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ダンジョンマスターの贈り物  作者: 穂村満月
第1章.8歳10歳
18/463

18.師匠からのプレゼント

 次の日は、師匠とセットでイレも付いてきたのを見て、パドマは嘆息した。

「ごめんね。イレさん、昨日のアレは、ただの八つ当たりだから、放っておいてくれていいよ」

「いや、ちょっと今日は、確認したいことがあるから。本当に、師匠を押し付けちゃって、ごめんね」

「師匠さんは大人だし、養育義務とかないだろうから、別にいいよ。拾ってきたのは、ウチなんだし」

「そうだねぇ。本当に、なんなんだろうね。何日経っても、しゃべらないしね」

 師匠は、気に入ったのか、またカフェにパドマたちを連れてきて、謎のドリンクを抱えていた。街の名物になりつつあるのか、段々、師匠の周囲は人だかりができるようになったので、大変居心地が悪かった。



 朝ごはんを食べた後は、やはりダンジョンだった。またミミズタイムかと気が遠くなりかけたが、着いたのは、6階層だった。わっさわっさと壁にトリバガがくっついているのが見える。

 6階層の虫なら、パドマでも余裕で倒せる。但し、売り物にならないので、積極的に倒したいとは思わないが。

 師匠は、服の中から剣を出して、パドマの前に差し出した。いつもの幅広剣ではない。

「師匠がね。パドマの剣を作っちゃったんだよ。もらってやってくれる? お兄さん、それを見に来たんだよ。何作ったか、気になっちゃって」

 イレの顔が曇っていた。昨日、師匠は、武器屋で剣を次々と振り回していた。だが、作ったというのは、何だろう。買ったの間違いではないのか。オーダーメイドで注文したところで、1日でできあがる物ではない。

「これを使って、トリバガを倒せばいいの?」

 師匠は、パドマのベルトに勝手に剣を下げたので、パドマは抜いてみた。

「うわぁ。何これ」

 おかしな師匠が作ったという剣は、おかしな剣だった。サバイバルナイフのような形状で、ちょうどパドマの足の長さと同じくらいの長さである。ブーツを履いていなければ、引きずっていたかもしれない。片刃の短刀だが、峰にはセレーションがついている。ダンジョン内で使う機会はあるだろうか。だが、一番目を引く変なところは、ブレードの色だ。黄緑色と橙色のグラデーションカラーだった。パドマは、こんな変な色の金属を初めて見た。

「あぁあぁあぁ」

 イレは、頭を抱えて、騒ぎだした。

「何? これ、何かあるの?」

「洋服と靴は、師匠の妹色なんだよ。だから、妹なんだと信じてたのに、剣が!」

「妹色? 妹に指定色があるとか、やっぱり師匠さんは、意味のわからない人なんだね。しかも、こんな渋色が妹とか、なんだそれって言っていいかな」

「妹へのプレゼントは、大体桃色でさ。奥さんは、大体黒でさ。緑と黄色と橙色はさー。子どもに言っていいかわからないんだけど、愛人カラーって言われてて」

「、、、、、。後追いするほど好きな奥さんがいて、愛人がいたのか。妹は蹴飛ばすし、ホントにどういう人なのかな?」

「いや、愛人カラーの人は、リアル愛人じゃないんだけど、愛人希望のお姉さんたち?」

「ウチは、これっぽっちも、希望してないよ。嫌だよ、こんな人」

「そうだと思うけど、師匠がそう認識してるなら、手荒な扱いされても、納得? って言う意味で、大変」

「そんな人にプレゼントをあげてる師匠さんも、どうかと思う」

「そうだねぇ。でも、いろんなシガラミがあって、切り捨てられない人って、いるじゃん? そういうのがない人は、即刻抹殺されるんだけど」

「ウチは、まったくシガラミないよ。抹殺されるの? なんなの? 毎日迎えに来るくせに!」


 パドマは、イレの話の不条理さに腹を立て、その怒りをトリバガ相手に発散することにした。

 このダンジョン内のトリバガは、ツノゼミの上位互換のような存在である。T字型のフォルムは全く違うが、本来の生物より、やたらと大きいことも同じだし、近寄ると向かってくるのも同じだ。違うのは、飛ぶスピードが速いことと、向かってきた結果、近付いた者にくっつくことくらいである。巨大虫が沢山くっつけば、重くて動けなくなるが、どんな攻撃にも負けるほど、ヤワな身体をしているので、それで倒れる人は聞いたことがない。精々、鱗粉が服や肌に付くと、中々落ちなくて腹立たしいくらいの相手だ。

 稼ぎにはならないが、積極的に退治する人間がいないから、数だけは沢山いる。ストレス発散には、ちょうどいい相手だ。ダンジョン内の敵は、生物ではないという。片っ端から切り捨てたところで、何の支障も出ない。

 いつもは、フライパンを盾にして突っ切るだけだったが、今日は、飛んできた相手を順に切って捨てた。次々飛んでくるからキリがない。速さでは負けるから、1度に沢山倒せる軌道を考えなければならない。剣だけで間に合わなければ、反対の手でフライパンを使って払う。それで間に合わなければ、足がある。蹴ってもいいし、避けてもいい。

 飛んでくるスピードが速いので、すぐに方がついてしまった。切ったところで重みもないし、まったく物足りない。まだ殴り足りない。

「ごめん。ちょっと、隣で暴れてくる」

 パドマは、大人2人を置き去りにして、20部屋ほど無双した。階段へのルートを外したので、人はおらず、敵は多くてやりたい放題だったが、やはり物足りなかった。芋虫以上にポイントが加算されたが、そんなことより、もう少し固い物が斬りたい。

「師匠さん、ごめん。ミミズを斬りに行っていいかな?」

 師匠は、パドマの腰に下がっていたナイフの1本に糸を付けてくれた。許可が出たと見ていいだろうか。

「これも金属だったのか」

 パドマは、11階層を目指して走り出した。

「ちょ。2日目を離しただけで、なんでそんなバトルジャンキーに豹変してるのさ? 意味わかんないんだけど!」

 師匠は、無言でパドマを追った。誰もイレの疑問に答える人間はいなかった。



 11階層のミミズトカゲは、敵ではなくなった。靴が変わったのが、大きいと思う。小さな振動にも反応するようで、気付かれなくなった訳ではないが、あのどうにもならなかった靴よりは、フェイントをかけやすい。敢えて大きく踏み込んで撤退すると、簡単に釣れた。そこを斬る。

 師匠の剣より切先が長く、扱いやすく感じた。もう何匹同時でも、関係ない。いや、4匹いると狭すぎて足の踏み場もないから、無理だが。

 パドマは、15匹程ミミズトカゲを制圧して、剣を収めた。

「師匠さーん、ミミズ克服したよー」

 パドマが手を振ると、師匠は飛んできて、頭を撫でた。叩かれなかったから、合格したのだと思われる。パドマも師匠に満面の笑みを返した。

「これって、愛人の上をいくヤバイやつ? そうか。だから、あの服なのか」

 イレの顔色だけ悪かった。

次回、また兄と仲間たちがついてきます。

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