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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
第6章.16歳
182/463

182.師匠の弟子

 昨日の反省を生かして、今日のパドマは、できるお姉ちゃんになった。お泊まりセットを作って、持って来たのだ。だから、起きて頭がボサボサでも、自分で整えることができる。子どもたちに動物園ごっこと称して、ブラッシングしてもらわなくても、自分で支度ができるのだ。なんと、髪型も1本縛りではない。ハーフアップに纏めた後、一回くるりんぱした。少々斜めに曲がっているが、わざとだ! この成長をわかってくれる女子が近くにいないのが、寂しい。ボサボサ頭と、ほぐし髪の境界線がわからないのだが、パドマなりに頑張ったのに! おしゃれに目覚めたような頭にしてみたのに。明日からは、もうやらない気がするので、誰かに褒めてもらいたかったのだが、そんな人材に出会わなかった。パドマは褒められて伸びる子なのに、だからやる気が起きないんだよ、と心の中で理論武装した。


 そして、朝ごはんを作る。白蓮華の調理スタッフに混ざって、グラントが言っていたあの謎のポリッジを作った。ポリッジとは、何のことはない、ただのミルク粥のことだった。おしゃれな一般市民は粥のことをポリッジと呼ぶのだ。正体がわかれば、作ることができる。あんなものは、適当に煮ていれば、そのうちできるのだ。大麦と燕麦をミルクで煮て、子ども向けに、りんごとドライフルーツをドカドカと入れた。ハチミツで甘さを足したら、よそった後、シナモンとカルダモンをふって完成だ!

 パドマだって、やればできるのだ。胡椒や砂糖がなくとも、料理は作れる。白蓮華の子どもたちは、結婚相手がいないなんて言われないように、ちゃんとしたものを食べさせてやらねばならない。そういう使命感からポリッジを選んで作ったのに、

「ポリッジを作らせても、豪華か」

と、テッドにこき下ろされて、凹んだ。


 凹みながら、誰かが作ったパンキッシュを食べていたら、ヴァーノンがやってきた。後ろには、イレと師匠もいる。何をしに来たんだろう、と思いつつ、パドマは挨拶もせずにまくまくと食べ続けた。

「おはよう、パドマ。食べ終わってからでいい。今日は、付き合って欲しい」

 ヴァーノンが、気まずそうな顔で声をかけてきた。そんなにパドマのことが嫌なら、探してまで来なければいいと思うのに、何か用事があるらしい。紅蓮華かなぁ? とあたりをつけて、パドマはのんびりと食べた。



 連れてこられたのは、ダンジョンだった。ヴァーノンは、11階層でミミズトカゲを1体仕留めると、藪から棒に「さあ、持て」と、パドマに言った。今度は何の嫌がらせだろう、とパドマは困惑するしかない。

「朝ごはんは食べたから、もういいよ。お店の仕入れ?」

「いや、違う。噂の検証だ。そうだな。せめてミミズは辞めてやろう。この辺りなら、何が好きだ」

「トビヘビ」

「わかった。ブッシュバイパーだな?」

「いや、トビヘビ」


 というのを経て、改めて、巨大ブッシュバイパーを持てと言われている。何年経っても、ヴァーノンがパドマの話を聞かないクセは、直らないらしい。パドマも似たようなものだが、それには気付いていないので、正当な怒りだとパドマは信じている。

「無理だし」

「尻尾の先だけでもいい。どこまで持てるのかを見てみたい」

「なんでまた、そんなことを」

 パドマはまったく話を理解できなかったが、持てば終了するならばと持ってみた。尻尾の先を持ってみて、段々と頭の方に向かって手を動かしてみる。だが、何故か重さをそれほど感じない。そういえば、ギデオンを上回る腕力を手に入れたんだった、と思い出したパドマは、「ほいっ!」とヘビの真ん中辺を持ち上げてみた。長すぎて、頭と尻尾は地についたままだ。これを持ち上げられたとカウントしていいか、微妙なところである。だから、パドマは、そのまま部屋を走ってみた。引きずられた頭が少々可哀想だが、これで、重さを感じていないことを表現できただろうか。えーと、後は何をすれば? とヴァーノンの方を伺うと、絶句した男が3人立っていた。やれと言うから、やったのに。


 一度、ヘビを床に置き、師匠を見習って微笑みを浮かべて誤魔化していたら、ヴァーノンがパドマに寄ってきた。何をするかと思えば、パドマの二の腕をガッとつかんだ。

「こんな柔らかい細腕で、どうしてそんなことができるんだ」

「柔らかくない! ウチだって、何年も前から鍛えようと、何回か腕立て伏せを頑張ったことがあるんだよ。その成果が出ただけだよ。お兄ちゃんこそ、中肉中背のくせにゴリマッチョ大会で優勝するとか、あり得ないんだから!」

 パドマは、気付かれたくないことを大声でまくし立てられて、顔を赤くして反論した。パドマだって、怪力に憧れはある。パドマが怪力の持ち主だったなら、解決する問題だらけだからだ。だが、常に荷物持ち(ごえい)に付き従われる生活をしている。剣より重い物を持つ機会は、ほぼなくなってしまった。それで男より太い腕になるなんて、無理に決まってる。結局、今でも腕立て伏せもできないのだから。

「何を言っているんだ。そんなことで筋力が付く訳がないだろう。でも、これで、わかった。空を飛ぶようになったのも、師匠さんの影響だな。師匠さんと呼び続けて、本当に師になってしまったのか」

