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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
2-1章.18-15歳
372/463

372.思い出の初デートの場所で

 駄々をこねる師匠を強制退場させ、レイラーニはモンスター師匠とモンスターヴァーノンの部屋を作ることにした。部屋は南のダンジョンの2階に大量に余っている部屋を利用する。モンスター師匠は、既に何人いるのかすらカウントしたくない。レイラーニは、2階であればどこを使ってもいいけど、ケンカをしないで割り振ることと言って、部屋に戻った。後で変な場所にモンスターヴァーノンが詰められたりしていないか、チェックするつもりだ。

 狭い部屋ではないのだが、部屋をくれるのと集まってきたモンスター師匠の数が多すぎて、どちらを向いても師匠の顔がある状態に耐えられなくなったから、細かい采配はしてあげられなかった。レイラーニは火照る顔を冷やすために、無心で酒を食らった。それを、嫌そうな顔でアデルバードは見ていた。



 次の日、またレイラーニはアデルバードに送ってもらい、アーデルバードのダンジョンセンターに来ていた。アデルバードは99階層に帰ってしまったが、レイラーニは景品交換の窓口で景品ラインナップを眺めて、うなっている。ダンジョンを楽しめのCプランとして、ダンジョンセンターで遊ぼうとしているのだが、ポイントが少なくて困っているのだ。パドマはポイント長者だが、レイラーニのポイントはまだ少ない。

「何が欲しいの? お兄さんに言ってごらん」

「にゃあぁっ!?」

 景品に夢中になって気付かなかったが、カイレンがレイラーニの背後に立って、後ろからレイラーニの視線の先を探っていた。

 住処に戻ったアデルバードが、カイレンに魔法特訓の続きをねだられて、鬱陶しく思って追い出したのだ。レイラーニに贈り物をするチャンスだとまるめこみ、体良く逃げた。間違いなくレイラーニのところに行くように、レイラーニの後ろに魔法で派遣したので、レイラーニが回避しようとしても、できない状態だった。

「い、イレさん? 今から出勤?」

「違うよ。今、帰って来たとこ。もうやることないから、時間を気にせず安心してお兄さんに甘えるといい。ポイントもカンストするくらいあるから、欲しい物があれば、何でも言って」

「あー、うん。クマちゃんに代わる相棒と、師匠さんに似合う装飾品は何かな、って見てたの」

 カイレンは、自称アーデルバード1のぬいぐるみ鑑定士である。動くぬいぐるみが欲しいなら、アデルバードの次に頼りになる存在かもしれない。レイラーニはそう思って相談しようと口を開いた。クマの話をしていた時は和かに聞いていたカイレンも、師匠の話をされて、頬を引き攣らせた。

「何? 師匠へのプレゼントをお兄さんに買わせるの? それは、いくら何でも、悪女過ぎない?」

 カイレンは怒りを抑えているつもりでいるが、瞳をギラギラと光らせている。やだ、茶色の瞳は怖いと、レイラーニはカウンターに助けを求めた。無情にもカウンターは、助けてくれなかったが。

「違、うよ。100階層に行く手立てを考えてるんだよ。ここは、いにしえの魔法使いが師匠さんに贈った愛の結晶だから、魔法使い好みの装束で師匠さんを飾ったら、皆が優しく迎えてくれたりしないかな、って思っただけだよ。

 師匠さんは、ウチのお父さんなんだよ。プレゼントをするのも、ダメなの? イレさんにとっても、大事なお兄ちゃんなんでしょ。う、ウチの旦那さんになるなら、義父だよ? なんで、そんなに怒るの?」

「義父? それは、パドマと連名でプレゼントを贈るべきだね。お兄さんの故郷では、季節ごとにご挨拶代わりに義両親に贈り物をするんだよ」

 レイラーニの言葉に、カイレンはころっと機嫌を直した。

「そうそう。そういうのだよ。師匠さんて毎日色が変わるから、何が似合うのか、さっぱりわからないし、魔法使いの好みも知らないから、選びようがなくて、困ってたの」

「お父様の好みか。お母様が装飾品が好きじゃなかったから、お父様が装飾品をプレゼントしてるのは、見たことがないかも。扱うのは、売り物くらいだったかな。でも、お父様は、師匠を女の子の格好にするのが好きでさ、その時は大体、桃色の着物を着せてたと思う!」

 カイレンは遠い記憶を掘り起こしたが、それを聞いたレイラーニは、とても残念そうな顔をした。実父が健在なのに、あえて養父を父と呼び、父と言えば魔法使いの話をするのが、師匠だ。抱き付いたり、キスしたり、風呂に入ったり、仲良しなんだなと思っていたのに、女の子の格好にするのが好きだなんて、変態臭しかしない。仲良し親子の話ではなく、聞いてはいけない話のように思えてならない。

「そうだなぁ。桃色なら、今の季節なら、桜モチーフがいいかな。サクラシリーズを出してもらえる?」

 カイレンが窓口係に注文すると、奥の部屋から宝飾品が入った箱を抱えた職員が出て来た。箱の中身を見たレイラーニは嬉しそうに明るい声をあげた。

「あ、この花! フェーリシティにいっぱい植ってるの。お父さんとの思い出の花なんだって。当たりかもしれないよ。イレさん、すごい!」

「そう? 喜んでくれたなら、嬉しいな。ふふ、見立ても任せて。1番似合うのを見つけてあげる」

 カイレンは全ての装飾品を検めて、気に入ったものを取り分けて並べてもらい、レイラーニに見せた。桜モチーフのラリエットとイヤリングとブレスレットが2揃え並べられている。淡色のアクセサリーと、華やかな色のアクセサリーだった。どちらか好きな方を選べと言う意味かと思い、レイラーニは肌なじみの良さそうな淡いシェリー色の方がマシかなと考えた。

