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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
第7章.17歳
210/463

210. 第四回英雄様誕生日祭〈後編〉

 7日目は、唄う黄熊亭出張店舗で、パドマはごはんを食べていた。グラントとルイとギデオンとジムとジムとジムを誘って、同じ席についている。今年の綺羅星ペンギン優勝チームだった。

 ジムたちは見たことがないが、他のみんなは時々唄う黄熊亭で飲んでいる。今更、オススメの紹介もないものだから、ただ一緒にごはんを食べるだけだ。

「なんで、その6人でチームなの? 人数制限でもあるの?」

 チヌイとしいたけの食べる白ソース乗っけ焼きを食べながら、パドマは聞いた。

「パドマさんに出会う前のチームです。うちは、戦闘ができそうな人間は、ギデオンくらいしかいないので、勝てるとは思いませんでした」

 グラントが、意味のわからないことを言った。ジムはわかる。ジムもジムもそうだろう。だが、グラントやルイが戦えないなんて、嘘だ。出会った頃から、普通にダンジョンを歩いていた。絶対に、綺羅星ペンギン内でも強い方なのだ。その上、前職はチンピラのハズである。師匠が単独で粉をかけてきたのを引き受けただけだから、出会いの契機その他をパドマはまったく知らないのだが。怖い顔をしてるから、絶対にチンピラだと決めつけていたが、違ったのだろうか。確かに、綺羅星ペンギン従業員が全員チンピラだったら、この街のチンピラの人数は多すぎないかとは思っていた。師匠、人は見た目だけで判断しちゃいけないんだぞ! と、自分のことを棚に上げて、パドマは人の所為にしようとした。

「そうなんだ。棍とトリモチの攻撃のコンボは、見てて面白かったよ。すごい連携だったよね」

「戦えない我々が、勝つ道を模索した結果です。本当は、死なない程度に腱を切ってしまおうかと思ったのですが、次の日からの仕事に支障をきたすとルイに止められました。軍事訓練をなんだと思っているのか。まったく嘆かわしいことです」

 そう言いながら、表情も変えず、グラントは仔豚の丸焼きを食べている。そんなものを作ってしまうのは、ヴァーノンだろう。だから文句は言えないし、食べたことはあるから美味しいのは知っているのだが、こっちに豚の顔を向けないで! とパドマは思って、必死に目をそらしていた。グラントが話す度に、何度もうっかり見てしまって、ひっ! と思っている。今日の豚は笑っているように見えて、特に苦手だった。

「いや、ルイは、珍しくいい仕事をしたよ」

「お褒めに預かり恐縮です。上を任されているとはいえ、グラントは使用人の立場ですから。神からの預かり物を傷ものにする権限はない、と伝えました。神のためならば、捨て駒にするのも構いませんが、訓練ごときで兵を減らすのは認められないでしょう。教育下手の怠慢です」

 そう言うルイは、7種のきのこのおろしにんにく炒めを食べていた。見た目は全然きのこなんて食べなそうなのに。パドマは、ふと思い返せば、店でルイを見かけると、きのこばっかり食べていたような気がして、ルイの皿をじっと見た。きのこで巨漢に育つなんて、ズルい。

「うーん。いい仕事だったのか、自信がなくなってきたな。その思考性は、絶対に堅気じゃないよね」

「そうですね。暴力だけが、力ではないですからね。ボスが、いい例なのでは?」

「え? ウチも、その範疇に含まれるの?」

「アーデルバード民は、基本全員探索者ですから。探索者がメイン職業なのであれば、アウトローですよ。女性ですから、その定義からは外れるかもしれませんが、ある意味では、、、さすが神だと申し上げておきましょう」

「探索者業は安易に稼げるいい仕事ですが、本気で街民全員で探索者業をすると、不便な街になってしまいますからね」

 グラントは、しみじみとした口調で続けた。

「ぐふ。この話題は、これ以上、掘り下げないことにしよう。ウチは、お兄ちゃんがイケメンすぎるだけのただのカスだから。大丈夫大丈夫。

 でもさ、今年は決勝戦が楽しみだよ。ルールを変えちゃったから、ギデオンは不満かもしれないけどさ。勝ち残ったら、ガチバトルしようね」

「最善を尽くすことを誓います」

 勝てはしないだろうけども、ギデオンから何点取れるかなぁ? と、きゃっきゃうふふと喜ぶパドマを、遠くから隠れて伺う影があった。



 午後、ルーファスがご機嫌伺いに訪れた。

 その時、まだパドマは唄う黄熊亭出張店舗でおやつを食べていたが、女装してバラの花束を持ってやってきたルーファスをどうしてやろうかと持て余した。

 気分的には、完無視したいのだが、公共の場で英雄様だか、きのこ神だかがそれをやると、ルーファスに想定以上の被害を及ぼす可能性がある。パドマは大人なので、気を使うことを知っている。だが、顔を見れば、やっぱり腹が立つ。こんな時は、どうしたらいいのだろうか。

