表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
2-1章.18-15歳
408/463

407.100階層の講義

「100階層についての講義を受けて頂けますか」

 アデルバードはクレープを切り分けながら、そう言った。レイラーニは、驚いた。

「それは、お兄ちゃんが応援してくれるって考えてもいいのかな」

「違います。貴女を止めることができないのであれば、せめて生還率を上げたい。あわよくば、無理だと諦めて頂きたい。故に、講義をします。私の意見に賛同して頂くには、情報を提供する必要があると考えました」

 アデルバードは首を振り、そっとため息を漏らした。師匠も育ったらこうなるのかと、うっかり想像してしまったレイラーニは、大変嫌な気分になった。アデルバードだから、許せているのだ。師匠の容姿がアデルバードになったら、またアーデルバードが大変なことになるだろう。アデルバードの色気は今日も絶好調だった。

「そっか。相互理解のためのお話し合いってヤツだね。ウチは、それについては結構経験豊富な方だって思ってるよ。綺羅星ペンギンでも紅蓮華でも結果的に理解は深まってない気がしてるから、またそうなってもガッカリしないでね」

「それは、心して取り組まねばなりませんね」

 あれらと理解を深めて欲しいとも思えないアデルバードは、レイラーニの意見をスルーして、笑みを深めた。


「それでは、講義を始めます」

 茶会を終えて、アデルバードは講義用に家具を設置し直した。テーブルセットと茶はそのままだが、菓子の類いは片付けられた。そして、ゲームの学校の黒板のようなホワイトボードを出してきて、アデルバードはその前に立つ。

「100階層にいるモンスターの紹介から始めましょう」

 アデルバードは、『100階層』とホワイトボードに書いた。キュキュキュと言う音が、リズムよく響く。

「最も警戒すべき相手は、カイレンの父と私たちの母です。次点で養父と養母と地龍。伏兵はコクヨウ。実父とコハクとルリとカイレンは雑魚です。無視して構わないでしょう」

 ホワイトボードに、それぞれの呼称が等間隔に書かれていく。名前の後ろに脅威度別に星が描かれた。最強種は星5つ。次点が星4つ。コクヨウが星3つ。実父とコハクが星1つ。ルリとカイレンが無星と分けられた。

 カイレンは赤ちゃんであり、ハイハイしているか、師匠の背中にくっついているだけなので納得の評価だが、コクヨウとコハクの位置にレイラーニは疑問を持った。師匠は、子どもだから弱い部類に分類されているのだと思っていたのだ。地龍は規格外だから置いておくとして、コクヨウは師匠の妹の名前だったと思う。コクヨウも地龍ほどではないにしろ、スーパーモンスターの仲間だったのだろうかと、残念な気持ちになった。師匠の兄としての立場が、心配になってしまう。

「カイレンの父は、金髪で長身の女性に見える人物です。彼は主に、長剣か素手で攻撃を繰り出してきます。近接戦の攻撃スタイルですが、威圧で身体を拘束してきたり、風圧で遠隔攻撃をしかけてきたり、魔法障壁を素手で破壊し突破してきます。古代龍の作った魔法障壁を壊しますので、魔法での防御はできないと考えて下さい。走る速さも私たちよりも速いですから、離れた場所にいても、まったく油断がなりません。スピードが速すぎて人間には対応できませんので、殺意を向けられた瞬間に殺されると考えて下さい。傍目で見ていても、何をしたのか理解できないほどですから、どうにもできません。倒すどころか、攻撃を防ぐことも不可能だと考えて下さい。彼に殺意を向けられない状態になるまでは、入室は許可できません」

 カイレン父と書いた下に、カイレン父の情報が書き足された。ゲームの中の授業に似ている。レイラーニはノートを取りたい気分になった。

「ウチは師匠さんやイレさんの攻撃も防げる気がしないんだけど、それ以上ってこと? でも、まぁ、殺意を向けられなくなる方法があるなら、いいかな。どうしたら、殺意が向けられてないって、わかるの?」

「そうですね。ケタが違います。先日、カイレンは彼の攻撃を防いでいましたが、あれは偶々ですよ。奇跡に近いと考えてください。彼が本気を出していなかったこと、盾にできるものがいい場所にあったこと、勘で体が動いたこと、それで初めて実現したことですから」

「ふーん。そうなんだ。それは命拾いしたね。良かったね」

 レイラーニの目の前で起きた事件だったのに、反応は薄かった。アデルバードは不思議に思って、そこでレイラーニから記憶を奪ったことを思い出した。蒸し返してはならない情報だった。

「階段にいれば、殺意の有無はわかります。そうですね。カイレンの父は、無力化する方法がわかっているだけ良いでしょう。問題は母です。彼女の無力化の条件は、私も存じません」