「どう? 気に入った?」

「うん。こっちがいいかな」

「本当に? そう、そっちがパドマ用のアクセサリーだよ。その石はね、トルマリンって言うんだ。マンガンが少なめで赤色が薄いのを選んだよ。赤は苦手なんだよね? パドマの誕生石の1つでもあるんだよ。結婚1周年で贈る石でもあるんだけど、もう贈っちゃってもいいよね。1周年では、また別のを考えるから。もう1つはね、師匠用。一頃、パパラチアサファイアの剣を大量生産してたから、好きなんじゃないかな。お揃いのモチーフだって誘えば、きっとつけてくれるよ。つけたら、100階層に突き落としてみたらいい」

「え?」

 カイレンはイタズラが成功した小僧のような顔で、してやったりと笑っていた。

「お兄さんは、石屋の息子だって言ったよね。舐めてもらっちゃ困るなぁ。パドマに似合う見立ても、パドマが好む見立てもできるんだよ」

「そんなのイレさんじゃない! そんなイレさん、気持ち悪い!!」

「え?」

 カイレンは、ヒゲなし顔でいた。これといって役に立っていない綺羅綺羅しい顔を晒していた。レイラーニは特に興味はない顔だと思っていたのだが、腐っても師匠の弟だった。話が通じて、言わずとも好みをわかってくれる便利な人だと思えば、少しいいなと思ってしまった。それに気付いたレイラーニは、全身に鳥肌を立てた。

 この場にいてはいけないと、レイラーニは恐怖のままにダンジョン入り口に向けて走ると、曲がり角で人にぶつかった。ぶつかった人物は、格好良くレイラーニを抱きかかえて、レイラーニが跳ね飛ばされるのを防いでくれた。恋の始まりである。レイラーニは安堵した。この人なら、好きになっても構わない。

「大事ありませんか」

「うん、大丈夫。ありがとう。お兄ちゃん」

 レイラーニがぶつかったのは、パドマの付き添いでダンジョンに出掛けていたモンスターヴァーノンだった。1人は泣いて暴れるパドマを抱えていたが、もう1人がレイラーニの暴走を止めてくれたのである。やっぱりお兄ちゃんは小さくても頼りになるなぁと、レイラーニはでれでれになった。モンスターヴァーノンの頭を撫でて、褒章の話をした。頭を撫でられても、モンスターヴァーノンは喜ばないが、レイラーニはやりたい放題していた。

「パドマはモモンガがいいの?」

 パドマはモモンガと叫びながら暴れていたので、カイレンはモモンガのぬいぐるみを交換してきて、パドマに見せた。見せられたパドマは動きを一瞬止め、ぬいぐるみを見るとイヤイヤと首を振った。

「ちがーの。白くて、ちっちゃーくて、かわいーの」

 居合わせた全員が、カイレンの持っているぬいぐるみを見た。カイレンが持っていたのは、フクロモモンガのノーマルカラーのぬいぐるみだった。大きさは、パドマなら乗って飛べそうな大きさである。

「自然界に、白いモモンガなんていたかなぁ?」

「ぬいぐるみなら、青でも赤でもなんでもいいじゃん。今から生地を買ってきて、作るか。全身真っ白でいいの? 目は何色? 大きさはどのくらい?」

「えとね、えとね、こんなの。白くて、ちっちゃーくて、かわいーの。おめめくりくりで、赤いの」

 パドマは手をわたわたと動かして、必死に表現した。それを見た全員が、パドマみたいな娘がいたら娘バカになるし、わざわざ作ってあげるなんて、レイラーニは優しいし家庭的だなぁとほっこりしていた。レイラーニには作る技術はないので、精々、生地を買ってきて、モンスター師匠にお願いするだけのつもりでいるのだが。

「目が赤いなら、アルビノかな。冬毛かと思ってたけど」

 モモンガの種類は何かなぁと、レイラーニが悩んでいたら、頭の上からモモンガマスコットがポロポロと降ってきた。すべて白い毛で赤い目をしているが、モモンガの種類が違うから、微妙に顔つきなどが違う。何故か、いちいち全部レイラーニの頭にヒットした。

「あんにゃろう」

 こんなことをする犯人は、アデルバードしかいない。レイラーニは、次会ったらシメる! と思いつつ、マスコットを拾ってパドマに見せた。

「好きなのある?」

「全部!」

 パドマの顔は、キラキラと輝いた。モンスターヴァーノンが、1つだけだと叱っていたが、余っても特に使い道はない。全てパドマの手に押し込んだ。


 パドマがご機嫌に帰って行くと、レイラーニはカイレンに礼を言ってアクセサリーを貰い受け、99階層の自室に旅立った。床にずぶりと沈んで、あっという間に消えたので、カイレンは止められなかった。奪われただけで置き去りにされたカイレンは、ダンジョンマスターへの苦情を叫びつつ、走ってレイラーニを追った。

次回、アデルバードとレイラーニ。

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