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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
2-1章.18-15歳
364/463

364.ダンジョンを楽しめ!

 モンスター師匠に送ってもらって、レイラーニはアーデルバードのダンジョンにやってきた。夜明け方で、薄暗い時間にやって来たため、まだ窓口は開いていないが、レイラーニはダンジョンセンターのイスに座って、ぼんやりし始めた。このダンジョンの101階層へ行く方法を考えている。先日、アデルバードと話した時、その先があるような話をしていたので、行けるものなら行ってみたいと考えていた。

 アデルバードのくれたヒントは、「このダンジョンを隅々まで楽しめば、私も全てを解放致しますよ」だ。行けない箇所があるのに、隅々まで楽しめとはどういうことだと思うのだが。ゴミムシやコモドオオトカゲなど、自力で倒していないモンスターもいるし、もっと兄孝行をしろという話かもしれない。他にも幾つか思いつくことがある。

 次に考えるのは、カイレンのことだ。カイレンは、ポイントを貯めすぎて登録証をうっかり壊すくらいに、ダンジョンを楽しんでいるのに、100階層は通り抜けできないと言っていた。大昔に聞いた話からすると師匠も通れないのだろう。3人なら行けるかもしれないという話を聞いた気がするのだ。

 今まで聞いた話を総合すれば、100階層には師匠の父親が3人と、母親が2人と、師匠と、緑クマと、カイレンのもう1人の姉と、カイレンがいる。聞き漏らしがあれば、他にもいるかもしれない。師匠の妹は5人いると聞いたし、カイレンの姉は3人いたような気がするから、もう1人はいそうである。

 その中で弱いのは、師匠とカイレンと師匠の実父だと聞いた。信じ難いが、師匠とカイレンは幼少期だったからと思えば思える。アーデルバードっ子としては、最強はダンジョンを作った古の魔法使いを推したいが、カイレンも師匠もカイレンの実父の強さを語っていた。レイラーニとしては、実際に会って肌で感じた乳母の強さにビビり倒したのだが、あの2人は乳母の強さは話題にもしなかった。

 親切に、レイラーニに魔法特訓を施してくれた乳母の魔法力と鬼教官ぶりは、筆舌に尽くし難いものだった。何がどうと、十全に語ることはできない。レイラーニは、特訓時間の半分くらいは記憶に残っていないのだ。その間、意識をなくしていたのか、記憶をなくしてしまったのかも、定かではない。だから、実は乳母が最強説を唱えたい気持ちがあるのだが、きっと魔法力は師匠の養父の方が上なのだ。

 レイラーニは眩暈を起こしたような気分になって、ここまで送ってくれたモンスター師匠を見た。モンスター師匠は今日も変わらず可愛いが、魔力残量が少ない。

「魔力を使わないようにダンジョンに帰って、ゆっくり休んで」

 レイラーニが帰宅を促すと、モンスター師匠は嫌がったが、強権を発動すると、如何にも渋々という風情で帰って行った。強権を発動されずとも、消えたら泣いちゃうよ! などと言われれば、逆らえないと思いながら、帰宅した。師匠本体は何度死んでも強制蘇生させられた経験があり、死ぬことが慣れっこになっている部分があり、蘇生しないモンスター師匠にもその性質が受け継がれている。消えることの嫌悪感はあまりないのだが、レイラーニにはわからない。どちらかと言えば、死は夢の中の憧れなので、嫌がらないのだ。

 レイラーニは登録証を確認し、フライパンや水袋、お茶っ葉などを入れたリュックを背負い直し、ダンジョンに入場した。


 フェーリシティのダンジョンでこっそり練習した魔法を使って、行けるところまで進むのが今日の目標である。どうにもならないようなら、ポイントを集めて景品を手に入れて先に進むことも検討する。パドマの相棒のクマちゃんと同等の何かがいれば、戦闘は楽になる。

「力強き最強の名を持つ神よ。我が身に宿る力を高め、肉体を強靭なる塊に変化させよ。魂魄より湧き出ずる波動に我が身を包み、剛毅なる力をこの手足に与えよ」

 モンスター師匠に習った呪を口にして、レイラーニは強く真摯に願い、魔力をほんの少しだけ供出した。すると、黒と紫の光が天から降ってきて、レイラーニの身体に吸い込まれた。何かが変わった気はしなかったが、ダンジョンに入場し、抜剣して進む。


 5階層まではモンスターを無視して進み、6階層のトリバガ先生にご教授頂く。トリバガは売れる素材が取れないので、パドマの手で間引かれていなければ、数が溜まりがちだ。だから、修行だけでなく、ポイント集めとしても悪くはない相手なのだ。

 前回来た時は、鱗粉まみれにされてしまったが、今回は、動きを簡単に視認できた。腕力や脚力を上げる魔法のつもりでいたが、動体視力が上がっていることをレイラーニは肌で感じた。脚力アップの結果、俊敏性が上がったらしく、トリバガをスパスパと切り捨てることに成功した。以前は二刀流で手数を増やしてギリギリ倒していたのが、魔法1つで両手持ちの剣1振りで沈めることができるようになった。つくづく力のあるヤツはズルイなと、怒りを覚え、レイラーニはそれをトリバガにぶつけた。

