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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
第1章.8歳10歳
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5.妹の友だち

 クマは、弾丸のように前に飛び出し、カマキリのカマが振り下ろされる前に、首をはね飛ばした。そして、またピタリと止まる。

 パドマの知り合いの中で、1番役に立つのも、1番格好いいのも、クマで決定だ。見た目はふわふわで可愛いのだが、カマキリを倒す動きはイケメンだった。さっきまでは、マスターが1番だと思っていたが、これは仕方ないと思った。

 そのまま気を良くして、階段を降りた。階段を降りる度に、違う巨大昆虫が出てきては、特徴を捉える前にクマに倒される。パドマは、素材を回収して、クマを運ぶ。1階層では小脇に抱えていたのに、今はお姫様抱っこである。クマさえいれば、両手がふさがってしまっても、問題を感じなかった。


 10階層まで降りると、クマは震えて、抱きついてきた。なんのことやらわからなかったが、階段から10階層を覗くと、トカゲが見えた。黒と黄色のマダラのトカゲだ。確か、あのトカゲは、火を吹く。切り裂き攻撃は耐えるが、燃やす攻撃は苦手だと言うことだろうか? パドマは、クマを失う気はない。そのまま引き返して帰った。

 今日の収穫物を売り払うと、いつもの20倍くらいの金額になった。このままマスターに全額渡すと、薬草採りをしていないことが、たちどころにバレてしまうだろう。いつもと同じくらいの額をマスターに渡すとして、余るお金を軍資金にクマを入れるリュックを買いに行くことにした。


 ヒゲおじさんに、荷物運び用のリュックを買ってもらった店に行った。ダンジョンの深階層へ行く人は、大量に荷物を持ち込むらしく、パドマが3人くらい入れそうな巨大なリュックも売っていたが、大きなリュックは全部大人サイズだった。無理に背負おうとすると、肩幅のサイズが合わずに、下に落ちてしまう。手でつかんでいれば背負えるが、ずっと持っているのは鬱陶しいので、やめた。そういう訳で、残念ながらクマがすっぽり入るサイズのリュックは、大きすぎて背負えなかった。

 子どもサイズの一番大きなリュックは、クマの顔が外に飛び出るが、入らないこともない大きさだった。仕方がないので、諦めてそれを買うことにした。嫌なら、大人サイズが背負えるくらい早く大きくなれば良い。

 妥協して小さな物にしたものの、まだ大き過ぎて上げ下ろしが扱い辛かったので、ナイフその他は、ベルトに下げることにした。これで、クマに転ばせられることもなくなるだろう。何より、予算以内で買い物ができたのだから、それでいい。



「おっちゃん、おっちゃん、ちょっと相談があるんだけど、生春巻き頼んでも良い?」

 いつもは、オススメを聞かれて答えるスタイルなのに、どうせ奢ってくれるでしょ、という厚かましい気持ちで、ヒゲおじさんにパドマから声をかけた。持ってくるのが面倒臭いという大変よろしくない理由で、エールも3つ持ってきた。もちろん、パドマの奢りではない。

「あー、うん、いいけど。どうしたのかな?」

 生春巻きを持ってきたら、相談を始める。議題は、今日の稼ぎについてである。2階層以下に進んで素材を集め、お金を稼ぐのと、1階層でポイント稼ぎをするのと、どちらがいいのか、という話だ。先に進んでポイントも増えるなら良かったが、クマが瞬殺してくれるとは言っても、そもそも出会う数が違いすぎた。

「お金を稼いだ方がいいに決まってるよ。ポイントなんて使い道ないし。欲しい物があれば、言ってくれたらいくらでもあげるし、いらないでしょ」

 ダンジョンを紹介してくれた人で、唯一の深階層プレイヤーの知り合いだ。ダンジョンと言えばと、相談相手に決めたのだが、貯金のできないダメおじさんにする話ではなかったかもしれない、と答えを聞いて気付いた。

「ポイントはさ。交換所でしか使えないでしょ。あそこは、ダンジョン関連グッズしか置いてないからさ。ポイントじゃ、ごはんも食べれないし、まったく生活費にできないんだよ。あんまり貯めても、うっかりすると消えてなくなるし。美味しいごはんを食べれるお金の方がいいよ。正直、交換景品なんて、最初はいいけど、先に進むとあんまりだし。貯めなくても貯まっちゃうから」

 前向きに捉えるとして、ある程度進むと嫌でもポイントが貯まるようになるから、お金がいいということだろうか。薬草採りで稼げるようになった言い訳さえ思い付けば、マスターに渡すお金が増えた方が、恩返しになっていいかもしれない、と思った。

「そうだ。クマちゃん、10階層が怖いみたいなんだけど、9階層までで終わりなのかな?」

 深階層では使えない、いらない、必要ないと連呼されるポイント景品だ。10階層以降が使えないのであれば、確かに、ヒゲおじさんがいらないと言う話は頷ける。深階層は、何階層からなのかも知らないのだが。

