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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
第6章.16歳
202/463

202.きのこ狩りとマルティコラ

 理由不明だが、きのこを食べねば夏を乗り越えられないことを知ったので、パドマはきのこの友を緊急召集し、きのこ狩りに出かけることにした。集まったメンバーは、ジョージ、ガイ、ルイ、ヘクター、パドマ、テッド、ヴァーノンだ。ハワードには、他の仕事を振ったので、ヘクターにチェンジした。それは計画通りだが、テッドとヴァーノンは計算外である。きのこを仕込まれているパドマは、きのこ狩りに興味があるかもしれないと誘ったら、芋づる式にテッドがついて来て、弁当作りを頼んだらヴァーノンがついてきてしまったのだ。

 急に決めたのに、カーティスは馬車を寄越してくれたので、それに乗って、皆で出かけた。


 森に着いたら、馬車を護衛に預けて、徒歩で森に入る。今日は、住んでいた森とは別の地点なので、ヴァーノンの知識は当てにならない。子どもたちが歩くのに問題がありそうな場所では、積極的に手を差し伸べてくれるし、護衛代わりにもなるだろうから、役には立っているが。

 馬車を手配されてしまった手前、パドマはセープを狙っていくのだが、ついついパドマの観心を買いたくて、キイチゴやらヤマモモに寄り道してしまった。ヴァーノンも、ヤブカンゾウなどを収穫している。どうにも、真面目にきのこ狩りをする気分になれなかった。イノシシの数だけは、着々と増えていくのに。

「お姉ちゃん、きのこは?」

 と、パドマに指摘されて、ようやくパドマも本気を出した。セープ、オーヴォリ、ガッレッティ、ピオッピーノ、ハナビラタケ、ハナイグチ、ラムズヘッド、トリュフと、次々にきのこを発見し、きのこ名人に収穫させていく。

 見つければ、すごいすごいと弟妹が囃し立ててくれるのだが、見えない場所のきのこを見つければ、やはりどうしても「どうやって、見つけてるの?」と聞かれてしまう。いつも通り「きのこの神だから」と答えれば、ヴァーノンの口元がニヨニヨと動いていた。ヴァーノンは大人なので、バラさずにいてくれると信じているが、つい顔を合わす度にニヤケられると、イライラしてしまった。イノシシの扱いがぞんざいになってしまっても、無理からぬことだと思う。

「あー! 次に来たのは、俺がやるって約束したのに!!」

 と、テッドに怒られても、ご愛嬌だとパドマは思った。

「ごめん、ごめん。忘れてたよ。心配しなくても、きっとまた来るよ。気配はあるから」

 そう言いつつ、お昼ごはんを食べることにした。ちょっとは食べて減らさないと、護衛が完全にイノシシ運び係になってしまう。



 イノシシの調理は人任せにして、パドマは弟妹と共に弁当箱を開けてみて、凍りついた。1つ目の箱には、おにぎりが詰められていたのだが、全部動物の形だった。ペンギンとカエルとコアラとネコが並んでいる。2つ目の箱には、カップ入りのパスタが入っていたが、ヒツジとライオンになっていた。3つ目と4つ目の箱には、唐揚げとつくね串とハンバーグとサラダ風のピンチョスが入っていた。形は普通だ! クマ型やゾウ型に作られているような気がするのだが、つくねやハンバーグならともかく、唐揚げがクマ型とか正気を疑うので、そんな気がするだけで、気の所為に違いない。5つ目の箱には、焼菓子が入っていた。多分、クマの形のフィナンシェかマドレーヌか、そんなお菓子だ。

 パドマ向けかなぁ? と思うのに、ヴァーノンはにこにことパドマを見ているし、他の皆もパドマを微笑ましい顔で見ている。パドマにまで、そんな眼差しを送られているのは、何故だろうか。なんだか納得いかない気持ちになったが、作って欲しいと頼んだのは、パドマである。

