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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
2-1章.18-15歳
353/463

353.悩んだ結果

 レイラーニはダンジョンに戻ると、師匠と別れ、モンスター師匠を3人呼び出した。歌劇を上演したおかげで、モンスター師匠はいっぱいいるので、数人呼び出しても、酒造りには影響はない。

 今回、呼び出しに応じたのはホワイトブロンドの琥珀色の瞳を持つ師匠と、ミルキーブロンドの緑色の瞳を持つ師匠と、ストロベリーブロンドのはしばみ色の瞳を持つ師匠だった。モンスターヴァーノンは単色だが、モンスター師匠はカラフルだ。個体識別のために違う色にしているのか、本体と同じようにそれぞれが毎日カラーチェンジしてるのかまでは、レイラーニは把握していない。命令すれば色は固定化されるだろうが、可愛いからそのままで放置している。

「相談があるの」

 レイラーニがそう言うと、モンスター師匠はポットに魔法でお湯を入れ、亜空間から焼き菓子を取り出し、あっという間に茶会の支度をして、レイラーニを席に着かせ、自分たちも着席した。モンスター師匠たちは、レイラーニの趣味を理解しているので、茶も菓子も自分たちとは別の物を用意している。自分たちは、至って普通の茶と菓子だが、レイラーニ用は激甘茶と、甘さ控えめのパンに近い菓子である。

 当初は、師匠の数が増えるとこうなるのかと驚いていたレイラーニだが、もう慣れてきたから驚きはない。更に、お嬢様化された生活に慣れ過ぎて、もう唄う黄熊亭の生活には戻れないくらいに甘やかされていることにも、気付いていない。

「あのね、師匠さんに贈り物をしたいんだけど、何をもらったら喜ぶ?」

 行動だけでなく、思考まで頼りきりでいる。こと師匠に関しては、悩むより聞いた方が早い。モンスターヴァーノンは、「パドマが元気なこと」などと答え参考にならないが、師匠は自分がプレゼント好きな所為か、すぐに即物的な回答をくれる。3人は同時に蝋板を取り出し、ガリガリと書き込むと、レイラーニに見せて言った。

「このような指輪が欲しいと思っております」

 タイミングが揃って、息もぴったりに見えたが、それぞれ絵は違った。小花が6つついた指輪と、紋章が刻まれた指輪と、大きな石が2個ついている指輪だ。デザインは全く違うが、指輪だと言う点は、同じらしい。

「師匠さん、可愛いからね。装飾品も好きだった気がするし、似合うよね」

 レイラーニは納得して、焼き菓子をかじった。ふわふわの食感に癒されるが、甘味が物足りない。少し不貞腐れていると、モンスター師匠は、3人声を揃えて、情報を追加した。

「レイラーニ様のお手製であれば、言うことは何も御座いません」

「マジか」

 器用なモンスター師匠がいれば、どんな物でも用意できるし、サイズが必要でも採寸も可能だ。好みまで抑えられるのだから、サプライズプレゼントは楽勝だと思って考えたのに、財布や髪飾りなど、パドマの手製にこだわる師匠の趣味を失念していたことに気付かされた。

「え? 指輪なんて難しい物、ウチに作れると思う?」

 無理むり無理と拒否するが、モンスター師匠は魔法で作れば簡単だと説明した。神龍の生み出す宝石は、イメージさえ思い浮かべれば好きな形で出てくるし、金属は好きなだけ北東のダンジョンで産出される。それを魔法で熱して形を変え、魔法で削って仕上げれば良いと言う。だが、師匠の簡単を信じてはいけない。簡単な野菜の飾り切りは、教えてもらってから5年以上経った今も未修得だ。練習していないからだが、指輪作りも極める気がないのだから、似たようなものだろう。

「ううう。じゃあ、簡単そうなこの指輪にしてね。やってみて無理だったら、諦めて別のにするからね」

 レイラーニは、石が2つ並んだ指輪の絵を指差した。モンスター師匠は、やったーやったーと喜んでいる。レイラーニは、師匠1人に贈り物をしようと考えていたのだが、モンスター師匠たちは、自分たちがもらえると認識しているのだろう。3人だけなら可愛いものだが、フルオーケストラができるモンスター師匠は、100人以上いる。お使いを頼んだら数人欠けてしまったが、便利さに調子に乗って次々と作り出したから、更に増えている。もうモンスター師匠は、迂闊に増やさないようにしようと、レイラーニは決心した。



 次の日、師匠が南のダンジョンを訪れると、レイラーニの姿はなかった。ダンジョンへの入場は問題なくできるのに、上物にも下階にもレイラーニはいなかった。フェーリシティ全ての建物を見て回ったのに、どこにもいなかった。北西のダンジョンにいるモンスター師匠とモンスターヴァーノンに問い合わせたところ、どこかに出かけたという回答しか得られなかった。

