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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
2-1章.18-15歳
431/463

430.足の争奪戦

 ハワードたちが見つけたココナッツミルク味の料理店に通ったり、みんなに配るお土産探しをして日々を過ごしていたら、緑クマが帰ってきて、クラーケン退治に出かけることになった。カイレンは、お墓がある土地に土着することになったので、帰って来ないらしい。別れの挨拶もしていないのが心残りではあるが、本人が決めたことなら仕方がない。100階層チャレンジに成功したあかつきには、暮らしぶりを覗きに行こうかなと考えて、レイラーニはカイレンのことを忘れることにした。クラーケン退治は、雑念を持ってすることではない。


 アナンダとそのお友だちに噂話を集めさせ、師匠が単独で下見に行った。無事に存在を確認できたということで、特定した場所に、レイラーニは船で行く。グラパソ近郊のクラーケンは、移動せずにピンポイントでいつも同じ場所で船を襲うらしい。だから、グラパソの商船漁船は、そこを少々迂回するだけで航路を潰されることなく、暮らしているらしい。近所に恐ろしい怪物がいるのがわかっていて、船を出す気持ちは理解できなかったが、いるというのであれば、それでいい。全ダンジョンからの避難を完了したという手紙を読んで、レイラーニは船の進路を見た。


 警戒区域手前で船を止め、レイラーニは空を飛ぶ師匠に抱えられて現場に連れて行ってもらう。この先何が起きるかわからないから、少しでも魔力を節約しろと、緑クマに勧められたからだ。

「クラーケンの接触ポイントに落とします。船が上を通ると、足が出て来て沈めるそうです。人1人にも反応することは確認済みです。準備ができましたら、教えてください」

「うん。泳ぎの超得意な精霊様。ウチを魚より上手に泳げるようにして下さい。よろしくお願いします」

 レイラーニが呪を口にすると、7色の光が降った。泳ぐのに必要な技能は、そう多くはない。それなのに不必要な祝福を受けている。師匠は危機感を持って、レイラーニを回復させた。

「多分、もう落として平気」

「危ないと思えば、介入します。クラーケンは倒しませんから、撤退を受け入れて下さい。生きて帰れば、もう一度挑戦できます」

「嫌だ」

 レイラーニは、心配する師匠から逃がれて海に落ちた。落ちる間に呪を唱え、剣を出し、空を飛んで、海面を突っ切った。空を飛ぶ魔法は、水中でも移動可能だった。どういう訳か、レイラーニ型のシャボン玉に入ったような状態で、水中に入った。泳ぎの練習をした時と同じ様に、呼吸ができるので、すいすいと沈んでいく。シャボン玉の空気に邪魔されて浮かんでしまうことなく、レイラーニが行きたいと思った方向に自動で進む。

 水は澄んでいて、見通しはいい。不意打ちは無理だろうと安心して潜っていくと、海底に着いた。深くなれば水色が濃くなるばかりで、結局、何もなかった。魚も見当たらないし、地面は気味が悪いくらいに平らだった。砂の堆積もほぼない平らな岩の海底を歩くように飛んでいく。


「何にもなさすぎない? せめて、海の幸くらい転がってる予定だったんだけどなぁ」

 レイラーニはガッカリして、上昇すると、さっきレイラーニがいた場所に、丸い物が見えた。白い丸がたくさん、等間隔に並んでいる。それがゆらりと動いて、消えていく。

「今のタコだよね。地面と同じ色ってー。そっか。ダンジョンのタコも床色だったな。斬ったら色が変わるかなぁ。うわぁ。見づらっ」

 レイラーニはタコの足が消えていった方に、追いかけるように飛んだ。動きが速く、もう足は見えないが、居場所はそちら方面だろう。足だけで、頭は一切見えなかった。とんでもない大きさであることは確定である。大きいなら鈍重なのではないかと期待して、全速力で追いかけた。

 しかし、すぐに進めなくなった。レイラーニの足をつかむ者がいる。

「剣、出てこい」

 レイラーニは捕まれたふくらはぎから剣を出して串刺しにすると、拘束は外れた。何も見ずに剣を出したのだが、また逃げていくタコの足を見た。

「回り込まれてたか。面倒なヤツだな」

 レイラーニは、またタコの足を追って飛んだ。そして、ふわふわと後ろから追ってくるタコの足に気付いた。後ろから狙ってくるとわかっていれば、見づらいが、気付けないほどではなかった。肌は海底の岩と一体化して見えるが、吸盤が綺麗に揃い過ぎていて、溶け込めていない。

