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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
2-1章.18-15歳
401/463

400.魔力回復とケガの回復

 師匠は、エネルギー切れで倒れたレイラーニを見下ろした。今の今、とんでもない形相で暴れ散らしていたくせに、白い顔で死にかけている。とても心配にさせる弱々しさだが、全快させることはできない。もう一度暴れられたら、止められる自信がない。後々治るだろうからどうでもいいが、師匠は全身火傷まみれになってしまった。少し気が遠くなっているから、回復までに時間が欲しい。レイラーニを全回復させると、面倒を見切れない。

 師匠はレイラーニの隣に座って、レイラーニを抱き上げて膝に寝かせると、カイレンを手招きして呼んだ。地面はまだ熱いが、カイレンなら火傷を負っても構わない。師匠と背中合わせに座るよう指示して、師匠の背もたれにした。カイレンを呼んだのは、背もたれにするためではない。カイレンの魔力を吸い上げるためだ。師匠も消耗して怠いからもたれているが、背中越しに魔力を吸い上げて、吸い上げた半分をレイラーニに譲っている。カイレンの魔力は師匠と同程度に少ないが、魔法を一切使わないから、かなり搾り取れる。だが、レイラーニが危険水域から脱したところで、それをやめた。

「パドマは無事?」

「レイラーニがいない世界に、価値はありませんよ」

 カイレンは師匠の声は聞こえなかったが、取り乱していないのだから、問題はないだろうと判断した。

『疲れました。休みます。警護と死骸の処分をお願いします』

 師匠は蝋板を残し、バイロン宅の母屋へ入った。内部は少々荒れていたが、屋根裏にはまだパヴァンの部屋が残されていた。師匠は魔法で部屋を洗浄すると、ベッドらしき物にレイラーニを寝かせた。そして入り口に戻り、壁にもたれて座り、目を閉じた。



 師匠は、身体の復調を感じて目を開けた。骨も肉も皮も、恐らくキレイに繋がった。動かしてみても不調を感じない。後はレイラーニの魔力が戻れば元通りである。そう思って、レイラーニを抱き上げて家を出た。

 バカ男たちは、竜種の解体をしていた。師匠は処分を依頼したのだ。燃やすか埋めるかして欲しかったのだが、阿呆弟とそのおまけたちは、竜種を解体して売り物を作っていた。パドマの教育の賜物だろう。

 師匠は無視して出かけようとすると、カイレンが付いてきた。やむなく足で地に帰れと刻んだが、言うことを聞かなかった。

「パドマを連れて、どこに行くの?」

『魔力回復。見せると怒る』

 魔力回復をすると、その地が荒れる。故に、人様の庭先で行うのは不向きのため、出かけるのだ。

 地龍の嫌がらせによる不快感を嫌がるレイラーニは可愛いので、師匠は誰にも見せたくないと思っているが、それはレイラーニの意向でもある。一応、警告はしたので、ついて来てそれを見て、レイラーニに嫌われてしまえば良い。どちらでも構わないので、執拗に排除することなく立ち去ると、カイレンは躊躇した挙句、ついて来なかった。レイラーニの怒りを恐れたのだろう。根性なしだが、師匠もその気持ちはわかる。レイラーニは、しつこい上に面倒臭い。だが、師匠は嫌がられても怒られても、レイラーニを回復させる。命を救うという建前があるのだ。可愛いレイラーニを眺める特権を行使する。


 近くの森を抜けて少々走ったところで、師匠は魔力回復の呪を唱えて、レイラーニを起こした。

「ひゃあぁあんっくぅっ」

 地龍の眷属精霊が飛び交う幻想的な景色の中で、レイラーニは師匠のひざの上で身悶えしている。同じ不快感を師匠も現在進行形で味わっているので、レイラーニが今どうなっているかわかるだけに、面白くて仕方がない。地龍にされていると思えば、不快感しかなかったが、レイラーニとともに体験していると思えば、悪くない。懸命に口を塞ごうと動かす手を取り、親切面して師匠はレイラーニを抱きしめた。

