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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
2-1章.18-15歳
413/463

412.グリフィン実食

 レイラーニは何度か首や背中は斬りつけていたが、グリフィンに致命症は与えていなかった。それにも関わらず、グリフィンはふいに腹が裂け、大量の血と肉をこぼして倒れた。広がる鉄の匂いに胸がやられ、レイラーニも動かなくなったので、アデルバードが回収し、外に出た。

 まだ匂うが、中よりは大分マシな空気に、レイラーニは息を吐いた。

「あれ、何? あれ、何?」

「時間切れです。半身が、グリフィンを倒してしまいました。恨むなら、半身か養父にあたって下さい。私は最大限協力を致しました」

「あ、師匠さんは、生きてたんだ。なんだ、そっか。残念だけど、それなら仕方ないかな。ムカつくもんね。殺っちゃうよね」

「恐らく、まだ事切れているのではないでしょうか。肉が足りないので。グリフィンの腹の中の肉がグリフィンを引き裂いて、半身のもとにかえりましたから、いずれ息を吹き返すでしょう」

「え? 師匠さんを食べると、あんな風に死ぬの? 怖っ!」

「ええ。実験的に育てていた翼竜のヒナを死なせてしまった時は、私も悲しい思いをしました。ですので、最終手段としても、決して口にしてはなりませんよ」

 アデルバードは、とても心配そうにレイラーニを見つめた。食いしん坊の妹は、機会があれば人肉も食らうのではないかと思っている。もう人ではなくなったから、倫理的には構わないと思う。どこの誰を食べようと知ったことではないが、死ぬのであれば止めねばならない。

「食べないよ。食べないけども!」


 レイラーニがイヤーとショックを受けていると、師匠が洞から顔を覗かせた。血まみれになっていたのは魔法で洗浄済みで、服も新しく変わっている。いつも通りの師匠の姿だった。

「痛いところはない?」

 レイラーニが聞くと、師匠は頷いて手招きをした。レイラーニは師匠についていくと、アデルバードも魔法で灯りをつけてついてきた。入り口すぐにはグリフィンが倒れていて、それを避けて先に進むと、金貨が沢山落ちて山になっていた。中には銅貨も混ざっているようだが、ほぼ金貨で、たまに金のアクセサリーも混ざっている。その横にはカラフルな石の山もできていた。

「差し上げます」

「えっ。いらないよ。これって、盗品なんじゃないの? 明らかな人工物だよ」

 子どもの頃なら喜んでもらって、食べ物を買いに行っただろうが、今のレイラーニはお金に困っていない。明らかな面倒ごとの匂いに、敬遠した。

「食事後のゴミかもしれませんね」

「このまま放棄して、争いのもとになってもいけません。アーデルバード街議会に回しましょうか」

 この手の宝物庫を見つけたら、とりあえず懐に収めていた男たちは、もしかしたら誰かの遺品だったかなぁと、初めて思いを馳せた。どういう経緯でここに集まったにしろ、金には違いがないのにな、と帰結したので考えに変わりないが。ひとまずアデルバードが金の回収を始めると、レイラーニは石を拾った。深い青の透明の石だ。人工物だからか、すでに研磨を終えた石が沢山落ちていたのだ。

「これ、キレイ。なんていう石?」

 師匠に見せると、魔法を使って成分鑑定を始めた。カイレンの実家は石屋である。だから、師匠の実家も石屋のはずだ。石には詳しいのだろう。判明した瞬間嫌そうな顔をした。心なしか、アデルバードの顔も曇ったように感じた。

「ジェイドです」

「ふーん。あんまり価値は高くないのかな」

「そうですね。この色のジェイドの評価は、それほど高くはなかったと思います」

 師匠は似たような色の丸玉を手に取り、半分に割った。魔法で鎖編みをし、装飾高い指輪を作ると、1つをレイラーニの指に、もう1つを自分の指にはめた。

「うわぁ。結婚指輪みたいで、嫌なんだけど」

 レイラーニがあからさまに嫌がると、師匠は渋面になった。

「結婚する気がないなら、構わないでしょう。男避けです」

「なつかしい。そういえば、そんなのもあったね。今度は師匠さんが引き受けてくれるんだ。あの時は、嫌だって言ってたくせに。これも針が飛び出すの?」

「出ません。お望みとあれば次回作には採用しましょう」

「今のウチにケンカを売ってくるヤツはあんまりいないから、別にいらないかな」

 レイラーニはキレイな石の指輪をつけることと、師匠とお揃いの指輪をつけることを天秤にかけた。仲良し父娘の範疇に収まるならば、つけていても良いなと思ったが、緑クマと黒クマの逆鱗に触れるのが怖い。