「ありがとう」

 と、改めてヴァーノンにお礼を言って、コアラのおにぎりを手に取った。コアラは、灰色ではなく、茶褐色の方のコアラだ。

「いただきます」

 遠慮なく、ガブッとかじりつくと、出汁の香りが鼻を抜け、中からチーズが出てきた。

「?!」

 チーズを食べるな、と小言ばかり言うヴァーノンが作った弁当から、チーズが出てくるとは思っていなかった。パドマが、ヴァーノンを見ると、笑っていた。

「食欲は戻ったか?」

「戻った」

 間違いなく、パドマ向けに作った弁当だったらしい。何故、こんなラブリーに作ってくれたのだろうか。パドマは、もう大分前に成人したのに、まさかまだ気付かれていないのだろうか。身長を人並みに伸ばさねば、成人だと認めてもらえないのだろうか。パドマは、少し悲しい気持ちになった。そろそろもう身長は伸びないだろう。

 パドマは、パドマにもコアラおにぎりを勧め、もりもり食べると、調理係に混ざって、しし汁もどきと、ポークチョップもどきとルーローハンもどきを作って、その場で食べた。誰かが作っていたホルモン焼きもくすねて食べたが、処理が甘かったか、あまり好きにはなれなかった。やはり、ダンジョン産の肉の方が美味しい気がする。あちらは、処理に失敗しても、そう味は落ちない。



 食事が済むと、本日の収穫が大分減っていた。今日は、卸すためではなく、食べるために来たので、間違いではないのだが、イノシシよりも山菜ときのこが減った。ウワバミソウなんて、全部食べてしまった。

 イノシシ料理を作っていた面々はまだ食べているので、パドマは、皆から離れない範囲で収穫しようと付近をウロつきだしたのだが、前方から変な生き物が歩いてきた。

 パドマに向かって真っ直ぐ歩いてきたのは、イレくらい大きい生き物だった。猫型の大型獣の四肢を持っているのに、何故か赤毛碧眼の人間の頭が付いている。それだけでもどうかと思うのに、笑ったような形の口からは、歯が3列も並んでいるのが見えた。尾は、サソリのような体節があり、その先には、2列に別れて、パドマの腕の半分ほどの長さの針が、いくつもついている。

「何これ。気持ち悪」

 この人面獣を見たのは初めてだが、同じくらい変な生き物は見たことがあった。仲間かなぁ? と見ていると、人面獣は、護衛に向けて針を飛ばした気がした。

 パドマは、茶色のブレスレットを投げ捨て、赤の剣を思い切り振り抜いた。すると、剣から業火がほとばしり、森が焼けるかと驚いたところで、火が消失した。

 針は燃やせたと思うが、人面獣は跳躍して、護衛の真上の位置にいる。パドマも跳んで蹴りあげると、人面獣はひらりと避けて、近くに生えていた木を折った。パドマは、人面獣を睨みつけながら護衛に指示を飛ばした。

「こちらはいい。子どもを守れ!」

「ですが」

「うるさい。邪魔だ。行け!」

 そう言った時には、ヴァーノンが飛んできて、人面獣に斬りつけていた。

 青い剣で斬ったのに、弾かれ斬れなかったようだ。前脚を振り下ろす反撃を受けて、ヴァーノンは後退した。特にケガはなさそうだが、それを見て、パドマはブチ切れた。

「お兄ちゃんに攻撃するたぁ、いい度胸だ!」

 パドマは、全身に紅蓮の炎をまとわり付かせ、人面獣に真正面から飛びかかり、剣を叩きつけた。だが、やはり人面獣は跳んで逃げる。逃げるだけならいいが、逃げる方向にはヴァーノンがいて、牙をむいているから、許せない。

「お兄ちゃんに攻撃するな!」

 更にパドマが追撃すると、人面獣は奥の皆がいる方に足を向けた。事態はより一層悪化した。

「そっちに行くな!」

 人面獣を追って、剣を叩き付けるのだが、攻撃が単調だからか、全然当たらない。ここは木が多過ぎる。全力で動けば、パドマが木に激突するのを避けられない。イライラしながら追うと、人面獣はまた進行方向を変えた。

 人面獣は、誰もいない方向に駆けていく。逃げて行くなら放って置いてもいいが、何か嫌な予感がした。

「英雄様、向こうにあるのは、アーデルバードだ!」

 ガイの声が聞こえて、パドマの怒りは頂点に達した。そこにも、パドマの大切な物が沢山ある。失いたくない人がいる。次から次へと、大事なものばかり狙いやがって!

