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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
2-1章.18-15歳
305/463

305.テッドのデビュー

 あれから2ヶ月ちょっと。パドマは毎日毎日暇を見つけては歩く練習をして、やっと転ばずに歩けるようになってきた。まだよちよちで速度は出ないので、お出かけは誰かに抱っこしてもらっているが、1人でも歩ける。腰には一丁前に剣を下げた。カイレンが、クマと一緒にくれた剣だ。最奥から帰る日に見つけた、大きな赤いコランダムがボンメルにつけられた、強盗に要注意な剣である。カイレンはチビパドマにぽんとくれたが、実は大金貨が10枚あっても買えない一品だ。今度こそ、護衛に襲われるかもしれない。そう思ったが、手頃なサイズの格好つけられる武器が、これしか見つからなかったのだ。長さは今のパドマに合っているが、よちよちの足で剣が振れるはずもない。ただの飾りにこだわっても仕方がないので、それでいいことにした。

 格好付けなければならない理由があるのだ。今日は、久しぶりにダンジョンに行く。



「大変申し訳御座いませんが、ダンジョンの入場は10歳以上と決められておりまして、それに満たない方は、入場をお断りしております」

 今日は、テッドのダンジョンデビューの日だ。それは是非見届けたいとやってきて、パドマは入場を断られてしまった。念のため、ダンジョンマスターにもらったタヌキのぬいぐるみも持ってきたし、いつも以上に多い護衛もいる。自力で歩く予定もないし、何の憂いもないのに入れてもらえない。

「こー見えて、18歳なんだけど」

 と登録証を見せても、他人のカードを持っている扱いをされて、困っている。それは大人の英雄様のカードで、子どもの英雄様のカードではありません、と言われるのだ。同一人物だと知った上で言われているので、どうしたらいいか、わからない。護衛も守りは万全だと口添えをしてくれたが、ナシの礫だった。テッドは、半笑いでいる。

「デビューは見届けてもらいたかったけど、諦めるよ。帰ったら話すから、白蓮華で待ってて」

 完全にバカにされていると感じて、パドマは奥歯を噛み締めた。悔しさをにじませているパドマを見て、師匠は魔法を使った。何をしたかは誰にもわからなかったが、急に師匠の周囲が紫と緑に光ったのだ。それをキレイだなと眺めていたら、奥の部屋から大家のお姉さんが出てきた。

「その方は、英雄様です。お通しして下さい」

 パドマの事情を知らぬセンター職員などいない。お祭りでパドマが小さくなったのを見に行った者もいたし、行かなくとも街中の噂になった。知った上で断っていたのだ。それを覆して通してくれるなんて、お姉さんは偉い人だったんだと感動していたら、ダンジョンマスターの仕業だった。ダンジョンマスターが、パドマを通せと言ったらしい。ダンジョンマスターは、このダンジョン内で1番偉い人を通り越して、ダンジョン内にいる人間の生殺与奪権を持っている、と思われている。逆らえる人間は、そうはいない。逆らったら消されると仮定したら、逆らう人間は即消えるので、逆らう人間はここに存在できない。

 さっきの師匠の魔法は、ダンジョンマスターへの通信だったのかもしれない。パドマは便利だな、いいなぁ、教えて欲しいなぁ、と師匠に視線を送ったが、ぷいっとそっぽをむかれた。師匠の耳が赤くなっているのをカイレンは見つけたが、パドマは気付かずにむすっとした。