「そうですね。そんな薄気味悪い指輪は、早急に捨てることをオススメしますよ」

 金貨を吸い上げているアデルバードは、汚物を見るような目をしているし、薄気味悪いと言われた師匠はぷんぷんになった。

「なんで? 後で緑クマちゃんにあげたら、喜ばない?」

 蓮の池でレイラーニが2人にあげたプレゼントは、お揃いの部屋着だった。服のサイズがわからないから大きめを誂えてきて、部屋着くらいには使ってくれないかな、と思ったのである。それに指輪を追加しても良いかな、と思った。これは師匠の手製だ。喜んでくれるかもしれない。そう思ったのである。

「別に土産は作ります。それは絶対に渡さないで下さい!」

 珍しく師匠とアデルバードの声がハモった。レイラーニ用に作った指輪を地龍に渡すなど、デリカシーがないにもほどがある。互いに顔を合わせ頷き合い、ジェイドの山から一際緑の濃い石を選んで、同じ意匠の揃いのアクセサリーセットを作った。出来を点検し合い、化粧箱の中に納め、一息ついた頃にはレイラーニはいなかった。


 レイラーニは、ウキウキとグリフィンの解体をしていた。

 グリフィンは鳥なのか獣なのか、さっぱりわからない生き物である。どうやって解体するものか悩み、とりあえず魔法で浮かせて、洞から出してみた。そのまま逆さ吊りにして、羽根をむしって、きれいに洗う。一部臓器が破裂していて、ますます解体方法に悩んだが、裂けている腹を更に開いて臓器を出した。その後、肉を切り分ける。鳥と獣が合体した生物をさばいたことがないので、骨の構造がわからないが、レイラーニの水の剣なら骨を外さなくてもなんでも簡単に切れるので、すぐに終了した。


 レイラーニがブロック肉を作っていると、師匠とアデルバードがやってきて、皿やバットや作業台を貸してくれたので、魔法で肉を浮かべるのをやめて、そちらに乗せることにした。

 使いやすい大きさに分ける仕事を終えたら、師匠たちも泣かずに扱える食材である。彼らがいるのに、レイラーニが調理を担当するなんて、食材に対する冒涜だ。

「お父さん。グリフィン料理は、何が美味しいかな」

「不勉強で大変申し訳御座いません。グリフィンを食べたという話を、聞いたことが御座いません」

「え? 長生きしてるのに、1度もないの?」

「はい。そもそも、倒したという話も、聞いたことがありません。いえ、倒したという話自体はあるのですよ。ですが、戦利品を見ると、ヤギや水牛のツノが出てくるので、それはグリフィンではないと思っておりました」

「そっか。人類初勝利の勝因があれだとしたら、すごい嫌だな。お兄ちゃんは知ってる?」

「先程、食事をしたばかりではありませんか」

 アデルバードは、嫌悪を顔に出している。大食いに対する理解はないらしい。レイラーニがしょんぼりとして水の剣を手に持つと、師匠がふわりと笑った。

「何に向いているかは存じませんが、調理してみましょう。私は貴女の優しくて変態なお父様ですから、お任せ下さい」

 師匠は鍋や野菜を取り出し、調理の準備を始めた。アデルバードは、「確かにお父様を名乗るのであれば、変態でなければしっくりきませんね」などと、恐ろしいことを言っている。薄々気付いていたが、やはり師匠の養父は変態だったのだ。レイラーニは、どうしようと思った。

「そんな堂々と、変態に納得しないでよ」

「納得はしていません。幼い子どもの戯言と、聞き流すことにしただけです。私はヴァーノンに、あのヴァーノンに! 普通だと言って頂けたのですよ。つい先日生まれたばかりの子の悪口くらい、なんだと言うのですか。ヴァーノンこそ真理です」