「大丈夫ですか? 魔力は足りましたか」

「やだって、やめろって言ったよね! このくそ変態、離せ!!」

 レイラーニは暴れたが、魔法を使っていない状態のレイラーニの抵抗は、弱々しいものだ。師匠はレイラーニを離すことも落とすこともない。

「お口が悪いですね。死ぬか回復させるかの2択なのですから、諦めて下さい」

 師匠は幼な子を諭すように、レイラーニの髪を撫でた。それでも、レイラーニの暴れっぷりは止まらない。師匠の肩をぽこぽこと叩いている。

「ぽかぽかがいいって言ってるのに」

「少量で足りるなら、そうします。ですが、私の方が魔力量が少ないので、それでは貴女の回復には足りないのですよ」

 師匠は、とても残念そうに言った。レイラーニの魔力量を設定したのは師匠である。レイラーニを思って、できる限り多く持てるようにした。それでも自分の方が量が多くて、さらっと回復させてあげることができたら格好つくのに、という気持ちもある。ここまで魔力の使い方が下手だと、少なくしていたら死んでいた気しかしないから、多くして良かったと思っているが。

 レイラーニはそれを見て、無理なんだなと理解したが、それでも何か方法があるのではないかと諦めきれなかった。死にたくはないが、師匠の前で醜態を晒すのが嫌なのだ。どうでもいいと思える相手ではないから、精神にダメージを負ってしまう。

「どうしても?」

「命をかければ、もしかしたらというところではないかと思っております」

 師匠は優しく微笑んだ。それしか方法がなければ命を差し上げますと言われ、レイラーニは怯んだ。師匠の命は有限ではない。だから、師匠はたいした価値はないと思っているのだが、レイラーニにはそうは思えない。師匠が傷付く度に、心を痛めている。喉元過ぎれば、熱さを忘れてしまっているだけで。

「、、、命はかけないで」

「はい。ですから、手軽に魔法で済ませています」

「ぐぅ。嫌なのに。嫌なのに。嫌なのに」

 レイラーニは魔力の増減その他がよくわからないから、師匠の言葉が正しいかどうか、わからない。これ以上言っても勝てないことはわかるから、舌戦の勝利は諦めて立ち上がった。そして、急速に倒れる前の状況を思い出し、慌てた。

「イレさんたちは無事?」

 近くに寄ってきた竜種も危険だったろうが、炎を飛ばしたり、水を飛ばしたりしていたレイラーニが最も危険生物だった。それでイレたちがこんがり焼肉になっていたら、居た堪れない。レイラーニはよだれを飲み込んで、涙をあふれさせた。

「貴女の回復を優先させたので確認していませんが、牧場主は呑気にしていましたから、無事だと思いますよ。確認に参りましょう」

 師匠はそっと、レイラーニの顔にハンカチを当てた。



 レイラーニが師匠に手を引かれて牧場に戻ると、白い煙が上がり、美味しそうな匂いがしていた。匂いを嗅いだだけで、焼かれているのはイレ牛ではないとわかったから、レイラーニは慌てず騒がず歩いてきた。だが、目視できる範囲に来るまで気付かなかった。焼肉だけでなく、燻肉まで作られていた。更に、焼かれているのは、竜種の肉だった。

「そうだ! 殺しちゃったんだから、食べなきゃいけないよね。でかした。よくやった。流石、ルイだ」

 解体を始めたのは、カイレンだった。絶対にレイラーニは皮を欲しがると思ったのだ。それにダドリーが肉は茹でこぼして、骨も売るんだぞと始め、こんなに食べ切れないだろうと、ルイは簡易燻製機を作っただけだったのだが、褒められたのはルイだけだった。このメンバーでは、ルイが安牌なのをレイラーニは気付いている。レイラーニは崇拝の対象なので、ルイは視線を合わせようとしないくらいだが、他の男どもは視線を向ける方向が明らかにおかしいし、隙あらばさわるし、変態行動をとるのに気付いている。気付かれていないと思われているようだが、しっかりと気付いている。カイレンは腰回りを見がちだし、ダドリーは胸元を見ているし、師匠には全てが透けて見えている。最悪なセクハラ野郎たちなのだ。だから、レイラーニは師匠を置いてルイのところへ行き、燻製機製造の手伝いを始めた。竜種は、シャチ並みに大きい。人員が少ないのだから、手伝いは必要だろう。


