378.部活と恋
次の日、新入生歓迎会で先輩たちによる部活動の紹介があった。この学校にある部活は、サッカー、バスケットボール、卓球、ソフトテニス、陸上、剣道、弓道、相撲、新体操、社交ダンス、登山、吹奏楽、美術、自然科学、ヤギ、茶道、書道、ピザ、ボランティア、人形浄瑠璃の20種類だった。昨日まで1300人ほどいた生徒が急に30人に減ってしまったため、2年生3年生は急に部を2つ3つ掛け持ちして部の紹介をする羽目になった。人数が足りなすぎるので、サッカー部は全員強制参加を義務付けられたくらいである。全員参加しても部員が10人しか集まらない。1年生から1人は入部させないと、試合に出れないとレイラーニを名指しで口説いたが、レイラーニは無視した。剣道部と約束があるし、サッカーが何か知らないからだ。1番部員が多いのに、足りないなんて何言ってやがると思っている。
放課後、クラスメイトを4人引き連れて、自転車師匠先輩の後を追い、剣道部の見学に行った。新入生歓迎会までは剣道部だったが、急遽部員が全員消えた弓道部を引き受けることになった。剣道部と弓道部の部員が自分しかいなくなったので剣弓道部にすることにしたと説明を受けた。強制参加のサッカー部もあるから、自転車先輩は最低3つは部活動を掛け持ちしていることになる。剣道部は軽体操室で活動していたが、弓道場で竹刀も振り回すことにする! と、半泣きで宣言するところからのスタートだった。
部員が自分しかいないから、立ち合い稽古ができないと、レイラーニに竹刀が回ってきた。剣道部が何かもわからないから見に来たのに、である。剣を使えそうな人材が他にいないと言うから渋々参加したのに、文句ばっかり言われて、レイラーニはすっかり機嫌を損ねた。
蹴りは禁止。竹刀は投げつけたらいけない。スネを狙ってもいけない。勝っても喜んではいけない。言われる度に、なんでだよと言った。理由を説明されたが、理解できなかった。体格で劣るのだから、何でもやらねば勝てないし、師匠に勝てたら嬉しい。手抜きをしてくれているとしても、思いっきり棒で叩くのは爽快感があった。なのに、否定されるのは納得がいかない。
「了解。剣道部はやらない」
レイラーニは竹刀を投げ捨てて、弓道場を去った。
レイラーニは次の日、いろいろな部活に見学を申し込み、すべての部活でチヤホヤされた。どの部活も部員の獲得に躍起になっているのだ。
結果、ヤギ、ピザ、茶道、相撲、サッカー、人形浄瑠璃の6つの部活を掛け持ちすることになった。来たい日だけ来ればいいと、言ってもらえたのだ。
ヤギ部はヤギの世話をする当番に決められた日と、サッカー部と人形浄瑠璃部は大会の日は来てと言われたが、それ以外のノルマはない。好きな日にふらりと参加したら、ピザや和菓子やちゃんこ鍋を食べさせてもらえるのに惹かれて入部した。人形浄瑠璃は、年に一回、部費で北海道グルメを食べに行くと聞いて入部した。北海道グルメの正体はわからないが、揚げかまぼこかなと思っている。サッカーは1年生も強制参加になったから、籍だけある。
レイラーニは、ヤギ部に出かけた。当番が回ってくる前に、世話の仕方を教わらなければならないのだ。今日だけは、新入生は全員出席して欲しいと頼まれた。レイラーニは一緒にヤギ部に入部した幼馴染師匠とヤギ小屋に出かけた。
ヤギ小屋は、正門から最も遠い場所にある。正門をくぐると右と左に校舎と校庭があり、その間を抜けて、体育館の更に奥、サッカーコートとプールを越えて、部室棟の裏にある。歩いていくのは遠くて若干だるい。そこに一段下がった窪地があり、窪地全体がヤギの運動場所になっている。小屋だけでなく、干し草の保管庫もある、それなりに広い飼育場になっている。一応柵はあるものの、小屋の上に登れるようになっているから、そこから余裕で脱走できる。だが、特定のイベントが発生しない限り、ヤギが脱走することはない。
因みに、あの日以来、ずっと幼馴染師匠は水色のままである。だから少しずつレイラーニにもどれが誰かわかるようになってきた。ヤギ部の現部長は茶色い。ヴァーノン色だから、レイラーニの中では1番のイケメンキャラということで落ち着いている。
「やあ、来てくれてありがとう。時間を取らせたら悪いから、早速説明するね」
ヤギ部部長は、ほうきとチリトリを持って待っていた。待つ間に今日の掃除は終わらせていたが、説明だけした。
「最初は、まず掃除。適当に落とし物を片付けて、小屋の横のゴミ箱に捨てるだけ。金曜日の午後だけは、大掃除ね。敷き藁を全部掃き出して、小屋の近くの穴に落としといて。たまに穴の位置が変わるけど、どこの穴でもいいよ。キレイになったら敷き藁を敷く」
