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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
第7章.17歳
241/463

241.王子様と一緒に

 次の日は、レジナルドとダンジョンに行くことになった。レジナルドは、両親を説き伏せることに成功したらしい。ダンジョンに行くことに決定したらしいので、綺羅星ペンギンの有り余る人材から、普段から護衛を付けてあげることになった。親切ではない。金を取る商売だ。だが、気の合う仲間でも見つけたら断ってくれてもいいよ、と言う暫定的なものである。シャルルマーニュの護衛もいるのだが、あまりダンジョン向きではない武器を持っていたので、パドマが提案したのである。今日は、その初回なので、パドマも来たのだ。護衛が2倍に膨れて、鬱陶しいったらないのだが。


「おはようございます。本日は、よろしくお願いします」

「おはよー。護衛はつくけど、ピンチに陥るまでは手は出さないから、存分に楽しむといいよ」

「はい。ありがとうございます」

 レジナルドは、アグロヴァルのようにまとわりついて来ないし、余計な話もしない。必要最低限なことしか言わないし、装備もかなり無骨だった。それが、パドマにとっては好印象だった。


 登録証は昨日のうちに発行したそうで、スムーズに入場する。2階層のニセハナマオウカマキリも、5階層のツノゼミも、レジナルドは慌てず騒がず、腰に佩いたロングソードでべしっと殴り飛ばして終了した。6階層のトリバガを全て防ぐことは出来なかったが、男だから7階層のクロスジヒトリに囚われることはない。

 10階層の火蜥蜴も、冷静に対処できていた。パドマたちが度々殲滅して遊ぶので、数があまりいないと言う状態だからこそではあるのだろうが。


 パドマの中では、ここからが本番である。11階層のミミズトカゲの大きさを見て、驚き慄くがいい!

 心の中で、そんなことを思っていたのだが、レジナルドは何の感動も漏らさずに、突き刺して引き裂くと言うヴァーノンスタイルで、あっさりと倒して、そのままスタスタと先に進む。パドマは負けを認めた。

「すごいね。次の新星様は、君だよ」

 パドマは、拍手とともにレジナルドを褒め称えたのだが、レジナルドはやはり無感動のままだった。

「本当に、本の通りなのですね」

 レジナルドは、ふふっと笑った。

「本?」

 なんだか知らないが、パドマはとても嫌な予感がした。だが、師匠も護衛たちも、顔色は変わらない。この中の誰かのイタズラでもないし、心当たりがある人間はいないらしい。皆が皆何の話かわからないような顔をしていた。

「シャルルマーニュ貴族の中で、流行っている本です。『新星様伝説』と『英雄様物語序章』。ご存知ありませんか? そこに、ダンジョンのモンスターも出て来て、倒し方も書いてありました。私は、それをなぞっただけですから、すごくも何ともありません。ミミズトカゲを倒すとパドマ様が褒めて下さるが、大してすごくもないから驕るなと書かれていました。近日出版予定の『そして、神へ』も楽しみにしております」

「そんなものを書いたの?」

 シャルルマーニュで流行っているなら、お前の所為だろうと、パドマが師匠の袖をつかむと、師匠は顔を青くして、手をクロスさせて、首を振りまくった。

「またウソか」

 パドマは騙されないぞと睨むと、師匠は蝋板をレジナルドに向けた。文字を刻んでいた姿は見ていないのに、既に『私ではないと言え』と書かれていた。レジナルドは、よくあることなのだな、と理解した。

「私は、パット様に勧められてはおりません。ブリアンナが甥に土産で渡したものを、借りて読んだのが契機です。巻末に、利益の半額は託児施設への寄付金になると書かれていたので、読破後、5冊ずつ購入させて頂きました。託児施設の運営の一助とするために、出版を許可されたのですよね。素晴らしい志だと思います。

 シャルルマーニュの城の図書室と文庫に納めさせて頂いた分の貸し出し予約数が、過去最大だと話題になっております。素晴らしい本だと、借りて読んだ者たちは、私と同じように購入しているようですよ。読み聞かせや人形劇などでも、大人気の演目になっております。

