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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
2-1章.18-15歳
382/463

382.遠足

 一緒に登下校イベントは、自転車師匠と着実にこなし、勉強も頑張り、部活も頑張り、レイラーニのステータスはガンガン上がっていった。レイラーニは、とっととゲームを終わらせるため、頑張っているのだ。

 師匠の養父が沢山の本を残したため、織田信長はゲームプレイ前からレイラーニも聞いたことがあったのだが、師匠先生が非常に偏った授業をするので、山田長政、市川房枝に関しては語れるくらいに詳しくなった。学級委員長師匠が、それは小学校社会の範囲ではないと何度かツッコミを入れたのだが、思い入れでもあるのか、師匠先生はスイッチが入って止まらなかった。きっと中学校社会でも高校社会でも彼らの話題は止まらないのだろう。先生が別人に変わっても、どうせ師匠だから。



 今日は、遠足に行く。

 旅のしおりをもとに、レイラーニはしっかりと支度をしてきた。300円分のお菓子はかなり悩んだが、自信のある準備はできた。唯一の問題は荷物を詰め込んだリュックを自力で背負えなかったことだ。だが、幼馴染師匠を姉師匠が電話召喚し、解決してくれた。

 レイラーニの荷物を持ってもらうお返しに、レイラーニは幼馴染師匠のリュックを背負った。

「荷物を交換して持つなんて仲良しだね」

「そうだね」

 なんて、笑いあったのもつかの間、レイラーニはよいしょと自転車師匠先輩の自転車の荷台に座った。自力で歩くより楽なのである。頑張って歩いてもダンジョンマスターの筋力は上がらないのだから、歩く必要性を感じない。イベントを発生させまくれば師匠は満足するようだから、相手なんてどうでもいいのだ。全員師匠だから。

 登下校は毎日、この調子だから、レイラーニは何も気にしていないが、幼馴染師匠はムッとした。家は隣同士なのだ。だから毎日、登下校を誘っているのに、断られていた。そこを呼び出されたのだから、今日こそ一緒に行くのだと思っていたのに、レイラーニは「また後でね」と学校に行ってしまった。



 遠足の行き先は、千樹ワンダーランド。遊園地である。師匠がレイラーニとデートしたいなと思ったから、遊園地を選んだ。学習体験なんて、知ったことではない。

 遊園地文化のないレイラーニでも馴染めるように、低年齢向けの遊園地にする配慮はした。もしかしたら、絶叫系に乗って自分が絶叫してしまったら格好悪いからではない。そんなことは断じてない。師匠はジェットコースターは好きではないが、怖くはない。あれの何が楽しいのかがわからないだけだ。フリーフォールも嫌い、、、好きではないが、怖くはない。絶対に師匠が怖いからではない。レイラーニへの配慮だ。半分動物園で、半分遊園地にして、万一乗り物全てに拒絶反応を示しても、それなりに楽しめる配慮もした。レイラーニのことを思ってのことだ!

 

 遊園地までは、観光バスで行く。なんと学校全体でバス1台で済んでしまうようになっていたからだ。師匠がちょっと故郷を離れている間に、パンデミックが起きて需要が低下しドライバー不足の上、戦争その他の所為で物価が急上昇し、新幹線に乗る方が5倍安いような始末になっているが、遠足にバスは譲れなかったため、遠足費用は全て学校持ちにした。変なところだけ庶民的なレイラーニが、気にして不参加になることを恐れたのである。

 これに行くためにレイラーニはアルバイトをしてお金を貯めていたのだが、肩透かしをくらった。お土産を買ったり、お菓子を食べたり、お金の使い道はいくらでもあるから、困りはしないが。


 バスの席順で一悶着あったが、すぐに沈静化した。レイラーニの隣の席は、レイラーニのリュックに決まったからである。レイラーニのリュックは大きすぎてアミ棚にも足下にも膝上にも置けなかったのだ。

 余りの席などないから、そんなことをされたら困るのだが、熾烈な争いが起きるよりは、リュックを隣の席に置いてもらった方がいい。教員が1人補助席に移れば済む話である。責任をとって、レイラーニの担任がレイラーニの隣に座る予定だった2年1組の師匠に席を譲り、レイラーニの隣の補助席に座った。

「先生、邪魔です。別の席に移って下さい。折角の遠足に、隣が担任の先生しかいなかったら、彼女が可哀想でしょう」

 先生壁さえなければレイラーニの隣だった、1年2組のピザ部クリーム師匠が噛みついた。

「レイラーニさんはバスに乗るのは初めてだから、乗り物酔いをするかわからないそうです。心配ですので、こちらに座ります」

 担任の師匠先生は、にこりと笑って譲らなかった。モンスター師匠の間に亀裂が入った。


 隣の席に誰が座ろうと、レイラーニは興味がない。どうせ誰でも師匠なのだ。そんなことよりも、リュックを手放さずに済んで、喜んでいる。一時は、大きくて邪魔だからバスのトランクにしまえと言われていたのである。バスレクもあるのだ。しおりがなけば歌の歌詞もわからない。リュックと離れたら、寂しくて死ぬなどと駄々を捏ねて、死守した。

「先生、ありがと」

 と礼を言って、リュックの口を開けた。1番上にはお弁当が乗っている。それを出して、ぱかっと開けた。中には、おにぎりと唐揚げと食べる白ソースが入っている。傷むからダメだと言われたが、学校に着いたらすぐに食べるからと、お願いして入れてもらったのだ。

「わーい。お姉ちゃん、ありがと。頂きます」

 男の師匠でもそんなにいらないなという巨大弁当箱に、師匠先生は驚いた。夢の中まで、それか!