「肉を焼いたけど、食べる?」

 少し拗ねた顔をしたカイレンが、竜種の焼肉を皿に盛って持ってきた。あまり関わり合いになりたくない気分だが、焼肉に罪はない。レイラーニは笑顔で受け取った。

「ありがと」

 レイラーニは、もらって即、肉を口に入れた。とてもパサパサする肉だった。肉に罪はない。きっとただの焼き過ぎだ。ウェルダンが好きとは言っても、限度がある。レイラーニは師匠を見た。師匠はプイッと顔を逸らしたが、レイラーニが見つめ続けたら、嘆息して可愛いペンギン柄の割烹着を出した。頬は赤いが、目覚めた時からずっとそうだったので、レイラーニの行動は関係ない。

「右から、足と胴としっぽなんだけど、どこが好き?」

 レイラーニが師匠を頼るのが悔しくて、カイレンが口を開いた。料理なんて師匠任せで生きてきた。金さえ払えばいくらでも食べれると思ってきた。だが、レイラーニを得るためならば、焼き肉も習得しようと思った。

「多分、胴と足に美味しい場所が隠されていると思う。あんな巨大生物が全部同じ味とか聞いたことがない。魚だって大型魚は部位で味が違うんだよ」

「そっか。そうだね。昔、ロースとかカルビとか聞いた覚えがあるよ。ごめんね、詳しくないんだ。基本的に、調理済みのを食べるだけだから」

「うん。別にいいよ。だから毎日お店に通ってくれてるんだもん。そっちの方が嬉しい。でもさ、その腕はどうしたの?」

 足は鶏ももで、胴が豚、しっぽが鶏胸肉に近い味がした。しっぽが胸なの? と衝撃を覚えていたら、カイレンの腕が吊られていることに気が付いた。カイレンは強いから全く心配していなかったのに、腕が弱点だったのかと、少しそわそわした。

「ああ、うん。格好悪くて、ごめんね。パドマが攻撃しちゃダメだって言うから、防御だけならいいかなって思ったんだ。でもね、あんまり防御なんてしたことがないからさ。加減がわからなくて、骨をやっちゃったみたいなんだ」

 カイレンはへらへら笑っているが、レイラーニの頬は引き攣った。師匠の過去の仕打ちを思えば軽いケガなのでカイレンは気にしていないが、レイラーニはとても気になった。自分の発言の所為でケガをしたと、面と向かって言われたのだ。そんなつもりはなかった。ただ竜種と戦ってみたいだけだった。全滅させないで、1頭譲ってくれるだけで良かったのに。

 レイラーニはふるふると身体を震わせて呪を紡いだ。口がわなわなと震え、発音が怪しいが懸命に魔力を注ぐ。

「変態仲間の光龍さん。ケガを治して」

 圧倒的な光の渦が全世界に撒かれた。遠方では少量であり効果も薄いが、近隣では目が焼かれそうな量の光が降り注ぎ、ルイの古傷もなきものになったし、バイロンの慢性的な肩こりと腰痛と関節痛も治った。震源地にいたカイレンは、骨折もすり傷も全て治った。長く生きているが、光龍も名指しで変態呼ばわりをされたのは初めてのことだった。汚名を返上すべく力を発揮した。その代償にレイラーニはまた昏倒し、師匠はカイレンを蹴飛ばした。

次回、そろそろアーデルバードに帰りたい。ダドリーの恋の行方はどうにもならないけど、ジェスの方ならなんとかなりそう。

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