 作者は、ジェリー様です。パット様では御座いません」

 パドマは話を聞いて、師匠をますます睨め付けた。袖をつかんでいた手は、胸元を締め上げている。

「ジェリー様、何してくれてんだよ?」

 レジナルドは、パットではないと明言したが、パドマはパットの偽名だと判断したのだった。そもそもパットこそ、イヴォンがその場のノリで適当に付けただけの名前である。師匠の本名はジェリーかもしれないし、ペンネームかもしれない。

 こうなると、レジナルドではどうにもならない。誰か助けて! と師匠が、思う間もなく助け船が飛んできた。

「ジェリーなら、星のフライパンの店主なのでは?」

 護衛Aの発言だ。パドマは、それを聞いて、微妙な気持ちになった。店主の名前は、おっさんかフライパンだと思い込んでいた。よく考えなくても、そんな名前じゃなかろうに。

 師匠は心の中で喝采をあげて、護衛Aの財布の中に、こっそり小金貨を入れた。

「あの乙女に名前があったんだ。思いもよらない可愛い名前じゃん。他国まで噂をばらまくとか、何してくれてんだ」

 パドマは、気まずい顔をして、師匠から手を引いた。気まずいのは、おっちゃんの名前を知らなかったことで、師匠と間違えたことではないので、師匠への謝罪はしない。

『武器屋に殴り込みに行く?』

 師匠が恐る恐る聞くと、

「いや、いいよ。あのおっちゃんは、そういう生き物だから」

 という返事があった。師匠は、初めて武器屋の店主を羨んだ。



 12階層以降のトカゲは、レジナルドの力では引き裂くことができなかった。そこで、寸胴剣の貸し出しをしたところ、簡単に倒すことができるようになった。

「それ、今のところ世界中を探しても、ジェリーさんしか作れないと言われてる伝説の剣だよ」

 と教えてやると、レジナルドは初めて瞳を輝かせた。ジェリーに対する多大な憧れがあるようだ。実際には、妻の売り上げに負けることを恐れ、他人の収入ばかり気にして生きている、見た目いかつく、プライドは高いが戦えないおっさんなのだが、そこまでは教える必要はないだろう。あのおっさんも、シャルルマーニュでパドマとともに、なんならパドマ以上のイケメンか何かになって、語られればいいのだ。


 17階層の毒霧蛇リンカルスとは、戦わせちゃマズイんじゃない? と、パドマはそれとなくブッシュバイパーで帰ろうとしたのだが、次に何が待っているか知っているレジナルドは止まらなかった。

 仕方がないから、毒霧を出して見せるのはパドマが担当して披露し、今は一緒に、どちらが多く倒せるか争うように倒している。いや、間違いなく、はしゃいで競っている。それを見た護衛たちは、ボスって10歳の王子みたいな性格なんだなと話しているのを、師匠は冷や汗を流して見ていた。


 パドマはアシナシイモリに怯みながら、根性だけで先に進み、ダチョウを倒したら、皮をはいで帰ることにした。レジナルドは、もっと先に進みたそうにしていたが、帰りの時間を考えたら、そろそろ打ち止めにした方がいい。パドマと違って、レジナルドは聞き分けが良かった。

「これが最後じゃないんだし、初めてでここまで来たなら、新星様より上だもん。いいじゃん。初回から帰りが遅くなったりしたら、お母さんが心配して2回目を反対されちゃうんだよ」

 ヴァーノンに何度となく反対されたパドマが、真面目な顔をして言うのを、レジナルドは真剣に聞いた。

「それで、走りながら斬る技能が必要なのですね。我が国の武器では、深階層には行けませんね。ジェリー様の剣を、早急に手に入れないといけないようです」

『シャルルマーニュへの持ち出しは禁ずる。厳重に管理せよ。隠しても露見するように出来ている』

「かしこまりました」

 レジナルドは、師匠に跪いた。

 師匠の見た目はふわふわしたままなので、似合わないなぁ、とパドマは思った。

次回、噂の本を読みます。

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