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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
2-1章.18-15歳
395/463

394.学校説明会

 数日は平和にアデルバードに餌付けをされて過ごしていたレイラーニだが、師匠が顔を出すと、アデルバードはそそくさと帰って行った。

 帰り際にアデルバードが師匠に耳打ちすると、可愛い師匠の顔が真っ赤に染まり、ぷんぷんと怒っていた。しかし、アデルバードは、それに返信せずに消えた。

「学校説明会を致します。大変申し訳御座いませんが、顔を貸していただけませんか。大銀貨5枚で、この街の代表になりましたよね」

 レイラーニはそんなつもりはなかったが、アーデルバードではフェーリシティはレイラーニの街ということになっている。レイラーニがいるのが正式な行事の担保だと決めつけられ、既に参加者は集まっているからと説明されて、渋々学校に出向いた。



 学校昇降口前には、白蓮華の年嵩の子どもと、綺羅星ペンギンの従業員の一部と、紅蓮華幹部の一部がずらりと並んでいた。

「今回は、教員向けの説明会を行います。まずは、学び舎を見学していただきます」

 師匠が先頭を歩き、その後ろをレイラーニがついて行き、その後ろをそれぞれの団体が列を作り三列になって付き従う。要所要所でテッドが説明文を読み上げ、ところによっては部屋に入って見学をする。

 机の数以外は、恋愛シミュレーションゲームの校舎と違いはなかった。ほぼ全ての部屋に照明と黒板と机とロッカーとアップライトピアノが備え付けられている贅沢なつくりになっていた。

 ゲーム中はワープ移動が多かったので、建物全体の作りは不明瞭な部分もあったが、なるほどこうなっていたのかとレイラーニは思ったし、他の参加者も似たような顔をしていた。今回の参加者は、件のゲームを自力でクリアすることが義務付けられていたので、大体全員がレイラーニに振られてから参加している。そもそも恋愛シミュレーションゲームを理解しておらず、謎の美少女キャラに興味が持てなくて、知り合いのレイラーニに声をかけたのだ。仲良くなるどころか、少し近付こうとすると、親友アシストキャラの師匠ちゃんが意地悪になるのを身に染みて実感してから、ここに来ている。だから、皆の師匠を見る目はしょっぱい。

 最終的に学食に移動し、モンスター師匠おばちゃんが提供する、具があるかないか絶妙なカレーライス中辛と、なめこと玉ねぎが入っていそうな味噌汁を食べながら、募集要項の説明をされた。レイラーニはそれにチーズを山盛りふりかけて、幸せそうに食べている。他の面々はそのままだが、カレーライスや味噌汁はゲームで見ただけの者しかいない。(以前、師匠が作った物とは似ていないため、類似の料理だと認識していない)なんだか知らないが、高級料理なんだろうと思って食べている。

 募集要項は、以前聞いた話と同じだった。無償で教育を受け、試験に合格すれば教員として採用される。フェーリシティ内に住居を与えられ、給与が支払われ、教員の仕事をする。まずは初等教育の教師を育成するため、教育内容はおさらいをする程度で終わり、教育方法に重点を絞った教育になる予定である。教員育成を急務と考えているため、冷やかしは遠慮して欲しいというのが、師匠の要望だった。

「白蓮華で行っているような教育を、白蓮華に入所しない子も、大人も、等しく無償で受けさせるのが目的です。更なる高等教育も、初等教育の成績優秀者を選抜して行う予定です。皆様に教育を施す機会も、教育を施した者を採用して頂く機会もあることでしょう」

 テッドは読み上げ終わると、紙束をルーファスに渡し、カレーライスを食べ始めた。気に入らないのか、残念そうな表情を一瞬だけ浮かべ、飲み込むように食べ切った。

 教員教育に参加する者と、見学をしたい者が書類を作成し、師匠に提出したら、模擬文化祭が行われる。



 校舎内は使わず校庭だけだが、グラウンド周辺に屋台が並べられ、舞台を眺めながら食事ができるようになっていた。レイラーニは師匠の袖をつかんで、クレープ屋台に突撃した。

「あの、私は」

「これが文化祭か。一緒に回りたかったんでしょ。美味しい物を食べさせてくれないで、ゲームを終わらせるなんて酷いよ。遠足のクレープ、美味しかったんだ」

 クレープ屋台のメニューは、バターとチョコとブルーベリージャムとチョコバナナしかなかったのだが、ベリーベリーキャラメルチーズケーキスペシャルというレイラーニの注文に、全力でモンスター師匠は応えた。明らかに師匠のストックチーズケーキが使われていたが、師匠も不満を漏らすことはない。隣の屋台からベビーカステラを一皿買ってきて、1つクレープに乗せてやった。

「ふふ。現実でも食べてみたかったんだよね」

 レイラーニは至福の顔でクレープにかぶりつき、当然の顔で、師匠にも食べさせてくれた。レイラーニにとってはただの半分こであり、ただの回し食いだったのだが、師匠にとってはカップル食いだった。戸惑う師匠を周囲のテッドとパドマとルーファスは、無自覚小悪魔がと残念そうな顔で見ていた。その後、3人はトロピカルジュースを飲みながら、モンスター師匠のカラオケのど自慢大会を見た。


