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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
2-1章.18-15歳
433/463

432.海底神殿?

「ぴかぴか黄金龍(おじさん)。お兄ちゃんを完璧に治しなさい。しくじれば呪われるわよ。覚悟なさい」

 美女が(おどし)を口にすると、金色(こんじき)の光が燦然と輝き、周囲に舞った。それに包まれた美女は美しかったが、レイラーニは見ていなかった。美女が消えたことすら気付かずに、師匠を見ていた。人の形に並べられていた師匠は、皮が伸び、繋がるべきところと癒着した後、あるべき長さに縮んで元の形に戻った。くっついた箇所はミミズ腫れのように痕が残っていたが、それも時間とともに薄くなり、身体に吸い込まれていくように消えていった。見た目だけは、元通りの師匠になった。

「師、匠さん、師匠、さん」

 レイラーニの掠れたような声に、師匠は反応してうっすらと目を開けた。レイラーニは器用に海の中で泣いていた。目から溢れた涙はすぐに海水に混ざり合ってしまうが、海水までの僅かな空気の層があることで、それが目視でわかる。師匠はそれを拭おうと手を伸ばしたが、レイラーニに避けられた。それだけでもショックを受けたが、レイラーニはこともあろうに、師匠のくちびるにくちびるを重ねて魔力を流した。師匠の血は、一気に逆流した。

 驚きすぎて、師匠の頭はフリーズした。だから、正気に戻って抱きしめようと動いた時には、レイラーニはサメタコの後ろに逃げていた。水中だと言うのに、食料庫に発生するネズミよりも素早い動きだった。

「自分からしておいて、その反応はひどくありませんか」

 師匠はむくりと起き上がって、座った。レイラーニの魔法が自分のそれより上等で、会話が出来るのを認めないことにしていたのをキスで忘れた。だから、思わずツッコんだ。

「だって、緑クマちゃんと約束したの。口から魔力を入れたら、効率が良いんだって。だから、師匠さんは」

 養父とキスをするんだよね、と言う言葉は飲み込んだ。レイラーニなりに考えた魔法使いがキス魔な理由だ。考えて納得したが、さらりと違いますと言われる気がしたので、言うのはやめた。養父は変態だと聞いている。格好良いいにしえの魔法使いは幻想なのだと、そろそろ認めなければならないのだ。見た目はイケメンだったから、そうでなくちゃ! と喜んでいたのに。

「あとね、間接キス? がしてみたいって、頼まれたから!」

 レイラーニの顔が、完全にサメタコの後ろに隠れた。師匠は、頭を抱えた。

「何故、そんなに簡単に騙されるのですか。絶対にそんな理由ではないでしょう。ああ、でもでも、地龍様、ありがとうございます。今回のイタズラだけは支持します。絶対に他の人にはしないでくださいね」

 師匠は、顔を手で覆って身悶えした。妹分が2人揃ってバカすぎて、嬉しくて恥ずかしかった。ひとしきり感情に揺れて落ち着いたら、立ち上がった。1人だけさらわれて殺されたことはなかったことにして、レイラーニに手を差し伸べた。

「クラーケン討伐は無事終了致しました。帰りましょうか」

 レイラーニは師匠の笑顔を見て、やっと日常が戻った気がして安心したが、そこで急速に現実に戻った。思い付いた心配ごとを口にする。

「あのさ、うっかり倒しちゃったけど、このサメ、神様だったりしないよね」

「神様? どういうことでしょうか。この世界の神は現在7柱。全員、私の知人です。このクラーケンは神ではありません。これだけの大きさですから、土着信仰の神になっている可能性はありますが、倒さずとも近々に死ぬか、この土地から離れたでしょう。自分の足以外に食料がないようですから」

「だってさ」

 レイラーニは、気になっていたものを指差した。その示した先には、ギリシャ様式のかなり大きな建物があった。たくさんの柱が狭い間隔で並んでいる上に、梁が渡されている。その柱も梁も、すべてに彫刻がされていて、シンプルな作りながら重厚感もある。神を祀った場所だと言われれば、そうかもしれないと思う、そんな場所だった。

 師匠は、それを見てなるほどと思った。レイラーニにしては、悪くない着眼点だ。

「確かに、これは神殿ですが、クラーケンを祀ったものではありません。確か、村に神社を作ったら母に叱られた養父がこっそり作った神殿だったと思います。まさか、こんなところに隠されていたとは、懐かしいですね。養父が隠したのか、母が怒って海に沈めたのかは存じませんが、あの当時は頻繁に地形が変更されていましたから、いつかこうなったのでしょう。地上にあった時も美しかったのですが、ここで見るのも一興ですね。折角ですから、もう少し光が当たるようにしてみましょうか。