「10階層ってなんだっけ? その辺は、みんなすっ飛ばして行くから、忘れちゃった。虫ゾーンだよね。クマソロでも30くらいまで行けたと思うけど」

「10階層は、トカゲだよ。すっ飛ばすって何?」

「あー、それか。クマは、火蜥蜴退治は、禁止されてたかも。10階層突破は、どうしようか。

 お兄さんはね。深階層日帰りプレイヤーなんだよ。時間もったいないから、低層は、モンスターを無視してすり抜けるか、蹴倒してダッシュで通り抜けてるんだ。あ、真似しちゃダメだよ? トカゲは、ちょいムズだから」

「避けれるの? 危なくない?」

「ここじゃないんだけどさ。お兄さんの出身地にあったダンジョンは、モンスターを倒したら殺されるっていう決まりがあってね。もう避けるしかなくて、パドマくらいの頃、頑張って覚えたんだよ。師匠監督の下でやってたことだから、1人でやっちゃダメだからね」

 モンスターを倒したらいけないダンジョンは、何のために入るのだろう。なんの収穫も得られないダンジョンに入って、殺されるかもしれないペナルティがあるって、いいことが1つも思いつかない。でも、そこに行く予定はないから、その件についてはパドマはスルーすることにした。

「倒せないモンスターは、通り越さないよ。帰れなくなるから」

「なんて、賢い! お兄さんは、何度それで帰れない日を過ごしたことか」

 本気で関心したような顔をするヒゲおじさんに、パドマは、やはり相談には向いていない人だった、と言う評価を下した。



 パドマは、昨日のヒゲおじさんの相談で、気付いたことがあった。ヒゲおじさんは、ポイント景品は、すべてダンジョン用品だと言っていた件だ。ただのぬいぐるみだとベッドに転がしていたクマは、殺モンスター兵器だった。では、ただの装飾具だと思って、放り投げていたネックレスは、どうだろうか。

 ヒゲおじさんは、「やっぱり女の子は、ピンクだよね」と、交換してくれたのだが、これにも何か効能があるのかもしれない。ビビッドピンクがパドマの趣味に合わず、手持ちの洋服にも合わず、長過ぎてサイズも合わない。だから女性にフラれるんだよと思って受け取ったものの、身に付ける気にもならなかった。しかし、効能重視で選んだと言うなら、仕方ないよね、と納得することができる。


 そういう経緯で、今朝のパドマの出立ちは、更に珍妙なものになった。上下グレーの作業着に、黄色い巨大なリュックの口から同じ色のぬいぐるみの顔が飛び出し、腰のベルトには赤いナイフを数本くくり付け、極め付けとばかりに濃いピンク色の腰まで垂れるネックレスを首から下げて、いつものフライパンを持っている。

 なんで、妹がそんなことになっているのか、疑問で仕方がなかったが、ヴァーノンには、かけるべき言葉が見つけられなかった。それらを買うお金は持っていなかったハズだから、ダンジョンで何かあったのだと思う。だが、カマキリを倒したお金くらいで揃えられる物でもない。出所は、知っておくべきだろうか。

「それ、どうしたんだ?」

「あー、酒場の常連さんにもらったんだよ」

「無闇に、人から物をもらうのは、良くないぞ」

「そうだね。でも、これは人助けの一環だから」

「何が人助けなんだよ」

「女の人にプレゼントしたかったけど、フラれちゃったんだって。プレゼントをそのまま持ってるのも、捨てちゃうのもできないみたいだから、もらってあげたの。コレ見たら、何でフラれちゃったか、わかるじゃん? もらってあげないと次の人にもコレを渡しそうだからさ。これは、人助けだよね」

 想像していたのと、まったく違う理由に、ヴァーノンは目眩を覚えた。妹は、ダンジョンだけでなく、方々で自分の知らない世界を作っていた。恩人に礼を尽くしたいとは考えていたが、酒場の手伝いは、交代した方がいいかもしれない。

「もらうまでの経緯は、理解した。だが、使わなくてもいいんじゃないか?」

「一回は使って、感想を言えるようにした方がいいかな、って。なんかさ、おじさん、驚異的にモテないみたいでさ。店の売り上げ的に結婚して欲しくはないけど、いくらなんでも過ぎて、見てられない酷さなんだよ」

 話の内容的に、ふざけてからかっているのかと思ったが、妹はどうでもいいところで律義な性格だったらしい。店の客は、おじさんばかりだ。妹もおじさんだと言っているのだから、間違いなくおじさんなのだろう。妹は、まだまだ子どもだからと思っていたが、子どもに驚異的にモテないと評される人物と付き合わせて、事件が発生しないか心配になった。

「そんなのと話なんかして、危なくないのか?」

「ここ1ヶ月で、お店の店員さんを除いたら、ヤギくらいしか話してない気がする、とか言うんだよ。可哀想過ぎるでしょ? よく考えたら、ウチも似たようなものだったことに気付いてさ。放っておけないんだよ。ごはんくれるし」

 自分の職場には、同年代がいるが、妹の職場には、そんなものはいない。おじさん以外に友達を作りようがないことに、ヴァーノンは気付かされた。

「今日は、酒場の手伝いを交代してもいいか?」

「わかった。今日は夕飯を自分で用意するよ」

 いつもの場所で別れて、それぞれの職場に出かけた。

次回、題に採用されてるダンジョンマスターさんの話が、ちょっとだけ出てきます。

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