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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
2-1章.18-15歳
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459.誕生日祭見物終了

 英雄様誕生日祭の武闘会が終わった。今年は、とんでもない大番狂わせの回になった。

 まず、綺羅星ペンギンの部がなくなった。誰も出場希望者がいなかったのだ。レイラーニが行方不明になったため、エントリーする者はいなかった。優勝しても、労ってもらえることも一戦交えることも観戦してもらえることもないとなっては、やる気になる者がいなかった。うっかり優勝してしまうと次回に出場できないため、レイラーニが戻ってきた時に出場できなくなる。そのため、誰もエントリーしなかった。

 次に、一般の部の優勝者がカーティスだった。カーティスは、何の変哲もない細身の初老のおじさんである。ダンジョンに行くという話も聞かないし、事務仕事か、司会業をしているか、教育係をしているか、普段はそのくらいしかしていない。力仕事も人任せでやっていない。

 ぬいぐるみ剣を使った得点制だから、実戦とは異なる可能性はあるが、素早い身のこなしで相手の剣を全て避け、的確に無駄打ちなく得点を重ねて、危なげなくそのまま優勝してしまった。

 以前、パドマに優勝するのが当たり前だと言い、勝手なことを言うな、大変さも知らないで! とパドマは言い返したが、カーティスにとって武闘会の優勝は簡単なことだったのだ。ルーファスも実は強いようだったし、改めてアーデルバードの戦士の層の厚さを実感させられる出来事だった。戦闘員は沢山いるのに、隠れ戦闘員も強すぎた。

 レイラーニがいなくなってしまったため、仮令師匠がシャルルマーニュ側についても簡単にはやられないぞと、メドラウトたちに見せる示威行為として、カーティスは出場したのだ。本当はイギーにやらせたかったが、イギーは全試合で八百長をしなければ優勝は無理なので、諦めてカーティスが引き受けた。カーティスならば驚きを与える人材として適当で、世代が上だから後継者争いが再燃しない。間違っても、ルーファスを出してはいけないのだ。お土地柄で、強い男は尊敬と憧れの対象になりやすい。だからルーファスは、バラを愛する軟弱女装男を演じているのだ。ルーファスが紅蓮華を継げば、アーデルバードはダンジョンの街を返上してバラの街になってしまう。バラのためなら事業を成功させるだろうが、利益の全てをバラに捧げてしまいそうだから、ルーファスだけはやめておこうというのが、上層部の考えだ。ルーファスも、バラに興味もないヤツらと付き合って、バラと戯れる時間が減るのは本意ではないので、面倒なことはイギーに振って、売り上げだけ上げている方がいい。テッドに任せて楽隠居し、バラ栽培に全振りすることも考えている。



 表彰式が終わり、あとは屋台で買い食いをして、花火を待つばかりと言う時間に、レイラーニは師匠に囁いた。

「今からセレちゃんのところに帰ろうと思うんだけど、一緒に来てくれる?」

「今からですか? 戻るのは、明朝の予定ではありませんでしたか」

 師匠は、悲しげに手元を見ている。次の花火は和装で見たいと、お揃いの着物を用意していたのだ。レイラーニの振り袖も帯も飾りも、師匠が糸から作った物だった。

「予定はそうだったけど、それだとお兄ちゃんたちがついて来ちゃうからさ。イレさんはいても役に立たなそうだし、お兄ちゃんは危険なところに来て欲しくないの。そろそろちゃんと仕事に戻したいの」

 レイラーニは師匠だけについて来いと言っている。ならば応えねばならないだろうと、師匠は腹を決めた。

「承知しました。今すぐに着替えます。少々お待ちください」

「うん。ありがとう」

 今、師匠はレイラーニのコスプレをしている。久しぶりに養父に会い、戦わねばならないのに、この格好はない。度肝を抜ける可能性はあるが、絶対にバカにされる自信がある。師匠は近くの紅蓮華の店の部屋を借り、手早く着替えた。



 着替えた師匠は、真っ黒になっていた。服もマントも髪も瞳も黒である。レイラーニの扮装をしていた時点でほぼ黒だったが、更に黒を足したように見えた。その姿であれば、魔法使いの子だと言われても、そうかもしれないとレイラーニは思った。父親の服装と比べて、腹回りから膝までがやけにだぶついているように見えるが、きっと腹回りの肉の所為ではなく、暗器が仕込まれているからなのだろう。

「お待たせ致しました。それでは参りましょうか」

 気合いを入れている師匠に、レイラーニが笑った。師匠は戦装束のつもりでいるが、レイラーニは感動の父子対面のつもりでいる。久しぶりの再会に師匠が緊張しているなら、ゆるませてあげようと思ったのだ。

「そんな格好してると、ちょっと格好いいね」

「え」

 くすくすと笑うレイラーニが可愛くて、師匠は頬を染めた。髪は銀じゃなくて黒だったか! と反省したが、相手はレイラーニである。すぐに落胆させられた。

「クロちゃんの娘って感じがするよ」

「そ、そうですか。娘、、、」

 ふぅと、すっかり力みが取れて、半泣き状態になった師匠に、レイラーニは頓着しなかった。

「じゃあ、そろそろ、行って良ければいくね」

 マッティアを背負い、ミンディを抱っこしたレイラーニは師匠の肩に触れ、呪を唱えた。目的地がダンジョン以外だと魔力切れで死んでしまう可能性があるが、魔法で瞬間移動ができるようになったので、一気に魔法で101階層までとんだ。

 目立つ2人だが、人目を避けてから魔法を使ったので、誰にも気付かれることはなかった。

短いですが、これで。

次回は父子再会。

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