 堅実なるフェルゼンロカよ。我の放つ光の矢を受け入れ、扉を開けよ。闇夜を引き裂き、輝ける存在となれ。我が手に銀河の煌めきを」

 師匠が謎の呪を唱えると、神殿の上にあった岩盤に亀裂が入り、強い光が入ってくるようになった。その光が当たることで、神殿はより神秘性を帯びたようにレイラーニには感じられた。

「キレイだね」

「そうですね」

 師匠はレイラーニの隣を陣取ろうとクラーケンを回り込むと、レイラーニも同じ方向に回って、入ってきた洞にまた入って行った。

「いいことを思い付いた!」

「暗いところを通ると、迷子になりますよ」

「ああ、目印の傷をつけて来たから、大丈夫ー」

 師匠が止めても止まらなかったので、諦めて、クラーケンを持って追いかけることにした。



 レイラーニが船に戻ると、何故か船室でヴァーノンはずぶ濡れになっていた。緑クマが船にいてと懇願したのに、無視してレイラーニを助けに行ったからだった。緑クマのぬいぐるみは、レイラーニの恩人だと聞いたから、意見を尊重して、姿を現さなかった。だが、レイラーニが泣き止まないのであれば、すぐに助けられる位置にいようと思ったのである。師匠とレイラーニが良い雰囲気になる予定だったので、師匠復活と同時に黒髪の美女にさらわれて船に戻ってきたところだった。

「おう、おかえり」

「ただいま。なんで濡れてるの?」

「暇だから、泳いでいた。さっき上がったところだ」

「そうなんだ」

 ヴァーノンは、こっそり見守るのは慣れていたから、いつものように適当な言い訳をした。緑クマに「嘘吐き!」と睨まれているが、意に介さない。ぬいぐるみが動くのは、妹の周囲では良くあることだし、絶世の美女より妹の方が可愛いから、興味が持てなかった。

「あのね、この下に神殿があったの。キレイだから、見に行かない?」

「それはすごいな。だが、疲れてないか? 神殿は逃げないから、休んでからでもいいと思うぞ」

「緑クマちゃんに魔法で回復してもらったから、疲れてないの。明日はタコパーティで忙しいから、今日行こうかなって。ああ、でも、ドラパソに置いて来たハワードちゃんたちにも見せたいな。あいつら観光に来たんだし、あれを見なきゃ、ドラパソまで来た甲斐がないよね」

 レイラーニがうーんと唸ると、緑クマがイス代わりに座っていた長持が開いて、ひよこ頭とライオン頭が出てきた。ハワードとヘクターだった。

「俺たちなら、ここにいるぜ」

「特技は密航です」

 出発前に、絶対ついて来るなよと言い聞かせた2人が、ウェーイと出てきて、レイラーニは吹き出した。

「何その頭! もう何やってんの? ちゃんと見送りの時には船の前にいたのに、どうして乗ってるの?」

「船の前にいたから、普通に乗ったんだよ。見てない隙に」

 この船は、陸に上げていた船だ。船が空を飛んで海に出航する時、レイラーニが甲板でいってきまーすと言ったのをハワードたちは陸で見送ってくれた。だから、魔法を使わない限り、密航はできないと思うのに、彼らは長持の中にいた。涙ぐましい努力の結果、気合いで乗り込んだのだが、格好悪い上に次回に使えなくなったら困るので、ハワードは適当に誤魔化した。

「ドラパソの街で、『最高にイカした髪型にしてくれ』って、通りすがりのおっさんに頼んだら、こうなりました」

 密航後は暇なので、レイラーニの様子を伺いつつ、見つかった後の気を逸らす用の小細工をしていた。実際にヘクターの髪をいじったのはハワードだったが、レイラーニは狙い通りに釣れた。

「そっかそっか。そりゃあアーデルバードに帰るまで、髪型崩せないね。皆に見せなきゃ」

 レイラーニはケラケラ笑いながら甲板に出た。後ろには、嘘吐きヴァーノンとハワードとヘクターとイタズラ緑クマと元死体の師匠がついている。

「じゃあ、みんなで神殿を見に行こうか。悪いけど、緑クマちゃん、船を空に浮かべてね」

「え? あ、うん」

「じゃあ、いくよ!」

 緑クマが呪を唱え終わったところで、レイラーニは走って船から落ちた。念じて水の剣を出し、思いっきり振りかぶって水面に叩きつけた。原理的には何でも切れる剣である。海水を切ってしまえば、濡れることなく中身が見れるなと思ったのだ。

「海よ。斬れろ!」

 アホなことを言ったレイラーニに、「ばかぁ!」と師匠は顔を覆った。そんなことで海が割れる訳がない。

次回、サメタコ試食会。

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