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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
2-1章.18-15歳
421/463

420.それはヤキモチだよ

 1度解散し、各人支度を済ませた後、島の北側で合流し、出発することになった。師匠は食事の後片付けをしたし、ヴァーノンは用足しをしてきたのだが、レイラーニはイグアナを生け取りにしてきた。イグアナの味が気に入ったから、持って帰りたいという無言の要求である。ダンジョンに登録する際、本物がいた方が情報の取り込みが簡単だと知っているのだ。

「余計な荷物は置いていけ」

 魔法を知らないヴァーノンですら深刻に考えているのに、呑気なレイラーニの姿に心配になるが、師匠は構わないと笑った。レイラーニが持つイグアナを魅了魔法で陥落させ、ヴァーノンに預けると、レイラーニに魔力回復の魔法を受けることを頼んだ。

「多少の荷物は引き受けます。その代わり、成功率を上げるために、貴女の魔力を完全回復させた後で私に預けて下さい」

「ぐっ」

 とても承諾したくないが、イグアナのあるなしに関わらず、アーデルバードの帰還に必要なことであれば、断れない。師匠を置いていくのも、ヴァーノンを犠牲にするのも、自分が野垂れ死ぬのも回避したい。だから、答えは1択しか残されていない。

「わかったけど、あっち向いててね」

「善処致します」

 レイラーニの了解を得られたので、ヴァーノンにイグアナを任せて、師匠はレイラーニを抱え、島の反対岸に飛んで移動し、回復魔法を唱えた。不快感に悶えるレイラーニを眺めて至福を味わった後は、魔力を節約のため、レイラーニを抱えたまま小走りで戻る。それほど広くない島の生命力を奪い、生態系を壊しただろうが、師匠は幸せだ。見るなと言ったのに視線を向けられ、ニヤニヤとした顔で心配するような言葉をかけられたレイラーニは怒っているが、まだ我慢しているから、師匠はその怒りに気付いていない。


 ヴァーノンのところに戻ると、師匠はレイラーニを下ろして魔力吸収の指輪をはめた。

「不快かもしれませんが、これが我らの生命線。落とさない様、お気を付け下さい。また、貴女が直接魔法を使うのは、魔力効率が悪い。3人と1匹の荷物を運ぶため、何が起きても何を見ても心を揺らさず平静を保ち、魔力をこぼさないよう心がけて下さいね。貴女に不測の事態が起きれば、私とヴァーノンはその身を犠牲にして、貴女を救います」

 指輪をはめた流れで、そのまま手を両手でつかみ、瞳を見つめ、魅了魔法を無駄遣いしながら真摯にお願いしたのだが、レイラーニは師匠の手を振り払った。

「わかってるよ。お兄ちゃん、師匠さんに乗って。ウチは触りたくないから、お兄ちゃんの上に乗る」

「落ちたら危ない。お前が前だ」

 ヴァーノンは師匠の肩にイグアナを乗せて、師匠に背負われるとレイラーニを抱きかかえた。無事に全員を乗せたことを確認し、師匠はアーデルバードに向けて飛んだ。レイラーニに邪険にされて、心を揺らし、魔力を無駄にこぼれ落としながら、師匠は飛んでいく。

 あまりに頼りない飛び方にヴァーノンは心配になり、師匠に声をかけると、大丈夫だってとレイラーニが答える。師匠がフラフラしている理由はレイラーニにあると気付いたヴァーノンが、レイラーニをたしなめたが、レイラーニは反発した。

 結果、速度も遅くて大分時間がかかった上に、あと1歩のところで師匠は墜落した。レイラーニはイグアナを連れて離脱して、ヴァーノンと師匠だけ海に落ちたが、アーデルバードは見えている。ヴァーノンは放っておいても大丈夫なので、そのまままっすぐアーデルバードに飛んだ。ヴァーノンは、師匠をつかんで泳いだ。



 ヴァーノンと師匠は、通りがかりの漁船に乗せられて、アーデルバード入りした。唄う黄熊亭に戻ると、ヴァーノンは他者を排して師匠と部屋にこもった。意識の戻らない師匠を着替えをさせるためだ。おかしな外科手術をしてしまった師匠の尊厳を守るため、他人の目に晒さない配慮をしただけなのだが、ミラに言い付けるよとレイラーニは怒った。師匠はレイラーニのためを思って、そんなことをしたのは理解したから、ヴァーノンは聞き入れなかった。まったく動かない師匠の髪を乾かして子ども部屋に寝かせると、レイラーニは怒ったままイグアナを連れてフェーリシティに帰って行った。