ゴミ箱や穴、敷き藁の保管場所を回りながら、丁寧に教えてくれた。水換えも栓を抜いて、洗って、栓を戻して、水皿の上のスイッチを押したら給水されるシステムで、簡単だった。エサは3種類。干し草とペレットとミネラルブロックである。ペレットとミネラルブロックは部長が与えるから、1年生は干し草だけ盛れば良いと言われた。ヤギは母娘ヤギしかいないので、一度に与える量も多くはない。
「世話が終わったら、ヤギの様子も見てね。目やにとか毛艶とかを確認して、何か変だなと思ったら、教えてくれたらいいからさ。獣医はうちの親だから、気軽に呼べるんだ」
「わかった」
レイラーニはブラシで撫でたり、抱きついたりして、ヤギを愛でた。ワラ小屋で生活しているくせに、やけに甘い石鹸臭がして不思議に思ったが、それはヤギ役で代わりに抱かれたモンスター師匠の匂いだった。師匠がヤキモチをやいたら、他のモンスター師匠に圧をかけられて黙らされた。ヤギ役は順番ねと話合いを持たれたが、やはり師匠は順番に入れてもらえなかった。
サッカー部では、男子部と女子部の練習試合を見せてもらった。どちらのチームも師匠しかいないから、体格差もなければ実力差もなく、ハンデもない試合である。レイラーニは、横に座る水色幼馴染師匠の解説を聞きながら、ピザを頬張っていた。ピザ部からの差し入れは、フライドポテトとフライドチキンもある。
師匠は中学時代、手芸部に入ったら友人に怒られて、試合の日だけサッカー部員になっていたので、サッカーはできる。血眼になって練習に取り組まされたので、リフティングだけなら世界に通用すると自負している。だが、今回のサッカーは、手入力で座標を指定し、ボールとキャラクターを動かすゲームだから、叔父に見せられたアニメを思い出しながら、やりたい放題して遊んだ。
それを見たレイラーニは、細かいルールはよくわからないが、「皇帝ペンギン」「ワイバーン」「ペガサス」などと動物名を叫びながらボールを蹴る遊びだと理解した。クマちゃんと、レッサーパンダと、クロアシネコのどれを自分の必殺技名にするか悩み始めたが、クマちゃん以外は言いにくいなと思った。
女子サッカー部部長は、ピザ部の部長でもある。試合の日には、ピザをいっぱい焼いてくるからねと微笑まれ、レイラーニは胸を射抜かれた。惚れるかと思って、ドキドキした。
6つも部活を掛け持ちしているレイラーニは忙しい。そろそろ日が暮れてしまいそうだが、サッカーの練習をサボっていた相撲部部長に誘われたので、相撲場に行った。
相撲部に一緒に入部したのは、橙色のライバル師匠ちゃんである。何がライバルなのか聞いたところ、水色幼馴染師匠は、小学校のけん玉大会でレイラーニが優勝して以来、何かにつけて競い合う子と教えてくれた。レイラーニはけん玉が何かも知らないのに、けん玉チャンピオンになっていた。アーデルバードではよくある事象だから、適当に聞き流して済ませた。
相撲場は体育館の裏手にある。土俵が3つ並んだ横に太い柱が2本とベンチプレスが10個置いてあり、反対側には座敷と調理場がある。土俵その他で練習する間、ちゃんこ当番がちゃんこを作り、練習後にみんなで食べるのが、相撲部の練習ルーティンである。食べるのも稽古のうちと、食費も部費から出ている。36人いた部員が3人に減ってしまって、ちゃんこ代が余っていると聞き、レイラーニは喜んで入部した。
マワシも下に長袖Tシャツと10部丈スパッツを履いていいと言われたので、了承した。腹回りを晒せない師匠たちも厚着をしているので、問題はない。誰も肌を晒していない。年頃の男女が揃っても、目のやり場に困らない部活だった。
「今日は、味噌醤油ちゃんこにしてみました」
どすこいと、座敷のテーブルのど真ん中に鍋を置き、周りに座った皆で一緒に鍋をつつく。部員でない者も混ざっているが、どうせ皆師匠なのだから、レイラーニは気付かない。
師匠たちは、鶏肉とつくねしか取らないから、大量の根菜やきのこが余る。それを喜んでレイラーニが食べながら、ライバルちゃんを煽った。
「野菜が食べれないとか、子どもか。大したことないな」
「なんですって。身体作りとお肌の管理にタンパク質をとっているだけですのよ。食べれないのではなくってよ!」
ライバル師匠は、皿に厚揚げと蒟蒻を取った。先輩師匠もそれぞれ野菜をとった。ニンジンを口に入れた部長師匠は、目をつぶって耐えている。ほうれん草を口に入れた先輩師匠は、ぽろぽろと泣きながら咀嚼していた。
たいしたことではないが懸命に頑張っている姿を見せられて、レイラーニはこいつら可愛いなと思いながらシイタケを口に入れた。それに気付いたライバルちゃんは、次は負けませんわと言った。シイタケが苦手らしい。レイラーニは、北西のダンジョンでシイタケをいっぱい作って、部屋で干し椎茸作りをしようかな、と思った。
次回、朝練と授業と師匠のテスト。
このゲームも長くて、嫌になってきました。