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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
第8章.18歳
289/463

289.初恋のクマ

 94階層には、ピューマとチーターとヒョウとジャガーがいた。全てネコ科の大型肉食獣だが、床の上、竿竹の上、穴の中など、思い思いの場所で転がっていた。パドマとしては、戦闘を継続するのも食傷気味で、どれが何でもいいよ、と思っている。

 個体差があるので一概にそうとは言えないが、ピューマ、チーター、ヒョウ、ジャガーの順で体と斑紋の大きさは大きくなる。ピューマは無紋、チーターは黒点、ヒョウは梅花紋、ジャガーは梅花紋の中に黒点模様になっている。

 あの毛皮でコートを作ったら、バラさんに似合いそうだなぁなどと思ったが、それをパドマが見る日は来ないだろう。もう死が確定しているのだから、さくさく先に進むだけだ。

 穴の中に肉食獣がいるのが、とても気になる。ライオンやトラのように、うっかり落ちてくれないんだと思うと、面倒な気持ちがむくむく湧くが、仕方がない。師匠と兄の望み通りに、先に進んだ。



 最初の対戦相手は、ピューマだ。どれを相手にしても大した違いはないと思ったが、やはり小さいのがいいかなと、パドマが選んだのである。

 相手は寝ているので、そのまま通過させてくれれば、戦わなくてもいい。静かにそろりそろりと歩いて通り過ぎようとしていたら、急にパドマに飛びかかってきた。

 声も出せずに、心の中で悲鳴をあげていたら、パドマの後ろからついて来ていたクマが、ピューマに体当たりをしつつ、喉笛を引き裂いた。

「いやぁあぁあ!」

 パドマは慌てて駆け寄って、ピューマに蹴りを入れると、クマを救出した。

「クマちゃん、大丈夫? 助けてくれて格好いいけど、無理はしないでね。むしろクマちゃんさえ無事なら、ウチがケガしたって構わないんだから」

 クマは返り血を浴びることもなく、ぴんぴんしていたが、パドマは心配して、またくまなく体をチェックした。ちょっとしたほつれから小さい石が落ちただけでアウトなのだと知ったから、必死で縫い目も確認した。

 無事を確認すると、クマにくれぐれも安全第一を伝えて、先に進む。


 ピューマはダメだと反省したパドマが次に選んだのは、チーターだ。天井を見上げて、ぽやんとしているから、こいつは絶対に襲って来ないと信じた。

 だが、先程の反省を生かし、急に飛びかかって来られてもいいように、剣は手にして進んでいく。もう油断はしない。ピューマの時と同じように、そろりそろりと歩いて行くと、クマは静かにチーターに忍び寄っていた。何やってんだよ、ダメだよ! と、パドマがクマに気を取られた瞬間、チーターはパドマに向かって飛び上がった。

 チーターはトップスピードに乗るのが早過ぎて、油断しなくても対処できずにやられるところだったのだが、クマは足をひっかけチーターを引き倒した後、やはり喉をさっくりと突き刺した。

「ちょ!」

 パドマは、またクマに向かって走った。バタバタと暴れるチーターを踏み抜いて、クマを救出する。

「もうもうもう、危ないでしょ。なんで大人しく出来ないのかな」

 パドマが叱っても、クマは無表情のままだった。クマは、ぬいぐるみである。なかなかイイ性格をしていそうなのだが、感情は表に出ない。

「どうしたら、わかってくれるんだろう。もうウチには、クマちゃんしかいないのに」

 パドマがうなだれていると、上からヒョウが落ちてきてパドマを狙ったのだが、クマはそれを蹴り飛ばした上で、その頸椎を引き裂いた。

「言ってる側から?」

 パドマはヒョウの首を焼き斬って、クマに対峙した。

「こら! ダメだって言ってるのに!!」

 パドマは、完全にクマにしか注目していないから、敵はじわりじわりと忍び寄っている。穴からジャガーが飛び出てきたのは、クマが後頭部を殴り潰して制圧した。

「もしかして、クマちゃん、ここの敵、得意?」

 聞いてもクマは何の反応も示さないのだが、パドマは大きく頷いて納得した。

「流石、ウチの初恋のイケメンクマちゃん」

 クマに恋した記憶は特になかったが、ただの嫌がらせ発言である。聞いているであろうあの人に、パドマが好きなのはこういう男だと伝える行為だ。

「そっか。それだけやれるなら、任せちゃおうかな。ここの階だけだからね」

 パドマは戦闘をほぼクマに丸投げして、階段を目指した。中には群れているものもいたから、パドマも戦闘に加わるが、クマがやられないならストレスもない。クマが一撃加えたものを中心に、スパスパとトドメをさしながら階段へと歩いた。


 ジャガーとヒョウの毛皮を、一枚だけ剥いだ。死ぬ前に、誰かにクマの布団か服を作ってくれるように頼もうと思ったのだ。

 なんだかんだとクマとの付き合いは長いが、基本的に部屋のベッドに転がしているだけで、放置していた。きのこ神殿に持って行かずに狭い部屋に置き続けたのは、それなりに愛着があったからだ。

 パドマに愛着があっても、反対はそうではない。それはわかっているのだが、最後に何か残したいと思った。ヴァーノンにもテッドにもパドマにも、何かを残そうとは思わない。金が残ればいいかな、と思うくらいだから、これは変な感情だった。やはり恋なのかもしれない。

短めですが、キリがいいので、ここで。

次回は、平和な国を目指して。

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