「師匠さん、すみません。レイラはヤキモチを焼いているだけですので、機嫌を直して下さい」

 ヴァーノンが献身的に介護をしようと試みたが、師匠は動かない上、ごはんも食べないので、何もできることはなかった。ヴァーノンがパドマに呼ばれて店に出ると、子ども部屋に黒髪の美女が現れた。

「ほんっとうに世話のかかるお兄ちゃんだな! 昨日、回復してあげたばっかりだよね」

 美女は師匠が眠るベッドに腰を下ろすと、師匠の頬を撫でて、くちびるを落として消えた。


 店の営業中だが、パドマの寝かしつけをしたヴァーノンは、子ども部屋を覗くと、師匠が動いていた。

「お目覚めになられたのですね」

 ヴァーノンが声をかけても、師匠はただ動いているだけだった。師匠の声が聞こえないからかとヴァーノンがベッドに近付くと、すさまじい力でベッドに引き入れられた。パドマたちに異常がない時は、ヴァーノンはただの人である。逆らうことができず、なすがままになるしかない。ヴァーノンが逃げないでいたら、師匠の動きは止まった。震えて、少し泣いている。もしかして、島でレイラーニにくっついていたのはこれかと察し、その頭をヴァーノンは撫でた。

「大丈夫ですよ。レイラは少し機嫌が悪いだけです」

 ずっと撫で続けていたら、師匠の手が離れた。師匠はスヤスヤと寝ていた。その寝顔は、パドマに少し似ていた。ヴァーノンはもう1度だけ頭を撫でて、おやすみなさいと伝えて部屋を出ようとしたところ、レイラーニが立っていた。

「なんだ。帰ってきたのか。おかえり」

 ヴァーノンは屈託なく笑ったが、レイラーニは師匠と同衾していたのをしっかりと見ていた。愛おしそうに師匠の頭を撫でていたのも見ていた。

「浮気をするなら、せめて女にして欲しかったよ」

「ミラさんに報告したかったら、すれば良い。あの人は、そのうち弟になる人だ。皆、パドマやレイラに執着しているが、どう考えても師匠さんの方が価値が高いだろう。今わかっているだけで、魔法、土木、機械に強い。身内に引き入れることができるなら、是非お願いしたいんだが、お前に頼むことはできないか」

 ヴァーノンは、商人の目をしていた。ずっと食い扶持を工面していたヴァーノンは、損得勘定にうるさい。そんな理由で押し付けられるなんてとショックを受けながら、レイラーニは後ろに下がって行った。

「絶対に嫌だ」

「そうか。なら、テッドを切って、パドマにお願いしよう。嫌なことを言って悪かったな。忘れてくれ。大丈夫だ。心配するな。数ヶ月前までは、俺の中のパドマの婚約者は師匠さんだった」

 ヴァーノンは、屈託なく笑った。実際にパドマの婚約者を変更するつもりはない。ちょっと部屋でふたりきりになったくらいでヤキモチをやいて怒り出すレイラーニに、おのれの気持ちを認めさせるためにからかっているだけだ。

「何の脅し? やめてあげてよ。変なことするなら、許さないよ!」

「テッドは、わざわざ婚姻関係なんて結ばなくても弟だ。婚約者でいたいなら、師匠さん以上の価値を示せば良い。パドマの相手は俺が決める。パドマ本人ならともかく、師匠さんと結婚しないお前には関係のない話だな。パドマの未来の夫が寝ている。部屋を出てくれ」

 ヴァーノンはレイラーニを部屋から追い出して、扉を閉ざした。

 レイラーニも、師匠の価値の高さを知っている。紅蓮華もシャルルマーニュも、師匠を欲していた。パドマが持て囃されたのは、パドマのセットでもれなく師匠がついてくるからだ。ヴァーノンがどこまで本気なのかつかめず、レイラーニはおやすみと言って、自室に入った。夜中にこっそりと師匠の部屋に行こうとしたら、ヴァーノンが監視をしているから入れなかった。レイラーニは困ってしまった。

 朝まで待っていたら寝てしまい、起きた時には師匠は出かけてしまっていなかった。島の家にもカイレンの家にも東のダンジョンの家にもいなかった。他にも師匠の家は沢山あるらしいが、気軽に探し歩ける範囲にはない。レイラーニは途方に暮れた。

次回、暇だから久しぶりに綺羅星ペンギンの救済。

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