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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
2-1章.18-15歳
359/463

359.美魔女セレスティアの酒場

 別れ際に、レイラーニはカーティスに酒場行きを勧められた。2歳に酒場は早過ぎると思うのだが、情報収集と旅の仲間を募るのは、酒場に行くのが鉄板らしい。酒場は、レイラーニの母の職業と相性がいいからか、家の目の前にある。城に行く前に泡特盛りのエールジョッキの看板を見つけていた。レイラーニが知らなくとも、町の人は皆、レイラーニを知っているようだった。こちらは知らないけれど、知り合いだろうと、何の気負いもなくレイラーニは暖簾をくぐった。


「あらぁ。レイラーニちゃん、いらっしゃい。おませさんね。お酒を飲みに来たのかしら。それとも、おばさんに用事があるのかしら」

 金髪碧眼の美しい少女が、カウンターの中から声を発した。自称おばさんだが、おばさんの片鱗は見えない。頭の三角巾とエプロン姿は板についているが、とても酒場の女主人には見えなかった。物語の中のお姫様が現実に飛び出してきたと言われたら、信じてしまいそうな可愛らしい容姿を持っている。見た目は、師匠と同じくらいの年齢に見える。もしかしたら本気で2人は同世代かもしれないと、レイラーニの脳裏に過った。顔は可愛いのだが、表情は大人っぽいというより、妖艶なのだ。

 店の内装は、唄う黄熊亭とほぼ同じであり、あの店と同じように探索者らしい服装の客がぽつぽつと座り、酒と料理を楽しんでいた。

「えとね、ポンポーニオをとっ捕まえに行くことになったんだけど、どこに行ったか知ってる人はいないかな、って思って」

 そうレイラーニが言うと、酒場に笑いが起こった。

「ポンポーニオ? やめとけよ、あんな男。今頃、何処かの女と遊び歩いているだろうよ」

「この辺じゃ、名が知れて釣れなくなったから、高跳びしたいって言ってたんだぜ、あいつ」

 話を聞けば聞くほど、ツッコミどころが出てきそうな気がして、レイラーニは気が遠くなってきた。師匠は、何故こんな世界を作ったのだろうと思うのだ。あえて疎遠のアリッサ()を母として起用したのだ。ポンポーニオがガチ父だったら、どうしようと思っている。師匠は以前、パドマの父親はヴァーノンたちの父親とは別人だと言っていた。パドマの父が誰なのか、知っている可能性がある。この機会に、そっと教えてくれているのかもしれない。

「やめなさい、貴方たち。レイラーニちゃんは、ポンポーニオの娘なのよ。

 今どこに居るかは知らないけれど、一度はグォルァジュビィの町に行ったんじゃないかしら。あそこに行かなきゃ、この国から出られないもの」

 酒場の女主人がそう言うと、酒場がまた騒ついた。あれが、ポンポーニオの娘だと? と皆が信じられないような顔をしていた。レイラーニは母に似ているから、父には似ていないのかもしれないし、2歳のレイラーニは18歳のパドマと同じ容姿だから、年齢が合わないと思われているのかもしれない。

「ゴラズビ?」

「グォルァジュビィの町、よ。このズァコラン王国は島国だから、グォルァジュビィの港で船に乗らないと、どこにも行けないのよ。だから、勇者ポンポーニオは、一度はその町を訪れているに違いないと思うの」

「そうなんだ。ありがとう。じゃあ、まずはそこに行ってみるよ。この町を出たら、どっちに行けばいいかな」

「小さな国だもの。街道をまっすぐ行けば、そのうち着くわ。でもね、1人旅は危ないわ。仲間を作ってから、出かけなさい。ここは、セレスティアの酒場だもの。どんな人間でも、好みの冒険者をマッチングしてみせるわ」