 レイラーニは焼きそばを食べ、ハリケーンポテトを食べ、フランクフルトを食べようとしたら師匠に奪われ、たこ焼きを渡されたから、師匠の口に詰めた。

「やっぱり食べるしかできないのですね」

 という呟きが聞こえたから、レイラーニはジェットコースターに乗って、迷路で迷子になって、射的をやって、屋台を爆破した。モンスター師匠が3体星になってしまったが、他に人的被害なく、屋台はすぐに修繕された。

 師匠は簡単に景品を取った。軽いお菓子は簡単に落とすし、重いマスコットも両手に2丁銃を構えて同時に当てて落としてしまう。そんなのはズルだと、レイラーニは魔法で対抗したのだ。

「精霊様。景品を下に落とすの手伝って」

 風を起こして景品を下に落としてもらおうと、レイラーニが悪戯を思い付いたら、親切な精霊が全部の景品を落とすために爆発を起こしたのである。師匠は咄嗟にレイラーニをかばった後、屋台を修復し、消えたモンスター師匠と同じ色のモンスター師匠を集めた。モンスター師匠もレイラーニを泣かせないために、必死で応えた。

「緑クマは悪くなかった」

 そう言って震えるレイラーニを、師匠は校舎の屋上に連れて行った。



 屋上には、一緒にゲームで遊んだモンスター師匠たちがキャラクターと同じ色をまとって待っていた。ヤギ乳もピザもちゃんこ鍋も抹茶も練り切りも、北海道グルメも揃っていた。

 レイラーニは再会を喜び、感謝と謝罪を伝えて、部活動に励んだ。できなかったピザ作りの続きや、点茶、チーズ作りなどに取り組んでいたら、空も暗くなってきた。やはり部活をかけもちしすぎていたのだ。校庭は模擬店でいっぱいだし、サッカー部は無理だねと笑っていると、師匠も着替えて緑に変わっていた。いつぞや着ていた着物姿で、信玄袋を持って戻っていた。レイラーニが誕生日プレゼントに渡したものと同じに見えた。

「あ、それ」

「皆で奮闘して、仮想現実の世界から外に持ち出すことに成功致しました」

 実際には持ち出せていない。正確なパーツサイズを割り出し、寸分変わらぬ物を製作し直しただけだ。だが、データは残してあるし、持ち出す研究は続けられているので、そのうち成功するかもしれない。

 他の師匠ももらったものをレイラーニに見せ、緑師匠は武装した黄色いクマのマスコットをレイラーニに渡した。


 レイラーニは師匠たちに勧められるがままに、味噌ラーメンやザンギや白エスカや鉄砲汁を食べていたら、いよいよあたりは暗くなってきた。レイラーニだけならどうでもいいが、アーデルバードの皆は帰るのが大変だ。急がなくちゃと思って、校庭に戻ろうとすると、孤児院と宿泊施設に泊める予定ですから問題ありません、と席に戻された。

「文化祭は夜も続きます」

 師匠が言うと、空に大輪の花が咲いた。

 轟音とともに広がる煙菊や色柳も見事だったが、暗くなるにつれて出現した牡丹や蝶にレイラーニは歓声をあげた。

「すごいね、すごいね、綺麗だね」

 隣の師匠の手を取ると、至近距離に優しい顔があった。レイラーニはとても気まずい気持ちになって、機会があったら渡そうと持っていた交換日記を師匠に渡した。

「書いてきたの。師匠さんのお願いを聞いたからさ、ウチのお願いも聞いてくれない? 家を建てたいんだけどね、どういう風に設計をしたらいいのかわからなくて、困ってるの。手伝ってくれないかな」

 ぬいぐるみの型紙もフリーハンドで書いていたが、フェーリシティの建物の設計も簡単にしていた。レイラーニの知り合いの中では、随一の建築家は師匠である。同じくらいの腕を持つアデルバードに頼むのは対価が恐ろしいので、師匠に白羽の矢を立ててみたのだが、失敗したような気もした。

「はい、喜んで」

 微笑む師匠は、可愛かった。余計なことさえしないでくれたら、師匠はとてもいい人なのだ。可愛いから恐怖心を誤魔化すことができて、料理上手で手先が器用で、金持ちで惜しげもなくレイラーニに散財してくれる。蹴られて骨をへし折られても好きだったのだ。何も思うなと言われても無理がある。

 薄暗いから恋愛フィルターを通して見間違いをしているのか、師匠の視界に収まるレイラーニは師匠を見つめて固まっていた。頬はうっすらと赤く、目は潤んでいるように瑞々しい。くちびるがふるふると動いて、誘われているような気持ちが疼く。可愛い。可愛すぎて、つらい。どう見ても実妹の顔なのに、襲いたくてたまらない。周囲にモンスター師匠はいっぱいいるので、いざとなったら止めてもらえると思うが、レイラーニの身が無事でも嫌われたらたまらない。

「愛しています」

 娘でも妹でもギリセーフ! と、師匠が心の中で言い訳をしてレイラーニに想いを伝えると、レイラーニは可愛くない絶叫を上げて、倒れた。モンスター師匠たちに責めるような視線を浴びせられ、師匠も戸惑うが、意味がわからなかった。

 レイラーニは死を覚悟した。パドマは師匠に惚れないようにと、数々の嫌がらせをされていた。そこで師匠は本当に惚れていないか、口説いてチェックすることにしたと思った。惚れた挙動をすれば、殺される。惚れた興奮状態に陥れば、魔力制御を誤って、死ぬかもしれない。レイラーニは後者の理由で、興奮して魔力を意味もなく全開放して倒れたのだった。

次回、家を。

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