 障害物ニ当タッテモ、ドウデモイイ。全部マトメテ、ブッタ斬ッテヤル。

「死ニサラセ!!」

 パドマは、リミッターを外し、全力で人面獣を直線距離で追い、体当たりをかました。



「パドマ! パドマ!! 目を覚ませ!!!」

 パドマが目を開けると、ヴァーノンの茶色い瞳が見えた。感情の起伏は見えるが、怒ってはいなそうだった。いや、耳が壊れそうな大声を発しているのだから、怒られている最中だろうか。手を上げて、ヴァーノンを触ろうと思うのに、上手く動かなかった。腕がとても重い。目からは、雫があふれる。このまま放置すれば、鼻からも耳からもありとあらゆる穴から体液がこぼれそうな恐怖を感じた。早く身体の制御を取り戻さなければならない。なんでこんな状態になっているのだろうか。

「にーちゃ、ゆーして」

「パドマ? 起きてるのか?」

 ヴァーノンがパドマの身体を起こしてくれたから、パドマの視界に不快なものが映った。ちょっと寝返りを打てば届きそうな場所に、人面獣が転がっていた。

 幸いなことに、人面獣は、微塵も動かない。何故かはわからないが、多分、自害している。しっぽのトゲが、えげつないほどに背中に突き刺さっているのである。パドマには痛い箇所はないので、体当たりした拍子に刺さったのではないと思う。体当たりもしようと思ってしたのではなく、斬りつけようと飛び出して、目測誤って、剣を構えるのが間に合わず、ああいうことになったのだが。


「パドマ、これはお兄ちゃんか?」

 ヴァーノンが、とんでもないことを言い出した。目線を追えば、人面獣が転がっている。パドマを人面獣の仲間だと言いたいのか、ヴァーノンが似たようなものだと言いたいのか。どちらとも判断がつかず、パドマは胡乱な視線を向けるに止めた。

「あちらは何も言わなかったが、明らかにパドマの話を聞いていた。俺への攻撃をやめ、皆がいる方に移動するのもやめ、最後には死ねという命令まで聞いた結果じゃないのか?」

 そう言われると、そのような行動を取っていたようにも思える。言うことを聞いた結果取った行動は感心できなかったが、パドマが言ったことは一応聞いていたかもしれない。ならば、パドマが違う指示を出していたら、友好的な関係を築けたのだろうか。思い返してみると、不自然なほどにパドマに対しては、直接の攻撃はしてこなかった。

「間違った?」

「さてな。どうだったとしても、今更だ。あまりいいものな気がしないから、埋めてもいいか?」

「なんかね。気の所為じゃなければ、アレの下の草が枯れてる気がするの。燃やそう」

 パドマはふらりと立ち上がり、人面獣の前まで行くと、崩れるように座した。いつの間にか、腕に戻されていたブレスレットをまた外す。

「食べてあげられなくて、ごめんね」

 そう言って、剣を腹に突き刺した。剣からかパドマからか、炎が吹き出し、人面獣を焼いた。それ以外の物は、何も焼けなかった。


「その火は何なんだ?」

 ヴァーノンが、パドマの後ろに立った。

「ダンジョンセンターでもらったものはさ、たまに変な効果があるものがあるんだけどね。ダンジョンの中以外では、何の機能もなくなるんだよ。なんで、火が出てるんだろう。こないだはね、クマちゃんも外を歩いてたんだよ」

「歩いてたな」

 特に害はなさそうなので放っておいたが、ヴァーノンも気付かなかった訳ではない。パドマの周囲で不思議現象が起きるのに、食傷気味だっただけだ。

「どうしてだと思う?」

「それを俺が聞いているんだが」

「知りたいのは、ウチの方だよ。知らないよ」

「そうか。本当に、お前の養育は難しいな」

 ヴァーノンは、パドマの頭の上に手を乗せ、ぽんぽんと叩いた。

「それなんだけどさ。ウチ、もう成人してるんだよ。気付いてる?」

「ああ。日々気付かされて、悩みが増えてるぞ」

「気付いてて、それだったの? ま、じ、か!」



 人面獣を炭に変えた後、埋めて、小石を積んで墓標にした。

 すっかり興が削がれたので、片付け次第、撤収することになった。パドマは、皆からの質問に答えるのが面倒だったのと、身体がだるかったので、ヴァーノンの背中で寝かせてもらった。暑くて眠れたものではないのに、必死に寝たふりをしていたら、本当に寝ていた。

次回、磯遠足

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