 師匠が鼻高々に言うので、レイラーニは負けた気がした。

「確かに。何か、お兄ちゃんがそんなことを言ってた気がする」

「ヴァーノン如きに、何の権威があると言うのですか」

 アデルバードは師匠変態説を支持したが、レイラーニは聞く耳をもたなかった。


 師匠が調理を始めたので、レイラーニは麻袋を分けてもらって、売れそうなものを仕舞い込み、売れそうにないものは埋めた。肉は山盛りあるが、グリフィンっぽさはすべて片付いた。


 師匠は手始めに、前肢と後肢の上部の肉を食べやすいサイズにカットし、塩胡椒したものをニンニクを炒めたフライパンに放る。きつね色になるまで触らずにおき、ほどいい頃合いに裏返す。後肢の肉が先に焼けた。レイラーニはまだ片付けをしていたが、師匠は味見をさせる。

「美味しい。赤身肉があっさりしてて、くどくない。ちょっと固いけど、このくらいの方が満足度があるかも」

「そうですね。脂肪の甘みがないのは残念ですが、これはこれで悪くはありません」

 続いて食べた師匠も感想を漏らした。

 味見で料理を決めたのか、残りの後肢の肉は一口大に切り、塩コショウをして、粉をまぶして、別のフライパンで焼いて取り出した。レイラーニは、それを食べるのかなぁと見ていたが、焼いている間に切った玉ねぎとじゃがいもをまた別のにんにくフライパンで炒めはじめて、それに肉を戻した。ワインをだくだくと入れ、物欲しそうに見ているレイラーニに残りのワインを提供し、アルコールを飛ばす。カットしたトマトと黒オリーブと調味料を入れて、しばらく煮込む。それで、一品大体完成だ。


 それを作る間に、前肢も味見した。後肢とはまったく肉質が違った。

「予想はしてたけど、前が鳥で後ろが獣味だね。皮がパリパリで美味しい。鳥は鳥でも鴨とかと違って、あっさり気味で固いけど。うーん、あんなにバリバリ肉を食べてたのに、なんで草食獣の味がしたんだろ。不思議ふしぎ」

 師匠は後肢のトマト煮込みの作業終了後、胸肉を蒸し鳥にし、前肢を唐揚げにし、さらに両方を煮て水炊きを作った。

「食い合わせが宜しくないのではありませんか」

「レイラは味がわかるのに、悪食です。このくらいでないと、飽きます」

 アデルバードがイヤミを言うのを、師匠は軽く鼻で笑い飛ばした。師匠もまったく同意見なので、いつもなら言い負かされて泣かされるところだが、レイラーニのことはレイラーニよりも知っているという自信がある。背中に生える羽根のサイズや本数まで知っているのだ。誰よりも気持ち悪がられる自信がある。

 師匠がテーブルセットを出したから、アデルバードは残りの肉を氷漬けにし、レイラーニの麻袋とともに師匠の保管庫に入れた。そして、食べないなりに、レイラーニの隣に座る。師匠はアデルバードにムッとしながらも、レイラーニの給仕を務める。味見程度には全て食べたし、レイラーニに釣られて食べていたら、ますます肥えてしまう。如何に緩んだ腹が好きと言われても、健康診断に引っかからない程度ではいたいと思っているのだ。故に、食卓にはつかない。レイラーニに誘われなければ!


 料理を器に盛り、パセリを散らしたり味の最終調整をして、レイラーニの前に並べると、いただきますと嬉しそうに食べ始めた。

 野菜を取り出した時に気付いたのだが、師匠の保管庫には大量に甘い酒が増えていた。地龍が、レイラーニを酔わせてしまえと、アルコール度数高めの酒を放り込んだのだ。リキュールを渡されても混ぜるものがない。師匠は何かわからないままに、適当な缶をあけてグラスに注ぎ、レイラーニに提供した。

「蒸し鶏のぷりぷりさ、このタレの甘辛さ、水炊きの旨み、唐揚げの肉汁! たまらん!!」

 レイラーニは3人前以上の料理をペロリと平らげ、さらに雑炊を腹におさめた。酒瓶をゴロゴロと転がして、幸せそうに微睡み始めたレイラーニをアデルバードは引き攣った顔で見た。

「1人で片付けろと?」

 師匠はレイラーニより先に匂いにやられて、酔って寝ていた。酒で潰れるヤツは迷惑だと言いながら、誰よりも潰れてきたアデルバードは皿の洗浄を始めた。

次回、地龍vsアデルバード。地龍vs師匠。

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