 アデルバードは、母の下に下線を引いた。

「母は、貴女と同じ色を持つ女性です。見た目は一般人で、能力的にも特異なものは何もありません。ですが、精霊たちから受ける愛情が異常で、彼女が何もせずとも、精霊は勝手に奇跡を撒き散らします。彼女が好意を向ける相手と、悪意を向ける相手に災難が降りかかります。本人がそれらをコントロールする能力に欠けるので、防ぐことは容易ではありません。カイレンの父や養父であれば避けられるようでしたから、方法はないではないのでしょうが、彼らのマネができたら苦労はしません」

「好かれても災難が降りかかるの? それじゃあ、師匠さんのフリをしても無駄だね」

「そうですね。精霊は人とは違う理を持つ存在です。悪意はもとより、好意も危険です。良かれと思ってすることも、時として困ったことを致しますが、嫉妬に狂い、嫌がらせをすることも御座います」

「そっかー。それはそれで人みたいだけどね」

 レイラーニは、うんうんと相槌を打った。結局、どうなるのかあまり理解できていないが、授業中はいい子にしているのが基本だ。ゲームの家庭教師をしてくれた師匠たちは、先生が黒だと言えば白いものも黒と解答しろと言っていた。レイラーニが珍回答を乱発するのに、お手上げになったのだ。

「次点へ説明を移行します。この3人は実力は大したものですが、問題はありません。養母と地龍は既に貴女に好意を抱いているようですから、攻撃してくることはないでしょう。養父も服装を整えれば、攻撃はして来ない予定です」

「それは服が来るのが、楽しみだねー」

「そうですね。着た姿を乳母も見たいと言っていましたよ。どうやって、そこまで誑かしたのでしょう」

「人聞きが悪いな。何もしてないし、すごく怖かったよ。だけど、何もしなくても死にかけてるって、心配させちゃったんだ。師匠さんが悪いだけで、優しい人たちだよね」

「なるほど。そういうことですか。そうですね。そういう、、、なところは、似ているかもしれません。おぼろげですが、わかったような気が致します。話を進めます。

 コクヨウは、黒髪茶目の幼児です。当時の実力は普通の大人の魔法使い程度です。運動にも魔法にも勉強にも興味を抱かず、服飾にばかり気を使う子どもでした。如何様にもできる相手ですが、貴女は魔法使いとの実践経験は浅いでしょうから、脅威でしょう。彼女は潜在能力は高いですから、気を付けて下さい」

「確かに。敵対して誰かと魔法対決はしたことないかも。魔法って、なんとかしたら防げるものなの?」

「相手によります。母のような精霊が暴走しているタイプは防ぎようがありません。本人が昏倒していても魔法を使ってくる可能性があるくらいです。精々、自らを防御で固めて凌ぐか避けるかくらいでしょうか。コクヨウであれば、口を塞げば魔法を使えなくなる可能性がありますが、養父や養母、地龍なら言葉を発さずとも、精霊に命令を下しますよ」

「流石、ファジーな魔法。無傷で済ますのは大変そう。イレさんのお父さんの魔法も同じ?」

「いえ。魔法的な超常現象を起こしますが、彼は魔法は使っていません。自力で奇跡を起こしています。気合いを入れればできると教わりましたが、残念ながら彼の弟子でそれを会得する者はいませんでした。カイレンは似た性質だと、見込まれていたのですが」

「そっか。気合いか。ウチに足りないのは、気合いだったか」

 背が足りないのは、どうにもならない。性差があるのも、どうにもならない。周囲のバカ野郎たちに勝つ方法は魔法しかないと考えたら、魔力切れで倒れた。他に何かないか考えていたレイラーニに、光明が見えた。気合いは、わりと自信がある。パドマは半ば、気合いだけで生きていた。レイラーニの場合、気合いを入れると魔力が漏れて魔力切れを起こす心配があるのだが、ダンジョン内限定なら気兼ねなく練習できる。

「イレさんのお父さんに弟子入りしたい」

「却下します。そんな機能はありません。実物が生きていたとしても、実現しません。彼は典型的な天才肌の教え下手でした。チヤホヤと遊んでもらうか、本気を見せられて死ぬかの2択しか選べませんでした。

 続きまして、実父は茶髪茶眼の狩人です。弓で鳥を狩るのが得意でしたが、弓はダンジョン内では不利な上、腕も凡庸です。長剣や短刀を振り回しているところも拝見したことがありますが、取り立てて見るべきところはありません」

 アデルバードはレイラーニの呟きを適当に流して、話を進めた。一応、検討はしてくれたようだが、答えはつれない。伝承者もいないから、どうにもならないのだろう。小器用な師匠が会得できない時点で、レイラーニに太刀打ちできる気がしないので、きっと教わる伝手があっても無理なのだろうと納得した。

「コハクは剣の腕は三流で、魔法の腕は二流です。一部の精霊を除き、嫌われていますので大したことはできません。ルリとカイレンは赤子ですから、泣き声がうるさい以外の攻撃はして来ないでしょう」

 アデルバードはカイレンの情報まで書き込むと、マーカーを置いて、元の席に座った。

「如何ですか。諦めて頂けませんか」

次回、レイラーニの思いの強さ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