表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
第8章.18歳
302/463

302.神の正体

遅くなりました。すみません。昨日の分です。

 誕生日祭最終日。

 朝ごはんを食べると、パドマはテッドに捕獲され、着替えさせられた。着ないとは言ってないのに、とんでもない早技だった。

 ズボンを履いて、前が少し短いコットを着せられ、スカプラリオを重ねた上で、ヴェールを被せられた。白地に金刺繍を入れた、2日で作ったとは思えない衣装だった。テッドの後ろでは、師匠が控えているから、テッドはデザインをしただけで、製作は師匠なのかもしれない。師匠は、沢山のアクセサリーを抱えて、テッドにつける許可を求めている。

「色付き石と、金以外の金属は禁止」

 と言われた師匠は泣いていた。茶玉のブレスレットを手に持っていた。それはおしゃれではなく、身につけなければならないお守りだった気がして、パドマも困った。

「ししょーさん、それさ、今のウチがつけるには、ちょっと重いんだけど、どーにかならない? こー価だから無理?」

 とパドマが聞くと、師匠は、顔を華やがせ口を動かした。すると、パドマの手から、石がこぼれた。ギラギラと輝く茶色の石だった。ブレスレットについている石と同じ材質に見えた。だが、大きさはかなり小さい。師匠はそれを拾い、ちまちまと糸を編み始めた。

「なんだ、その茶色の石、買ったんじゃなかったんだ。良かった」

 糸をちまちまと編み上げて石を巻き込んで作っていたのに、出来上がったのは、金属製のパームカフだった。それをパドマの手に付けて、満足そうに眺めている。

「透明石しか許可してないんだけど!」

 とテッドは文句を言ったが、師匠はそっぽをむいている。パドマも愛用している必殺技、聞こえないフリだ。仕方なく、テッドは自力で外そうとしたが、外し方がわからず、唸った。

「ししょーさん、今日はテッドの日だから、外して。明日からつけるからさ。でもね、手は嫌だよ。食事中につけられないから、髪留めがいいな」

 パドマが渾身の笑顔を作ると、師匠の背中に衝撃が走った。妹のおねだりだ! 師匠はじゃらじゃらと茶色の石を生産し、ちまちまとアクセサリーの増産を始めた。パドマは、テッドの希望を叶えるために、甘えたフリをしただけなのに。小さくなって、つけられなくなった護身用武器アクセサリーを欲しただけなのに。師匠は、転がされていることに気付くことなく、せっせと手を動かした。

 師匠がアクセサリー作りしかしなくなったので、テッドは師匠が持ってきたアクセサリーボックスを勝手に漁って、パドマを飾った。



 最終日は、武闘会優勝者とパドマの頂上決戦をするのがお約束だったが、パドマが見た目1歳児になってしまったため、中止することが決定した。もしかしたら、このままでも戦えるのでは、という意見もあるにはあったが、いくらなんでも大の男と戦わせるのは、勝っても負けても見た目が良くないということになったのだ。

 代わりに、優勝者の表彰式を行うことになった。昨日、セスが明日パドマに表彰してもらいたい、と言ったのが発端だった。次の日のスケジュールが空欄だったため、それに飛びついたのだ。午後だと、本人の意思に関係なく、パドマがお昼寝してしまうのがわかったので、午前中に始まる。

 表彰式は簡単だ。パドマが立っていて、司会が呼んだら優勝者が出てきて、パドマがおめでとうと言って記念品を渡せばいい。それだけのものだ。

 だが、みんな困った。パドマは歩けないのだ。大人の1歩2歩の距離なら歩くが、すぐに転ぶ。そんな様では、入場させられない。入場するだけで何度転ぶか分からないし、転ぶ赤ちゃんを放置して、イジメているように見えるかもしれない。いつもそうしてるように、誰かが抱っこして連れて行くのが無難である。そして、連れて行った先でも、介助が必要だ。パドマは、セスに渡す記念品を自力で持つこともできない。問題は、その役を誰が引き受けるかだ。

 バチバチと静かに火花を散らし合う男たちを見回し、師匠はもにょもにょと口を動かした。すると、緑の光がパドマに降り注ぎ、パドマの身体が宙に浮いた。師匠が指をくるくると動かすと、それに合わせてパドマも動く。

「師匠さんが、パドマを飛ばせていたのですか?」

「師匠さんが、魔法使いだった!」

「奇跡の力!」

 場に居合わせた面々が、驚きの声を発すると、師匠は蝋板を出した。

『失伝しただけ。皆魔法を使える。使い方を教えられずとも使っている兄妹こそ、私などより素養は高い』

 自称大したことない魔法使いの師匠は、蝋板を取り出した瞬間、パドマが落ちた。真下に待機し続けたギデオンがキャッチしたため大事には至らなかったが、パドマはしっかりと怨みに思った。

