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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
第7章.17歳
242/463

242.読書タイム

 ダンジョンから出たパドマは、レジナルドに別れを告げ、きのこ神殿に走った。パドマ関連の頭のおかしい書籍の出所など、ここしかないと思ったのだが、売店を覗いても、『新星様伝説』はなかった。

「ここになければ、『英雄様物語序章』はどこにあるのかな。綺羅星ペンギン?」

 誰に問うた訳でもないパドマの独り言だったのだが、売店スタッフから返事があった。

「大人気商品のため、只今入荷待ちで、予約販売のみで対応しています。集会室に置いてある本を読む方が早いですよ」

「そうなんだ。ありがとう」

 パドマは礼を言って、集会室に向かった。

 予約状況を聞いてみると、現在予約中の最後の客に本が届くのは、恐らく半年後くらいだろう、とのことだった。1冊買うだけで、パドマの副収入の3か月分くらいの金が吹き飛ぶ高額商品なのだが、誰がそんなに買うんだよ、という疑問は既に解消されている。隣国の貴族だ。子どものレジナルドが5冊ずつ購入したと言っていた。大人であれば、何冊でも買えるだろう。もしかしたら、慈善事業を手伝っているなどと言って、競って買い占めているのかもしれない。変な本のために小遣いをなくして犯罪に走る貴族が出たりしませんように、とパドマは祈った。



 集会室に行くと、すぐに本を見つけた。男たちが集まって、朗読会をやっていたのである。他団体に比べれば着々と識字率を上げているのだが、綺羅星ペンギンも過半数は読み書きができないので、読めるヤツが読めないヤツに本を読んでやるのである。

 今日の朗読者はルイだったので、『新星様伝説』を取り上げて、ついでに『英雄様伝説序章』も持って、パドマは救護室に行った。『新星様伝説』朗読会は、本がなくなってしまい、少しの間静かになったが、パドマが読み始めたかと思われるくらいに、また続けられることになった。挿し絵がなくなってしまったのは残念ではあるが、本文だけならルイの記憶装置に入っている。毎日のように誰かにねだられて読んでいるうちに、ほぼ覚えてしまったのだ。多少の表記ゆれはあるかもしれないが、ルイの方が神々しい表現をするので、聴者からの評判は良い。だから、朗読会から逃げられないのだ。


 パドマは、顔を歪めながら、本を読んだ。読書をする趣味は持ち合わせていないのだが、それにしたって『新星様伝説』は、苦痛しか伴わない本だった。ダンジョンの話なんてさわり程度で、ほぼ恋愛小説なのである。

 少女パドマは恋愛脳なのか、相手を取っ替え引っ替え、とにかく恋愛パートに雪崩れ込んでいく。初期は、ヴァーノンとイギーとレイバンの間で揺れ動き、本命がヴァーノンに定まったところで、失恋する。小説内では実兄なのだから、振られて当然だ。だが、振っておいて、ヴァーノンがパドマに恋人のように接するので、パドマは全く癒されることがない。

 そこに飛び込んでくるのが師匠だ。師匠は小説内では性別がないようだが、それでもパドマはどちらでもいいわ、と飛び込んでいく。師匠はパドマを受け入れ、睦まじいシーンを連発するのに耐えられず、何度も本を閉じざるを得なかったのだが、苦痛に耐えて読み続けると、世の為人の為にチンピラ狩りを始めて、、、。出てくる男すべてと恋愛し始めた。『新星様伝説』は、恋愛模様が錯綜しすぎてカオスになったところで、つづく! と終わった。

 一応、ダンジョン攻略もしていた。基本武器はフライパンで、何もかもをフライパンで斬り捨てていたが、その衝撃は何年も前に飲み込んだものだから、まぁ、いい。新星様の食を支える師匠のキャラ弁クッキングコーナーが追加されていたが、それもどうでもいい。世直しはなったようだし、綺羅星ペンギンも無事完成していたが、綺羅星ペンギンはグラントに惚れたから作ったのではない。グラントに押し付けたのであって、プレゼントしたのではない。


 『英雄様物語序章』を読んでいた師匠からも、微笑みが失われていた。感動ではない涙を流し、瞳が焦点を結んでいない。

 もう辛くてつらくて動けなくなったので、パドマはそのまま寝てしまった。



 パドマが起きると、既に食卓に師匠ごはんが並んでいたので、パドマは喜んで食べた。お風呂にも入って、ゆったりのんびりと昨日の疲れを取った後は、難敵が待っている。『英雄様物語序章』だ。何でもいいが、とにかく一通り読んでしまわねば、批判もできない。その展開はないとは思うが、ここからパドマが格好良く活躍し始めたり、夢オチで終わったりするかもしれないのである。苦痛しか待っていないのはわかっているが、パドマはページをめくった。