 師匠は、落ち込んだ。もう2度と会えなくなる予感はあったが、ここまでいなくなるとは思っていなかった。姿が見えなくなった時が最上だと思っていたが、更に上の所在が不明になることがあるとは思わなかった。ダンジョンがあるのだから、生きてはいる。だが、レイラーニはダンジョンを出れば、長くは生きられない。モンスター師匠を連れて行っても、モンスター師匠はレイラーニより短命で、復活には魔力を要する。何人連れて行っても無駄だ。消えるモンスター師匠たちに驚くだけだ。師匠はダンジョンの屋上に上がり、周囲を見回してもレイラーニの残滓を感じ取れなくて、絶望した。



 レイラーニは師匠の想像通り、モンスター師匠に囲まれて絶望していた。

 レイラーニは兵器工場で、火薬作り班とともに指輪作りを始めた。火薬なんて使用予定がないのだから、生産が止まっても問題ない。だから、ここで、このモンスター師匠たちに教わって、指輪を作る。師匠の入室許可をしていない場所だから、見つからずにプレゼントを作る場として最適だ、と判断した。

 まずは、宝石作りである。目の前のモンスター師匠に向き合い、呪文を唱えれば、宝石が1つ現れる。お金を貯めて、宝石を買うことに比べたら、とてもお手軽で簡単だ。だが、呪文はそこそこ長いのに、1つしかできないことにレイラーニはイライラしていた。指輪を1つ作るのに、石が2ついるのだ。レイラーニはニ龍になったので、赤と青の2種類の宝石が作れる。それを1つずつ指輪に付けるのが、モンスター師匠の作ったデザインであり、課題である。

 1度呪文を唱えれば1つ宝石が生産されるが、それが思った形になるとは限らない。求める雫型の石よりも、エビフライ型やおにぎり型の石の方が多く出来上がっているのに、絶望しているのだ。レイラーニは邪念が多すぎて、宝石作りが上手くない。満たされれば捗るかと、おにぎりを食べながら挑戦すると、もう完全におにぎりしか出てこなくなる。リアルサイズのおにぎりやハンバーグ型の石を指に付けて歩く師匠なんて、嫌だ。絶対に、皆に食いしん坊だと思われるのは、師匠ではなくレイラーニだろう。そんなのは耐えられない。だから、頑張って作業を続けているが、フルーツサラダが心をかすめてしまったから、また失敗だ。長い呪文の間、ずっと雫型を思い浮かべ続けるのは、骨が折れる作業だった。


 8日ほど頑張って、レイラーニは石を半分ほど用意した。雫型を目指しておいて、雫型になった物はほぼないが、指輪にしても支障のないサイズの石になれば、なんだかわからない形でもいいことにした。残りの石は、チーズになりきれなかったチーズ石等を砕いて、モンスター師匠に作ってもらうことにした。お願いしたら、モンスター師匠は不満気でいたのだが、プラチナブロンドのモンスター師匠が初めての共同作業だと呟くと、やたらと張り切りだし、輝くカットの美しい石の生産を始めた。だから、石作りは終了である。



 レイラーニは、続いて地金作りをすることになった。ダンジョンで生成される金属で、レイラーニが知っているのは、鉄だけだ。だから迷うことなく鉄を持って来たら、モンスター師匠に拒否された。

 魔法で、金や銀などを生産品に追加することから始めさせられ、それらを混ぜていい色や強度の物を作る実験に参加させられた。レイラーニは色なんてどうでもいいのに、こだわりの強い師匠の現し身野郎どもが、それを許さなかった。

 結局、イエローゴールドとピンクゴールドとPt950という謎の金属を作り出し、モンスター師匠は満足した。パラジウムを作れとか、ルテニウムを持ってこいなどと目を光らせているモンスター師匠に命令されて、レイラーニは恐怖におののいたが、完成したというなら、構わない。3日もかけて作った1番こだわっていたピンクゴールドを捨て、Pt950だけでいいやと話し合っているモンスター師匠たちに、文句を言わずにそろそろ休憩を下さいと懇願した。


 モンスター師匠は仕方がないなぁと、箱型炉で焼きおにぎりを焼いてくれたが、完全な休憩ではない。モンスター師匠が指輪作りの模範を見せてくれるのを覚える作業をしながら、おにぎりを食べるのだ。

 ハニーブロンドのモンスター師匠は糸をちまちまと編んで指輪を作り、バターブロンドのモンスター師匠は宙に絵を描いて指輪を作った。魔法とモンスター師匠の自由度が高すぎて、レイラーニは困った。そうだろうなと思っていたが、モンスター師匠のマネをしても、上手くいかない。モンスター師匠たちは、小器用にいろいろな作り方を考案してくれたが、そのどれもが難易度が高くて、レイラーニにはできなかった。

