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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
第1章.8歳10歳
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27.リンカルスの次

 今日も、リンカルスと戦う師匠の見学からスタートした。昨日は、心がささくれ立って、ろくろく情報が入って来なかったが、今日も恋の進展に心が奪われていた。つまり、話半分くらいに見ている。

 何かの参考にさせようと見せてくれているのだとは思うが、正直に言えば、少しも参考にならない。走るスピードが違うし、跳躍力が違うし、可愛さも違った。マネできそうな部分がない。毒を吐かれた後に避けても間に合うところや、ちょっとジャンプしたら首まで届いてしまうところなんて、真に受けてマネをしたら死んでしまうだけだろう。毒を吹いてくる以外は、ブッシュバイパーとそう違わないように見える。恐らく、今のままでも8割くらいの確率で倒せる。だが、2割は死ぬ。パドマを助けると、師匠が死ぬ。それだけだと思う。あと勝率を2割あげるには、どうしたらいいのだろう。


 心がないことは、たちどころに師匠にバレた。クマとの戯れ1戦目で師匠がヘビもどきを叩き切り、終了になった。



 師匠に連れられて、カフェで甘味三昧をしていたら、ピンク頭の少年が現れた。今日の取り巻きは、大人しかいないらしい。

「よぉ、久しぶりだな」

「あー、髪の毛増えたんだね」

 以前は、地毛とピンクの髪でまだらになっていたと思うが、少し見ぬ間にピンク一色になっていた。染めるならば地毛の色に合わせるだろうから、毒の症状が進行したと言うことだろうか。お坊ちゃんなんだから、金にあかせて染めて元に戻せばいいのに、いつまでピンクでいるのだろうか。カツラをかぶるという選択でもいい。パドマには関係ないことではあるが、兄が助言も何もしていないのかという点で、気になった。

「髪だけじゃないぞ。背も着々と伸びてるぞ」

「そっかー。良かったね。着々と脳みそが増えることを願ってるよ。はぁ」

 ピンクは、お花畑の色だ。そんな頭を見ていると、何も悩みなんてないんだろうなぁ、とパドマは羨ましくなる。思わず吐息が漏れた。悩みに悩み抜いて、あえてピンクに染めていることなど、気付きもしない。

「なんだ。元気ないな。今度一緒にダンジョンに行ってやろうか?」

「来なくていいよ。今のウチの悩みは、お兄ちゃんを師匠さんより可愛くすることだから」

 話題にあげた師匠は、子ども2人の会話など気にせず、クレープと格闘していた。刃物は得意分野だと思っていたが、ナイフとフォークで食べるのは苦手らしい。そこじゃないだろうという場所に切り込みを入れては、首を傾げている。周囲は、温かな目を向けるだけで、助言はしないようだ。

 それを見ていたイギーがこぼした。

「それは無理じゃないか?」

「だから、イギーは使えないんだよ」

 ダンジョンで活躍させるのは無茶振りだろうが、本業の商売に才能があるようにも見えない。両親の愛があるだけのワガママ息子というのが、パドマの評価だ。ワガママが恵まれている自慢に思えて、見るだけでイライラするのかもしれなかった。

「なんだよ。見てろよ! 俺だって、できるってところを見せてやるんだからな!!」

「はいはい、頑張ってー」

 イギーを見る度に、兄のすごさと兄のダメさ加減を知る。ダンジョン帰りに、きちんと素材の回収さえしてくれば、師匠ほど豪華な部屋でなければ、宿暮らしもできるんだよなぁ、と自分の進退について考えた。



「パドマ!? 何やってんの!」

 カフェでおやつを食べた後、師匠と別れて家に帰り、クマを置いてから、こっそり1人でダンジョンに戻ったのだが、深階層から帰ってきたイレに見つかってしまったようだ。階段への道から外れ、特にSOSも出していなかったと思うのに、どうしたことだろう。

 パドマは、リンカルスから皮のはぎ取りをしていた。丸ごと持ち帰るのは重すぎて無理なので、高価買取かつ重くない皮を標的にしたのだ。この後、ブッシュバイパーの皮も持ち帰ろうと考えていた。