 前巻のパドマは、自己都合で師匠をおいてきぼりにしたのだと思うのに、執拗に師匠の命を狙い出した。パドマが脇見をしている間に、師匠に恋人が出来てしまったのが、気に入らないらしく、恨んでいるのだ。恋は力じゃないと思うのに、無理矢理師匠を取り戻そうとしては、師匠の恋人のイレに邪魔されてしまう。

 師匠を恋う台詞にも吐き気がするが、それよりもイレはそんなに格好良くないという方が、より気になってしまいのは、何故だろう。英雄様の恋敵を務めるべく、イケメンに改造されたイレがくそムカつく。パドマも師匠もおかしな改造をされているのに、なんでお前は1人だけイケメンになってるんだよ、という怒りが止まらない。キザな台詞を見つけると、紙を破りたくなる。

 そして、師匠の関心をかうため、タランテラの踊りを習得するのだが、武闘会で負けてしまった英雄様は、恋に破れる。

 イレに恋で負けるのは納得がいかないのだが、師匠との恋愛パートは終了した。パドマは、これで安心だと思っていたら、間髪入れずに師匠は戻って来た。パドマがシャルルマーニュに嫁に行くことを聞いて、師匠が真実の愛に気付いてしまうのだ。そんなものはないのに、それまでの話はなんだったのかと問いたくなるハイスピードでパドマと師匠は結婚してしまい、それでも嫁取りにきたシャルルマーニュに抗えなくて、パドマは身投げをしてしまう。

 パドマを失った悲しみに、師匠は新たな趣味として寒中水泳を始めるのだ。楽しくバサロにハマっていたら、海を漂うパドマを発見した。急いで陸に上がり介抱すると、パドマは息を吹き返し、30ページにも及ぶイチャイチャタイムが始まった。見るに耐えないが、飛ばさずに読む。そろそろ乙女を斬殺しようか惨殺しようか悩み始めている。パドマは、自分はなんて寛容なんだろうと、脳内で武器屋を宙吊りにして殴った。

 そして、子を持てない2人は、恵まれない子を我が子のように育てよう、と白蓮華を開業する。

 白蓮華はそんな施設ではないのだが、そこに綴られた白蓮華の説明は、間違ってはいなかった。様々な理由で親を亡くした子は、食うに困っており、死亡率が高い。また、子を抱えて預け先がないばかりに、仕事ができずに困窮する親もいる。白蓮華は、その両者の味方であり、長期預かりも受け付けるから、子捨ては思い止まって欲しい。そう綴られていた。レジナルドが言っていた寄付金のことも記載されていた。この本の売り上げの半額は白蓮華の寄付金にすることと、本に関係なく子どもたち宛の寄付金は受け付けている。寄付する余裕のある人は、無理のない範囲で寄付をすると、助かる子どもがいるとのことである。

 パドマは、怒りのやり場を失った。これも含め、おっちゃんの策略だというのは、わかっている。善意なら全額寄付と書くだろうに、寄付目的の購入から収入を搾取するつもりで、半額寄付にしたのだろう目論見が透けて見えるのである。だが、そんな腹黒でも、白蓮華が助かるのは確かだろう。今は貴族並みのごはんを食べている子どもたちだが、それを支えているのは、イレと師匠だ。師匠の財布の金の出所がイレだとしたら、イレ1人だ。イレの身に何かあったり、気が変わったりすると、全てが失われてしまうかもしれない。一応、紅蓮華の支援も約束は取り付けているが、どこまで当てにできるか不明だ。だから、子どもたちを支える人は、多いに越したことはない。そういう人の目にとまるため、おかしな内容にしたのであれば、文句は言えない。

 師匠のパドマ愛が炸裂して、愛の力でクラーケンを魅了して倒したりし始めたが、もういい。パドマは、本を閉じた。

「読む前から、ふざけた本だってことは、わかってた。でも、これは怒れないよ」

 パドマは、本を置いて、布団に戻ってしまった。何の音もしないが、泣いているのかな? と思ったので、師匠は本を片付けて、お昼ごはんを並べると、お菓子を作りに行った。


 お菓子が出来上がったら、パドマのところに持って来たのだが、お昼ごはんは少しも減っていなかった。あの食い意地の張ったパドマが、少しも手をつけないなんて、おかしい。絶対に寝ていても食べるに違いないと思うくらいだ。

 師匠が布団をはぎとると、中身は何もなかった。師匠は外に駆け出した。

次回、変な本に脳をやられながらダンジョンで戦う。

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