「レイラーニさん、お昼ごはんは、遊園地に着いてからですよ」

「楽しみすぎて眠れなくて、寝坊しちゃって、朝ごはんを食べ損ねたの。お昼の分はもう1つあるから見逃して。お腹ぺこぺこじゃ楽しめないよ。唐揚げをあげるから、皆には内緒ね」

 レイラーニは断りもなく、師匠先生の口に唐揚げを1つつっこんだ。三口くらいで食べることを想定されている大唐揚げなので、師匠先生の口は完全に塞がれた。これで共犯である。唐揚げを食べた人には文句を言われたくはないものだ。レイラーニは安心して、弁当を食べ始めた。

 レイラーニは姉師匠に叩き起こされ、きちんと朝ごはんを食べてきたのだが、おにぎりと食べる白ソースは別腹だ。おやつが300円までなんて耐えられないから、弁当を持ってきたのである。何個持ってきても、弁当はおやつに含まれないのだ!

 師匠先生は、うっとりと余韻に浸っていた。レイラーニにあーんしてもらった! 2人だけの秘密ができてしまった! と心中わっしょいしているが、顔はにまにま唐揚げを食べているだけである。心の中身は漏れ出ていない。格好良いクールな師匠の顔を保っているつもりでいる。

 そして、その他師匠たちは、何が秘密だ、みんな聞こえてるよ! とイガイガしていた。もうモンスター師匠たちのブラックリストには、師匠先生の名が刻まれている。


 レイラーニが弁当を食べ終えるのに合わせて、バスレクが始まった。ピザ部部長とヤギ部部長のクイズ大会である。師匠が思う理想の遊園地デートについて出題が重ねられているが、そんなものはレイラーニには関係ない。照れながらわちゃわちゃと進行している師匠は可愛いと思うが、内容は聞きたくなかった。師匠が誰かとデートするなんて、せめてレイラーニの知らないところでやって欲しいと思っている。だから、また弁当箱を開けた。

 次に出てきたのは、チーズである。師匠先生は、目をむいた。教員人生なんて送ったことはないが、遠足にハードチーズをホールで持ってくるチーズバカは、レイラーニだけだろう。そんなことをしているから、リュックが重くて大きかったのだ。レイラーニは今度は分けるのは嫌なのか、師匠先生に背中を向けて、ナイフでチーズの皮を削っている。

 レイラーニは視線を感じた。イスとイスの隙間から、水色の師匠の目が覗いていた。

「あげないよ。大好きなデザートを取る人は悪だから」

 レイラーニは涙目になった。本気でチーズを狙っていると思われている。それは危険信号である。チーズを分けてもらえるくらいの好感度は欲しいが、チーズを食べたいなら買って来た方が賢明だ。水色師匠は慌てた。

「ち、違うよ。すごい重かったから。何が入ってたんだろうと気になっただけ、で!」

 水色師匠の隣に座る緑色師匠は、自分用カメラではなく、レイラーニを映すモニターで見た方がスマートなのに阿呆だと思っているが、巻き込まれたくないから黙っていた。

「うっ」

 レイラーニには、「それがここにあるのは誰のおかげでしょうね。分けてくれるくらい当然じゃないですか?」と聞こえた。正論かもしれないと思うが、分けたくない。憧れのホールチーズである。カイレンにおねだりすれば300個くらい簡単に手に入るが、学生アルバイトで費用を賄うのは、それなりに大変なのだ。早起きして、犬の散歩中師匠と朝トーストを食べたなぁ、夜はサラリーマン師匠がショーケースの中身を大人買いしてくれたっけと、その努力と苦労と手に入れた時の喜びを思い出し、みるみる目に涙が浮かんだ。

「ごめんね」

 とチーズに謝って、ナイフでチーズを一片切り取って、弁当のフタに乗せ、幼馴染師匠に差し出した。

「え? くれるの?」

 チーズを分けてもらえる仲? バス中が騒めいたが、モニターを見れば、レイラーニは泣くほど嫌がっている。水色師匠がフタを受け取っても手を離さないのだから、相当だ。

強請(カツアゲ)ですね」

 モンスター師匠の1人がそう呟いたから、ああ、これが噂の、と同調空気が動いた。水色師匠担当のモンスター師匠は慌てて否定したが、周囲にはヤキモチ焼きで、性格のねじ曲がったモンスター師匠しかいない。ひそひそ話で追い詰めていった。仲良しのフリをしていたが、出る杭はこれでもかというくらい叩き壊すのが師匠である。

「いらないよ。返すよ」

 と言ってチーズを返そうとしたら、レイラーニはショックでふさぎ込んだ。断腸の思いで切り分けたのに、いらないって言われた! 自力で座ってもいられないようなので、師匠先生がシートベルトをはずして抱き上げて、ピザ部師匠がチーズを食べさせた。

まさかバスに乗ってるだけで、こんなに書くことになろうとは。遊園地はサクサク終わらせたいです。

次回、乗り物に乗れるか。

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