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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
2-1章.18-15歳
367/463

367.酒を飲ませると

 キリンを食べ尽くし、バーベキューセットを片付けると、先に進むことになった。

 レイラーニは足取りがふわふわしているが、やる気はある。ひょこひょこと走り進み、邪魔なところにいるキリンをぶった斬り、魔法で凍結させてアデルバードによろしくと言った。アデルバードはキリンを亜空間に収納した。

 レイラーニは、目隠しをして先頭を走り進む。今までは倒そうと考えたこともなかったニシキアナゴなども切り捨てながら進んでいく。そして、美味しいものは、凍結させて、アデルバードに収納を頼んだ。


 そして、80階層に着いた。この辺りからが、ちゃんと敵を自力で倒したか怪しいラインである。80階層の火蜥蜴人間は、倒した覚えがある上に無抵抗だから、そのまま通り過ぎた。

 81階層はジャイアントムースである。倒したと言えば、ギリギリ倒したかもしれない巨大なシカだ。今日もレイラーニの身長よりも長い足で、そこらを歩いている。壁があるべき部分の穴も健在である。

「なんで、急にここから壁をなくしたの?」

「理由は知りません。私は管理を任されているだけで、ここを作ったのは父ですから」

 やはり疑問は疑問のままだった。

 走り回ってアルコールも回ったが、時間が経ったのでそろそろ抜けている。アルコールだけでなく、食料も消化しきる頃合いだろう。レイラーニは空腹でも死なないが、くっついてきている護衛のためにも食事休憩は必要だ。シカは美味しいから、食えるかどうかわからないラーテルよりはいい。そこまで考えて、また疑問がよぎった。ダンジョンを楽しみ尽くせという課題が、全モンスターを食い尽くせという話だったら、どうしよう。タヌキは殺してはいけないのだから、そんなことはないよね、とアデルバードを見たが、疑問を口にしていないのだから、返答はない。

「あぁああ」

 レイラーニは言葉にならない声を発して、恐怖の通路を走り抜けた。ジャイアントムースは首を下げて突っ込んで来るので、跳んで上から首目掛けて剣を落とす。前回もやろうと思えばできた攻撃である。ただ穴が怖くて跳べなかっただけだ。今は魔法が使えるし、いざとなればアデルバードが助けてくれそうだから、安心して跳べる。恐怖心は変わらないのだが、皆が見ている手前、格好つけている部分もある。もう赤の他人だと言ってはいるが、気分はボスのままなので、格好悪いところを見せられない。

 1頭仕留めると、アデルバードに解体と調理を頼んで、2頭目に向かった。今なら魔法で冷凍保存できるし、無限に物を運搬できるアデルバードがいるのだ。ポイント稼ぎのためにも、次々と狩り尽くした。


 レイラーニが戻ってくると、シカ料理が並んでいた。ハンバーガーにカツサンド、ステーキ、唐揚げ、しゃぶしゃぶに青椒肉絲や赤ワイン煮込みまで並んでいる。料理魔法様々である。

 レイラーニはイスに座ると、こうやって食べるらしいぞとピヨちゃんがしゃぶしゃぶ肉に火を通してくれたが、それを聞かずにアデルバードを見つめている。アデルバードは気付かないふりをして紅茶を飲んでいたが、用があるみたいですよとツッコミを入れてくる男の人数が増えて、鬱陶しくて仕方がなくなったので、桃酒の瓶を出した。レイラーニの趣味は理解した。甘い酒なら何でもいいのだろうと、桃が丸ごと1つ入っているデザートのように甘い酒を出してやった。

 先程の瓶と開け方は同じである。レイラーニにはかたくて開けられなかったが、セスがかわりにフタを回し開けて、カップを満たした。桃の甘ったるい臭気がしただけでレイラーニの頬は溶けている。桃の酒漬けよりも更に甘い酒である。ストレートで飲んでもレイラーニなら飲めるだろうが、アルコール度数も高いので、アデルバードはミルクを出して割らせた。だが、あまり意味はなかったかもしれない。しゃぶしゃぶを食べながら、1瓶すべて飲まれてしまった。

