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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
第2章.11歳
35/463

35.新たな嘘話

一昨日は、upしたのを忘れて、2本あげましたが、昨日は、あげ忘れていたようです。申し訳ありません。

 パドマは、鎖の腹巻と籠手を付けて、ぴょんぴょん跳ねてみた。動けないこともないが、どちらも邪魔臭い。やはり外して行こうか、いやいや、これは力を増強する鍛錬だからと頭を悩ませていたら、少し前に出かけたばかりの兄、ヴァーノンが帰ってきた。しばらく一緒にダンジョンに行っていたが、今日は商家への出勤日だと言っていたのに、間違いだったのだろうか。

「おかえりー。どうしたの?」

「どうもこうもない。一緒に来てくれ。仕事に行けない」

 ヴァーノンは、さっき身支度をして出かけたばかりなのに、着衣に乱れが生じていた。森生活をしていた頃は、そんなものだったような気がするが、勤めだしてからは、身綺麗にしなければならないと言っていたのに、不思議だった。

「なんで?」



 外に出ると、泣いている師匠がイレに羽交締めにされているのが、まず目についた。イレも泣いている。ピンクの人も転がっていた。見たことのない光景だった。パドマは、何をしているところなのか、まったく思いつかなかった。だから、兄に尋ねることにした。

「どういう状況?」

「防具屋のオヤジの所為だ」

「籠手?」

 兄妹2人でコソコソ話をしていたが、パドマの声に合わせて、3人の視線がこちらに向いた。

「パドマ! パドマ兄をお兄さんにくれないか!!」

「え? いいけど、どうしたの??」

「良いわけあるか!!」

 イレに脈絡もなく、兄との結婚を打診されて許可したら、怒られた。理解不能な状況に、パドマは首を傾げるしかできない。

「ヴァーノンは、兄なんだぞ! お前は、何を考えてんだ」

「お兄ちゃんは兄だけど、血縁はないよ」

「なんだと! ふざけんな!!」

 次は、イギーに怒られた。

 すると、師匠も怒っているのだろうか。顔を赤くして、はらはらと涙をこぼしながら、震えている。今日も可愛い。そして、何を言いたいのか、わからない。

「頼む。誤解だと、説明してくれ」

「何をだよ」

「防具屋のオヤジのよた話だ」

「ああ、ウチがお兄ちゃんのことが好きでたまらないから、貢ぐためにリンカルスと戦っているとかいう。なんで師匠さんまで、あっち側なのかな。ずっと一緒にいたよね」

「知らん。あの人が変じゃなかったことなんて、一度だってなかっただろう」

「そだねー」

 パドマは、師匠の目の前に歩いて行って、言った。

「ウチは、お兄ちゃんに貢いでないよ。どちらかと言うと、スネをかじってるんだよ。お金はね、マスターに貢いでるつもりなんだけど」

 一瞬、ぎゃいぎゃい騒いでいたイギーの声が止まった。しかし、一拍置いて、イレが師匠を投げ捨てて詰め寄ってきた。

「考え直して。マスターは、ママさんのものだ。年も離れすぎている。親子どころか、ジジ孫じゃないか!」

 イレは、今日も大きかった。そして、変な金のヒゲを生やしている。更に、動作が何か気持ち悪い。パドマは、そろりそろりと後ろに下がると、兄にぶつかった。

「別にいいじゃん。恩人なんだから。ウチの理想のお父さんだよ」

「お父さん? じゃあ、パドマ兄は?」

「お兄ちゃん」

「じゃあ、リンカルスは?」

「ヘビ」

「そうだな。ヘビだよな」

 パドマは、彼らが何をしたいのか、まったくわからなかったが、彼らは少し話をする余裕が出てきたように見受けられた。

「ですから、その話はほら話だと言いましたよね。武器屋と防具屋がねつ造した、嘘話なんですよ」

 ヴァーノンは、ずっとパドマの後ろに隠れていた。隠れようとしても兄の方が、頭2つ分ほど大きいのだから、隠れられるものでもないのに。それでも必死に隠れていた。



「つまり、パドマは兄に惚れてないと?」

 今日は、カフェにイギーまでついてきた。ヴァーノンは仕事に行ったのに、自称後継者が油を売っていていいのだろうか。

「そうだねぇ。今のところ、惚れてるのは、くまちゃんくらいかな」

 そもそもの知り合いの絶対数が、少なすぎる。兄を恋の相手にしなければ恋バナが作れない程に、まともな知り合いに心当たりがなかった。名前を知らない人まで含めても、知り合いの半数が酒場の客のおっちゃんたちで、残りの半数は、イモリ拾い部隊のおじさんたちだ。イレもおじさんだし、師匠は可愛いし、イギーはピンクだし、レイバンは使えるが、惚れる要素があっただろうか。兜の前を閉じたら、置き物に見えた。残念なことに、兄が1番マシだと認めざるを得ない。防具屋のおっちゃんは、ある意味で見る目がある。