「仲間? ああ、仲間ね。そう言えば、そんなことも言われたけど、お父さんをぶっちめるっていう超個人的な問題だから、仲間なんて作りようがないよね」

「同じように、ポンポーニオに用事がある人を探せば良いと思うの。魔王の所為で、魔物も強くなっているし、女の子の1人旅なんて、心配だわ。グォルァジュビィも知らないんだもの。旅慣れた冒険者の連れは必要よ」

「まぁ、いたらいいとは思うけど、変な人ならいる方が危ないよ。お兄ちゃんみたいな人が、いたらいいけどね」

「オニイチャン?」

「うん。頭が茶色で、目付きが時々鋭くて、背は皆と同じくらいなのに、めちゃくちゃ強くて頭も良くて、優しくて格好いいの。そんな人がいたらいいのにね」

「そう。頭は茶色。目は茶色。肌も茶色で、こんな感じでいいかしら。職業は、何がいいかしらね」

 セレスティアは、板に絵筆で絵を描いた。人型なのはわかったが、髪も肌も同じ茶色で描いたから、シルエットに近い絵が仕上がった。顔の造作等は不明である。

「いや、肌は少しは日に焼けてるけど、ここまでは茶色くないよ。漁師じゃなくて、料理人だもん」

 ヴァーノンを料理人の一言で表すのは暴論がすぎるのだが、アーデルバードの街民総探索者説を押せば、あながち間違いではない。まだ商人色の方が強く、料理人は見習い程度なのだが。

「そう、わかったわ。オニイチャン、いらっしゃい」

 セレスティアが呼びかけると、酒場の奥にある階段から、茶色い貫頭衣姿のヴァーノンが降りてきた。真っ直ぐに、レイラーニたちがいるカウンターまで歩いてくる。

「お呼びですか?」

「ええ、レイラーニちゃんの仲間候補に選ばれたの。どうかしら、オニイチャンを仲間にしますか。それとも永遠にサヨナラしますか」

「永遠にサヨナラって、何? 怖いよ。嫌だよ。仲間にするよ」

「そう。それは、良かったわ。あと2人仲間にできるけれど、どんな人がいいかしら」

「え? あと2人? じゃあ、お兄ちゃんも仲間にできるの?」

「オニイチャンは、登録済みよ。別の名前にしてもらえるかしら」

「え? ウチには、お兄ちゃんが2人いるんだよ。名前? あーちゃんでいいかな。呼び捨てもどうかと思うし。身体の色は、ウチと同じでね、背はお兄ちゃんより少し高くて、キレイな顔をしてるの。職業は、ダンジョンマスター兼魔法使い兼詐欺師かな」

「わかったわ。アーチャン、いらっしゃい」

 セレスティアが呼びかけると、奥の階段から、白の貫頭衣姿のアデルバードが降りてきた。

「おお、お兄ちゃんが2人揃った。すごいすごい」

「お呼びですか」

「ええ、レイラーニちゃんの仲間候補に選ばれたの。どうかしら、アーチャンを仲間にしますか。それとも、永遠にサヨナラしますか」

「仲間にするよ。当然だよ。お兄ちゃんたちは、最強なんだから」

「そう。それは、良かったわ。あと1人仲間にできるけれど、どんな人がいいかしら」

「え? あと1人? ウチには、もうお兄ちゃんはいないんだけど、どうしよう」

 現実世界では、自分を選べと師匠とモンスター師匠がアピールしているが、そんなものはレイラーニには見えない。

 レイラーニが悩んでいると、アーチャンとオニイチャンが助言した。

「魔法使いと料理人では、レイラーニちゃんを守れません。前衛職が必要です」

「レイラーニちゃんに守られている状態なら、わたしは町から出ませんよ」

 前衛職なら、自分しかいない。よくぞ言った、我が半身! と師匠は勝利を確信した。アーデルバードのダンジョンで、他の追随を許さない強さを見せつけてきた。レイラーニの周囲で強者と言えば、師匠である。カイレンなんて選んだら許さないぞ! と、モンスター師匠と頷きあった。なのに、レイラーニの返事は端切れが悪かった。