 100部屋全部制圧し、瞬く間に芋虫1日分のポイントが貯まったのを登録証で確認して、レイラーニは下階に降った。苔取りをしていた所為もあるが、効率の大切さを感じずにはいられなかった。



 第2チェックポイントの火蜥蜴も焦げることなく制圧できたので、またレイラーニはミミズトカゲの前に立った。

 大きなミミズトカゲだけ、ちょっと克服した態でいるが、思えばこいつがレイラーニたちのミミズ嫌いの元凶だと思われる。もう既に恨みを果たしただろうと言われそうなくらいぶった斬ってきたが、ミミズ嫌いを克服するまでは、恨み骨髄の相手だ。

 レイラーニはいつものように、半身引いて剣を脇に構え立っている。ミミズトカゲが真正面から飛び込んで来たら、体を入れ替え、剣を擦り上げる。モンスター師匠との特訓の成果で、レイラーニはミミズトカゲを片腕で真っ二つに割った。

 レイラーニは、戦闘の基本は料理なんだなぁと、しみじみ痛感した。モンスター師匠と行った練習は、魔法で筋力を上げた後のお料理教室である。料理の基本は、正しく研がれた包丁を使うことだが、刃の使い方が正しければ、切れ味の悪い包丁でもキレイに切れると、刃の当て方、動かし方を徹底的に叩き込まれたのだ。脂でぎとぎとになったままの刃物で、肉を自由自在に切る技を覚えるには、料理がオススメだと、100人以上いるモンスター師匠に囲まれ、仕込まれた。

 モンスター師匠たちは、レイラーニが新たに肉を生み出すと悲鳴を上げて逃げて行き、ブロック肉が仕上がると、わらわら集まってきて肉を盗んで行った。何をするのかと思えば、レイラーニの後方で、視界に入らないようにじゅうじゅうと焼き始めた。目に入らずとも、音と匂いが駄々漏れだから、少しも隠せていない。モンスター師匠もレイラーニと同じで、食事を摂る必要はない。だが、食べたいと思っていたのだろう。放っておけばいくらでもダンジョンに肉は湧いてくるのに、解体を嫌悪して食べれずにいたのだ。解体できないの、イヤイヤとかわいこぶっても、ここにはレイラーニとモンスター師匠とモンスターヴァーノンしかいない。師匠の可愛さより、解体面倒臭いが勝つ。たまに来る綺羅星ペンギンの男だって、人数が多すぎて、皆が満足するほど解体する時間はないだろう。それは可哀想なことをしたと、レイラーニはせっせと解体に勤しんだ。

 モンスター師匠の無言のおねだりに負け続け、寝ずに解体をしまくっていたら、レイラーニは刃物使いが上達した。刃を起こして研いだ、刃先が鈍角になった包丁で豚バラ肉を切っても、断面の繊維は潰れないように切り分けることができるようになった。もちろん、トマトもスッと切れる。寝かせて研げば誰でも簡単に切れるのに、弘法はわざわざ変な筆を作り出して使う。

 その技を使って、腕力を使わずにミミズトカゲを倒したのだ。星のフライパンの寸胴剣が、刃先が鈍角の包丁並みに切れないという話ではない。かつてのおっちゃんの剣は使い物にならなかったが、寸胴剣は使える。


 西のダンジョンのゲーム並みに、ばっさばっさと敵を斬れるようになった喜びで、レイラーニは浮かれきり、かつてのように敵を斬り捨てながら走り進んだ。今回は、18階層のアシナシイモリに足止めされることはない。視力も良くなっていたが、それ以外の感覚も研ぎ澄まされ、また目隠しでも走り回れるようになったのである。

 自由にダンジョンで遊べるように戻れたことにレイラーニは気分が良くなって、28階層ではカミツキガメの曲芸斬りを目隠しのまま行った。やっと生き返った実感が持てて、喜びを感じ、少し魔力を使いすぎた。

 36階層のタカはトリバガの上位互換のため、やはり100部屋全てを制圧した。タカの動きも見えるようになってしまったから、倒すのは簡単になったのだが、うっかり目隠ししたまま戦ってしまった。突かれなかったので問題ないが、サシバだ! と思い出した時は、肝を冷やした。相手の攻撃に対応するのが精一杯で、覆面をとる余裕がなかった。何はともあれ、1羽当たりのポイント数も違うので、一気にこの階層だけで、沢山のポイントを貯めることができた。



 そんななんやかやがありながら、レイラーニは46階層にやってきた。ミイデラゴミムシがいる階層である。ダンジョンには滅多に来なくなったのに、未だに師匠の駆除活動は続いているのか、どこにも敵影はなかった。これでは、隅々まで楽しむ案Aが実行できない。

 ガッカリしたが、それはそうなる予感があったから、そのまま先に進んだ。オオエンマハンミョウやサソリとのバトルが楽しかったので、大した付き合いのないゴミムシのことは、すぐに忘れた。

次回、妹が心配な兄は黙って見てられない。

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