「くまちゃんって、誰だよ」

「黄色いクマのぬいぐるみ。ウチの知り合いの中では、ダントツイケメン。性別は、師匠さん以上にわからないけど、絶対的最強イケメン」

 一緒に戦闘をすると、ぶつかることも多いが、くまは何も悪くない。その証拠に、師匠がぶつかるのは、見たことがない。

「鴨居に頭ぶつけないけど、いいんだ」

「ジャンプ力がすごいから、うっかりすればぶつける日も来るかもしれないよ!」

 もしも、くまがうっかり額をぶつけて照れ笑いでも浮かべた日には、可愛さに死んでしまうかもしれない、とパドマは真剣に思うのだ。最強イケメンの、隠れた自分だけに見せる可愛さである。ハジカミイオが5匹は食べれるに違いない、と思い始めて、くまはモフモフで、いつでも可愛かったな、と考え直した。

「そっか。じゃあ、お兄さんの所為じゃないね。お兄さんが、パドマ兄を拒否したから、おかしな方向に暴走したのかと焦ったよ」

 イレは、イスにもたれて珈琲をすすっている。いつもなら、朝から酒を飲んでいるので、とても珍しいことだった。師匠は、いつものようにイレの腰に手を回して、ベタベタと貼り付いて、まだ泣いている。

 今日のパドマの服装は、完全師匠フルコーディネートだ。狩衣は桃色系だし、もらった剣を佩いているし、フライパンは緑橙だし、狩衣の下なので腹巻は見えないが、籠手は桃黄碧のグラデーションだ。これ以上、師匠に寄せることはできない。なんで泣いているのか、誰にも心当たりがない。

「師匠さんは、防具屋のおっちゃんと知り合った時も、変な話を吹聴されて苦情を言いに行った時も、ずっと一緒にいたんだよ。話を聞かなかったの?」

「そうだね。しゃべらないしね。酒場でパドマの恋の話を聞いてさ、先に師匠が取り乱したんだ。知ってるなんて、思いもよらなかったよ。本当に意味わかんないね。なんなんだろう、この人」

 あやしているつもりなのか、ずっと背中をペシペシ叩いていた手で、襟をつかんで引き離そうとしたようだが、師匠は怪力だ。離れないようだった。

「イレさんの育ての親で、婚約者なんでしょ?」

「ええっ?! そっか。そういや、そんな話になってた!」

 モテないイレに、ようやく彼女ができたと思って、パドマは安心していたのに、当の本人は、忘れていたらしい。流石、地の果てまでモテない男は違うな、とパドマは呆れた。

「そんな美人侍らせといて、何言ってるの? 師匠さんを逃したら、絶対、それ以上の美人は嫁に来ないよ」

「そうだねー。切なくなるけど、そうだねー。それに関しては、否定できないね」



 毎日ハジカミイオを持ち帰り続けて、店に在庫ができたそうなので、20階層に進むことになった。

 どうせまた気持ち悪い何かがいるんでしょ、と身構えて階段を降りたパドマは、拍子抜けした。

「あれ? 火蜥蜴?」

 20階層には、10階層でお馴染みの火蜥蜴がいた。10階層にいるものよりは倍ほど大きいので、その分強いのかもしれないが、最大の懸念は見た目だったパドマにとっては、問題のない結果である。

 水が下に流れるように、パドマはナイフを投げた。吸い込まれるように火蜥蜴に突き刺さったが、火蜥蜴は背中にナイフを生やしたまま、こちらに歩いてきた。即座に投げられた師匠のナイフによって、火蜥蜴は止まった。

「そっかー、もっとちゃんと狙わないといけないのか」

 パドマのナイフは、背中の下の方に刺さっていたが、師匠のナイフは、頭に刺さっていた。小さい火蜥蜴は、どこに刺さろうと、刺さった時点で致命症を与えられるくらい、どこかしらの急所についでに傷を与えていたものだが、大きくなったことで、急所を外しても刺さるようになったらしい。

 小さい火蜥蜴の全身より、大きな火蜥蜴の頭の方が小さい。当てるのはなかなか難しかったが、全部短剣で斬り捨てるのは、大変すぎる。兄を見習って、練習しないといけないんだろうなぁ、と思いつつ、ハジカミイオの切り身を投下した。

 

 ハジカミイオの近くに焚き火があるなんて! と喜んだのだが、焼きハジカミイオは、臭かった。師匠が、イレの家にハジカミイオを持って行かない理由を理解した。

 今日はいらないと言われたのに、師匠とまたハジカミイオ狩りをして、お土産を沢山持って帰った。

次回、口の中から人を発掘。

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