「なんで、ちゃん? ウチは呼び捨てでいいよ。あと、前衛職って何?」

「世界にはいろいろな前衛職がありますが、この酒場で仲間にできると限定すれば、戦士、武闘家、剣士くらいでしょうか」

「えー? それ、何が違うの? アーデルバード街民は皆、戦士で武闘家で剣士だと思うんだけど。でも、方向性は理解した。ギデオンのことだね! すっごい背が高い筋肉ダルマで、マサカリかついで俊敏に動くんだよ。髪は赤茶で肌色はお兄ちゃんと同じくらいで、目は青」

「ギデオン、いらっしゃい」

 セレスティアが呼びかけると、酒場の奥にある階段から、濃紺の貫頭衣姿のギデオンが降りてきた。真っ直ぐに、レイラーニたちがいるカウンターまで歩いてくる。

「お呼びですか?」

「ええ、レイラーニちゃんの仲間候補に選ばれたの。どうかしら、ギデオンを仲間にしますか。それとも永遠にサヨナラしますか」

「もちろん、仲間にするよ」

「そう。それは、良かったわ。これで4人パーティになったわね。新しい仲間が欲しくなったら、誰かと別れてから、またいらっしゃい」

「いや、永遠にサヨナラはしないよ。でも、ありがと。また何かあったら来るね」

 酒場を後にしたレイラーニは、城門に足を向けた。城門はすぐそこ、酒場から数歩の場所にある。

「よっし、ゴラズュビに行くよ」

 ポンポーニオを捕まえるためには、急がねばならない。早く捕まえねば、持っていかれたお金もなくなってしまうだろう。そうレイラーニの気は焦るのに、アーチャンに首根っこを摘まれて、足は宙を蹴った。

「お待ちなさい。旅に出るなら、旅支度が必要です。まさか、我らを丸腰のまま旅に連れ出すお積りですか」

 レイラーニは改めて仲間の3人を見ると、簡素でぺらっぺらの布の服を着ているだけで、他の所持品は何もなさそうだった。

「そっか。急に言われても、何の準備もしてないよね。皆の家は、どこ? それぞれ帰って、支度ができ次第、城門前集合とかでいい?」

「いけません。我らには、家など御座いません。武器防具その他、全てレイラーニちゃんがお世話してくださると言うから、付き従うことにしたのですから」

「ええ? そんな話だったの? 頼りになるベテラン冒険者を仲間にしたつもりが、とんだお荷物野郎だった! ウチ、お小遣いなんて、ほとんど持ってないけど、皆の武器、買えるかなぁ」

 レイラーニは、財布からなけなしの中銅貨を出した。枚数は、5枚。しめて50ペリジであった。裕福でもないレイラーニの家で、2歳児が持っている金額としてはなかなかの額だったが、冒険者の旅支度となると、心許ない。

「我々は、無一文、レベル1の駆け出し冒険者ですよ。だからこそ、無名のレイラーニちゃんに付き従うのです。

 これでは、棍棒1本が精々ですね。あれは買うだけ無駄遣いな気が致します」

「そうですね。そんなものは、そこらで拾ってくることにして、レイラーニちゃんの防御を固めませんか? これでは心配で、戦闘どころではありません」

「そうですね。わたしは無手単独でも多少はやれますから、近場で小遣い稼ぎをして、装備を整えてから、出かけますか?」

 ズァコランの武器屋防具屋道具屋を回って相場を確認したところ、レイラーニのお金だけではどうにもならないし、そもそもここの武器防具がしょぼすぎて、お小遣いを貯めてまで買う気になれないということで、話はまとまった。


 大幅に寝坊したところから、1日がスタートしている。話をしているだけで夕暮れ近くなってきた。夜の魔物は昼の魔物よりも危険だとアーチャンが主張するので、今日は早めに寝て、明日に備えることにした。

 金欠冒険者は、宿屋に泊まる金はない。皆で、レイラーニの家に詰まって寝ることになった。

次回、旅立ち。

ちょっとプレイして速攻で終わる予定だったのに、終わりませんでした。

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