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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
2-1章.18-15歳
393/463

392.大掃除

 師匠とヴァーノンが叫んでも、まったく起きる気配もなかったレイラーニだが、建物に魔法がぶち当てられ、その衝撃音と振動で目を覚ました。目が開いたと言うだけで、覚醒はしていない。パドマの寝相はひどいなぁ、と思っただけだ。ヴァーノンはレイラーニとパドマを抱えて咄嗟に避けたから、無傷で済んだ。抱えられたことで、お兄ちゃんも寂しかったのか、それは仕方ないなぁと、レイラーニがヴァーノンに抱きついたら2撃目が来た。だが、それで打ち止めである。師匠が気絶してしまったので、3撃目はない。

 ヴァーノンは、ひとまず妹たちをシーツで巻いて人目から隠すと、師匠を縛り上げてから、義両親と近隣住民の救助を始めた。凄まじい衝撃音が轟き、見たことのない閃光が走ったので、事件は隠せず、段々と人が集まってきた。

 アーデルバードで起きる変なことの大半はパドマが震源地である。だから皆、迷いなく唄う黄熊亭に集まってくる。レイラーニは、野次馬の中から見知った顔を見つけたら、カイレンにアデルバードを呼んでくるよう依頼して欲しいと伝えた。師匠が使い物にならないならば、頼れるのはアデルバードしかいない。モンスター師匠を使うのは、最終手段だ。彼らでも何とか出来るかもしれないが、魔力が尽きれば消えてしまう。散々モンスターを殺害してきたレイラーニだが、可愛いモンスター師匠たちに死ねという命令は、できたらしたくない。

 パドマは起きなかった。だから、パドマをひざに乗せられたレイラーニも動けない。腕力がない上に子どもを抱き上げ慣れていないから、どうしたらいいかわからないのだ。しばらくすると、建物の崩壊に巻き込まれた人の救助が無事に済んで、全員の無事が確認された。



「これは一体、何があったのですか?」

 カイレンが全速力で走ったから、それほどかからずアデルバードが現場に到着した。アデルバードは転移魔法を使ったが、カイレンは置き去りにしてきたので、カイレンの到着はまだしばらくかかる。くたびれ果てていたので、来ないかもしれないが。

「お兄ちゃん、来てくれてありがとう。ウチも寝て起きたらこうなってたからわからないんだけど、師匠さんが縛られてるから、犯人なんだと思う。どうしたらいいかな。助けて」

 アデルバードはレイラーニを見た。パドマがスヤスヤと寝ていて、レイラーニはシーツでぐるぐる巻きになっている。場所は唄う黄熊亭だ。恐らく、中身が寝巻き姿だから、ヴァーノンが巻いたのだろう。レイラーニ本人が巻いたのなら、違う形状になっている。巻き方を見ればわかる。半身の嫉妬心は末期だなと、大体の事情を察した。

 アデルバードはレイラーニたちをまとめて抱えると、野次馬の整理をパドマの護衛を名乗る男たちに命じた。建物から人が離れた瞬間に呪を唱え、建物の修繕をした。時を巻き戻し、以前の姿に戻したから、中身も全て元通りになっているし、瓦礫もなくなった。唄う黄熊亭さえ直ればいいだろうと、アデルバードはレイラーニたちを抱えたまま立ち去ろうとしているので、止めた。

「他の家も直して。あとね、できたらイレさんちも直して。前に、壊しちゃったまんまなんだ」

「以前から思っていたのですが、兄使いが荒くはありませんか。酔い潰しておいて、どういうことですか」

「ごめんね。この埋め合わせは、師匠さんとイレさんがするからさ」

 いつも通り適当な返しをしても、アデルバードの目は冷たいままだった。レイラーニの頼みを聞いてくれる気はないらしい。

「いいよ。ダメなら、自分でやるし。ヴィリエーミャ、むぐう」

 アデルバードが魔法を使うところは見た。真似すればいいだろうと、直したい家に手を伸ばして呪文を唱えようとしたら、アデルバードに口を塞がれた。呪は完成していないのに、緑の光が広がり、周辺の家屋は全てほんの少しだけ新しくなった。崩れた家は元の姿に戻り、崩れていない家も数日前の姿に戻っている。ぱっと見は変化がないが、塗り直したペンキが元に戻ったり、大掃除前に物の配置が戻ったりした。その家の者の苦情は受け付ける気はないが、無駄に広範囲に魔法の影響が出たことに、アデルバードはとても嫌そうな顔をした。