「まずは、誤解を解きたいと思っています。わたしは、上下セットで服を準備致しました。あれは、事故です。故意ではありません」

「へえぇ。それは、良かったね。ウチは関係ないけどね」

「不備をご指摘いただければ、すぐに服を用意できました」

「それは、ウチが悪かったってことかな?」

「そうは申してはおりません。不幸な事故でした」

「信じない。信じられない。脱げって言われた後の、あの仕打ちだよ。脱がそうとしてるって思われても仕方がないと思うんだけど、どう思う?」

 差し向かいで、客寄せのためにうだうだ言わずに脱げと言われたのは、記憶に新しい。イレくらいしか騙せないと思う。

「信じて下さい。グラントさんの話を聞いて、心を入れ替えたのです。英雄様を薄着にするより、厚着させる方が売れるアイテム数が増えると! 考えてもみて下さい。ボトムスを履かない男を大量発生させれば、店の評判が下がります。そんな格好をしても許されるのは、英雄様だけですよ。他にそんな着こなしをしている人間がいたら、仮令女性でも、わたしは指をさして笑うでしょう」

 女装男は、うふふふふと笑った。

 どこでもここでも気にせず女装して歩く、お前だけには、どんな格好をしていようと何も言われたくねぇな、とパドマは思った。

「ひどい。もう女装癖とか、腹黒さとか、少しは包み隠して欲しい」

「包み隠せば、気持ちを納めていただけるのでしたら、夕食を食べ終わるまでは、隠しますので、お隣で食べてもよろしいでしょうか」

「どうぞ。オススメは、シーブリムの丸焼きか、ドクツルタケの煮びたしだよ。どっちがいい?」

「ドクって言いましたね? もうシーブリムの丸焼きしか、選択肢がないですよね」

「はい、まいど。中銀貨1枚ね」

「一皿で? 高すぎやしませんか?」

「メニューにない、くそ面倒な物を頼むのが、悪いんだよ」

「どういうことですか? オススメなんですよね」

「それで手打ちにしないか、ってこと」

「お安い御用です。乗りましょう」

 ルーファスは、中銀貨を2枚出した。

「1枚だよ?」

「片方は、英雄様の分ですよ」

「こんなところにも、イケメン財布があった」

 あれ? まったくパドマに興味を持たないルーファスって、いい物件なのかもしれないぞ、とパドマは気付いてしまった。女装癖は如何かと思うが、顔が整っているから、そんな格好が似合うのだろうし、仕事で稼いでいる方だった。イギーでもどうにかしてくれる紅蓮華幹部なのだから、将来的にも安泰だろう。年齢さえ釣り合えば、妹の旦那に推せる男かもしれない。

「ルーファスって、そんな格好してるけど、男と女、どっちと結婚したい人なの?」

「そうですね。そろそろ身を固めろと言われてはいます。が、わたし自身は、実はどちらにも興味はありません。迂闊に結婚をすると、兄と骨肉の争いをすることになってしまうかもしれないから、独身でいる。という名目で、一生フラフラしていようかと思っております。家が欲しいなら、わたしなら、次期会頭を追い落とすこともできますし、新しく商会を立ち上げるのも、薮坂ではありません。兄と争う必要などないですよね。

 理想の人は、バラですから、そんな人は英雄様しかいないでしょう? それは現実的ではありませんし、だったら適当な人と結婚して、その人のようなバラを作出した方が早い。どうしてもとなれば、誰が相手でも構いません。なんとでもなるでしょう」

 夕飯を食べ終えるまでは腹黒を隠す約束だったのに、また聞きたくなかった話を聞かされた。どっちも興味ないという辺りまでは、ほうほうと聞いていたパドマだが、イギーを追い出すというところから先は、白目をむきそうになった。これのところに嫁いだら、商売を名目に、何をさせられるか、わかったものではない。絶対になしだと思った。

