステップアップしたらしい。ヴァーノンは、日々成長している。パドマは、それをかみしめた。

 これっぽっちも成長が見られない男が、パドマを見てもじもじしていた。絵面が大変ウザいと、パドマは思った。言いたいことがあるなら、とっとと言えばいい。時間は有限なのだから。雇い主の妹だとはいえ、ただの年下の小娘に遠慮する意味がわからない。

「あの」

「何?」

「今日は、師匠さんたちは?」

「休み」

「でしたら、ダンジョンにご一緒することはできませんか?」

 パドマは、あっという間に弁当を食べ終えた。そんなことを言われるならば、移動して食べれば良かったと、後悔した。

「弁当屋の売り子を手伝え、ってことか」

「そういうことでは」

「まぁ、いいか。あんたは、腐っても男だもんな。ウチよりは、いくらかマシか」

「え?」

 パドマは、弁当の包みを丸めると、立ち上がって声を張り上げた。

「弁当残り23個! 欲しい人は、早めに買って!!」

 実際は、50個以上残っていたが、知り合いを見つける度に買えと押し付けて、パドマは瞬殺で売り切った。

「じゃ、片付け次第、ここに集合。できるだけ大きい素材回収袋を持ってくること」

 屋台の片付けまでは手伝わず、パドマは一度自室に引き上げた。


 パドマは、ダンジョン用基本装備にヤマイタチを背負って、ダンジョンセンター前広場で待っていた。中に入れば、イスがある。失敗したな、と思った。待ち合わせで待つ側になるのは、初めてなので、考えが及ばなかった。

「遅くなりました。すみません」

 ジュールは、走ってやってきた。前に見た革の防具に剣、それにフライパンを持っている。

 フライパンを他人が持っている人を見ると、武器屋のおっさんの笑顔が浮かんで、パドマはしょっぱい気持ちになる。

「いいよ、別に。屋台の片付けご苦労様。素材回収袋は持ったね? ところで、聞き忘れたんだけどさ。あんた、ソロで何階まで行ける人?」

「ソロで? 1人で入ったことは、ありません」

「マジか! あんたが噂のリア充か。えー、入ったことがないとか、しょうがないな。じゃあ、行くよ」

 ぜいぜい息を切らしているジュールに休憩を与えず、パドマはダンジョンに向かって歩き出した。


 パドマは、1階層に着くと、ヤマイタチを下ろしてリュックをセットした。

「ここからしばらく、露払い役は引き受ける。騒がず黙ってついてきてね」

 パドマはそう言うと、2階層に向かって駆け抜けた。カマキリを正面から蹴り倒して進み、ツノゼミやトリバガはフライパンを手前に掲げるだけで進んでいく。火蜥蜴に至っては、ただ走り抜けるだけだった。

 ジュールは、大人しくついて走ってきたが、黙っていることはできなかった。ところどころで、悲鳴をあげたり、悲鳴をあげたりしていた。悲鳴をあげる理由をパドマは見たが、無視した。ジュールは元々、パドマと師匠についてくるのを希望していた。この程度を自力で切り抜けられなくて、どうするんだよ、という思いしかなかった。死ぬどころか、ケガをする心配もないところでまで、ジュールはいちいちキャーキャー騒いでいた。師匠並に可愛いのであれば助けなければと思うが、探索者を名乗るのであれば、騒ぐより先に剣を抜けばいい、と思う。

 パドマは11階層に着くと、そのまま剣を抜き、ミミズを切り刻んで、10階層に戻った。


「それは、なんでしょう」

 ジュールは、刻みミミズを火蜥蜴を使って焼いているパドマに、笑顔を引きつらせている。パドマにとっては、見慣れた反応だ。最初は、パドマもそちら側の人間だった。だから、そうだろそうだろ、何やってんだろって思うよねと思うが、ジュールの評価には興味がないから遠慮はしない。

「ミミズトカゲ焼き。お兄ちゃんの弁当に度々入ってるから、弁当を食べてる人は、食べたことがあると思う。ちなみに、火蜥蜴ソロ制圧の次の課題が、これらしいよ」

「そんなのできるハズがない、とは言えませんね」

 ジュールは、肩を落としてガッカリしていた。

「うちのお兄ちゃんは、こないだみたいな調子で、

やれって言ったら、あっさりこなしてたし、武器屋のおっちゃんは、男ならできて普通、って言ってたよ」

 パドマが棒手裏剣串を1本渡すと、ジュールは受け取った。食べたことがあるかは知らないが、食べる気はあるらしい。

「普通ではないと思いますよ。みんなで力を合わせて倒すのが、普通です。勘違いですよ」

「そうなの? 騙された。ウチも、無理やりやらされたクチなんだけど」

「それで、出来てしまうのが、素晴らしいですね」

「そうかな。噂の新星様はすごいけど、あれは武器屋がでっち上げた嘘話だからね。本当は、そんなんじゃないんだよ」

 自分用の串焼きを平らげると、パドマは立ち上がった。

「よっし、次行くか」

 ジュールは、慌てて食べ切って、後に続いた。


 トカゲ階は、走り抜ける勢いで、出会う敵を全て仕留め、トビヘビは進行方向の邪魔になるものだけフライパンで弾いて進んだ。

 16階層に着いて、ようやくパドマの足は止まった。

「やあっと着いた。ここが、今日の狩場だよ。君の働きに期待をしているよ?」

 ジュールに向けて笑いかけると、パドマはブッシュバイパー目掛けて、飛び出して行った。

「巨大蛇狩り?! 無理ですよ!」

 ジュールは驚愕し、叫び声を上げた。


 今日の蛇狩りは、贈答用ではなく、皮採取用である。遠慮なく首を切って構わない。パドマは、蛇の身体を走りあがって首を斬り落とし、そこから飛び移って別の蛇の首を斬った。