「魔力を必要としない契約をしているのに、何故、魔力が減っているのですか。途中で止めたのに、何故、魔法が発動しているのですか」

 アデルバードはレイラーニを問い詰めているが、レイラーニは魔法に詳しくない。

「ファジーだから?」

「違います。貴女が精霊に愛されているからです。変なことに巻き込まれないように、気をつけてくださいね」

「わかった」

 少しも理解していないのに、返事だけ良い子のレイラーニに、アデルバードは嘆息した。言っても無駄なのはわかっていても、理解が及ぶまで説教したい。だが、その気持ちを抑えて、切り替えた。

 近隣住民その他への説明はヴァーノンと護衛たちに任せ、アデルバードはレイラーニとパドマを連れて、唄う黄熊亭に入った。元凶は師匠であり、パドマは寝ていて、レイラーニは人前に出られる格好ではない。着替えも許されないような罪は犯していないから、ひとまず部屋に戻ることにしたのである。


 レイラーニが寝直すか着替えるかは知らないが、まずはパドマをベッドに寝かしてやろうとアデルバードは寝台に置いた。騒がしくても起きなかったパドマは、ようやく目を開いた。アデルバードの外套をつかんで包まろうと奮闘しているので、包んで抱き直してやると、完全に覚醒した。

「にーちゃ?」

「はい。おはようございます」

「ん、はよ。あ、れーちゃ」

 アデルバードがいるのを気にも留めず、さくさく着替えていたレイラーニを見つけ、パドマは暴れだした。

「れーちゃ、れーちゃ」

 アデルバードがもう一度ベッドに下ろすと、パドマはレイラーニに向かって走り、体当たりした。着替えに夢中でパドマに背を向けていたレイラーニも、全力で体当たりをしたパドマも転げそうになったので、アデルバードが受け止めた。

「何をしているのですか」

「ウチは何もしてないよ」

「れーちゃ、れーちゃ」

 パドマはまったく反省をしていないらしく、アデルバードの腕の中では暴れるので、レイラーニに渡された。すると、満足したのか、べったりとくっついた。

「れーちゃー」

「どうしよう。自分の半身が可愛い」

 昔のパドマ(妹)もこんなだったなぁとぎゅうぎゅう抱いて愛でていたら、パドマ(元自分)はまた暴れ出した。

「ちがーの、ちがーの。プレゼントすーの。あい」

 パドマはレイラーニから離れてベッドの上を走ると、自分より大きな黄色いクマのぬいぐるみを持って来ようとして、持ち上げられず、ぺしぺしと叩いた。

「くまちゃんをくれるの?」

「ん、にーちゃと約束した。ももんがとこーかん!」

 先日、カイレンにモモンガのぬいぐるみと黄色いくまのぬいぐるみを交換してくれないかと打診されたのを、パドマは覚えていた。パドマはカイレンのぬいぐるみを拒否したが、モモンガはもらったから、約束を果たそうとしたのである。

「そっか。お兄ちゃんが、そんなことを言ったんだ」

「ん、プレゼント、まだある」

 パドマは次々と、パドマの私物を持ってきて、レイラーニにあげると言った。師匠からもらった装飾品や土産物、服や槍やいろんな物である。ヤマイタチ以外の全ての物と言っても過言ではない。

 そんなに沢山もらえないよと、レイラーニは受け取りを拒否をしたが、レイラーニにプレゼントしたいというより、邪魔だから処分したいという話をしたので、レイラーニは引き取ることにした。捨てたらヴァーノンが怒るが、捨てないと自分の服を置く場所もないというお悩み相談だった。

「物が多くて、ごめんね」

「んーん、きれいだからいい」

 レイラーニは運べるだけ運び出そうとリュックに服を詰め始めたら、アデルバードが魔法で亜空間に掃除機で吸い込むように仕舞った。残ったのは、黄色いクマのぬいぐるみと、土産にもらった絵だけだ。ヴァーノンとパドマとテッドとパドマと知らない女性が描かれているものだ。誰だかわからない人が混ざり込んでいるが、家族の肖像画だからパドマはずっと飾っていた。

「貴女たちは、コクヨウをご存知なのですか?」

「知らないよ」

「その絵の女性の名前です。コクヨウとリシア。それがパドマのご先祖様であり、半身の妹なのですよ」

 アデルバードは温かな目で絵を見つめると、それもどこかに仕舞った。

「では、行きましょうか」

 アデルバードはパドマを抱え、レイラーニはくまちゃんを抱えて、外に出た。思い出の部屋から思い出がなくなってしまい、レイラーニは寂しい気持ちになった。

次回、アデルバードとレイラーニ。

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