「あの子がテッド?」

 エイベルに抱かれているパドマの横に、カイレンが並んだ。

「うん。なかなかいい男に育ちそうでしょ。ウチの自慢の弟なんだ」

「なあんだ。テッドって、弟だったんだね」

「血の繋がりは、ありませんけどね」

「え?」

 エイベルに睨みつけられて、カイレンは怯んだ。カイレンは綺羅星ペンギンでも嫌われているが、白蓮華でも嫌われている。エイベルは、その悪感情を隠しもしなかった。

「申し遅れました。パドマお姉ちゃんの弟のエイベルと申します。我ら兄弟は皆、テッドの味方ですから」

「そうなんだ。ちなみに、パドマの弟は2人? 兄は把握してるつもりなんだけど」

「今のところ54人です。日々増えているので、今頃また増えているかもしれませんが」

「多っ! 母親が2人いた、うちの7倍以上? いや、お父様の子どもは4桁いるって言ってたから、まだまだ?」

「そんなに増えてたの? いっぱいいるな、とは思ってたけど。名前を覚えるだけでも、一苦ろーだな」

 パドマは、ふふふーと笑った。ああ、困ってるんだな、とエイベルは察して、助け船をだした。

「そうですね。名札を付けます。頑張って覚えて下さい」

「おう。任しとけ! とは言えないなー。できるだけ頑張るね」

「はい。みんな喜びますから、頑張ってください。お姉ちゃんなら、できますよ」

 エイベルはパドマを甘やかしつつ、カイレンの前に壁となるように移動し、パドマの視界から排除しながら歩き進んだ。



 行く前からそうではないかな、とは思っていたが、ダンジョンにテッドの敵はいなかった。本気のヴァーノンに1本取られないテッドが、つまずくようなモンスターは出ない。オサガメやサシバまできっちりと沈め、パドマが危なくなく通れるようにと配慮してくれるくらいの余裕ぶりだった。パドマだって、まだオサガメは倒したことがないのに。余裕で超えられてしまった。その上で、パドマをレッサーパンダ(ぱんだちゃん)と再会させる時間まで取って、今日の記念にと真珠をプレゼントして、今日はここまでにしよう、と帰った。


 抱いているのはエイベルだが、離れているからこそ見える動きがある。テッドの剣筋は的確だった。堂々としており、少しも怪しいところがない。初めてとは思えないほどに、可愛げがなく、安心して見ていられた。

「やっぱりテッドはお兄ちゃんの弟だなぁ。3人目の最強イケメンだね」

 などと言って、惚けて見ているパドマがいれば、カイレンも師匠も目を光らせずにはいられない。お互いを最大のライバルだと思っていたのが、恥ずかしくなるほどだった。

「どうだった? 久しぶりのダンジョンは、楽しかったか?」

 なんて会話を聞けば、自分との違いに胸が痛くなるくらいだった。自分だったら、すごいでしょ? 褒めてほめて! と思うところを、あくまでテッドはパドマファーストなのだ。若いのに、人間の出来が違う。呆れるほど通ったダンジョンでも、自慢気に振る舞っていた自分と違って、テッドは初ダンジョンの興奮を抑えて、パドマを接待しているのだ。10歳の子どもと思えば、将来が末恐ろしい。10歳前にして、妹に食事を譲り、空腹に耐え切ったヴァーノンと同じ匂いがした。パドマの好む典型的なタイプと言ってもいい。

 最近目覚めたカイレンと師匠では、テッドに敵わないのは当然だった。テッドは5つの頃から独力で実家を支え、叶えようのない夢を本気で叶えるべく、真摯に取り組んでいたのだから。

「うん。もうずっとお休みかな、って思ってたから、嬉しかった。もうちょっと大きくなったら、お肉を食べたいなー。そうだ。また大きくなったら、羊の解体を見せてあげるね。ウチ、得意なんだよ!」

 身体の大きさの問題だけではなく、兄妹のように仲の良い2人に師匠は危惧を覚えた。パドマは、兄のような男が好きなのだ。今までテッドにはあれこれ仕込んでいたが、それも悔やまれた。引き裂けばパドマに恨まれるのはわかりきったことだから、あの2人の解体は、かなり難しい。相棒に相談に行こうかな、とチラリと思った。

次回、国造り。

アーデルバードのダンジョンも、更に奥があるけど今は行けないので、ちょっとお休み。

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