 ヴァーノンはため息を吐き、頭を振った。

「師匠さんには、料理とか、掃除とか、刺繍を習った覚えはあるけど、そんなのは習ってないよ。師匠さんの怪力と一緒にされても困るし」

「師匠さんを見てみろ。あの人も、腕は細いぞ。絶対に、筋肉を使って物を持ってない。お前と同じだ」

 パドマが師匠を見ると、顔を赤くして、力一杯フロントダブルバイセップスやサイドチェストなどのポーズを次々ととっていた。一生懸命に筋肉を膨らませているのだろうが、だぶだぶの服を着ているのだから、わかりようもない。わからないが、女性の中でも小柄な方であるパドマの影武者が務まる師匠が、マッチョでないのは、わかりきったことだった。だが、師匠は、巨人のイレよりも力持ちなのを、パドマは知っている。

「そう言われてもなぁ。何かを教わった記憶はないし、芸を盗んだ覚えもないし、今も普通に持ってみただけで、特別何かしようとも思ってなかったんだよ。だから、力持ちになっちゃったって、喜んでたんだ。どうしちゃったんだろう。変な病気でも、うつされたのかな」

「身体の不調はないか? 痛いところとか、苦しいところとか。なんでできるようになったか、わからないなら、急にできなくなるかもしれない。だから、あまり高く飛んで落ちたり、重みに潰されて死ぬようなことのないように、あまり調子に乗ってやり過ぎないように。守れるか?」

 ヴァーノンは、真っ直ぐにパドマの目を見てきた。パドマは、面倒臭い約束を追加される気配を感じて、ふいっと目をそらした。

「うーん。それにしたって、空は飛んでないけど」

「空飛ぶ英雄様は、アーデルバードの夜の名物になっている。お前は、寝ながら飛び回っているんだ」

「いやいや、流石にそれは」

 パドマは、思わず視線をヴァーノンに戻したが、ヴァーノンは欠片もふざけていなかった。少なくとも、ヴァーノンはそのホラを信じて、真剣に心配してくれている。何これ、どうしようと、周囲を見回してみたが、パドマの味方をしてくれそうな人は見つけられなかった。

「俺も見た。正気とは思えないアクロバットをしていた。酒が入っていたから、夢かもしれないが」

「夢だよ」

 やっと落とし所が見つかったのだが、ヴァーノンは、より一層噂に拍車をかけてきたらしい。そんなホラ話の責任まで取れないよ、とパドマは気が遠くなった。何がしたくて、師匠は夜な夜な空を飛ばなくちゃいけなかったんだろう。

「落ちたら危ないと俺が助けに行ったから、やはりアレはお前だとなってしまった。もう誤魔化せないぞ」



 パドマは、師匠並に速く走れるようになり、師匠並に物が持てるようになった。だが、空は飛べない。頑張ってみたが、どうしたって飛べない。それに関してだけは、皆に騙されているとパドマは思っている。だって、人は空を飛べない生き物だ。

 もう1つ残念なのは、それらが戦闘に生かせないことだった。周囲の認識能力や、自分の筋肉に命令を出す速度が追いつかないのである。具体的には、走る道の途中に人がいると、ぶつかる。誰もいないでくれたら速く走って帰れるのに、急に人を発見すると、回避が間に合わない。いずれできるようになりたいと思うが、今は無理だ。だから、パドマは、走ることに関しては、セーブすることにした。

 だが、怪力の方は、存分に使う。この力を使うことによって、全力斬りがいらなくなったのだ。全力斬りがいらないということは、オモリがいらないということだ。着込みを着る必要がなくなったから、毎日が身軽で快適になった。あんまり速く走ると護衛から追いつけないと苦情が来るのだが、そんなことはパドマの知ったことではない。行ったり来たり何度も往復すれば、その分稼げる。誰かに持って貰わずとも自分で獲物を持てるようになったのだ。可能な限り加速して、稼ぐべきだろう。それが、パドマの仕事なのだから。遠慮をする必要はないと思った。


 今日は、イガグリカニを3匹、白蓮華に差し入れに持って行って、キリンを百獣の夕星に出荷して、もう3ターン目に入っていた。少し張り切りすぎて、疲れてしまったのかもしれない。なんとなく身体がダルイし、目がチカチカする気がする。今日のところは、これで終いにしようと、56階層まで走ってきた。

 ハワードに投げられた時点で気付くべきだったかもしれないが、ジャンプしたら、天井付近にある竿竹風の棒に手が届くようになっていたのである。空を飛ぶように華麗にとはいかないが、届いてしまえば、懸垂でジャッキアップして足をかけたら上に上れてしまう。ビントロング詰め放題ができてしまうのである。

 「ひゃっはー!」と飛び上がったところで、パドマの視界は暗転した。徐々にではなく、一瞬で身体の制御機能を失った。何故だろうと思ったところで、ヴァーノンの言葉が思い起こされた。師匠さんが、パドマと同じというものだ。師匠が急に眠り出すのは、何度か見た。自分もああなってしまったのだろうか。そんなことを考えられる時間も、すぐに消失した。

次回、ようやくあの人の登場。

そろそろ続きを考えるのが嫌になってきたので、たたみたくなって来たけど、まだ書きたい。どうしよう。休みを挟んだら、変わるかな。

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