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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
第2章.11歳
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33.刺突剣

 朝ごはん終了後、ダンジョン行きを断って、パドマは武器屋にやってきた。パドマが1人で来ても無視されそうな気がしたが、師匠が後ろに立っているからか、店主の愛想は、悪くなかった。師匠を見下ろすような巨漢で、いかつい顔をしていたが、朗らかに笑ってくれているうちは、それほど怖い面構えではない。酒場の客の探索者のおじさんたちに慣れているパドマにとっては、普通のおじさん枠である。

「いらっしゃい。何かお探しの物があるなら、探すのを手伝うよ」

「ウチくらいの身の丈で扱いやすい、刺突に向いた物が欲しい」

 師匠に尋ねたつもりだったのだろう。パドマが答えたら、店主は驚いたような顔をした。

「すごいな嬢ちゃん。その年で、それだけ明確な注文をするたぁ、上出来だ」

「そりゃ、どーも。今使ってる剣は、切れ味は悪くないんだけど、刺突には向かないの。刺すことはできるけど、抜くのに時間がかかる。スッと刺せて、スッと抜けるようなのが欲しいの。あんまりかさばらないのがいいんだけど」

「そら恐ろしいことを言うな。ダンジョンの虫相手に、そんなのが必要か?」

「虫相手なら、フライパンが最強だよ。ウチが倒したいのは、ハジカミイオ。恩人が、欲しがってるんだ」

 もらった時は迷惑そうな顔をしていたマスターだったが、調理して味見をした結果、買取りたいと言い出した。アシナシトカゲシリーズも、ステーキは好評だったが、店の規模と比較して、材料が大きすぎるのが頂けないそうだ。マスターが欲しがるのであれば、お金などもらえなくても持っていこうと思う。但し、今のままの武器は嫌だ。

 1太刀目はどうでもいいが、次から次へと飛びかかられたら、いつもの剣では、どうしても斬りたくなってしまう。これからも狩りを継続して続けるのであれば、武器を新調しても、そのうち元は取れるだろう。正直、未だに皆におんぶに抱っこされるような生活を続けているから、金の使い道はなく、貯まる一方だ。

「火蜥蜴を越えたのか?」

「そんなん大昔に通り越したよ。リンカルスだって、首を落とせばいいだけだし、この剣で楽勝だけど、ハジカミイオには向いてないんだ」

「そ、そうか。まぁ、その型なら剣先が鍔元より広そうだからな。抜けないことはなかろうが、次々ととはいかないだろう。

 お嬢ちゃんが剣を使い慣れてるなら、スモールソードは、どうだ? 刺突以外には向いてないし、折れやすいが、刺突専用ならいいだろう。何本か持ってみて、長さを確認してみてくれよ」

 スモールソードとは、レイピアを小型化した刺突専用剣である。細身の刀身であるため、軽量である。パドマの要望をそのまま受け入れて、店主は提案した。

 パドマは、店主にスモールソードが沢山並ぶ場所に案内してもらったが、どれもこれも長すぎた。納刀姿を見ただけでわかる。リュックの時も思ったが、武器も基本は大人用なのだろう。ちょっと振ると床に当たる。腰に下げると、引きずる。そんな剣はいらない。

 メイン武器とするならともかく、今のところハジカミイオ専用武器なのだ。それで、この邪魔さ加減は、鬱陶しい。家にたまたまあったヤツというなら諦めて使ってもいいが、わざわざ買うのにこれはない。

「悪かった。嬢ちゃんには、スティレットの方がいいかもしれん。これより短いし、作りは大して変わらん」

 続いて、スティレットを見てみたら、今度は短すぎた。短いことを好む人が、使うからだろう。携行性は抜群だが、剣として使うとなると物足りない。誰かを暗殺するとでもいうならいいかもしれないが、ダンジョンで使うのは、どうだろう。今持っている剣を、パドマ専用にわざわざ作った師匠の気持ちが、少しわかった。丁度いい既製品がなかったのだろう。

「悪いが、今日のところは、スティレットの1番長いヤツでも、持って行ってくれないか? 希望の長さのスモールソードを作るから、待ってくれ」

 何も言っていないが、パドマの表情から店主は気持ちを汲んだらしい。だが、それを了承するつもりもなかった。買うならば気に入った物が欲しいが、オーダーメイドの金額を支払ってまで欲しくはない。それならば、手持ちの剣で突き技を習得するか、更に短くなるが、試しにナイフを使ってから考えてもいい。