乳母(風龍)さん。エアカッター宜しく!」

 レイラーニは風龍の魔法で、見える限り1番遠い位置でタコの足を切断した。足は音もなく地に落ちた。レイラーニの力では持ち帰れないくらいに太くて長い足が手に入った。皆でタコパーティをしたいだけなら、もう充分な成果である。だが、ここまで来て、これだけで帰るなんて面白くないから、レイラーニは帰らなかった。

 切り落としたタコの足を眺めて立っているだけで、またタコの足はやってきた。きちんと足先まであるから、先程の足とは別の足だろう。レイラーニは危なげなく魔法で切り落として、最初の足の横に並べた。

「腕みたいに使う足は2本だけだっけ? もう待ってても来ないかな。あれ? それはイカかな? タコはどうだったかな」

 レイラーニは心配したが、来客は止まらなかった。3本4本とレイラーニを捕らえに来ては、切り落とされた。

「ちょっと待て。足9本あるよ。タコじゃないの? ここのクラーケンはイカ?」

 レイラーニが切り落として並べた足は、9本になった。タコなら足は8本しかないはずなのに。これではタコパはできない。イカパになってしまう。

 イカなら、足は10本で打ち止めだ。だが、レイラーニの周囲には、5本も足が迫ってきていた。

「そっか。クラーケンは1体だけじゃなかったってオチか。やられてもやられても学習しないで来るわけだねー。何体いるんだろう」

 もしも全部違う個体の足だと仮定したら、14体はいることになる。逆に大体同じ個体の足だとしたら、最低2体はいそうである。どっちかなぁと悩みながら、えいえいと風龍の風魔法で足を切断して終わった。風龍は太っ腹で魔力なしで魔法を使わせてくれるので、大変燃費が良かった。レイラーニが無駄に魔力を撒き散らさねば完璧なのだが、できないことを言っても仕方がない。


 レイラーニがまたタコの足を回収してひと所にまとめると、13本しか足がなかった。数え間違いか計算違いか変だなと、首を傾げていたら、逃げていく足を見つけた。切断した足をつかんで持って帰るタコの足がいたのだ。

「それはもうウチの物だ。返せ!」

 生きているタコの足を魔法で切断し、奪われた足と新たな足を持って戻ると、また新たに足が盗まれていた。

「だから、ダメだって言ってるじゃん!!」

 レイラーニとクラーケンの足の奪い合いが始まった。レイラーニが勝利すると足が1本増え、負けると1本減る争いである。レイラーニは奮闘し、滅多なことでは奪われなかったので、タコの足はどんどん積み上がっていった。タコの足山が視界を塞ぎ、タコの侵攻を気付けないくらいに積み上がった。レイラーニは50本を過ぎたくらいでカウントするのをやめたが、現在、68本積み上げている。足先なので、それほど太くはないとはいえ、かなりの成果だった。もう乗って来た船では持って帰れないくらいに山盛りになっている。

「クラーケンは一体、何匹いるの? まさか、切ったらすぐ再生してるとかじゃないよね。食べ放題ができるじゃん!」

 ムキーとブチ切れて無駄に魔力を撒き散らしつつタコ足防衛戦をしていると、師匠が泳いでやってきた。『足を持ち帰ってもよろしいですか』と水中スレートを見せて来たので、「助かる」とレイラーニは答えた。レイラーニが水中で普通に会話をしていることに師匠は驚いたが、足を5本持って海面に向かって泳いで行った。

 師匠はレイラーニに足蹴にされて以降、船に戻ってレイラーニの戦いの観戦をしていた。ヴァーノンに甘えて抱きつきながら、緑のクマのぬいぐるみが壁に投影したレイラーニの様子を見ていた。ヴァーノンがタコの足を回収しに行くと言い出したので、緑クマが師匠に行けと命じたのである。師匠と緑クマの上下関係は師匠が上ということになってはいるが、実質は緑クマが上である。緑クマ様の仰ることに逆らわなくても殺されてしまうような間柄なので、ヴァーノンに自分に行かせて欲しい。レイラーニがピンチに陥らないか、見守る役をやっていてくれと拝み倒して、やってきたのだ。

 レイラーニが7本防衛すると師匠は10本お持ち帰りして、タコが1本奪うこともあるくらいのペースで戦闘が進み、師匠が全ての足を片付けてしまうと、タコの足は出て来なくなった。

次回、師匠のポンコツ化とヒスイ様の酷さが止まらない。

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