 だが、またレイラーニはアデルバードを見つめている。赤ワイン煮込みを手前に置いて、首を傾げてじーっとアデルバードを見ている。今のレイラーニは伴侶動物ではないのに、アデルバードのオキシトシンやセロトニンやフェニルエチルアミンの分泌を促している。そんなものに陥落するアデルバードではないが、巻き込まれてフェニルエチルアミンにやられた男たちが簡単に落ちたので、暑苦しさに耐えられず酒瓶を出した。濁り酒に大量の苺と糖分を仕込んだ、甘い酒だ。ほろほろと崩れるシカ肉を濃い味で煮込んだので、酒が進む。レイラーニは、また全部飲んでしまった。

 レイラーニは唐揚げの皿を手繰り寄せて、アデルバードを見つめる。瞳にハートが浮かんでいるが、恋の相手は酒だ。

「申し訳ありませんが、私は甘い酒はあまり得意ではないので、これ以上は持ち合わせが御座いません。諦めて下さい」

 出そうと思えば、師匠の梅酒はくすねられる。だが、レイラーニの酔い具合からすると、もう飲ませられないと思い、アデルバードは断った。

()える白そーしゅは?」

 レイラーニは酔っ払いのフリをしている時よりも、ふにゃふにゃになっていた。自力で座るのも難しい風情に、周囲も戸惑っている。完全に酔っているのが知れてしまった。

「私は作り方を知らないので」

 アデルバードはウソをついた。ただ作るのが、面倒だっただけだ。レイラーニは顔をしかめたが、追求はしなかった。

「そか。りゃーもーいーや。おやすみぃ」

 レイラーニはわざとイスから転げ落ちて床に沈み、自室のベッドの上に落っこちて、丸まって寝た。やれやれとアデルバードも自室に帰ろうとして、ペンギン男たちに囲まれた。


「おい。おじさん。レイラーニのとこには行くなよ。叔父だの姪だの言ってみたところで、あんたがそばにいたら外聞が良くないからな」

「外聞? 何故、外聞が関係あるのですか。私はあの子と真実血の繋がりがありますし、そのような気持ちは抱いたことはありませんよ」

「つもりなんざ、どうでもいい。レイラーニは可愛い。あんたのことを、レイラーニは女の扱いが酷いと言っていた。姐さんは、パドマは、あんたが小さくしたんだろ? どこをどう切り取っても、危険人物じゃねぇか。2人きりになんて、してたまるか」

「そうですよ。我らに親交を深める機会をお与え下さい。共にいてくだされば、身の潔白を信じます」

「信じてくださらなくても構いません。本人は嫁入りを希望していませんし、私も諦めました。あの子には向いていないと痛感しました。もう好きにしたらいいと思っています。外聞が少々ユニークなだけで気に召さないなら、近付くのはおやめなさい。ご期待に添えるような子ではありません」

「姐さんたちが過去いろいろとあったのは、知ってんだよ。姐さんから直接聞いたし、姐さんの古馴染みもいるからな。俺たちは知った上で従ってるし、姐さんたちが全然克服できてないから、守ってやりたいんだよ。だから、あんたも本気で叔父をやるつもりなら、行くな」

「仕方のない人たちですね」

 アデルバードは、簡易ベッドと酒樽と筑前煮入り寸胴鍋を魔法で出した。

「私は適当に寝ていますから、お好きにお過ごしください」

 アデルバードはベッドの上に乗ったが、少しは付き合えと引きずり下ろされ、酒を飲まされた。皆はちょっとしたイタズラのつもりだったし、アデルバードも戯れに付き合っただけだった。だが、少量の酒で蕩け始めたアデルバードは、大量の色気を振り撒き始めたので、男たちは慌ててベッドの中に封印した。レイラーニより余程危険物だった。サシ飲みだったら転んでいたと恐怖に震え、仲間の大切さを語り合い、連帯を深めながら男たちは夜を明かした。

次回、ラーテルを食べる。

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