「いらないよ。悪いけど、そこまでして欲しい物でもないんだよ」

「金なら、心配すんな。スティレットもスモールソードも、タダでくれてやんよ」

 店主は、イイ笑顔を崩さない。師匠に惚れてしまった人なら、そんなこともあるかもしれないが、そんな風にも見えない。どんな裏があるのやらである。パドマは、店を選び間違えたと思った。師匠に連れられて以前1回来たから何となく来てしまったが、この店の隣も隣も武器屋だ。ここである必要は、まったくない。

「何でだよ。おかしいでしょ」

「面白い話を聞かせてもらった礼だよ。ルーキーがトカゲを倒せるのは、うちの武器のおかげかもしれねぇぞ、って言わせてもらえりゃ、すぐ元なんて取れる。気にすんな。お嬢ちゃんは、伸びる」

 店主と師匠は、カウンターまで行き、勝手に詳細を詰め出した。希望の長さとは、パドマの希望ではないらしい。店主の出してきた注文票の蝋板に、師匠が何かを書いては、読めないとダメだしを受けていた。何かを書いている師匠を見て、しゃべれなくても筆談ならできるのかと思ったが、諦めた方が良さそうだ。パドマも注文票を見てみたが、師匠の字はまったく読めなかった。流暢に書いていたが、そんな形の字は見たこともなかった。

 結果、いつもの通り、首振りとジェスチャーだけで注文を完了させた。まったくパドマの意見は反映されないまま。スティレットすら、師匠が勝手に選んで渡してきた。



 スティレットのお試しで、19階層を訪れた。師匠が持って行ったハジカミイオはまだ残っているそうだが、下処理に時間がかかりすぎるから、新しく持って帰ってもいいと言われている。持って帰ってもいいとは、恐らく、持って帰って来れるならば持って帰って来て欲しいということだろう。

 武器屋に寄ったため、時間的に出遅れている。なるべく敵を無視して走って行く作戦は、10階で挫折した。息切れをしているようでは、戦えない。小手先の技よりも、基礎体力を上げないと、この先の攻略が日帰りでは辛くなる。階段は安全圏なので、寝る場所は確保できるが、毎日帰らねば兄が黙っていないだろう。


 19階層の最初の部屋には、ハジカミイオは1匹しかいなかった。近付いて、試しに頭をスティレットで刺してみると、しばらくして動きが止まった。師匠が、大太刀で頭を貫いて串焼き状態にしていたが、頭を刺せば倒せるらしい。

 次の部屋には、4匹転がっていたので、飛び付いてくる分をフライパンで弾き飛ばしつつ、次々と刺してみたが、1匹も死ななかった。数が増えないのは行幸だが、倒せなければ終わらない。

「もしかして」

 1匹刺したままの状態で、フライパンだけで応戦していたら、刺していた個体は事切れた。抜いて放置しても、動き出したりはしなかった。

「うっざ!」

 師匠が、わざわざ大太刀なんて長物を出した理由を知った。刺しっぱなしにする必要があったのだ。

 刺しても、すぐには死なない。ハジカミイオは、パドマと変わらぬサイズだ。刺したまま放置すれば、剣は抜けるし、刺したまま剣を持っているのも、相手が暴れるため、大変危険だ。ダンジョンマスターのおやつを持って帰るのは、本当に一筋縄ではいかないらしい。

 1太刀も浴びせなければ、簡単に避けて通れる程度の相手なので、倒せなくとも構わない気もするが、マスターに持って帰ると約束してしまった。カドを超える好物になってしまった。倒せないなんて、許せない。

 しかし、今日のところは時間もないので、師匠にお任せして、また大太刀4本分のハジカミイオを持って帰ってもらった。パドマも頑張って1匹持ち帰ることに挑戦したが、17階で挫折した。

 荷物なんて抱えていたら、リンカルスに負ける。獲物を毒まみれにすることはできない。諦めて、師匠に委ねた。

次回、期待の超新星フライパンのパドマ爆誕。

やっと来た。長かった。

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