「何が無理だ! もう蛇は斬った。手伝いに来い!! お前は、何しに来たんだ!」

 パドマが呼ぶと、ジュールが階段から降りてきた。

「わたしは、何をしに来たのでしょう」

「そこからか! ヘビの皮むきの手伝いと、ヘビ皮運びの手伝いに決まってんじゃん。死なれても面倒だから、狩れとまでは言わないよ。でも、探索者なら、キャーキャー言わずに皮むきくらいやれるよね。できたら、皮むきを全部お願いしたいところだけど、半分で許す。頼むから、手伝って」

「わかりました。どのようにやれば良いのでしょうか」

「それも、やったことがないのか。しょうがないなぁ。じゃあ、最初は、背開きのやり方からね」

 おあつらえ向きに蛇は2匹仕留めた。説明がてら1匹むいて見せて、もう1匹は実際にやってもらうのに丁度良い。そのままの勢いで、ヘビを50匹ほど仕留めて皮を持ち帰った。


 ダンジョンセンター手前に着くと、ヤマイタチのリュックをパドマのリュックに仕舞い、パドマはヤマイタチを抱えた。

「それじゃあ、換金しに行こう」

「はい」

 ジュールが運んだヘビ皮を全て換金窓口に出すと、大銀貨6枚と中銀貨5枚になった。パドマは、大銀貨3枚を抜いて、残りをジュールに渡した。

「待って下さい。こんなにいただけませんよ! 半分より多いじゃないですか」

 ジュールは、慌ててパドマにお金を返そうとした。パドマは、ニヤリと笑って、受け取りを拒否した。

「騙されてるよ。ヤマイタチに持たせてた皮は、売ってないんだよ。半額以上は、既にハネた上で、半分取ったんだよ。だから、気にしないで貰えばいい。前に言ったじゃん、上前だけ持ってく気かって。これが、そういうことなんだよ。精々、心を痛めてもらってくれたまえ。今日、手伝ってくれた賃金だよ」

「すごいなぁ。そこまで行けば、1日でこんなに稼げるのですね。並び立つのは、大変そうだ」

 ジュールは、硬貨を見て、嘆息した。ダンゴムシの稼ぎとは、ケタが違った。この稼ぎは、命からがら漸く手に入れたものではなく、自分と同じように楽々手に入れているように見えたのに。

「一緒に行く人数が増えれば増えるほど、分け前は減るし、そうじゃなくても今日は、ちょっと売りすぎたから、しばらくヘビ皮は値下がると思うよ」

 ジュールは、毎日何も考えずにダンゴムシをせっせと運んでいるだけなのだが、パドマは、市場価格まで気にして狩場を変えているようだ。だとすれば、今回が特別稼げる仕事ではなかったのかもしれない。

「パドマさん、同じ土俵に上がれるよう努力します。わたしのことを待っていていただけないでしょうか」

「無理だね」

 ジュールは、真摯な想いを伝えたつもりであったのに、パドマは、一考もせずに切り捨てた。

「う」

「16階層なんて、もうとっくの昔に通り過ぎた場所なんだ。3階層でダンゴムシ狩るか! みたいな気分で行く場所なんだよ。その上、ウチの行き先は、ウチが決めてないの。師匠さんが勝手に決めるから、待てない」

「いえ、そういう意味ではなかったのですが」

 ジュールは、探索パーティに混ざりたい人物だと思われていることを悟った。だが、断られたことによって、更に惚れ直した。目が曇っているジュールは、パドマの回答を、素直ですれていない初心な女の子の成せる技だ、と結論付けたのだ。ダンジョンで追いつけないなら、それ以外で追い付く方法を模索してもいいと思う程度に、勘違いを増幅させていった。

「違うの?」

「はい。もう少し引っかかる人間になってから、改めて申し込みをさせて下さい」

「受付窓口は、イレさんでよろしくね」

 もう関わり合いになることはないだろう、というパドマの別れの言葉だった。実地で同行の無理さ加減を伝えたのだから、わかってくれると、パドマは信じた。

「イレさんですか? ヴァーノンさんではなく??? わかりました」



 パドマは自室に帰って、ヘビ皮のお茶漬けを作ると、買い物に出かけた。

次回、まだまだ師匠さんは寝てるので、遊びに出かけた上で、場外乱闘をしてきます。ちょっと嫌な話を挟みます。

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