『シャルルマーニュの大魔法使いが、妻を神格化するため、魔法封じを行った。魔法を使う人間に疫病を撒いた。皆、恐れて使わなくなった』

「すると、この街にも疫病が?」

『パドマは大魔法使いと妻の子の子孫だから、お咎めはない。私も同じ。ヴァーノンも大魔法使いの子孫だろうが、妻の血は引いていないから、わからない。

 大魔法使いは鬼籍に入っているが、かなりの粘着質。疫病は、撒かれるかもしれない』

 師匠の蝋板を見た者は、ヴァーノンを見た。ヴァーノンは「魔法なんて、使ったことはない」と言い張っているが、魔法としか思えない超常現象を常日頃から起こしている。妹愛が高じてなどと言われるよりは、魔法を使っていましたと言われる方が、納得できる。

「死んでもらうか?」

「妹を病気にしないためなら、死ぬだろう」

 ヴァーノンを見て、不穏な言葉を口にするハワードやイギーを見て、パドマは泣いた。ふうぇえん、と声を出して泣いている。師匠は慌てて、パドマを抱えて外に出た。

 窓から飛び出して空を駆けると、師匠の背中の後ろで大爆発が起きて、吹き飛ばされた。身体が小さくなったから油断をしていたが、最恐の魔法使いの血筋は伊達ではないらしい。奇跡の血統を持つパドマの魔法力に対抗しても、師匠では勝てない。師匠は、パドマの爆発を起こす位置調整だけを行い、人や物を壊さぬように配慮して飛び続けた。

 しばらくして、パドマが力尽きたところで屋根に降りたが、家々から顔を出し、拍手喝采を浴びせてくるアーデルバード街民を見て、師匠は脱力した。説明いらずで楽だが、アーデルバード街民は、暢気すぎる。これは、パドマの魔法ショーではない。癇癪に巻き込まれて、死ぬかもしれないところだったのだ。


 パドマの正体を明かしてしまったから、害されることも視野に入れて、警戒しながら師匠は皆のところに戻った。

『神は、ヴァーノンを害することは望まない。疫病よりも、確実に街が滅ぶ』

 今はもうパドマは神力を失っているのだが、アーデルバード民が求めているのは、馬鹿げたきのこ神だ。だから、師匠はパドマを神と呼んだ。

「パット様は、疫病への対抗手段をお持ちですか?」

 カーティスが、目を光らせたので、師匠は蝋板を差し出した。フタを開けると『私の身体には、古の魔法使いの作った病気の抗体が全てある。それ以外の病気の抗体も作る手段がある。それをもとに薬を開発しても構わないし、回復魔法を司る神を脅してくれば、すぐに治る。解決に、そう時間もかかるまい』と刻まれていた。カーティスは、それを他に見せることなく、フタを閉じた。隠し玉を持っていることには気付いていたが、神を脅す力を持つ者を敵に回すのは、バカらしい。

「疫病が発生しても、パット様が治せるそうなので、表彰式の準備を致しましょう」



 表彰式は、戦いが行われる予定だった舞台で行われる。装飾なども、そのままだ。舞台には、カーティスが1人寂しく立っており、今年の武闘会の優勝者についての説明がされる。そして、優勝者のセスが壇上に上がった。ここまでは、例年と同じである。問題は、対戦相手の英雄様が小さくなってしまったことだ。更なる高みを目指すため小さくなるのはいいが、小さくなっては戦えないだろう。なんでこのタイミングで小さくなったのかなぁ、今日はどうするんだろうなぁ、と街民が見守っていると、カーティスは英雄様が小さくなってしまった経緯を話し始めた。

 もう何百回と噂しあった内容だが、改めてそれを皆が聞いていたら、誰も注目していなかった方向から、ふわりふわりと愛らしい天子が飛んできた。遠くて顔が見えずとも、空を飛ぶ人間など英雄様しかいない。車に乗っている時はよくわからなかったが、あれは確かに小さいな、子どもというより赤ちゃんじゃんと皆で見ていたら、パドマの前を横切った海鳥が爆発した。場は騒然としたが、カーティスだけは淡々と話し続けている。

「この通り神力は失われておりませんので、失礼のないようにするのがよろしいかと思います」


 そんな説明がされているが、空を飛んでいるのも、爆破したのも、パドマの仕業ではなかった。師匠が陰で操っているだけだ。パドマにもできるとやり方を教わったが、できなかった。寝ている間はよく浮いているのにと言われても、できないものはできない。それは追々練習することにして、今日のところは師匠に頼むことにした。その所為で海鳥が1羽犠牲になってしまったが、パドマには謝ることしかできない。


 パドマが舞台に降りると、セスはひざを折った。完全降伏のポーズである。

 本当は、セスとだって戦いたかったんだよ、とパドマは言ったのだが、ボスに剣を向けるなら自害します、とまで言われてしまえば、どうしようもなかった。

 しょうがねぇ、許してやるよを表す肩たたきをしたら、表彰に移る。

「セス、優しょーおめでとー。すごいね、頑張ったね、格こー良いね。ウチもセスに負けないよーに強くなるから、越えられない壁でいてね。頑張ったセスには、ご褒美をあげうよ」

 パドマは、記念品の中で唯一持つことができた目録をセスに渡した。重たい記念品は、グラントとイギーが渡す。

 会場中から拍手が送られ、ああ祭の体裁を崩すことなく、終わることができたなぁと、関係者一同安堵した。

次回、またプロポーズ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