「皮を買取りに出そう、と思ったの。確か、売れるよね?」

「師匠は、どこに行った? リンカルスは、倒せないんじゃなかったの」

 イレは、顔を真っ赤にして怒っているようだが、師匠にパドマの監督義務はない。どれだけ汚してダメにしても新しい服が支給されるので、便利な狩衣姿に戻ったが、別にパドマは、師匠の弟子になったつもりもなかった。

「初めて見た時から、倒そうと思えば倒せたよ。ただ、師匠さんの課題をクリアできなかっただけで」

「どういうことかな」

「前に、イレさんも言ってたじゃん。ウチに2人のマネは、無理なんだよ。なんで真正面から巨大生物とガチンコ勝負して、勝たなきゃいけないんだよ。命懸けで、そんなのやりたくないよ」

「そうだね。じゃあ、これはどうしたの?」

「ヘビは大きすぎて、簡単には通路に入って来ないから、安全圏からナイフを飛ばして、目潰ししてから殺った」

「そういえば、最初は火蜥蜴も棒手裏剣だったよね。パドマが、バトルジャンキーに目覚めて、忘れてた」

「バトルジャンキーって何? 師匠さんに、くそむかついてただけじゃなくて? ブッシュバイパーは、ガチで倒したんだから、ここでリスクを負わなくても良いじゃんさー」

「ごもっともで御座います」

「小型のは通路に入ってくるから、挟まれたら終了の特攻スタイルなのには、変わりがないんだけどね」

「改良の余地はあるね。考えよう」



 次の日、師匠の目の前でリンカルスを倒してみたら、猫の手棒が出てきた。しつこく模範を見せてくれていたので、同じように倒す課題だと思い込んでいただけで、師匠は倒し方にこだわってはいなかったようだった。倒せばなんでも良いのであれば、別にここで足止めされてなくて良かったなぁ、とパドマは思ったが、次の階層に降り進んで、リンカルスに恐怖して、縮み上がっていれば良かったと、後悔した。


 18階層の主は、アシナシイモリであった。

 10階層と15階層は、小さめの敵であったが、最近は、巨大生物とばかり戦っていた。そこにきての久しぶりの小さな敵であった。ダンジョン内にしては珍しく参考にされた元の生き物と変わらぬサイズ感であった。

「もういーやーだー!」

「なんで? ここボーナスステージなのに」

 目潰しに対する師匠の評価を気にしてついてきてくれたイレは、ダンジョンの奇妙さに慣れすぎて、パドマへの共感力はなかった。

 芋虫を平気な顔して叩き潰すパドマも、芋虫が好きな訳でも、可愛いと思っている訳でも、殺すことに何も思っていない訳でもなかった。慣れてはきたものの、気分は良くないままだった。そこにきての、久しぶりのゾワゾワの襲来であった。

 アシナシイモリは、遠目に見ると、30cm程度の黒いミミズであった。稀に、ミミズ色のものや、白や黄色も混ざっているようだが、それが床いっぱいに足の踏み場もないというよりは、ミミズプールとでも言った方が近い程、沢山蠢いていた。中には、エイリアンのようなキバをむき出しにして、共喰いをしている個体もいる。

「沢山食べれるようにミミズトカゲを大きくしてみたけど、よく考えたら、大きすぎて持ち帰りが大変すぎるから、小さくて美味しいのを作ってみたんだって。美味しさを皆と分かち合いたいって。ダンジョンマスターのオヤツゾーンなんだよ。

 みんなで食べれるように、リポップが異常に速いんだけど、誰も持って帰らないから、増えちゃって増えちゃって」

 話している間に通り過ぎた人は、アシナシイモリを踏みつけて気にせず歩いて行った。アシナシイモリは、歩く人に噛みついていたが、金属ブーツを履いていたからか、貫通していないようだった。

 パドマは、水流剣を振って、最初の部屋を陥落させて帰った。明日には、数が減っていると信じて。



 次の日に、訪れると、昨日と変わらぬどころか、3割り増しくらいに増えたアシナシイモリと対面させられた。

「階段への通路の部屋は、比較的マシな量しかいないけど、それ以外の部屋は、それはもうみっちりといてさ。パドマがエサを置いて帰るから、集まってきたんじゃない?」

 という感想を置いて、イレは深階層に旅立って行った。

 パドマは、イレが通り過ぎるのを待って、雷鳴剣を振って、始末した。

次回、アシナシイモリ撲滅作戦。

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