 レイラーニは粘土のように地金を手で捏ねて、石をくっつけてモンスター師匠の指に巻いてみたが、あまりの稚拙な出来に泣いた。繊細な作りの装飾品をつけられ慣れたレイラーニには、自分の作品のダサさ加減がよくわかったのだ。魔法で好きなように形を変えられると言っても、完成形を想像するだけの石作りができないレイラーニが、自分で細工を作ることは無謀だった。

「1つの形だけ、作れるようになればいいのです」

「石をはめる台座部分は、私が作りましょう」

「ニョロニョロへびさんを作る練習から、始めてみませんか」

 可愛いモンスター師匠にわちゃわちゃと取り囲まれ、甘やか(はげま)されながらレイラーニは頑張った。



 完徹42日目。とうとうレイラーニは、最後の指輪を完成させた。なんと贈り物の指輪は、師匠とレイラーニのお揃いの指輪だったのだ。レイラーニはそんなものはいらないが、256個も指輪を作ったら、1つ2つ増えてもどうでもいい。口答えする時間があったら、1つ作った方が早い。一刻も早く休みたいレイラーニは、自分用の指輪を作ってはめ、モンスター師匠を5体派遣し、師匠の捕獲を命じた。


 師匠は萎れてまた自宅で伏せっていたが、モンスター師匠の襲撃に遭い、自宅が崩壊し、生き埋めになった。モンスター師匠は、師匠を掘り起こすと、レイラーニが死にかけていると伝えたので、師匠は怒ることもなく、音速を超えてフェーリシティにやってきて、応接間で倒れているレイラーニを発見した。

 建物内にいるのだから、魔力切れはあり得ない。何ごとだと助け起こすと、ぐったりとしたレイラーニが小箱を差し出して、ごめんねと言った。

 師匠は、何がごめんなのかわからなかったが、それをレイラーニに問うことはできない。レイラーニは寝ていた。倒れていたのではなく、床で寝ていただけだったのだ。

 師匠は、とりあえずレイラーニを抱いたまま、魔法で自分の洗浄をし、ソファに座った。こんなところにレイラーニを寝かせるなんて、自分のコピーどもは何をしているんだと怒りながら、もらった小箱を開けると謎の物体が入っていた。雫型のような楕円形のような、なんとも言えない形の赤と青の小石が銀色の金属で繋がっている奇妙な物体に、首をひねった。正直な感想を漏らせば、何だこれ、が素直な気持ちである。レイラーニがくれたのだから宝物にするが、何だかわからなければ、迂闊に感想を言えない。言えば、拗ねられる。

 これは何だよとレイラーニを眺めていたら、師匠は同じ色彩を見つけた。謎の物体と同じ、なんとも言えない形の石がレイラーニの左手の薬指についているのを発見した。左手の薬指の指輪は、師匠の故郷では、結婚指輪か婚約指輪か、その手前のカップルの証のどれかだ。師匠はドキドキしながら左手の薬指にはめてみると、大分緩かった。左手の中指にはめても少し緩いくらいだった。レイラーニが何を考えているのかが、わからなくなった。採寸するモンスター師匠の指を間違えてしまった可能性や、合わせて作ろうとしたが、上手くできなかった可能性がある。なにせ一目では指輪とは判別できない出来である。指輪ではないことも含め、色々な事態が考えられる。師匠は答えのわからない疑問は一時放置し、中指にはめたままレイラーニを寝室に送った。



 指輪をもらったモンスター師匠たちは、自分の指輪の石はこんな形だよと見せ合いっこをしていたら、それを見たパドマにねだられて、モンスターヴァーノンに羨む視線を浴びて、仕方がないなと、お揃いの指輪を瞬時に作成し、みんなに配った。テッドもペンギン野郎も、みんな左手の薬指に指輪をはめているのに、師匠だけが中指だった。モンスター師匠たちの嫌がらせだ。

 数が多すぎて嫌になったレイラーニが、モンスター師匠たちの石や指輪をもうこれでいいよと、見るからに適当に作っているのに、師匠の分だけ出来のいいのがないか選んでいる様子に腹を立てたのだ。練習でうまくなったら作ろうと、後回しにしていた師匠の指輪を作る時だけ、モンスター師匠は右手の中指を出した。疲れているレイラーニは、イタズラに気付かずに指輪を作った。師匠は何もしていないが、モンスター師匠たちに嫌われたのだ。

 レイラーニが、緑小鬼を手にかけさせた謝罪をきっかけに思い付いた、詫びを入れる贈り物だった。だから、モンスター師匠たちは、完全におまけだったのだ。だが、師匠すら何がごめんなのか、理解していない。モンスター師匠たちが理解するのは、無理だった。

次回、レイラーニが目を覚ました後。

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