「自分の都合だけじゃなく、相手の気持ちも考えようね」

「そうですね。わたしはいつでもバラのことを大切に想っておりますよ」

 遠くの影が、ふわふわ揺れた。



 8日目。パドマは、紅蓮華の屋台村に行った。白蓮華の子どもたちの人数が増えすぎたのと、引率用のスタッフがケガ人だらけだったのである。杖にしがみついて、行きます行けますなどと言われても、そこまで頑張ってくれなくていいよ、としか思えなかった。

 顔を出せと言ってないのに、パドマがやってきたので、紅蓮華は大慌てで席を改造していた。もう呼ぶのは諦めていたところで、ルーファスがやらかした。絶対に来ないと思っていたらしい。パドマはサービスとして、ルーファスデザインの服を着てきたから、わかる人間には和解したのがわかるだろう。わかる人間は、パドマが静かに激怒していたことを知っていたので、それをあっさりと翻させたルーファスの手腕におののいた。

 パドマが来た程度で席を改造する必要ができたのは、ルーファスの所為だった。パドマの今日の服は、大変嵩張るのである。パドマのいつもの服から上着を1枚取って、ドレスのスカートを履いて、長羽織を羽織るような服になっているのだが、スカートの下のチュチュが足を入れる場所がないくらいのボリュームになっており、適当な場所には座れないのである。スカートと長羽織に入れた刺繍がバラだからいけなかったのだと思う。スカートの下半分しか入れてないから控えめですよと主張しつつ、バラを目立たせるためにスカートを膨らませたのだ。バラキチガイの暴走だ。ルーファスだから、仕方がない。いつの間にか、きのこがどこかに飛んで消えてしまっているが、きのこみたいなバラを作出されるよりはいいと諦める。

 こんなスカートでは、側仕えなしには生活が成り立たないのだが、子どもたちは楽しそうにはしゃいでいるし、テッドが食べ物をパドマのところに持って来てくれるから、まぁいいや、と1日過ごした。テッドには、側仕え適性もあるようだった。言葉遣いはいつも通り乱雑なままだが、強いて言うならそれは、パドマの気持ちに添った形だった。テッドも、アルバイトをしている間は、別の口調で話している。できないからではなかった。何も言わなくても、パドマが今欲しいものを持って来てくれて、いらないイギーはそれとなく追い出してくれる。うちの子はなんて優秀なのかしら、とパドマは母になった気分でうっとりと見ていた。

 


 9日目。パドマはルーファスの手を借りて、少年Aに変装させてもらい、街歩きをした。

 自分の誕生日会に変装しないと参加できないというのは、まったくもって意味がわからないのだが、おかげさまで人に囲まれることなく、歩くことができた。服が変われども、護衛はぞろぞろとついてくる。アーデルバードには、そんなことをしているのはパドマしかいないのだから、パドマとわからない人間はイレくらいしかいないのだが、お忍びなんだねー、と気を遣って声をかけるのをやめ、街民は遠くから見守ってくれたのである。パドマに気付かれないように、護衛が『只今お忍び中。気付かないフリをしてください』と書かれた板を持ち歩いていた効果もあっただろう。

 外に出ても囲まれてしまい、基本的に人しか見えなくなるため、お祭り中の街がどうなっているか、落ち着いて見たのは初めてである。パドマだと思われる人形が飾ってあったり、ペンギンの人形が大行進していたり、いろいろな飾りの中に、英雄様、お誕生日おめでとうと書かれてあって、くすぐったい気持ちになった。


 午後は、ギデオンvs一般の部の優勝者の決勝戦を見に行った。綺羅星ペンギンの部は、決勝以外はぬいぐるみ剣とはまったく関係ない基準で選出されたので、どうなるかと心配していたのだが、ギデオンは圧勝していた。走れる筋肉達磨は、強かった。

「やったー。ギデオンが勝ったね」

 普段、少しでも近寄ると目に涙を浮かべ始めるボスが、ご機嫌で握手をしてくるので、護衛はびっくりした。

アーデルバードの男は、ダンジョンモンスターを蹴散らかすのは標準仕様なので、グラントとルイは頭脳職、ギデオンは筋肉担当です。ジムは標準仕様からハズれていますが、どこに行ってもそういう人はいるよね。探索者なのに戦えないジュールみたいのも普通にいるので、別の仕事で輝いているジムは、侮られたりはしていません。



次回、VS英雄様。

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